東方幻想記 THE NOVEL(休載中)   作:転寝

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絶対悪

 弾幕が飛び交う。

 ルーミアの姿をしたバケモノの強さは圧倒的だった。一撃が重く、異能殺しで防御しても右腕がもっていかれそうになる。

「うぐっ…」

 何度目かになる防御。腕はもう限界だ。それを見てか、美鈴師匠がオレに訊く。

「ちゃんと生きてますか?」

「…こんな状況で冗談を言えるアンタが羨ましいよ」

 だが師匠も、そして霊夢も余裕は無い。ひたすら攻撃を防ぎ、その合間に反撃を入れるのが精一杯だった。

「なんなのよアイツ…色々とおかしいわ!」

 それはオレも感じていた。ルーミアはこれまでのヤツらとは違い、狂気に呑まれ過ぎているような印象を受けた。姿形が異形なのもそのせいなのだろう。

「アハハハハハハハハ!ねえ!博麗の巫女って美味しいの!?華人って美味しい?中華の味するの!?そこの人間も美味しそう!まあ食べたら分かるかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 完全にイカレている…前に会った時はこんな風では無かった筈だ。

 …もしかしたら、ルーミアをこうさせているのは異変の黒幕かもしれない。そうでなければこんな異形に成る筈が無い。

「早く食べさせてよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!テメェらの肉とか骨とか血とか全部私に寄越せェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!」

 ルーミアが吼える。それを見た美鈴師匠はルーミアを見据えたまま言った。

「無銘さん、霊夢さん…私が注意を引き付けます。と言っても長く持ちそうにはありません…その間に、起死回生の一手を!」

「し、師匠!?」

「…信じて、貴方に命運を預けます」

 オレが何か言うよりも早く、師匠は駆け出した。そのままルーミアにぶつかっていく。

 砂埃が舞い…それが晴れた時には、二人の姿は無かった。

 

「どうするのよ?」

 霊夢が訊く。

「今考えてる…けど、ありとあらゆるケースで人員が足りねぇ!」

 ルーミアを抑えられれば、何とかなる可能性はある。然しそれをするには人が足りない。

「そこに転がっている鬼は使えないの!?」

「満身創痍だよ!使う使わない以前の問題だ!」

「じゃあどうするつもり!?もう時間は無いわ!」

「オレに言われても…!」

 オレが頭を抱えたその時、

 

「―私ならどうかしら?」

 

 この場に似つかない、上品で呑気な声が聞こえた。

 空間に隙間が開き、一人の女性が姿を現す。固まるオレ達を他所に、女性―八雲紫は平然と言った。

「久しぶりね無銘…いや、赤坂蜥蜴」

「紫!?アンタ今まで何処に…って、誰よ赤坂蜥蜴って」

「オレの()()だ。んな事どうでもいい…それより紫、アンタのおかげで最善策が取れそうだ」

「最善策?」

 紫が居るなら、この方法を取れる。

 オレは言った。

 

「オレの精神とルーミアの精神を繋げて、ルーミアの中に行く」

 

 霊夢が驚いた様に目を丸くした。

 紫が真剣な目付きになり、それと同じくらい真剣な声色で問う。

「貴方…本気?正気で言っているとは思えない…」

「ああ、本気だ」

「…戻って来れなくなるかもしれないし、最悪両方の人格が壊れる……そうなったら貴方、地獄を見るわよ?」

 即ち、最高のハッピーエンドか最悪のバッドエンドかの二択って訳だ。

 でも、他に方法は無い。なら…。

「リスクは承知の上だ…それでもやるんだよ。ルーミアの苦しみを無くすには、これしかねぇんだ」

 ルーミアの苦しみ。

 それは、オレがよく分かっている。

 だからこそ、行くのだ。

「…頼む、行かせてくれ」

 紫に頭を下げる。

 彼女は暫し思案した後、ぼそりと呟いた。

「想像通り…いや、それ以上の莫迦ね」

「そいつはどうも」

「…すぐ準備は終わるわ。少し待ちなさい」

 紫はスキマを開き、作業を始めた。

 それを見て、オレは大声で叫んだ。

「師匠、もう大丈夫だ!」

 すると、美鈴師匠がよろめきながら戻ってきた。ボロボロで息も荒い。

「はぁ…なんであんなに強いんですか。ジリ貧で辛かったですよ…」

 と、その後を追うようにしてルーミアがこちらに突っ込んで来た。こちらは傷一つ負っていない。

「ナンカフエテル!オイシソウ!アッヒャハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ルーミア…絶対助けるからな」

 オレは呟き、ルーミアの前に立つ。

「じゃあ、行くわよ」

 紫の声が聞こえた。オレは目を瞑る。

 そして。

 

 

 目を開けると、形容し難い空間に居た。無事成功した様だ。

 ルーミアの精神内は荒れていた。赤黒い光に満ちており、所々にヒビが入っている。そんな光景が果てしなく続いていた。誰がどう見ても、普通の精神状態では無い。

 そしてそこに―鎖で拘束されたルーミアの姿があった。厳密には彼女の心というべき存在なのだろう。

 鎖は右手で触ると砕けた。つまり異能的なものだという事だ。

 オレはルーミアを抱き抱える。意識は無いが呼吸はある。つまりまだ心は壊れ切っていない。

 不意に、足音が聞こえた。振り返ると、そこには一人の人間―いや、人間の形をした何かが居た。

 男とも女ともとれる何か…以前、夢で見た存在だ。

「よう…初めましてだな」

 ソイツは中性的な声音をしていた。一見無害そうに見えるが、コイツは…。

「…初めまして、だな…この異変の元凶さんよ」

 そう。

 ルーミアの中に居るコイツが、この異変の元凶だ。直感的にそう判断した。

「…どうやら、全て察しているみたいだな」

 ソイツは薄く笑った。

「ああ…テメェはゾロアスター教の悪神であり、絶対悪と謳われる存在…」

 その名は。

 

 

 ―アンラ・マンユ。

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