「フランさんを元に戻す方法…?」
「それって…」
妖夢と鈴仙は驚きと少々の疑念が入り交じった顔をしてオレを見た。働かない頭を何とか稼働させ、考えをまとめてから二人に「それ」を伝える。
「…オレの右手はあらゆる異能を打ち消す。フランの纏う狂気を、それで殺せるかもしれない」
「でも、無銘さんはさっきも攻撃していたのにフランさんには何も変化は有りませんでした…」
確かにそうだ。
「だからこれは賭けになる。オレだって自分の能力を完全に把握しているわけじゃないからな…鈴仙、お前の能力を使って、フランの狂気を可視化する事は出来るか?」
急な質問に鈴仙は驚いた様だったが、直ぐにオレの意図を理解したらしく、「出来ます」と頷いた。
「そうか。それなら多分いける」
「では、私が無銘さんをお守り致します」
妖夢が言った。既に二振りの刀を携え、目には決意の光が宿っている。
「…ああ、頼む」
今回ばかりは、オレ一人では無理だ。自己犠牲主義者を名乗っておいてこれはないだろうと自分でも思ったが…この作戦には二人の力が必要なのだ。
その時、フランの声と共に弾幕が飛んできた。慌てて避けると身体に痛みが走ったが今はそんな事どうでもいい。オレは妖夢と鈴仙に叫んだ。
「行くぞ!」
*
オレはフランに向かってがむしゃらに突進する。余りにも愚直な行動で、フランはそれを嘲笑うかのように弾幕を放ってきた。
然し避ける必要すら無かった。
「アレェ…?」
フランの弾幕がもう一つの弾幕に相殺される。
「貴女の相手は私です!」
妖夢が刀を構え、弾幕と斬撃を駆使してオレに飛んでくる攻撃を相殺していた。
「…邪魔を…するなああああああああぁぁぁッ!」
禁忌「フォーオブアカインド」
四人に分身したフランがオレと妖夢に向かって密度の濃い弾幕を放ってきた。
「させません!」
獄界剣「二百由旬の一閃」
妖夢の斬撃により大部分は無効化したが、それでも幾つかはオレの方に飛んでくる。それを右手で殺しながら、尚も突進する。
禁弾「過去を刻む時計」
突如、十字型のレーザーが出現し、反時計回りに回り始めた。
「うおっ!?」
妖夢の弾幕に護られている事を忘れて思わず立ち止まってしまう。そしてそれが一瞬の隙になった。
「無銘さん!?」
妖夢が此方に気を取られたその時、
禁忌「レーヴァテイン」
巨大な炎の剣―レーヴァテインを携えたフランが妖夢に襲いかかり、レーヴァテインを無造作に振るう。妖夢は何とか防いだが力の差は絶大で吹っ飛ばされ、壁に激突した。
「かはっ…」
「妖夢!」
慌てて駆け寄ろうとするが、行く手を弾幕が塞ぐ。
「妖夢さ…きゃあっ!」
見ると、鈴仙も同じ状態だった。
「まずは一人目だァッ!」
勝ち誇った様に叫ぶフランが、レーヴァテインを構える。
オレは咄嗟に弾幕を打ち消し、妖夢とフランの間に身体を滑り込ませた。右手を構える時間もなかった。
―瞬間、レーヴァテインがオレの心臓を刺し貫いた。
「………あ」
熱いという感覚はなかった。ただ、炎の剣が自分の心臓を貫いているのを呆然と見ていた。
「……無銘さ…」
妖夢が絶句する。それを知覚した瞬間、身体から力が抜けた。
だが、
「鈴仙!今だッ!」
見れば突然の事にフランも呆然としていた。チャンスはこの一瞬しか無い。
鈴仙が能力を発動したのだろう。フランの周りに赤黒いオーラが発生しているのが分かった。
オレがゆっくりと手を伸ばして、そのオーラに触れるとそれは霧消し、同時にフランの目から狂った様な光が消えた。
「あ…」
そんな呆けた声と共に、フランが床に崩れ落ちる。それを見届けた後遂に限界が来たのか、オレの身体も言う事を効かなくなり、そのまま床へと倒れ込む。
妖夢と鈴仙が駆け寄ってくるのが見えたが、視界がぼんやりとしていてその光景は酷く不鮮明だった。耳も聞こえなくなっているらしい。周りから全ての物音が消え去っていた。
(ああ、終わったんだな)
ぼんやりとそんな事を考える。これで紅魔館は救われただろう。
その代償がこれだ。でも悔いは無い。
(救えたよな。オレ…)
オレは紅魔館を救った。
だからもう、いいんだ。
…やがて、眠気がやってきた。
それに身を任せると、意識は急速に暗闇へと落ちていき、何もわからなくなった。
こうして紅魔異変は解決した。
そして、オレは…