マッドの一撃は重く、壁を易々と壊す程のパワーを備えていた。
そんな攻撃を、ザクロは尽く跳ね返す。マッドの攻撃は腕で殴りつけるというものだったので、自分で自分を殴っているという傍から見たら滑稽とすら思える光景が展開されていた。
「クソ…調子に乗りやがって…」
「まさかここまで腰抜けだったとは…正直期待外れだ」
「ぐ…調子に乗るなよガキぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」
振り回される腕は、然しザクロには届かない。それどころか尾でカウンターを入れられ、マッドは無様に転倒した。
「テメェは所詮その程度だったって事だ…」
ザクロはマッドを嘲笑い、それから顔を顰める。
「人の身体勝手に改造しやがって…挙句の果てに自分の身体までバケモノにしちまうんだから滑稽だ。力に溺れた結果がこれとは、実に笑えねぇ話だな」
「失敗作如きが…偉そうな口をきくなァァァァッ!」
マッドの咆哮。だがザクロは一切動じず、マッドの肩口に自分の尾を突き刺した。灰色の液体が、汚らしく飛び散る。
その様子を呆然として見ていたエレンが、口を開いた。
「凄い…マッドを押してる…」
「アイツ、一体何者なの…?」
隣で見ていたエリスも開いた口が塞がらないといった様子で呟く。
そんな姉妹の前で、戦闘は佳境に入ろうとしていた。
「さて…フィナーレだ、クズ野郎」
マッドは息も絶え絶えといった様子で地面に這いつくばっている。後一撃加えれば、決着はつくだろう。
トドメとばかりに尾を振り上げたザクロだったが、
「
マッドの言葉に、動きを止めた。
「…何?」
「だってそうだろ?君は僕のお陰で強くなったんだ!」
マッドは歪な笑みを浮かべ、言い放った。
「
その言葉を受けて、
ザクロは、呟く様に言った。
「…ガキ共、自分の身は自分で守れよ?」
「え、ええ…?」
いきなりの事に姉妹は困惑する。ザクロはマッドの方を向き、低い声で訊いた。
「母親代わりが…なんだと?」
「だからぁ…僕のお陰だって言ってんだろ!?分かったなら地面に頭擦りつけて土下座しろよ!『力をくれてありがとうございました』って言ってみろよ!」
「…テメェ如きが、アイツを語るな」
「なんだぁ?恩人をバカにされてキレたかぁ?」
「…お前、血祭り確定な」
ザクロがそう言った瞬間、
視界が白く染まり、
次の瞬間には、瓦礫と灰色の空が。
瓦礫には灰色の液体が大量に付着していた。
それが自分から出たものだとマッドが気付くのに、かなりの時間を要した。
「が…ぁ…なに、が…」
「研究所をぶっ飛ばしてやった。絶望したか?」
目の前に立つ悪魔が、淡々と言う。
「あ」
研究成果が。
僕の、世界が…。
「ああ…」
口から溢れる声は、呻き声にしかならない。
そんな自分を見下しつつ、ザクロが口を開いた。
「さて、終わりだ…言い残す事はあるか?」
それを聞いた途端、どうにも可笑しさを堪えきれなくなった。
自分の世界が吹っ飛んだから?
自分の末路が絶望しかないから?
否―。
「ふふふ…貴様も忘れた訳じゃないだろうな…アレイスター様を」
あの方が居れば、我らは…。
「…
「…終わりだ」
目の前の悪魔が短く告げた瞬間、その尾が自分の首を裁断していた。
それでも最期まで笑みを崩さない。
自分を殺した悪魔が絶望する姿を思い描きながら…。
…マッドの意識は、そこで途絶えた。
次回、1章EX最終話です。