「覚悟はいいか!妖怪共!」
オレは自分を鼓舞する為に叫んだ。
先程までのダメージはある。だが痛みは感じない。アドレナリンが出ているのかもしれない。
「能力が出たところで何も変わらない!スペルカード発動!」
『スプリーンイーター』
お燐のスペルカードを右手で打ち消す。自分でも驚く程冷静に動けていた。
(オレはあの作品のファンだ。使い方は分かってる)
後ろに気配。能力発現前は分からなかったであろうその気配をハッキリと捉えることが出来る。
「…こいし、お前が後ろにいるのは分かってる」
「なっ…どうして見えるの!?」
こいしの驚いた様な声。
「…この右手には異能を殺す力がある。神の加護だったとしても打ち消してしまう力だ」
こいしに接近し、数発の連打を的確に撃ち込む。彼女は驚いた顔のまま沈黙した。
ふとさとりを見ると、自分の能力が通用しない事に焦りを感じている様だった。
「自分の能力が通用しない事に驚いてるのか?そりゃあそうだ…能力が通用しない人間なんて滅多に居ないだろうからな」
今なら分かる。妖怪だとしても、こいつらには感情がある…なら、その隙を着けばいい。
「そんな事、あるわけ…」
「オレは人に嫌われながら生きてきたからな…顔見りゃ何となく考えてる事が分かるんだよ」
「な、なんなのこの人間…」
さとりは顔を引きつらせる。恐ろしいものを見るような眼差し…それはオレがよく知っている眼差しだった。
「…確かにバケモノ扱いされてもおかしくないな。でも、そんなヤツの命で誰かが助かるなら、オレは持ってるもの全てを捨ててそいつを助ける」
「コイツ、狂ってる…」
さとりの目には、オレが愚者の様に映ったのだろう。そりゃあそうだ。人間ってのは基本的に利己的な生き物だ。誰かを蹴落とさないと生きれない生き物だ。その中でオレみたいなやつは異常だと思われるのが常だった。理想論を吐く愚者のようだと…それは、どこにいても変わらないのかもしれない。
だけど、今は…。
「お燐!こいし!こいつを潰す!」
「わかった!」
「任せてください!」
こいし…いつの間に復活していたのか。流石妖怪だ。
だが、こいつらは気付いていない。
「お前ら…まだ気付かないのか?」
「何の話!?」
「マジで気付かなかったのか…なら、教えてやるよ…」
オレは彼女達の背後を指さした。
そこには何とか立ち上がり、スペルカードを構えたお空が居た。
「後は頼むぞ、お空」
「君、頭良いんだね」
「よせよせ、働くのは悪知恵だけだ」
そのやり取りを聞いたさとりがハッとした。
「まさか…」
「…そう、オレはあくまで囮。本命はこっちだよ」
霊夢と魔理沙は動けない。だが、お空はダメージこそあるものの行動は出来る。オレはその準備が整うまでの囮だというわけだ。
といってもお空が何かしようとしている事に気付いたのは能力発現後だった。それで咄嗟にこちらへと注意を引きつけたのだ。
「じゃあ…いくよ!スペルカード発動!」
『ニュークリアフュージョン』
極太の熱線がさとり達を飲み込み、被弾音と共に戦闘は終わった。
「おっしゃ勝ったーーー!」
戦闘後の余韻に浸っていると、お空が不安そうに訊いた。
「でも…これどうするの?」
「……永遠亭だな」
五人か…運べるかな…かなりキツいがやるしかないか。それか先に永遠亭まで行ってからにするか?
「どうやって行くの?」
「まあ…取り敢えず、向かおう」
*
迷いの竹林。
その名の通り、入る者を迷わせる複雑な竹林だが、今の所オレ達は迷わずに進めていた。
「未だに悪運が味方しているなら、迷わず進めるはずだ」
「ね、ねぇ…君の名前、まだ聞いてないよね」
「名乗るほどの名前はないから無銘でいい」
「わかった。ねぇ無銘くん」
「なんだ?」
お空はオレの後ろを歩いていたが、急にもじもじしだした。
「……ありがとう。助けてくれて」
「あ、ああ…気にするな」
そんな顔するな…このままだと、オレの女性恐怖症が出る!
「ふふっ、照れてるの?」
「う、うるせえ…行くぞ!」
*
「いい天気ですねー!」
どうやら迷わず辿り着けたようだ。
「ここか、やっぱり悪運は強いみたいだな!」
「普通じゃ着かないって聞いてたけど…」
「それをオレに言われてもねぇ…」
もしかしたら右手のおかげかもしれないが…まあそれはともかく。
「鈴仙だな。ケガ人が出たから運ぶの手伝ってくれ」
言うと、鈴仙は驚いた様な顔をした。
「なんで私の名前を…?」
「いいからいいから、とりあえず手伝ってくれないか?」
「は、はい!分かりました!」
その後、ケガ人を永遠亭に運び、地底異変は終息した。
だが…今思えばこの時には既に次の異変は始まっていたのかもしれない。
オレ達がそれに気付くのは、夜になってからだった…。