気がつけば、ゴールデンウィークも終わり、高校生活にもだいぶ慣れてきた。
友達…と呼べる人は少ないが、話せる相手は沢山いる。最初はイロモノが多いと思っていたが、いざ話すと面白い奴が多い。
まぁ、そんな事は正直どうでもいい。
5月になってから、とうとう一美は学校に来なくなった。一応保健室に登校する事はあるらしいが、少なくとも教室には一切来ていない。
その日も、いつもと同じ日だった。
「なぁ山田、頼むよ…ノート写させてくれ!」
俺の前の席の男、南条翔が俺を必死に引き止めようとしている。
「そんなもの、授業を寝ている方が悪い。」
俺は、目を合わせようともせずに会話をした。
「そんなこと言わずに…なんか奢るから!」
「奢ってもらうものはない。」
「山田君、見せてあげれば?」
自分の隣の席に座る女子、西園寺未叶が貸すように言う。
「そうだ!西園寺さん、俺にノートを…」
翔は標的を未叶に変えた。
「南条君、山田君に見せてもらってね。」
未叶は満遍の笑みで翔に言った。
「書いていない自分が悪いのよ。」
未叶の後ろにいた八代忍がボソリと言い残して去った。
「は、はい。そう言うわけで…」
「さようなら。」
俺はその隙を見て教室を後にした。
「うぁ!ちょっと!」
南条が何か叫ぶ声が聞こえたが、それを他所に下駄箱へ急いだ。
すると、前から恵理がやってきた。副委員長の北川光司も一緒だった。
「あっ!丁度いいや。康介!頼み事頼んでもいい?」
恵理が俺に話しかけた。
「虎山、部外者に仕事を手伝わせるなんて…」
「別に、人を頼ってもいいでしょ。現に私達仕事に追われてるんだから。」
俺は足を止め、彼女を見た。
「で、何して欲しいんだ?言っておくが書類作業はお断りだ。」
「そんなことしないよ。」
恵理は、一つの封筒を俺に渡した。
「これを清宮さんに届けて欲しいの。」
中身はおそらく今日配られた書類だろう。
「そんな事を彼に任せていいのか?」
光司はそう恵理に厳しい声で言う。
「…まぁ、それぐらいならいいけど。」
俺は、そう答え、鞄にしまった。
「ありがとう、康介。」
そう言うと二人は後にした。
「はぁ…人使いの荒い学級委員長さんだこと。」
俺はそう呟きその場を後にした。
俺は、自転車に乗り、校門を後にした。
偶然にも俺の登下校の道に彼女の家がある。俺はいつも通りの道を走る。行きはきつい上り坂だが、帰りには緩やかな下り坂を通り抜けると、今は緑の葉をつけている桜並木に差し掛かる。
その通りに彼女の家がある。
俺は彼女の家の駐車場に邪魔にならないように自転車を止め、一階の店から入った。
カウンターには、前恵理が話していた人と同じ人が居た。
「どうも、」
俺はその人に声をかけた。
「あら、この前恵理さんと来てた男の人。今日はお一人?」
「はい、一美さんに会いに…」
「恵理さんを放っておいて一美ちゃんとデート?」
女の人は冗談を言った。俺は一瞬何か返そうかと思ったが、いい返しが思い浮かばなかった。
「いえ、書類を届けに。」
「…冗談よ、一美ちゃんは部屋にいるよ。」
俺は前と同じように階段を上がり、3階にたどり着いた。
そして、彼女の部屋の扉をノックした。
「清宮さん、山田康介だ。恵理に代わって書類を届けに来た。」
しばらく応答はなかった。代わりに、大きな音が何度も鳴り響いた。
「あの…大丈夫か…?」
俺は扉を開けようとした。
「はい!大丈夫です!」
その時、扉が勢いよく開けられた。彼女の額には大量の汗があった。
「あっああ…」
「とりあえず、中入って。」
彼女は俺を中に入れた。
そして、前と同じ場所に座った。
「あっ、これ今日渡しにきた書類。」
俺は鞄から封筒を取り出し、彼女に渡した。
「ありがとう…」
彼女はその封筒をデスクの上に置いた。
そこに、幼い少女と彼女より年上の少年、そして大人の男女が立っている写真がある事に気がついた。
俺はその写真に写っていた男に見覚えがあった。
「その写真…私の家族。」
俺の思考に突然一美の声が入ってきた。
「家族…か。」
その時、ふと彼女の寂しさが何か分かった気がする。
「少し…私の話、聞いてくれる?」
彼女は俺に目線を向けた。
それは、何かを探すような目だった。
「…分かった。聞くよ。」
「私の家族…7年前に私残して死んだの。」
彼女は俺の顔を伺った。俺は、特に顔を変えなかった。というより、変えたら本音を聞けないと思ったからだ。何故そう思ったのか、分からない…
「みんな、事故に巻き込まれて…私は、一人取り残されて…正直、どうすればいいのか…私には分からない。みんなを残して一人生きていくなんて、許されるのか…自分が生きている事は罪なんじゃないかって。」
「…そんな事…ないんじゃないか。」
俺はここで口を開いた。
「何で全てを奪われた人が、罪を背負わなきゃいけないんだ?」
「えっ?」
彼女は顔をあげた。
「…俺がもし、その家族なら君には生きて欲しいと願うよ…」
彼女はしばらく考え込んでいた。
「…ごめん、長居しすぎた。それじゃ。」
「あっ、ちょっ」
彼女は俺を引き止めようとしたがそれよりも早く俺は部屋を後にした。
翌日、俺が学校に着くと、教室がいつもよりざわついていた。
何かと思い覗いてみると、そこには一美の姿があった。
彼女は俺の姿に気がつくと、少し笑みを浮かべた。
俺は放課後、彼女に話しかけた。
「清宮さん…」
「山田君…昨日はありがとう。話したら、なんか楽になった。私、これから頑張って学校行けるよう…頑張るよ。」
俺は笑った。
「そっか、俺、応援するよ。君の事。」
彼女も笑った。
「ありがとう。」
その時、彼女が初めて心の底から笑ったような気がする。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
俺が家に帰ると、母さんがリビングから言った。
俺は2階の部屋に入った。
鞄を机の上に置き、ベッドに跨った。
ふと棚を見るとその棚の下に紙切れが落ちているのに気がついた。
「なんだ?」
俺はそれを拾った。
そこには父さんと幼い一美とその親らしき人物が写っていた。
そこに驚愕のものと一緒に…
「一美と…その父親?」
写真の裏を見ると『黒夜志呉、一美親子と』
「黒夜志呉…?」
俺はふとスマホで検索をしてみた。
すると、そこに経歴がでた。
そこには『科学実験都市アトランティスで総督を務めた、アトランティス消失と同時に死亡』と記されていた。
「嘘…だろ…」
スマホが手から滑り落ちた。その手はとても震えていた。
「俺の…父さんが…一美の…家族を…」
俺は震えで立てなくなり、ベッドの上に倒れた。
「ぐっ…俺の父さんが……」