まだまだ未熟な所もありますが、宜しくお願い致します。
幻想入り
今でも時々、あの時の事を思い出す。
居場所を護るために戦って、傷付いて、多大なる代償と引き換えに一つの世界を護った時の事を。
結果として、オレは居場所を失った。世界と引き換えに、自分の居場所を喪失した。
あの決断が間違えだとは思ってはいない。オレがやった事は無駄では無いし、あの世界は今も回っている。それで充分だと思っている。
だけど…自分に胸を誇れる事をした筈なのに、オレの心は、酷く空虚だった。心に穴が空いたかのように、心が満たされない。
その理由は分かっている。だからこうして思い出すのだ。古傷を抉る様に、記憶を引き出し、失った物の重さを噛み締める。
もう、彼処には戻れない。「彼女」達と会う事も、二度と無いだろう。
それが分かっていても尚、オレはあの世界を何処かで諦めきれなかった。
今も、退屈な日常から逃れる為に、あの時の事を思い浮かべる。
始まりは、ある暑い夏の日の事だった…。
*
オレは、現実が嫌いだ。
現状維持を認めないこの世界は、余りにも残酷だという事が分かっているからだ。
オレは、人間という生物も嫌いだ。
他人を踏み躙ってまで、生きる事に執着する人間の醜さが、嫌いだったからだ。
だから、オレは…。
この世界が、大嫌いだ。
*
「はぁ、死にてえなぁ…」
意味も無く自室の床に寝転がり、天井を見上げる。
夏の茹だるような暑さで、ありとあらゆる事に対するやる気が失われていた。
「普通に暮らしたいだけなのに…不幸だ」
無為に人生を貪る様な毎日だけが続く。こんな毎日から抜け出したいと思っても、いつの間にか泥沼に嵌っていて抜け出せない。
「帰りてぇ…まあ、帰る場所なんてないんだけどな」
何処に帰るというのだろう?
オレの居場所なんて、何処にも無いのに。
そう、何処にも…。
「なら、帰る場所を作ってみない?」
自分一人しか居ないはずの自室。そこに、一人の女性が立っていた。
「…誰だ、アンタ」
「
八雲紫?
それは、存在しない人物の筈だが。
「嘘ん…遂に幻覚が見える様になったか…」
自分の頭は相当イカれているらしかった。
「幻覚じゃないわ。時間が無いから手短に言うわね」
八雲紫を名乗る人物はそう前置きした後、とんでもない事を言った。
「貴方には幻想郷を救って貰うわ」
…何言ってんだコイツ。
「アホか。オレにそんな事出来る訳無いだろう」
オレは只の中学生だぞ?そんなヤツが、どうやって世界を救えるっていうんだ。
「あるじゃない、その右手に」
「はぁ?」
言われて、思わず自分の右手を見る。見慣れた普通の右手があった。別にロボットアームなんかでは無い。只の…無力な右手だ。
「…じゃあ、幻想郷へ送るわよ」
…ちょっと待て。
「いや…やめてもらっていい?」
瞬間。
足元に広がったスキマに、オレは呑み込まれた。
声を出す間もなく、身体が落ちてゆく…途中で意識を失った。
*
目を覚ますと、薄暗い森の中に居た。
「ここは…何処だ?」
見慣れない風景。此処は本当に幻想郷なのだろうか。もし幻想郷なら、先ず目指すべきは…博麗神社だ。
不意に、足音が聴こえた。軽い感じの足音はオレの前で止まり…その主である小さな少女が、不思議そうにオレを見て呟いた。
「あれ?人?」
コイツは…まずい!
「ルーミア!?」
人喰い妖怪は、喜色満面の笑みでオレに襲い掛かり…身体を喰らった。
鮮血が迸り、激痛が身体を蝕み始める。
「……………っ……ぁ……ッ!」
悲鳴は…唸り声にしかならなかった。
痛みだけが身体を駆け巡る。
どうして…オレばかりこんな目に遭うんだ…。
思考が焼き尽くされる様な錯覚を覚えながら、眼前に居るルーミアを見ると…。
「おいしい…おいしい…」
彼女は、泣いていた。
それを見て、思考が急激に冷めてゆく。
オレは何を考えているんだ。
コイツだって辛いんだ。
オレのちっぽけな絶望なんて足元にも及ばない程の辛さを抱えているんだ。
それに、オレはついさっきまで死にたいと考えていた人間だ。
なら…オレはコイツに喰われるべきじゃないのか?
欠損した腕で、ルーミアを抱き寄せる。
「大丈夫、大丈夫だから…好きなだけ喰え」
ルーミアが驚いたような顔をした。
それをぼんやり見ていたら…意識が段々薄れてくるのを感じた。
(これでやっと…死ねる)
奇妙な満足感と安らぎを覚えながら…静かに、意識を手放した。
*
…二度と目が覚めないと思っていたのに、何故か目が覚めた。身体には傷ひとつ無く、痛みも消えていた。まるでルーミアに喰われた事など、最初から無かったかの様に…。
「あれ……生きてる…?」
朝の光が木々の隙間から射し込む。その暖かさが、自分が生きている事を実感させた。
「おい、人がいるぞ」
声が聴こえて、その方向を向く。
魔女の格好をした少女が立っていた。
「お前、大丈夫か?」
「き、
「うぇい!?どうして私の名前を!?」
あ…やべぇ。
「どうしたの?」
もう一人、紅白の服を着た少女が此方に近付いてきた。
「
「どういう事!?どうして私の名前を!?」
超警戒させてしまった。どうやらオレはとことん学習しない人間らしい。
…取り敢えず怪しい者じゃないと証明しなくてはならない。オレは名乗った。
「オレは…