夢を見た。
見渡す限り何処までも続く寂寞の荒野に、立ち尽くしている夢だ。
目の前には男とも女ともとれる何かが居て、オレはソイツと向き合っている。
ソイツは薄く笑い、オレに何かを言った。然しその声は聞こえない。
それでも一つだけ、本能で理解している事があった。
コイツは…この異変の元凶だ。何故そう思ったのかは自分でも解らないが、兎に角その考えは正解だと確信していた。
オレはソイツに殴り掛かろうとした。異変の元凶なら、今ここで決着を付けてやると思っての事だった。然し身体は動かず、それどころか意識が段々ぼやけていく。
それに抗う事も出来ないまま、オレの意識は完全にブラックアウトした。
*
…目を、ゆっくりと開ける。見慣れた自室の天井ではなく、それよりもっと広い部屋に横たわっていた。
(あれ…オレ、どうしたんだっけ)
なんでこんな所に居るのか、自分でもよく分からない。家族と旅行に行ってたんだっけ?いや、それにしては周りに誰も居ないぞ…。
オレが困惑していると、襖がガラリと開いて脇に刀を携えた少女が入ってきた。そしてオレはその少女を見て、全てを思い出した。
「妖夢…」
「目覚めましたか。気分はどうですか?」
「別に普通だが…じゃなくて!」
オレはガバリと身を起こした。何故か身体が軽い。
「オレ、死んだ筈だよな?なんでまだ生きてるんだ?」
「それについては幽々子様から説明があります」
「幽々子?って事はここって…」
「白玉楼です」
…やっぱり死んでんじゃねえか。
*
妖夢に案内され、やたらと広い屋敷内を歩き回ったオレが案内されたのは白玉楼の主である
部屋に入り、妖夢が退出すると幽々子は「目が覚めたのね。良かったわ」と言ってから、真剣な顔つきになり言った。
「無銘、といったかしら?単刀直入に言うと、貴方はまだ生きているわ」
「…へ?」
生きているって…なら何で白玉楼に居るんだ?いやそもそも、心臓貫かれた状態からどうやって…。
オレの疑念を他所に、幽々子は続ける。
「実は、貴方を生き返らせたのは私じゃないの。貴方は自分で再生したのよ。致命傷を負ってから暫くすると勝手に傷が消えて、白玉楼に着く頃には殆ど無傷な状態だったわ」
「な…」
再生した?そんなバカな…オレがそんな人智を超えた力を持っているとは思えないのだが…。
「これは全て本当の事よ。そのうえで貴方に提案があるわ」
「はぁ…」
幽々子の目が真剣さを増す。
「あなたが自分で再生した事を知られれば、あなたは人外扱いされる。だから私の能力で蘇生させて、半人半霊になったことにしましょう。その代わり白玉楼に住んでもらう事にはなるけど…」
「いいんですか?」
確かにその提案は有難かったが、何故オレなんかにここまでするのか、幽々子の真意が分からなかった。
すると幽々子は微笑し、「別に疚しい考えは無いわ」と言った。
「ただ、貴方には妖夢を救ってくれた借りがある。それを返したかっただけよ」
なるほど。
それならば、断る理由はあるまい。女性恐怖症だけが気掛かりだが…まぁ、何とかなるだろう。
「…よろしくお願いします、幽々子様」
オレは深々と頭を下げた。
*
それから少しして、色々な人が白玉楼を訪れた。
まず来たのは霊夢と魔理沙。怪我で永遠亭に居たため、紅魔異変の解決をオレに押し付け、その結果重傷を負わせてしまった事を謝ってきた。最も霊夢は一度謝ったあとはケロリとしていたが。まあ、この件で彼女達が罪悪感を覚える必要は無いのだからオレとしてはそっちの方が助かる。泣かれるのはあまり好きじゃない。
その後、鈴仙やお空、永琳などがかわるがわる白玉楼を訪れては謝罪の言葉を口にした。鈴仙とお空に至ってはオレの顔を見るなり抱き着いてきたので別の意味で死にかけた。
で、最後に紅魔館の連中が来た。咲夜やパチェリー、美鈴や小悪魔はすまなさそうに何度も頭を下げ、フランとレミリアはおいおいと泣いていた。特にフランは相当責任を感じていたようで、声が枯れるまで「ごめんなさい」と繰り返していた。ここまで来ると自分が悪人になった様に思えてくる。
「許してくれなんて言わない…フランがちゃんと責任とるから…」
そんな事言われても困るのだが…罪には何かしらの罰が必要だというのもまた事実だ。そこでオレはかねてから考えていた事を頼んでみた。
「…じゃあさ、美鈴に頼みたい事があるんだ」
「え!?私ですか!?」
オレは目を丸くしている美鈴に殆ど土下座に近い形で頭を下げた。
「弟子にしてくださいお願いします!!」
一瞬、辺りがしんとなった。それからフランが拍子抜けした様に口を開く。
「…そんな事でいいの?」
「そんな事だと!?武術を扱う身としては最高のご褒美だぞ!」
「そ、そうなの…?」
レミリアがどうなのという目で美鈴を見る。美鈴は頷き、言った。
「私で良ければ大丈夫ですよ」
「よっしゃあああああああああああっ!」
オレは歓喜のあまり思わず叫んだ。その叫び声は白玉楼中に響き渡ったというのは幽々子様の弁だが…まあそれはいい。
剣術は妖夢に教えて貰っているので、上手くいけば多少なりとも戦力になる筈だ。それはこれからのオレの修行次第か。
こうして、オレのささやかな我儘は叶えられる事になったのだった。
そんなこんなで、二つの異変が終わった。
最も、この異変はまだ続く事になるのだが…この時点では、その事を知る者は居なかった。
これにて姉妹逆転紅魔異変は完全に終幕となります。
次回から一章後半戦…の前に番外編を。
「満月の天使」という、幻想記シリーズ屈指の名作をノベライズします。大役過ぎて腰を抜かしましたが精一杯頑張りますので次回以降もよろしくお願いします。