1章後半戦、開幕です。
「も…もう無理…死ぬ…」
オレは美鈴師匠と修行をしていた。自分から頼んだ事ではあるのだが…想像を絶する過酷さだ。慣れてきたとはいえ、きついものはきつい。身体中汗まみれだし、連日の修行で筋肉は悲鳴をあげている。
それでも―強くなっているという実感はある。最近は師匠の動きにも随分とついていける様になったし、かなりタフになったとも思う。スペルカードをまともに喰らって痛いで済むようになったのだから、実際成長はしているのだろう。
「今日はここまでにしましょう。お疲れ様でした」
地面に這いつくばっているオレに対し、美鈴師匠は汗ひとつかいていない。天と地ほどの差があると改めて思う。
「とりあえずシャワー浴びてメシ食いたい…」
丁度お昼時という事もあり、先程からオレの腹は鳴りっぱなしだった。咲夜さん、昼飯作ってくれてるかな…。
「…それなんですが、今日は人里に食べに行きませんか?奢りますよ」
珍しく美鈴師匠がそんな事を言ったものだから、オレは驚いた。
「…いいですけど、何を食べるんです?」
「決まっているじゃないですか。蕎麦ですよ」
…何がどう決まっているのかは分からない。麺を食べたいなら人里にはラーメン屋やうどん屋だってあるし、なんならパスタ屋だってある。その様な選択肢を排除してそばを選ぶのだから、この人は余程蕎麦が好きなんだろう。まぁオレとしては腹を満たせればなんだっていいのだが。
「じゃあ、天ぷらそばでお願いします!」
「贅沢な弟子ですね…」
そう言いつつ師匠は這いつくばったままのオレに手を伸ばす。それにつかまり、立ち上がると師匠は上機嫌で言った。
「それじゃあ行きましょうか!」
「…すんません、その前にシャワー浴びさせてください」
「確かに汗臭いですね…紅魔館のを貸しましょうか?」
「お願いします」
弟子に対して容赦ねぇなこの師匠…そんな事を思いながら、とりあえずシャワーを浴びて、人里に向かう事にしたのだった。
*
人里は相変わらず活気に溢れている。
その一角、こじんまりとした蕎麦屋でオレと美鈴師匠は蕎麦をすすっていた。
「たまにはこう…ゆっくりするのもいいんじゃないですか?」
「確かにまあ…たまにはね」
ここ最近は異変も起きていないから世間はゆっくりしていたのだろうが…オレは修行ばかりしていたからそんな事とは無縁だった。
……紅魔館で起こったあの異変の後、狂気にまつわる一連の異変はばったりと途絶えた。ただ、アレで終わるはずがないとは思っている。異変の真犯人だってまだ見つかっていないのだ。
今もどこかで異変の芽が育っているかもしれない…そう考えると、この平和が儚いものに思えてくる。
「…そういえば、幻想郷には慣れましたか?」
不意に、美鈴師匠が箸を止めて訊いてきた。
「ええ、お陰様で」
「それはよかったです!」
美鈴師匠は安心した様に笑った。
確かに幻想郷に慣れては来ている。だが、同時にここも現世と同じ様な場所になるかもしれないという気もする。
オレが馴染めず、色々なものを失ったあの場所と同じになる…そうなったら、オレは…。
「…どうしました?」
「…いえ、なんでもないです」
流石に考えすぎか。オレが苦笑していると、「アンタらこんな所で何やっているの?」と聞き慣れた声がした。見ると霊夢が物珍しいものを見るような目でこちらを見ている。
「無銘と中国がご飯食べてるなんて珍しいじゃない」
「誰が中国ですか!私は紅美鈴です!」
「ブフォッ!ち、中国……」
「笑わないでくださいよぉ!」
確かに師匠は華人っぽい…というか華人なのだろうが、その呼び方は安直過ぎる。小学生のあだ名じゃあるまいし。
オレは思わず噴き出した。肩を震わせて笑い、涙目の師匠をからかっていると、霊夢が再び「で、何してるの?」と訊いてきた。
「蕎麦食いにきたんだよ。お前も食うか?食うなら師匠が奢るぞ」
「ちょっと!?」
霊夢の口角がつり上がった。
「ええ、喜んで。久々にまともなものが食べられるわ」
「という訳だ。諦めようぜ師匠」
「…ああもう!分かりましたよ!その代わり明日の練習は二倍に増やしますからね!」
「あああああああ!待って!やっぱなし!コイツには奢らなくていいから!」
「なんでそうなるのよ!こっちはここ最近お粥しか食べてないのよ!」
『アンタは病人か!』
そんな感じで騒いでいた時―不意に、近くで物凄い音が聞こえた。何かが爆発した様な、そんな音だ。
「これは…」
「まずいな…」
「二人とも、行くわよ!」
オレ達は音が聞こえた方向へと走った。
*
「うう…なんで、こんなこと…」
(何を言う…これがお前の望んだ結果だろう?)
「違う!!私はこんなこと望んでない!」
(…まァいいさ。お前がなんと言おうと無駄だ。オレが起こした異変は止められない)
「………うっく、ひくっ…わ、わたし…だれか、たすけ…」
(これが終わったら最終局面だ…さあ
*
「…っち、ここにも酒ねぇのかよ」
「まあまあ…そんなにイライラするなや」
「貴女達には品がないんですか…?」
「あ?品で飯が食えるのかよ?」
「…もういいです…」
「おっと…お相手が来たみたいだぞ」
オレ達が駆けつけた時、そこには三つの人影があった。
「まさかアンタらまで…」
霊夢が真剣な目をしながら呟く。その額には一筋の汗が浮かんでいた。
「これはまた…厄介な」
「
木っ端微塵になった建物の上でこちらを迎撃せんとする三つの人影。
彼女らは幻想郷最強の種族…「鬼」だった。
(まずいな、死ぬかもしれねぇ)
心臓が早鐘を打ち、息が荒くなる。今までで一番の恐怖に襲われているのが分かった。
そりゃあそうだ、人が鬼に敵う道理などない。捻り潰されて終わりだろう。
だが、
「やらない訳には、いかねぇよな…!」
オレは身構える。それを見て勇儀が嘲笑う様に言った。
「へぇ…アンタらもしかして勝てるつもりでいるのかい?」
「へへ、百年は早いわ!」
「全く…今度は綺麗に頼みますよ」
向こうもやる気満々の様だ。骨が粉砕される事くらいは覚悟しておいた方がいいかもな。
「私はあの酒呑みをどうにかするわ」
「じゃああの赤角を」
「…まあ、誰が相手でも危険な事は変わらないか」
ここからは三対三の一騎打ち…。
師匠…アンタにオレの作戦が伝わっている事を祈るぜ。
そして次の瞬間―両者は激突した。