東方幻想記 THE NOVEL(休載中)   作:転寝

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満月の天使最終話です。


満月の天使6〜彼岸花〜

 ハミリヤが消えてから、数週間が経過した。

 幻想郷はいつも通りだ。一人の少女が消えた事なんて、全体で見れば些事でしかないのだろう。

 だが、オレは…。

 

「………」

 美鈴師匠との修行中だというのに、オレはぼんやりとしていた。

「せい!」

「ガハッ!?」

 師匠の鋭い一撃が水月に入り、なすすべも無くぶっ飛ばされる。

「…どうしたんですか?最近元気ないですよ?」

 息が出来ずに藻掻くオレに、美鈴師匠が言う。その表情は弟子を叱るものというより、心配しているようなものだった。

「…すんません師匠、今日はここまでにします」

「わ、分かりました…」

 オレは何とか呼吸を整え、ふらついた足取りで紅魔館を後にした。

 

 

 その日の夜。

 オレは、ここ最近通っている場所に向かい歩を進めていた。

 夜風が心地よい…しかしそれを楽しむ余裕が、今はない。

 やがて、その場所に着く。幻想入りした後に初めて訪れた場所であり―ハミリヤが消えた場所だった。

 夜とはいえ、景色は普段と変わらない。ただ、オレの隣に一人の少女が居ないだけだ。

 何気なく夜空を見上げる。満月が、ぽっかりと空に浮かんでいた。

 今日は、ハミリヤが居なくなってから初めての満月だ。もう降りて来ないと分かっていても、その姿を探してしまう。

「今日はあの日と同じ満月ね」

 背後から声。振り向くと、西行寺様が立っていた。

「…そうですね」

「また、ここに来たのね」

「………」

 ハミリヤが居なくなってから、オレはこの場所に通い続けた。彼女が居なくなった事を、認めたくなかったのかもしれない。駄々を捏ねる子供のようだったが…無力なオレには、それしか出来なかった。

「…彼女は、幸せだったと思うわよ」

「……でも、たった15日でお別れなんて、悲しすぎますよ…」

「……それは」

 西行寺様は言葉に詰まったかのように黙り込んだ。

 ハミリヤは幸せだったのだろうか。

 オレにはその答えが解らない。

 

『私は…あなたを好きでいられて、幸せでした』

 

 ハミリヤは最後にそう言ったが…それでも、彼女は…。

「……あら?」

 不意に、西行寺様が小さな声を上げた。

「どうしたんですか?」

「これは…」

 西行寺様が指す場所―ハミリヤと別れた場所に、彼岸花が咲いていた。

「…なんで、ここにだけ?」

 彼岸花は一箇所にのみ咲いている。とても不自然で、それ故に何か意味があるのではないかとぼんやり思った。

「無銘、これ…」

 西行寺様が驚いた顔をする。

「どうしました?」

「…貴方、彼岸花の花言葉って知ってる?」

「いえ…知らないです」

 すると、西行寺様は微笑んでこう言った。

 

「赤い彼岸花の花言葉は…『また会う日を楽しみに』よ」

 

 ―その瞬間、胸の奥から何かが込み上げてきた。

 自分で自分を制御出来ない。いつの間にか、涙も流しているようだった。

 泣いたのなんて何時ぶりだろう?

 それ程までに、この事が嬉しかったのか。

 ハミリヤが生きる事を諦めていない事が分かって、嬉しかったんだ。

 そう…思えばアイツは前向きなヤツだ。

 自分の生を、簡単に諦めるはずが無い。

 じゃあ―オレも落ち込んでいる暇なんて無いよな。

 アイツとまた会った時に、笑顔でいなくちゃだ。

 だから、ハミリヤ―

 

 オレは泣きながら、それでも精一杯の笑顔で言った。

「……また会おうな」

 すると、何処からか声が聞こえてきた。

『……はい!また、どこかで!』

 

 

 ある日、オレの前に現れた満月の天使。

 彼女はもう居ないけれど、それでもオレは信じ続ける。

 いつかまた、彼女がオレの前に現れる事を―。

 

 

「…どうしたんだいマスター?嬉しそうにして」

 

「…いえ、ちょっと思い出に浸っていただけです」

 

「一体どんな思い出なんだろうね?」

 

「…ちょっと!デリカシー無いですよ!」

 

「ふふっ、君は本当に揶揄いがいがあるな」

 

「もう…」

 

「…おっとマスター、そろそろ時間だ」

 

「わかりました」

 …待っていてください無銘さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ―今、逢いに行きます。




如何でしたでしょうか?
小説版では上手く雰囲気が伝わらなかったかも…ぜひ、動画版をご覧下さい。
次回から幻想記1章の後半です、お楽しみに。
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