[完結済み] この素晴らしい田舎生活に祝福を! 作:Rabbit Queen
熱き魂を持ったデュエリスト達が今ここに集う……!!
ひかげのばぶばぶ言うシーン本当可愛いよね。
俺は自分の右手側を見る。
オレンジ色の髪をしたわんぱくな少女が楽しそうにしながら頭の上で腕を組んで言った。
「ふっふっふ。ひか姉は勿論、カズマにも負けるつもりはないもんねー!」
俺は自分の左手側を見る。
紫色の髪をしたアグレッシブな少女が楽しそうにしながら俺とオレンジ色の髪をした少女に指を指して言った。
「おいおい夏海。あたしに勝てると思ってんの?まぁ期待しておいてやるよ。少なくともカズマよりは楽しめそうだし」
俺は交互に左右を見た。そして小さくため息をつく。
それは、このどっちも同じような性格と方向性を持った少女達、夏海とひかげが揃ってしまった事に一つ。そして、その少女二人が誰が一番多く魚を捕まえられるか――などと、いかにも面倒そうな勝負事を持ってきた事に一つ。俺は小さくため息をつくのであった。
「この愛すべき三人に勝敗を!」
時はX年。何月何日。
俺はいつものよーに宮内家を訪れては、マイ天使れんげちゃんと戯れていたのだった。だがそこにやつは現れたのである。
「うーす。カズマ、暇してる?」
これまたいかにも暇してそうな少女、宮内ひかげが襖を開けては現れ、俺にそう言ってきた。
俺の今の状況が見えんのか。れんげちゃんと遊んでいるんだ。あっち行きなさい。しっし。
そう言いたくなった自分の気持ちを抑え、俺は紳士的かつ超絶イケメンヴォイスでひかげに言った。
「どうしたんだい?ひかげ」
「うわきっも」
「よしお前ちょっとこっちこい」
アイアンクローをかますひかげにカウンターで問答無用のドロップキックを行う俺は見事に外し、その上にひかげが乗っかり逆エビ固めを決めてくるのであった。接戦の結果、俺が最後の力を振り絞って出した究極奥義ゴッドブローをかますもひかげのアイアンクローとぶつかり、力と力がぶつかった衝撃で現れた光によって俺とひかげは天高くふっ飛ばされるのであった――。
「こういう感じのストーリーでいかがですのん!」
「うーん、ちょっとありきたりかなぁ」
「俺的にはもっと激しい戦闘場面が欲しいんだけど」
「難しいのんなー」
勿論ひかげとバトルした――なんて事はなく、ドロップキックをかました事も嘘である。まぁアイアンクローは食らったんのだが……それはさておき、即興で考えたストーリーにしてはまぁまぁの出来じゃないか?とひかげとれんげちゃんと話していると、ひかげが思い出したかのように言うのであった。
「あ、そうそう。夏海が遊ばないか―って誘ってきてるんだけど、どうする?」
「ん?それは俺に聞いてる?」
「そりゃね。れんげも連れて行こうと思ったんだけど、用事あるらしくてね」
「そうなん。うち、今日は駄菓子屋とこのみ姉とほたるんとこまちゃんとお洋服買いに出かけるん!」
「服買いに出かけるのか。そっかそっか、良かったねれんげちゃん」
「んふー。うち、また一段とふぁんきーになってくるん!」
「お、おう?そ、そうか。良かったねれんげちゃん」
ファンキーとはなんぞや?ロック系?え、れんげちゃんロック系の方向にいっちゃうの!?
「一応言っておくと、ファンシーの間違いらしいよ」
「え、ファンシー?ファンキーじゃなく?」
「うん」
あ、なるほど。それなら良かった。なんだファンシーかぁ。ホッとしたわ。
「ところでファンシーってなんだ?」
「いやしらんのかい!」
ファンシーの説明を受けようやく理解した俺はテーブルに置いてあったお茶をすする。
「しかし、何で夏海だけハブられてるんだ?まさか……」
「おいやめろ。そういうのじゃないから。ただ単につまんなそうだから行かないんだってさ」
「そういうとこだぞ夏海……誰か夏海に女の子らしさを教えてやればいいのに」
「ムリムリ。このみとか頑張ってるみたいだけどすぐ逃げるらしいよ」
「うーむ……心配だ」
「心配って、お前はお父さんかい」
「俺がお父さんならひかげはお母さんだな」
「やかましい」
ベシッ……と俺の胸を軽く叩くひかげ。
その様子をぼーっと見ていたれんげちゃんが俺とひかげを交互に見ながら言った。
「二人共息ピッタリなんなぁ。まるで夫婦なん」
「はっはっは。それは何のジョークだいれんげちゃん。ひかげも何か言ってやれ。勘違いされるぞ」
そう言って俺はひかげを見る。
ひかげは俺に背を向けると、耳を赤くして言った。
「や、やかましい……」
「え」
おいおい、なんでそんな反応してるんだい?ひかげちゃんや。
いやいや、待て待て待て。お前、そういうキャラじゃないだろ!
確かに、この前俺とお前はやらかしてちょっと気まずい状態ではあるけども、あの後ちゃんと和解したじゃねぇか!なんならお前、俺を軽くバカにしたよな!?カズマみたいなのに惚れるわけねぇだろバーカっ!って!
なんだかまずい気がする。いや気持ち的にはまずくはないけど、まずい気がする。
俺は話題を逸らそうとし、何でもいいから何か適当に喋ろうと思った。
「そ、そういえばさ」
俺が喋り始めた瞬間、ドタドタドタと玄関から物凄い勢いで何かが近付いてくるのが聞こえてきた。
「おそーーーーーい!!!」
襖をバシンっ!と開けて現れたのは、夏海であった。あれ、お前なんでここに居るんだ?
「もう!さっきからずっと外で待ってたのに、ひか姉もカズマも全然来てくんないじゃん!!」
「なっつんにゃんぱすー」
「はぃ?ずっと外で待ってた?」
俺とれんげちゃんはチラリとひかげを見た。
「あ、やべ、忘れてた」
こいつはまた……俺はひかげに説教の一つでもしてやろうと思い口を開こうとした。
「ひか姉……それはだめなのん……」
しかし、俺より先にれんげちゃんが口を開いた。妹の呆れた表情と目を見たひかげが砂のようになっていくのがわかる。あぁ、わかるぞひかげ。あの目はきついよな……。
散っていった友に敬礼し、ホウキとちりとりで優しく丁寧に砂を回収するように、俺はそっとひかげの両腕を持つと、れんげちゃんに気をつけて行くように言ってそれを引きずりながら玄関まで歩いていった。
「いやぁ……れんげのあの目は駄目だわ。あれはだめ。姉の威厳がどっか消えていく」
「驚いた。お前に威厳があったのか」
「あたしを何だと思ってるんだカズマは」
「でもひか姉、うちも今更な気がするけど」
「嘘だろ夏海。……え、マジ?」
え……?と呟き1人立ち止まるひかげを置いていき、俺と夏海は歩きながらどこに向かうのか聞いた。
「んで?遊ぶにしても何して遊ぶんだ?」
「実はそこまで考えてないんだよねぇ」
「おいマジか」
「マジマジ。なにしよっかなぁー」
せめて内容を決めてから呼んでほしかったなと思いつつ、そんな俺の横を勢いよく誰かが走り去ると、道を塞ぐように目の前で立ち止まりこう言うのであった。
「勝負しようぜ」
「お前はいつからデュエリストになったんだ?」
などと突っ込みつつ、何故急に勝負などと考えたのか俺は聞いてやった。
「一応聞いてやろう。勝負する理由は?」
「あたしの威厳をかけて!!」
聞いた俺がバカだったかもしれない。
俺は呆れて何も言えず、代わりに俺の気持ちを代弁してくれるだろうと思い一緒に歩いていた夏海を見る。
「勝負……いいねぇ!乗った!!」
前言撤回である。
おい夏海、お前までそうなってしまっては人類はどうなる?お前は最後の希望なんだ、だからそんな馬鹿な考えはやめなさい。良い子だから!
などと俺の気持ちが届くはずもなく、仕方なく俺は妥協してひかげにお前の勝ちだと言った結果逆に燃え上がり、結局俺は勝負の場所まで連行されているのである。
「――くれぐれも1人でどこか行かないように。慣れてる場所と言えども危ないんだからな?むしろ慣れているからこそ事故は起こりやすい。わかったか?」
「はーい」
「うーい」
途中寄り道をしながらもようやく勝負の場所にやってきた俺達は、川という事もあって念の為に注意をするように俺は呼びかけた。勿論俺も十分気をつけるつもりだ。夏海やひかげにとっては慣れた場所らしいが、慣れ始めると人は油断するものだ。
だから慣れたと言って油断してはいけないぞ?お兄さんとの約束だ。
そんなこんなで説明を終えた俺は夏海の隣に座る。
それと同時にひかげが立ち上がり、先程まで俺が立っていた場所に立つと説明し始めた。
「よーし、それじゃルール説明するぞー」
「おー」
「はーい」
「ルールは誰が一番多く魚を捕まえたか!以上!!」
「おいもうちょっと頑張れ」
「ひか姉、これ説明の必要あった?」
「うるさいやい!はいということで勝負開始!あたしいっちばーん!!」
「おいふざけるな」
「夏海ちゃんにばーん!」
「おいふざけるな!せこいぞ!!」
明らかなレッドカードを目撃するも、そもそも審判が居ないことを思い出し、ため息をつきつつ俺も後を追った。
あれから数十分が経ったと思う。それぞれがお互いを目視出来る距離で魚を追いかけていた。夏海とひかげは流石と言うべきか、それはもう手慣れていた。掴んだ魚を相手に見せ、どや顔をかますとそっとリリース。それを夏海とひかげが交互にやりだしていた。
俺か?俺は言う必要ないだろう。それでも聞きたい?仕方ないなぁ。俺の手にはそれはそれは大きな魚が――いるはずもなく、今の所一匹も掴んでいない。
そもそもだ、勝負をしようと言ったのはひかげ。受けて立ったのは夏海。しかし俺は何も言ってない。注意するように言っただけで、参加するとは言ってない。言う慣れば彼女たちの保護者だ。なら捕まえなくてもいいはずだ。
食べる目的もないのに捕まえようとするのは、気が引ける。まぁあいつらならそのまま持ち帰って食べそうだけど。俺は最初は取る振りこそしていたが、今はただただ流れる綺麗な水をぼーっと眺めては、時折夏海達が怪我をしていないか視線を送っていた。
「んで、どっちが勝ってるんだ?」
適当に暇を潰し、もうそろそろいい頃合いだろうと思い俺は一番近かった夏海に声をかけた。
「うーん、よくわかんない」
「おいおい」
「ところでかず兄?」
「うん?」
「うち思ったんだけど、これどうやって勝負決まるの?」
「それは俺も思ってたけど、夏海もわからないのかよ」
「勢いでやったから実はよくわかってない」
「あー……」
なんかもうツッコむ気も無くなっていた俺は代わりに右手で夏海の頭を撫でてやった。
うひゃー!と言いながら満更でもなさそうなその顔を見て勝負などどうでもよく感じた。
「あー……疲れた」
夏海の頭をわっしゃわっしゃと撫でていると、魚取りをやめたひかげが寄って来た。
先程までの元気な姿は無く、今にも倒れそうな顔をしていた。
「おいおい、大丈夫か?」
「あー、大丈夫大丈夫」
「なら良いんだが」
「あ、それよりもさ、あたし気になった事あるんだけど」
「……一応聞いてやろう」
「これってどうやったら勝負決まると思う?」
「……」
勿論ツッコむ気力などとうに無くなっていた俺は暇を持て余していた左手でひかげの頭を撫でてやった。なんだよーやめろよーと言いつつも、本気で嫌がってるわけではなさそうなのでそのまましばらく撫でてやった。
「うち、ちょっとぶらぶらしてくるー」
「あまり遠くに行くなよー?」
そうして勝負をやめた俺達は、川辺に座り川の中に足を入れて涼んでいた。ある程度涼んでいたら、暇になったのか夏海が立ち上がりその辺を適当に歩き回る。俺は隣で今にも溶けそうな顔をしているひかげと共にだらだらと雑談しながら座り込んでいた。
「元気なやつだよなぁ、夏海って」
「夏海は昔から全然変わんないよ。あたしは夏海と違ってクールな女になったけど」
「多分お前も昔と変わってないって言うと思うぞ夏海は」
「はぁ~?ちゃんと変わってるし。立派な女になってるし」
「立派な女は妹に頼まれてばぶばぶ言うものなのか」
「おま、なんでそれ知ってるんだよ!?」
「れんげちゃんからばっちり聞いたぞ。他にもいろいろ聞いたし」
「れんげは何でもかんでも喋りすぎだなぁ……一度ちゃんと言っておくべきか」
ブツブツと1人呟いては川に入れてた足をパタパタと交互に動かす。その姿がなんとなく気になって、俺はしばらく見ていた。まるでドラマやアニメに出てきそうなワンシーンに、思わず見惚れていた。思えば、こんなに静かなひかげを間近で見るのは初めてだ。
初めて会った時から今日まで常に騒いでるかツッコミしまくってるかのどっちかで、喋らないと死ぬんじゃないかと思うくらいやかましかった。それが、だ。今俺の目の前に居る少女は、それまでのひかげの印象を忘れるくらい綺麗で、可愛かった。
だからなのか、俺は最初気付かなかった。自分の発言に。
「ひかげってさ」
「んー?」
「よく見れば、可愛いよな」
「……は?」
「……ん?」
あれ、俺、今なんて言った?
確かひかげが珍しくおとなしいもんだから気になってしばらく見てて、それで黙ってれば可愛いよなこいつなんて思って、えーと、それから……可愛いって……あれ?
俺、もしかして口に出してた?
「……」
ひかげは何も言わない。
さっきまでパタパタと動かしていた足は止まっていて、俺とは正反対の方を見ていた。
「あ、あのさ」
「おいかずま」
「はいカズマですが……な、なんだ?」
「バカな事言うならせめてツッコミが出来るものにしろよな……そういうのは、困る」
「あ、あぁ、ごめん」
お互いそれ以上は何も言わなかった。
ひかげに対して特別な感情は抱いていなかった。ただ、駄目だ。こういう状況で、否定もされないのを見てしまうと、何故だかひかげが可愛く思えてしまう。その場の雰囲気で、というのはあるだろう。仕方ない。仕方ないけど、こういう風になるとは一切思っていなかった俺は変にあれこれ考えてしまう。
駄目だ、冷静になれ。落ち着け俺の理性!!というか、何でこいつはこいつで否定しないんだよ!もっとこう、強く否定してくれたほうが俺もモヤモヤしないのに!あぁもう!なんだこれ!!
「かず兄ー、ひか姉ー、そろそろ帰ろうぜー。ってあれ?」
沈黙が流れてからしばらくして夏海が帰ってきた。特に面白そうなものを見つけれなかったのかつまらなそうな顔をして帰ってきた彼女は、俺とひかげが変にぎこちなさそうにしているのに勘付き、俺達の前に立つとニヤニヤしながら俺とひかげを交互に見て言ってきた。
「おやおやー?お二人とも、何かありましたな?」
「何いってんだ夏海。なんもないぞ」
ひかげが否定する。口調からしていつも通りだった。
「そうだぞ夏海。別にひかげが急にばぶばぶ言ってきたから引いてるわけじゃないぞ」
俺も何事もなかったかのように夏海に言った。
「え、マジ?ひか姉そんな事言ってたの?」
「おいふざけるな。勝手に嘘を言うなし」
「いやばぶばぶは言ってただろ」
「過去の話だっての!」
「え、ひか姉前にばぶばぶ言ってたの?」
「言ってね―し!言ったとしても赤ちゃんの頃だし!あーもう!帰るぞ!」
「わかったばぶ」
「はーいばぶ」
「うっさいやい!」
夕日が出始めた頃、俺達は来た道をのんびり歩いて戻る。
夕焼けが少し眩しくて、でもそんな夕焼けにも負けないほど、夕日に照らされた夏海とひかげの横顔が俺には眩しく、綺麗だった。
「それでは作戦会議を始めます」
「よろしくおねがいします」
「おねがいします」
夏海の部屋の小さなテーブルを男一人女二人で囲む。
この急な召集にも動じずすぐに集まってくれた二人に俺は敬意を払う。
いや、そもそもこいつら二人のせいだから敬意もクソもないんだが……。
まぁ簡単に言うとだ。食べたのだ。食べちゃいけない物を。この二人は。
いつものことだろう?俺もそう思って説教の一つでもしてやろうと思った。だが事態はそんなに単純なものではなかった。食べた物がこれまた誰かに用意していたもので、そんな誰かに用意していた物を二人は容赦なく食べた。全部。まぁ食べてしまったものは仕方ない。じゃあどうするかと思い、当然だが謝ろうと考えた。俺も一緒に謝ってやると言って誰の物を食べたんだと聞いた。
食べてしまった物は、実は今日この越谷家に泊まる予定だったれんげちゃん達が楽しみにしていた物で、その中には楓さんも居るから謝ったとしてもヤバいとの事だった。はっはっは、帰るか。
そうして陸上選手も驚くほどのスタートダッシュをかまそうとした俺に対し夏海とひかげがそれぞれ両足を掴んできた。動けなくなった俺はまるでホラー映画に出てきそうなワンシーンを思い出させるように足元から上半身にかけて両手でずり上がってくる二人を落ち着かせ、仕方なく対策案を出すことに決めたのだった。
「作戦と言ったけど、やっぱり普通に謝らないか?」
「いやいや、かず兄何いってんの?」
「そうだぞカズマ。お前、それやったらどうなるかわかってんのか?」
「な、なんだよ。何が起きるんだ?」
「「普通に怒られるに決まってるじゃん」」
「いや当然だろ……というか、怒られるだけならまだマシだろ。俺はげんこつ食らうほうが怖い」
「あー、駄菓子屋ならやりそう」
「うちの母ちゃんも多分やるかも」
「流石にそこまではやらないだろ」
「いやだって、うち何回かげんこつ貰ってるもん」
「あたしもー」
「お前らの普段の行いの悪さがよーくわかったぞ……もう駄目じゃねぇか」
恐らくだが、普通に謝った場合は俺には何もないはず。そもそも食ってないし。このままこの二人に加担しなければ何も問題はないのだが、まぁ、それが出来ないわけで。借りがあるわけじゃないけど、変に情があるため知らんぷりするのは気が引ける。とはいえ、詰んでいるのは確実だ。普通に謝ればいいんだが、この二人が頑固すぎる。
「なぁ、頼むから普通に謝らないか?変にあれこれ考えようとするから余計怒られるんだぞ?」
「ぐぬぬ、正論すぎて何も言えない」
「ちょ、ひか姉!そこ受け入れちゃったら今までのうちらの行動が無駄になっちゃうじゃん!」
「素直に謝りなさい。そして素直に怒られろ。そうすりゃ殴られない」
「いやぁ……どうかなぁ……ねぇ?ひか姉」
「まぁ……戻るに戻れないところに来てると言うか……なぁ?夏海」
何故か二人して口籠る。俺は嫌な予感がした。
「……おい、何した?」
「だからね、食べちゃったんだよ。お菓子」
「それは聞いた。だから謝れと」
「いやね、食べたには食べたんだけど……」
「なんだ?」
「その、ね?そもそもお菓子なんてなかった事にすればいいんじゃんってひか姉と考えて……」
「用意してたお菓子だけじゃなく、家の中にあったお菓子全部、食べちゃったんだよね……えへへ」
「……」
ちょっと何言ってるかわからない。
ちょっと何言ってるか、わからない。
「本当にすみませんでした!!」
夏海とひかげの頭をがっしりと掴み、地面にこすりつけるように頭を下げさせる。勿論俺も深く頭を下げた。事情を聞いた楓さんと一穂さん、雪子さんは呆れたような、怒っているような、どちらとも取れるような風にため息をついていた。顔は決して見ていない。相手の顔色を伺うよりも先に俺は頭を下げていた。
「はぁ……ほんっとに、あんたたちは」
雪子さんは俺に両手を離すように仕草すると、俺は二人の頭から手を離した。代わりに雪子さんが二人の頭を掴んで、グリグリと強く握る。二人の悲鳴であれがどれほど痛いのか想像出来てしまい、思わず身体がブルっと震えた。楓さんは頭を掻きながらため息を再度ついて、一穂さんは何か考え事をしているように見えた。
「あの、ほんとにすみませんでした」
俺は再び謝った。それに対し一穂さんが口を開いた。
「んー、カズマ君が謝ることじゃないよ。君は何もしてないわけだし」
「いやでも、俺がちゃんと二人を監視してなかったからというか、なんというか……」
「さっきも言ったけど、まず君は何もしていない。それに、カズマ君は監視するために二人と一緒に居るわけじゃないよね?」
「そうですけど……」
「常にずっと一緒に居るわけじゃないし、君の知らないところで起きた問題だから君がそこまで背負う必要はないんだよ」
「それにね、何でもかんでも謝ればいいもんじゃないよ。時と場合と、ちゃんと謝るべき人が謝らないと意味がないからね」
一穂さんはひかげと夏海を見てそう言った。
二人は流石に堪えたのか、ちゃんと自分で頭を下げて謝った。
「「ごめんなさい」」
「うんうん。謝れる事は良いことだよ」
一穂さんはニコッと笑って二人を褒めてから言った。
「でもさっきも言ったように、謝ればいいってもんじゃないからね?二人共」
「うっ……」
「ご、ごめんなさい……」
「夏海も中学生になってれんげの先輩になったんだから、ちゃんとお手本にならないと」
「はい……」
「ひかげも、高校生なんだから良い事と悪い事の区別はちゃんと出来ないと。夏海と仲良いのはいいけど、駄目だと思ったことはちゃんと夏海に言いなさい」
「……わかった」
「……ふぅ。まぁ今回はカズマ君がすぐに二人を連れて謝りに来たから、これでよしとしませんか?」
一穂さんは雪子さんに視線を向けてそう言った。
雪子さんは少しだけ黙ると、ひかげと夏海の頭をもう一度強く握り、そしてわしゃわしゃと撫でた。
「……はぁ。二人共、今後はちゃんと自分で謝りに来なさい。いいね?」
小さく頷くひかげと夏海。
雪子さんはしばらく二人を撫でた後、俺に視線を送って言った。
「ありがとね和真君。おかげで、二人が変なことしなくてすんだわ」
「いや、全然……俺の方こそ、なんかすみません」
「もう、かずちゃんも言ったでしょ?あんたは悪くないんだから、そんなに気にしないの。むしろ二人にガツンと言ってやんなさい」
雪子さんはそう言って二人の背中を押して俺の目の前に立たせた。俺は戸惑い、こう言った。
「えっと……次からは変な事考えずすぐ謝りに行けよ?どうしても辛かったら、俺が一緒に謝ってやるから」
俺の言葉に雪子さん、楓さんが呆れたように頭を抱えた。
一穂さんは楽しそうに笑っていた。
「和真君。そういうところが甘いのよ?」
「おいカズマ。ちゃんとガツンと言ってやれ」
「あっはっは。いやぁ、いいよいいよ。それでこそカズマ君だ」
こうして、普段とは違い少しだけガチな説教を受けた俺達(俺は違うが)は、二度と同じような事が起きないように固く誓うのであった。ちなみにお菓子は楓さんが代わりに用意してくれて、一ヶ月分のお小遣いの金額をひかげと夏海の二人は下げられるのであった。それでも貰えるあたり、雪子さん達も優しいなと思った。
お菓子事件の後、れんげちゃん達が合流し、越谷家の中は賑やかになっていった。一穂さんと楓さんは、雪子さんとご飯の準備を。卓は蛍ちゃんが連れてきたペットのペチと遊んでいる。れんげちゃん、ひかげ、夏海は居間でトランプをしていた。
俺はというと、このみんに呼ばれ、小鞠ちゃんの部屋で女性三人に囲まれて座っていた。
小鞠ちゃん、このみん、そして、蛍ちゃんに。
「カズマくんと蛍ちゃん、お互い誤解をしているみたいだから、この機会にそれを解いちゃおうと思ってね」
「なるほど……俺としてはありがたいけど、蛍ちゃんは大丈夫なの?」
俺はそう言って蛍ちゃんを見る。
彼女は小鞠ちゃんの後ろに隠れるように座り身体を小さく丸めて警戒していた。
普通に見たら可愛いんだけど、状況が状況なだけあって素直に喜べない……。
「蛍、大丈夫だって!」
「で、でも……」
「かずまさん、本当にいい人なんだよ?蛍が心配するような人じゃないよ」
「でもぅ……」
「……なぁ、やっぱりやめないか?無理して仲良くならなくても、誤解だけ解けたなら俺は別にいいからさ」
「えー?でも、カズマくんが今後もれんげちゃん達と遊ぶならやっぱり仲良くしておかないと。一緒に遊ぶことになったら気まずいでしょー?」
「いやそうだけど、でも蛍ちゃん怖がってるじゃん。俺も仲良くなれるならそうしたいけど、無理させてまでなりたいとは思えないよ」
「うーん……」
「ごめんね蛍ちゃん。俺は大丈夫だから。んじゃ俺、夏海達のところに戻るよ」
そう言って、俺は立ち上がり小鞠ちゃんの部屋を出る。
このみんは待ってよカズマくんと呼び止めるが、今回ばかりは俺も退けない。
だって、あんなに怯えられたら可哀想じゃないか。誤解が解けるなら本当にそれでいいんだ。
きっと時間が解決してくれるし、もし蛍ちゃんと仲良くなれるなら、それこそゆっくりで良いと思う。時間は沢山あるんだし。焦る必要なんてないさ。
そう思いながら廊下を歩いていると庭で卓と遊んでいたペチが俺に気付いて走って飛んできた。俺は不意打ちを食らうも、ペチがただただ戯れてほしいだけだとわかるとこれでもかというくらいに頭を撫でた。
「おーよしよし。そんなに遊んでほしかったのか?」
「わんっ!」
「いいぞー。いっぱい遊んやるからな。しかしペチは可愛いなぁ。飼い主に似て、めちゃくちゃ可愛いぞ」
声を聞いて廊下に出てきた蛍ちゃんがその様子を見て、俺に近付いて謝ってきた。
「ご、ごめんなさい和真さん!うちのペチが……」
「いいよいいよ。全然大丈夫。あ、むしろこっちこそごめんね?勝手にペチと遊んじゃって」
「そんな……ペチも嬉しそうなので、大丈夫です」
「ほんと?それならよかった。よーし、いっぱい遊んでやるぞ―!」
「……」
「蛍、一緒に遊んでみたらどうかな?」
ペチと戯れていると小鞠ちゃんがやってきて蛍ちゃんにそう言った。
俺は何も言わず、そのままペチと戯れる。蛍ちゃんは少しの間黙り込むと、俺に視線を向けた。
ペチと戯れていた俺はその手を止め、蛍ちゃんの目を見て言った。
「よかったら、一緒に遊ぶ?蛍ちゃん」
蛍ちゃんは一瞬戸惑いながらも、小さく頷いてくれた。
それから俺と蛍ちゃんは、お互いの距離を少しだけ近付けた。
まだどこかぎこちなさはあるけれど、今はこれで十分だと俺は思った。
だって彼女は、こんなにも勇気を振り絞ってくれたから。俺はそれだけでも嬉しかった。
少しずつでいいんだ。こういう関係も、俺は良いと思うんだ。
でもいつかは、可能なら、この子の自然な笑顔も見てみたいなー……なんて。
「じゃじゃーん!」
このみんが自信満々に、どや顔でそう言った。
隣には夏海を連れて。
ペチと戯れていた俺と蛍ちゃんは、気付いたらこのみんと小鞠ちゃんが近くに居ないことに気付いた。多分居間でれんげちゃん達と遊んでいるんだろうと思っていた所に、案の定居間で遊んでいたこのみんが楽しそうにこっちにやってきては、自信満々にじゃじゃーんと言ったのである。俺は最初なんだ天使かと思い和んでいたが、このみんが一緒に連れてきた女の子を見て、思わず口が開いた。
「……夏海か?」
「かず兄、わかるの?」
「うっそー!?カズマくん騙されると思ったのに!」
「す、すごいですね和真さん。私初めて見た時はわからなかったです」
ふむ、蛍ちゃんは一度見たことあるのか。それも気付かなかったと。まぁ、なんとなく気持ちはわかる。話を聞くと、れんげちゃんも最初わからなかったらしい。それほどまでに今の夏海の姿は変わっていた。普段結んでいる髪を下ろし、ボサボサな髪は綺麗に整えられていて、服も普段の動きやすそうな物ではなく、ちゃんと女の子らしいワンピースを着ていた。俺が普段から夏海と遊んでいなければ、きっと騙されていただろう。
「でもなんでわかったの?カズマくん」
「そりゃ、ちゃんとしたら多分こうなるだろうなって想像したことはあるからかなぁ」
「かず兄、うちを想像したの?えっちだぁ」
「おいやめろ。また誤解を生むだろ」
「あ、あはは……」
このみんは騙せなかった事に残念な顔をしていた。蛍ちゃんは苦笑いして、夏海は俺にちょっかいを出してきて、俺はそれを適当に受け流す。
しかしまぁ、今の夏海も十分魅力的だ。俺が想像した通りの姿で、正しく女の子って感じだった。会った頃ならきっとこっちのほうが良い!と強く思っていたはずだ。
でも今の俺は――
「まぁ、俺はいつもの夏海が好きだな」
特に意味はなかったが、そう呟いた。
「わー……カズマくん大胆だね」
「ちょ、ちょっと、びっくりしました……」
このみんと蛍ちゃんは意外そうな感じで言った。そんなに変だったか?
「……かず兄、ほんと?」
「ん?」
夏海は何故か、モジモジしてそう言った。
「いつも通りのうちのほうが、好きって」
「ああ。言ったぞ」
「……へへっ!そっか!」
夏海は何かに納得して、嬉しそうに返事した。
そして一度自分の部屋に戻っていくと、髪や服をいつも通りに戻し、俺の隣まで来ると腕を引っ張った。
「ほらほら!かず兄もあっちでトランプしようぜ!」
「ちょ、わかったわかった!わかったから引っ張るな!」
夏海に引っ張られ、このみんと蛍ちゃんを置いて俺は居間に連れて行かれるのであった。
「いやー、びっくりしたね。カズマくんがああ言うなんて」
「ほんとですね……あ、あの、このみ先輩?」
「……うん?どうしたの?蛍ちゃん」
「あ、いえ、その……大丈夫ですか?なんだか、ぼーっとしてるような気がして」
「え?そう?ちょっと疲れただけかも。でも大丈夫!ほらほら、蛍ちゃんも行くよ―」
「あ、はい」
(カズマくんがなっちゃんにああ言うなんて……なんか、嫉妬しちゃうな)
お疲れさまでした。
想いは加速していきますね。
個人的にカズマさんのハーレムは何故か憎めない。
次回は金曜日に。ほたるん回です。
お楽しみに。