生き残り
視界に映るのは、瓦礫と人間の死体だ。
死の気配が色濃く残る廃墟―そこは、もう終わっている場所だった。
「…一足遅かったか」
血溜まりの中に立つのは一人の男。背が高く、長い髪を乱暴に括っている。その瞳からは、目の前の惨状に対する感情は読み取れない。
「研究所は崩壊して、辺りには
舌打ちをして、男は外に停めてあったバイクの方へと歩きだそうとする。終わってしまった場所に、用は無い。
その時―微かな物音。瓦礫を掻き分けるような音の後、ちいさな呻き声が聞こえた。
「ううっ…」
「あ?」
男は振り返る。自分の少し後ろから、小さい人影が姿を現した。
まだ幼い。金髪にエプロンドレスという出で立ちの少女だ。彼女は男の側まで近付くと、弱々しい声で「助けて…」と呟き…そのまま倒れ込んだ。
「んだよ。生存者がいんのか…おいガキ起きろ。状況説明しやがれ」
そう言って少女の頬を何度か叩く。少女は弱々しく目を開けて、掠れた声で言った。
「お姉ちゃんを…助けて…」
そしてまた目を閉じる。それを見て、男は面倒臭そうに溜息をついた。
「わざわざ眠い中出てきたってのに…まあいい、連れて帰るか…」
男は少女を担ぐと、今度こそ停めてあったバイクの方へと歩き出した。
*
「うっ…」
呻き声と共に、目を覚ます。
目を開けると、瓦礫の山ではなく、どんよりとした空が見えた。
自分は高速で移動している。喧しい排気音と風を切る感触から、バイクの後ろに乗せられていると分かった。
「あ…れ、わたし、なんで外に…」
霞んでいた思考が纏まると同時に、先程助けを求めた男の事を思い出す。彼は自分の前で、バイクを運転していた。
「クソが…マジで死体しかねぇな…」
「あ、あの…」
おずおずと声を掛けると、男は器用に運転をしながら訊いた。
「やっと起きたかガキ…この状況説明しやがれ」
「わ、私も何が起きたか…」
覚えているのは悲鳴と爆発音だけだった。
「…テメェが唯一の生き残りだ。生物兵器研究支部は半壊して、人はテメェ以外全員死んだ」
「………!?」
生物兵器研究支部。
確かに自分はそこで「何か」に遭った気がする。
だが、まさか自分が唯一の生き残りだとは…。
「あそこで研究していたのは…闇喰いか。大方、実験途中に暴走したんだろう」
「多分…」
闇喰いという言葉を聞いて、息苦しさを覚える。それのせいで、自分達の人生は狂わされたのだ。
「…そういやテメェ、名前はあんのか」
不意に、男が訊いた。
「エレンです…あなたは?」
「オレに名前はねぇ…識別番号ならあるが」
識別番号という事は、彼もあの研究所に居たのだろうか。
いや、そんな事よりも…。
「…名前が無いなら、私が決めてもいいですか?」
「…勝手にしろ」
「じゃあ……ザクロってどうですか?」
「はぁ?」
「あなたの右目、柘榴みたいに綺麗だから…」
男の目は左右で色が異なっていた。左目は灰色で、右目は鮮やかな赤色だ。…血や、柘榴を思い起こさせる、綺麗で禍々しい色。
「…好きにしろ」
男は興味が無さそうに言った。
「はい!ザクロさん!」
「…フン」
男―ザクロは鼻を鳴らすと、バイクの運転に集中しようとする。その背中に、エレンは声を掛けた。
「あの…ザクロさん。もう一つだけ、お願いがあるんです」
「…あ?」
私の大切な人を…。
「…姉を、助けて下さい」
動画版との相違点として、喰種という単語は全て「闇喰い」に変更されています。
敵としてグールを出す場合は、「食屍鬼」と表記する予定です。
よろしくお願いします。