東方幻想記 THE NOVEL(休載中)   作:転寝

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1章最終話です。


担う背中

 異変解決の翌日、博麗神社で宴会が開かれた。

 

「えー、皆さんお手元にコップは行き届いたでしょうか?」

 魔理沙が皆に向かって訊く。既に全員コップを持っており、その瞬間を今か今かと心待ちにしている。ちなみに飲み物は大半が酒で、オレだけジュースだ。

「では…異変解決を祝して〜か〜んぱああい!」

『かんぱーい!』

 次の瞬間、溜まったものが爆発したかのような勢いで場が賑やかになった。

「元気だなぁあいつら…」

 元気というより馬鹿なだけかもしれないが。

「貴方はお酒飲まないの?」

 そんな声がしたので振り向くと、アリス・マーガトロイドが酒のコップを手にしたまま立っていた。ちなみにこの場には異変に関わってない連中も大勢居る。宴会と聞いてやってきたらしい。

「いや、オレ未成年だし」

 幻想郷に未成年という概念が有るのかは分からないが、酒が絡むと大抵ロクな事にならないので自粛していた。

「この宴会の主役も貴方なのになんでそんな端っこの方にいるのよ…」

 アリスが呆れた様に訊いた。

「苦手なんだよこういうの…って、いてぇ!」

 突然何かが突っ込んできて、オレの腹に激突した。見るとそれは…。

「わはー!」

「る、ルーミア?」

「お礼を言いに来たのだー!助けてくれてありがとうー!」

「おう、助かったならよかった」

 ルーミアは嬉しそうに笑う。この笑顔を守れて良かったと、心から思う。

「それで…ね」

「ん?」

 なんだコイツ?顔が赤いぞ?

「ふふ…」

「……ってルーミアさん?なんで抱きつこうとするんです?」

「こうするのがお礼じゃないの?」

「んな事あってたまるか!礼儀作法を学び直せ!今すぐに!」

「でも、こうすると嬉しいんでしょう?」

「…おい、それ誰から聞いた?」

「スキマ妖怪さんからだよ?」

「あ の バ バ ア …」

 軽く殺意が沸いた。というかオレが女性恐怖症なの知ってるんだろアイツ。確信犯じゃねえか。

「今は私を見て?」

 頬を染めながらそんな事を言うルーミア。

 コイツ…場の雰囲気に酔ってやがる…でないとオレに女性が寄ってくるなんて事は無いはずだ…。

 というか寄って来られるのも困るのだ。女性恐怖症だから。

 そんな感じでうだうだしていると、今度は背中を叩かれた。アンラと戦った時の傷が癒えてないのに…不幸である。

「痛い!?」

「よう坊主!今回は世話かけたな!」

 勇儀が豪快に笑う。

「勇儀姐さんか…」

「まあ、飲め飲め!」

 そう言って自分が飲んでいた酒を渡してくる。これ断わったらぶっ飛ばされるな…。

「分かりましたよ…」

 渋々頷き、飲もうとするが…いやまて、これ間接キスじゃね?勇儀がニヤニヤしている辺り、コイツも確信犯らしい。

「どうした?なんか問題でもあったか?」

「問題しかねぇよ!」

 まさかこれも紫の差し金か…?アイツはオレを殺したいのか?

 と、そこで思い付いた。

(そうだ!華扇さんなら助けてくれるんじゃ?)

 するとオレの考えを読んだかのように勇儀が言った。

「ちなみに、華扇ならもう出来上がってるぞ」

「え っ」

 見ると、べろんべろんに酔い潰れた華扇がうわ言を呟いている。

「か弱い私を許して…」

「充分バケモノだよ!」

 か弱いなんてどの口が言うんだか…というかあの人鬼だよな?酒には強い筈なんだが…。

 その時、また腹に何かが激突した。

「ふにゃぁ…」

「うにゃぁ…」

 すっかり出来上がった吸血鬼が二人、オレの腹に頬擦りしている。

「コイツらもかよ…」

「何よ、カリスマが来てあげたんだから喜びなさい」

 ブレイクするカリスマも無いくせによく言うよ…。

「ねね、お兄様…ちょっと血が飲みたいの」

「悪い様にはしないわよ?」

「貧血にはなるだろ…」

 まあ少しくらいならいいんだけど。

「ねね、いいでしょぉ…?」

「血を吸われるの、気持ちいいわよぉ…?」

 血以外の何かも吸われそうだった。

「というかお前ら、酒臭いぞ…相当呑んだな」

 まあ今まで来たヤツは全員酒臭かった。アルコールの匂いが脳を刺激して、それだけで酔いそうだ。いくら宴会だからといってこんなに呑む事は無いだろうに。

 そんな事を思っていると、近くで底抜けに陽気な声がした。

「ほら呑め呑め!酒はまだまだ大量にあるぞ!」

 そんな感じで全員を扇動しているのは伊吹萃香(いぶきすいか)。多分というか絶対コイツが酒臭さの黒幕だ。オレは萃香の元に行くと、その赤ら顔を睨み付ける。

「萃香テメェ…呑ませ過ぎだぞ…」

「おお英雄!別にいいじゃないか…無礼講ってヤツだ」

 それよりも周り見てみろよと言って、萃香はニヤリと笑う。

 言われた通りに周りを見てみると、大勢の少女に囲まれてるではないか。

 

「…なんでオレ囲まれてんの?」

「どうやら酒がいい感じに回ったらしくてな…焚き付けたら悪ノリしてくれたよ」

「…つまり?」

「この宴会の男女比から考えて…お前、襲われるな」

「………………」

 

 シンキングタイム、3秒。

 そして、

 

「うおあああああああああああああああ!?」

 オレは叫びながら出せる限りのスピードで逃げ出した。

『待ちなさああああああああああああい!!』

 それを追いかける幻想少女達。何故か全員鬼の形相である。

「うるせえ追いかけてくるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ドタバタと、やかましい足音を立てながら逃げ回る。

「お、鬼ごっこか?鬼さんも参加してやろう」

 酒を飲み干した勇儀がそんな事を宣う。

 鬼が一匹追加された。多分捕まったら命は無い。

「私も参加しようかしら?」

「絶対捕まえて血を吸ってやる!」

 吸血鬼二匹追加。最早カオスである。

 

 

 

 オレは外に出て、息を整えていた。空には満月が浮かんでいて、夜風が心地好い。

「さ、流石にここまでは追ってこないはず…」

 そう呟いて後ろを振り向いたオレは固まった。まだ追いかけてくるし何故か増えている。

「待ちなさい」だの「一緒に居ようぜ!」だの「血を吸わせろ」だの兎に角やかましい。

 普通の男にとっては天国だろう。然しオレは女性恐怖症…マジで逃げないと冗談抜きで死んでしまう。

「ま、マジで勘弁してくれえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 オレは情けなく叫びながら、月明かりの下をただただ逃げ回った。

 

 

 逃げ回る無銘と追いかける幻想少女達を見ながら、八雲紫と西行寺幽々子は談笑していた。

「平和ねぇ…」

「そうね…まったりしていていいわぁ」

「今夜は月も綺麗だし、文句ないわね」

「ご飯も美味しいしね〜」

 紫は目を瞑り、呟く。

「ああ、こんな平和が……」

 

「―ずっと続けばいいのにってか?」

 

 突然、第三者の声が割り込む。

 驚いた二人の間に、いつの間にか一人の人間―否、人間の形をとった何かが居た。

「間失礼するぜ」

 男とも、女ともつかない声。

 今回の異変の元凶―アンラ・マンユは初めからそこに居たかのようにくつろいでいた。

「…………」

 二人が無言で戦闘態勢を取る。それを見て、アンラは目を細めた。

「安心しな。今宵のオレは機嫌がいい…それに、これは思念体だ。本体は赤坂の中に居るっての」

「…何の用?」

 警戒を解かず、紫が訊いた。

「バカ共の面を拝みに来たんだよ。思った以上に愉快な連中じゃねぇか…ククッ」

 アンラは本当に愉快そうに笑った。幽々子もまた、警戒を解かずに訊く。

「…ひとつ、聞かせなさい。貴方が無銘の中に居て、何が変わったの?」

「ん?オレはアイツに欲を送り込んでいるだけだが?」

 当たり前の様に、そう答えた。

「食欲、性欲、睡眠欲―即ち三大欲求と、攻撃欲…これを常に流しているんだよ」

「…そうすると、どうなるのよ?」

「まあ、簡単に言うとよ…今の赤坂は常に何倍も食べ、常に誰かを犯したく、ありとあらゆる時間に睡魔に襲われていて…そして、常に誰かを殺したがっている」

「そ…それって…」

「ちなみに、今も欲は流れている…食欲はまあ解消出来ただろうし睡眠欲は寝れば消える。問題は後の二つだ」

 アンラは愉しそうに口角を吊り上げた。

「ヤツは今、女に囲まれてさぞかし興奮してるだろうなぁ…もしかしたら、全員犯された後殺されるかもしれねぇな」

「…………」

 紫の目が鋭さを増す。アンラはそれを見て、益々笑みを深くした。

「… ()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ええ…貴方の話が本当なら、彼は有害という事になる。もしそうなら…排除しないといけない」

「…だがヤツはこうなる事を計算に入れていたようだ。まあ、無計画だった可能性もあるが」

「………?」

「ヤツは、欲を制御出来ている。単なる痩せ我慢かもしれんがな…お前らにはそれが出来るか?」

 アンラの話が本当なら、無銘の「欲」はとてつもないものという事になる。それを我慢するには、多大なる精神力が必要になる筈だ。必死に耐えている彼を、一瞬でも排除しようと思うなんて…。

 紫が唇を噛む。幽々子も俯いた。

「やっと事の重大さが分かったか…ククッ」

 噛み殺すような笑い。

「なぁ…滑稽だと思わねぇか?助けたいってだけで人喰い妖怪を助け、傷付けたくないってだけで自分の欲を我慢する…面白いヤツだよ、本当に」

 馬鹿なヤツだとアンラは嗤った。

「…貴方、今すぐ無銘の中から」

「また異変を起こすがそれでもいいか?」

「……………」

 紫は黙り込む。アンラは二人に背を向け、呟くように言った。

「ヤツが絶対悪を背負っているのを、忘れねぇ様にする事だな」

 アンラは歩き出す。途中で歩みを止め、また呟いた。

「おっと忘れる所だった…最後に予言してやるよ」

 そして謳うように、呪いの言葉を紡いだ。

 

 ― ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ああ…生きているって素晴らしい。

 夢想封印とマスタースパークとスターボウブレイクが一斉に飛んできた時は、マジで生きた心地がしなかった。それでも逃げ切って今に至るのだが。

「生きているって、素晴らしい…」

 オレが口に出して生の素晴らしさを噛み締めていると、足音と共に聞きなれた声がした。

「こんな所に居たの?」

 ハッとなり振り返ると、お空が夜風に髪を靡かせながら立っていた。

「ごめんごめん…驚いた?」

「無茶苦茶ビビったわ…」

「あはは!」

「ったく…」

 それから、しばらく無言で二人で月を眺めた。

 

「無銘くん…辛くない?」

 不意に、お空が言う。

「…へ?大丈夫だけど…」

「私ね、分かっちゃったよ…無銘くんの事。少しだけだけど」

「………?」

「さとり様達を助ける時は最前線に立っていて、紅魔館の時は皆を庇って死んじゃって…勇儀姐さん達を助ける時も無理してたでしょ?」

 悲しそうに、言葉を紡ぐ。

「ルーミアちゃんを助ける時も…楽には終わらなかったよね?」

「………」

「私は…賢くはないけれど、無銘くんが傷付いている事は…分かるよ?」

 泣きそうな顔で、オレに向かって言う。

「だから…辛い時は、私を頼ってほしいな…」

「………」

 コイツは。

 オレなんかの為に、ここまで言ってくれるのか。

「…別に大丈夫だよ。傷付いてもいないし、辛くもないから…」

 口から出たのは、偽りの言葉。

 ここでお空に甘えたら…ダメだと思って吐き出した言葉だった。

「本当に…?」

「ああ、本当に辛かったらちゃんと頼るから…」

「………良かった…」

 本当に安堵した様に、お空は息を吐いた。

「ほら、オレももう少ししたら戻るから先行きな」

「うん!また後でね!」

 お空は笑顔になると、宴会場へ戻っていった。

 それをぼんやり眺めていると、また誰かの足音。振り返ると、アンラがこちらに歩いて来ていた。

「お前さぁ…ずっと嗤ってたろ」

「いやぁ…あまりにも滑稽でな」

「ったく…」

 アンラは一転して真剣な顔になる。

「何故、打ち明けなかった?」

「…アイツは優しいからな。打ち明けたら、多分どうにかしようと思うだろう。それじゃあダメだ… ()()()()()()()()()()()()()

 英雄が救われちゃせわしないだろうとオレは言った。

「違いねぇな」

「だろ?」

「…ククッ」

「…ふふっ」

 夜空に、悪神と愚者の笑い声が吸い込まれていく。

 これから、一体いくつの死線を潜り抜ける事になるだろう…そんな事を思いながら、月を見上げる。

 今日は満月。オレが幻想入りした時は、どうだったっけ?…考えてみても、思い出せなかった。

 宴会場から誰かが呼んでいる。

 オレは軽く手を上げて、仲間の元に戻っていった。

 




如何でしたでしょうか?
動画版ではもっと賑やかに、かつカオスな最終話となっております。是非、そちらもご覧下さい。
次回から1章EXを始める予定です。この作品の、もう一人の主人公の話となります。
それでは、次回以降もよろしくお願い致します。
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