東方幻想記 THE NOVEL(休載中)   作:転寝

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進撃

「…姉を、助けてください」

 エレンの言葉に、然しザクロは首を横に振った。

「…断る。必要が無い」

「そんな!?」

「そもそもオレはお前を助ける為に彼処に行った訳じゃない。お前はたまたま救われただけだ。姉まで助ける道理は無い」

 ザクロの無常とも言える言葉に、エレンの顔が悲しそうなものに変わっていく。

「…だが、テメェが一人で行った所で、虫一匹殺す事は出来ねぇだろう。それに、確かにめんどくせぇがオレの目的を果たすのには都合がいい。だから、手を貸してやるよ」

 ザクロがそう言うと、エレンの顔が一瞬にして明るいものに変わった。

「…ありがとうございます!優しいんですね」

「誰が優しいだブッ殺すぞ!」

 ザクロは鋭い目でエレンを睨みつけるが、彼女はにこにこと笑ったままだ。

「……チッ。とっとと後ろに乗れ」

「はい!分かりました!」

 エレンがバイクの後ろに乗る。ザクロは「クソが…めんどくせぇ」と一言悪態をつくと、バイクを発進させた。

 

 

 バイクを走らせながら、ザクロはエレンに訊いた。

「で、何処の研究支部だ?」

「ここから西の研究支部です」

 生物兵器の研究支部は至る所に存在する。ザクロがエレンと出会った廃墟より少し遠い支部…そこに、エレンの姉が居るとの事だった。

「そうか…姉の話を聞かせろ」

 ただ走っているだけでも退屈なので、エレンの姉の話を聞く事にした。

 エレンは快く承諾し、姉の話を聞かせてくれた。

 

 

 私達は元々、ドイツの出身なんです。ある時に襲撃されて、ここに来る事になりました。

 ザクロさんもあの研究所に居たんですよね?…なら分かると思うんですが、私達は連れて来られた際に、様々な生物・異能兵器に対する適性を調べられました。その時に、姉が闇喰いに対する適正値が異常に高い事が分かったんです。研究所の人の話では、収容されている被検体の中で二番目に適性があるとの事でした。

 …一番高いのはどんな人だったか、ですか…私はどの適性も低くて実験には余り関わらなかったので詳しく知っている訳では無いですが…確か、No.0809という被検体でした。最初はその人をメインの被検体として実験を行っていたようです。

 でもある時、0809が脱走したという噂が流れました。職員達は直ぐに事実確認を行い、0809の脱走を認めました。

 それは、私達にとっては悪い事でした。だって…そのせいで、二番目に適性がある姉がメインの被検体として扱われる事になったんですから。

 

 …ザクロさん?どうしました?

 あ、はい、続けますね…。

 

 …私が居た研究所は、姉の暴走によって壊滅しました。

 姉は西の支部に護送されて…今も幽閉されています。

 

 …なんでそこまで姉にこだわるか、ですか。

 それは…私にとってたった一人の家族だからです。両親は襲撃された時に死んで、私には、姉しかいない…だから私は、姉を助けたいんです。

 

 

 エレンの話が終わる頃、バイクは研究支部へと到着した。

 入口に見張り等は居なかったが監視カメラが設置されていた。なのでザクロは適当な場所の壁を破壊し、中に入った。

「あっさり入れたな」

「…思い切り壁壊してましたよね?」

 ザクロは平然としているが、エレンは不安なのだろう。先程からしきりに周りを見渡している。

「さて…」

 ザクロが行動を開始しようとした時、どこからともなく犬の唸り声が聞こえた。…否、犬では無い。それは何処か怪物の咆哮に似ていた。

「あ?」

 コンピューターが立ち並ぶ部屋の奥から、二匹の犬―正確には犬型の生物兵器だが―が姿を現す。

「生物兵器…!」

 エレンが驚き、身を竦ませる。

「放し飼いにしてんじゃねぇよ…ったく」

 ザクロは冷静そのものだ。生物兵器はエレンよりザクロの方が狙い易いと判断したらしい。唸り声をあげながらザクロに飛び掛かり、首筋に牙を突き立てた。

「ザクロさん!?」

 エレンの悲鳴。

 首筋を牙で貫かれたザクロは血飛沫をあげながら倒れる筈だった。

 然し、

「え…ええっ!?」

 エレンは困惑した声を上げた。

 無理も無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「手間かけさせやがって…」

 ザクロはそう呟くと、何事も無かったかのように歩いていく。

 エレンはその背に追いつき、訊いた。

「な、何をしたんですか!?」

「何って、コイツらがオレに突っ込んできて自滅したんだろ?」

 確かにそうだ。

 だが、明らかにおかしい。攻撃した方がダメージを受けるなんて…。

 エレンが言葉に詰まっていると、ザクロは「行くぞ」と言ってまた歩き出した。

「は、はい!」

 エレンは慌ててその背中を追いかけた。

 

 歩きながら、ザクロは思った。

(あの()()()()は確実にここに居る…必ず見つけ出して、血祭りに上げてやる)

 

 …前を見据えて歩く彼の目には、(くら)い執念の様なものが宿っていた。

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