東方幻想記 THE NOVEL(休載中)   作:転寝

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師匠の威厳

「がはっ!」

 身体に痛みと衝撃が伝わる。

 オレは吹っ飛ばされ、地面をごろごろと転がった。

「もう終わりですか?」

 オレの相手―茨木華扇はにこりともせずにそう言った。まだまだ余裕の様だ。

「流石は鬼ってところか…一撃が重い」

「貴方はよく頑張りました。でも私には勝てませんよ」

 戦闘開始から十分程しか経過していないのに、オレの身体はボロボロだ。人と鬼の違いを思い知らされる。

 だが、こんな所でくたばる訳にはいかない。

「はあっ!」

 オレは立ち上がり、華扇に殴りかかる。

 美鈴師匠との稽古でパワーもスピードも上がっている…筈だが悉く躱される。

「遅いですよ…」

 華扇の一撃を左腕でガードするが厭な音がした。良くてヒビか、最悪折れているだろう。

「くっ…」

「まだまだ行きますよ!」

 素早く、それでいて一撃が重い。ガードが次第に間に合わなくなっていく。

 遂に華扇の拳が腹に叩き込まれ、オレは先程食べた蕎麦を戻しながら地面に倒れた。

「あがっ…ぐぅっ…」

「もういいでしょう…諦めなさい」

「…まだだ。まだ諦めねぇよ…」

「呆れた…どうしてそこまでするんですか?」

 華扇が面倒くさそうな表情を浮かべて問う。

「お前には分からないだろうな…」

「…まあ、いいです。もうすぐ終わるのですから…」

 華扇が集中しているのが分かった。

 このままではいけない。

 考えろ…この状況を打破する術を…!

 

 …今のオレがアイツに勝つには、スペルカードを使うしかない。

 オレだけが使える一撃必殺を…叩き込むしかないのだ。

 ならば、今やるべき事は…。

 

「…My body is made of steel」

 オレは防御体制をとる。

「受けるつもりですか。いいでしょう…」

 華扇はまた連撃を放つ。それを受け止めながら、尚も考える。

 コイツの攻撃は一発一発が必殺だ。

 今は耐え切っているが、やがてやられてしまうのは目に見えている。

 後の事は考えずに、ありとあらゆる術を使ってコイツに勝つ必要があるのだ。

 

 イメージしろ。

 身体の中に有る回路。それに魔力を通して、起動させる。

 身体に溜まる痛みを燃料にして、回路を活性化させていく。

 極限まで自分を追い詰めろ。

 そして、その痛みを…!

 

「…耐えますね」

 華扇が呟いた。

「貴方がまだ諦めないと言うのなら―私も全力を持って貴方を倒しましょう」

 華扇の纏う雰囲気が変化する。

 オレは右腕の回路に魔力を集中させる。

 まだだ、まだ…!

 

龍符「ドラゴンズグロウル」

 

 華扇のスペルカードを回避する。それによって生まれた一瞬の隙を見逃さずに接近。

 懐から一枚の札を取り出す。

 そして、

「スペルカード発動!」

 

犠牲「カウンターフェイク」

 

 右腕の回路が爆発すると同時に、華扇の水月に強烈な一撃を叩き込む。

「あぐぁっ!」

 華扇は吹っ飛ばされ、近くの民家の壁にめり込んだ。

「よし…やった!」

 初めて有効打を与える事が出来た。このまま行けば倒せるかもしれない。

 そう思った瞬間、

 

「………あ、がぁっ!?」

 

 右腕に灼ける様な痛みが走った。

 無理も無い。魔力回路を暴発させたのだ…この位、当然の代償というべきだろう。だけど右腕は暫く動かせそうにないな…これで倒れてくれればいいのだが。

 然し、そんな願いを打ち砕く様に華扇はめり込んでいた壁から身体を引き抜き、口元から流れる血を拭いながら呟いた。

「やるじゃないですか…まさかここまで追い詰められるとは」

「ふざけんなよ…あれを食らって動けるのかよ…」

 右腕は使い物にならない。このままじゃまずい…!

「さて…全力で殺しにかかるので覚悟してください」

 今度こそ終わりか、そう思った時―。

 

「がぁっ!」

 何かがこちらに吹っ飛ばされてきた。華扇がそれを見て目を見張る。

「勇儀!?」

「ふざけんなよ…あのアマどんだけ強いんだよ…」

 勇儀は身体を起こしながら毒づく。

「何を言いますか。大して力は出していませんよ」

「師匠…」

 美鈴師匠が悠然とした足取りで歩いてきた。息一つ乱れていない。

「そんな事より…無銘さん、カウンターフェイクを使ったのですね」

「は、はい」

「あのスペルカードは自分が負ったダメージを倍にして、その衝撃を右腕に溜めて放つ技です。下手をしたら右腕が持ってかれるので、極力使わないように」

「はい…すいませんでした」

 頭を下げるオレに微笑むと、師匠は「少し下がっていてください」と言った。

「いや、でも…」

「たまには私にもかっこつけさせてください」

「…わかった」

 オレは大人しく下がった。カウンターフェイクの後遺症で戦えそうになかったからだ。

 それに…うちの師匠はとんでもなく強いから、任せても大丈夫だという自信もあった。

 

「さて…全力でいきますかね」

「調子に乗るんじゃねぇぞクソアマ!」

「行きます!」

 勇儀と華扇が美鈴師匠に飛び掛かる。

 パワーの勇儀とスピードの華扇。しかも二人は鬼だ。流石の師匠も苦戦する…と思われたが、

「片手で受け止めたぁ!?」

「そ、そんな!」

 師匠は勇儀の攻撃を右手で、華扇の攻撃を左手で受け止めていた。二人の表情に驚きが生まれる。

「大事なのは筋肉をどう使うかですよ…せいっ!」

 手を離し、隙が生まれた勇儀に一撃。そして直ぐ華扇に連撃を放つ。流れる様な動作だった。

 だが相手もタフだ。直ぐに起き上がった勇儀は背後を取り、力任せの蹴りを放つ。

「後ろがガラ空きだぞ!」

「…動きが単調すぎる」

 然し師匠はその動きを予想していたかの様に首を傾けて回避。伸ばされたままの勇儀の脚を掴み、華扇に向かって投げ飛ばした。

「ほい」

 二人は激突し、もつれ合う様に地面を転がった。

「もう終わりですか?」

「…テメェ、調子付いてんじゃねぇぞ!」

 華扇は気絶したようだが、勇儀は直ぐに起き上がり、師匠に拳を浴びせる。荒々しくもキレのある動作だ。

 師匠はその全てを受け止め、ニヤリと笑う。

「キレは良くなりましたが…その分雑さが浮き出ていますね。それじゃ私には勝てませんよ?」

 鬼の四天王と謳われる勇儀の拳を、全て受け止めるとは…確かにうちの師匠は弾幕勝負では目立った成績を残していないが、武道に於いては幻想郷最強と言っても過言ではないだろう。

 

気符「地龍天龍脚」

 

「アガァァァッ!」

 師匠のスペルカードを受け、勇儀は天高く舞った後落下して、動かなくなった。

「師匠…強すぎやしませんか?」

「ふふっ、久々に楽しめましたよ」

 美鈴師匠は清々しい笑顔でそんな事を言った。

 …オレはこの人に逆らうのはよそうと決意した。命が幾つあっても足りない。

 

「あら、終わったの?」

 そんな声と共に霊夢がやって来た。こちらも傷を負った様子は無い。

「ええ、これで終わりでしょうか…?」

 美鈴師匠がそう訊いた瞬間、

 

「ああ… ()()()()()()()()()()()

 

 異形の少女が、オレ達の前に姿を現した。

「ルー…ミア?」

 ソイツはルーミアの形をしていた。然し顔がある筈の部分からは黒い触手の様なものが幾本も飛び出しており、纏う気配もルーミアとは似ても似つかない、禍々しいものだった。

「こ、これは一体…!?」

「どうしたらこんな姿に……?」

 その場にいた者達の驚きを意に介さず、ルーミアは…否、ルーミアの形をしたバケモノは醜い声で嗤った。

 

「…全部喰ってやるよ!アハハハハハハハハハハッ!」

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