あの日、彼を助けたのは偶然だった。
4月の少し肌寒い日に、いつもは通らないあの道で、いつもより早い時間に家を出て…
彼を見つけた時、私はとりあえずすぐ近くの家に運び込んだ。痩せ細った彼の身体は軽く、弱々しいものだった。すぐに助けなければ死んでしまうのでは、そう思うと身体が動いた。
生憎、母は出勤していた為私がどうにかするしか無かった。
ベッドに寝かしつけたとき、初めて彼の顔をしっかりと見た。その顔は、かつて小学校で見た覚えがある男、神谷昭彦だった。
彼が眼を覚ました時は昼過ぎだった。
「ここは…」
「神谷くん…大丈夫?」
「不知火…」
彼は飛び起き「学校は!」と聞いたが、私はそれを強制的に寝るよう抑えた。
「今はダメよ。」
彼はその言葉で力を抜き、布団に入った。
「看病してくれた事は感謝する。でも、普通病院に連れて行くものじゃ無いのか?」
彼は、偉そうな態度で言った。
「…それは謝る。なら今からでも病院行く?」
「…そうだな…」
その時、地響きの様な音が鳴り響いた。
そういえば、まだ昼飯食べてないな…
「お前…何も食べてないのか?」
驚きの目で彼は私を見た。
「うん…つい夢中になって看病してたら…せっかくだし、一緒に食べよ。何食べる?」
「なんでもいい。」
「釣れないな…じゃ、適当に作る。」
そう言って出したのは昨日の夕飯の残り物のカレーだった。何か作っても良かったが、単純に私が早く食べたかったと言うのがある。
本来夜ご飯で食べる予定だったが、どうせ母は会社の付き合いでどこかで食べて帰るだろうし作るのは私だからいいやとカレーの入った鍋に火をかけた。
30分ぐらいで白飯が炊き上がり、私の部屋に運び込んだ。
彼はお盆を持つのを手伝おうとしたが、病人なんだからと断った。
「食べていいのか?」
彼は聞いた。多分遠慮しているのだろう。
「もちろん…昨日の残りだけど。」
いただきますと言って彼はカレーを一口頬張った。
「美味しい…」
「私の唯一の取り柄だからね。」
そう言って私も食べ始めた。
後々知ったのだが、彼はカレーが大好物だ。因果なものだ。
彼はその後一人で病院に向かった。送ろうかと聞いたが、「これ以上迷惑かけられない」と突っぱねて帰っていった。
その日の夜、久しぶりに中学時代の夢を見た。
私が親友を保身の為に裏切った事。
親友との友情を優先すべきだった。でも、私はそれよりも自分が大事だった。屑だと言われてもおかしくは無い。罵倒されても言い返せない。
私は、どんなに良いことをしても偽善にしかならないと…
そんな私に転機が訪れた。
5月上旬、私の席の後ろにイチミン…清宮一美が話しかけてきた。
彼女は、私が使っているファイルを指差してこう聞いた。
「もしかして、貴女もfeやってるの?」
※fe…フレイムエンブレムのこと、決してファイ○ーエ○ブレムではない。
私が使っているクリアファイルには、自分が大好きな女剣士が描かれている。それで気が付いたのだろう。
「うん、少しね。」
「私も大好きなんですよ。このゲーム。」
「奇遇、私も好きなんだ。」
その日は、彼女と放課後までゲームの話をして盛り上がった。他に好きなゲームについて、推しについてとか。
私は、ゲームの話ができる仲間ができて嬉しかった。
だが、それと同時に怖かった。また前の彼女みたいに裏切ってしまうのではと…
帰り際、久しぶりに神谷昭彦に出会った。
「久しぶり、元気にしてた?」
私は明るく声を掛けたつもりだった。
「ああ、おかげさまで。それより、元気ないのか?」
彼は私の少しの異変に気づいていた。
「そんなわけ…ないよ。」
私は誤魔化した。
「…俺はいつでも力になるぞ。」
最初は相談するのを戸惑った。だが、すぐに彼を引き止めた。
私は今日のイチミンとの事、過去に何があったか…それらを全て彼に話した。
「私なんて…幸せになっちゃいけないのよ。」
「そんな事、ないだろう。」
彼は、私を見た。
「親父は言ってたよ。人は過去に囚われすぎだって。過去ばかり見ていたら未来へは歩めないって。」
「過去に囚われる…」
「だから、まずは彼女と向き合わないと。」
私が未来なんか見て良いのだろうか…
その日の夜、早速連絡先を交換したイチミンに電話をした。メールでも良かったが、それでは気恥ずかしかった。
「もしもし。」
彼女の声だ。私もすぐに返した。
「私、不知火香。」
「ああ、香さん。わざわざ電話なんて…」
彼女はややよそよそしかった。
「うん、どうしても伝えたい事があって。」
私は続けた。
「私と…友達になってもらえませんか?こんな私と…」
私は一瞬時が止まった様な気がした。
彼女は、明るい声で返答した。
「もちろん、喜んで!よろしくね。」
私は、こうして晴れて彼女と友達になった。その後更に同じゲーム仲間として東雲早苗とも友達になり、学校生活が更に楽しくなった。
その後、昭彦とも毎日連絡を取り合う仲になり、夏休みが始まる直前、ついに…
「香…俺と付き合ってくれ。」
彼から告白された。前から意識されているのではと薄々気づいていたが、いざ言われるととても緊張した。もちろん、答えはずっと前から一つだった。
「はい、喜んで。」
今、私は幸せだ。だが、強いて心残りがあるとすれば、未だ中学時代の彼女に謝罪できていない事だ。
だが、この頃の私は知らなかった。5年後、その彼女と再会することを…
「香、おはよう。」
私が目を覚ますと、彼が私の顔を見ていた。
「アッキー…あの時と逆ね。」
「カオリン起きた?」
イチミンも私のすぐそばに駆け寄ってきた。
「イチミン…」
私は、どうやら長い夢を見ていた様だ。この部屋には私とアッキーとイチミンの他にイチミン似の男ー黒夜道永と山田康介がいた。
私は、起き上がり、イチミンに聞いた。
「これってどう言う集まり?」
「…仮面ライダー?」
彼女は、自分もよく分からないみたいな言い方をした。
「ふーん。面白そう。」
私は、仲間に入れてもらえるだけでも嬉しい。
「私、頑張っちゃうわよ!1人で10体は余裕ね。」
「1人で10体は少ないな。」
康介はそう言った。
「そうなの?」
私が聞くと同時にアッキーが怪物の様な形相で康介を見ていた。
「香に危険を冒させるつもりか?」
「アッキー、やめてよ。やってみたいし。」
「分かった。香が言うならしょうがない。」
アッキーはすんなりと受け入れた。
彼は、基本意見を曲げないが、私が仲裁に入るとすぐ意見を変える。可愛い奴め。
「君とは初めましてだね。いつも可愛い可愛い一美と仲良くしてくれてありがとう。」
黒夜道永は私の手を握った。
「ちょ、兄さん恥ずかしいからやめてよ。」
なるほど…彼はイチミンの兄貴なのか…へぇ。
「仲良さげじゃん。」
私はそう言った。
「だろう、我ら兄妹の絆に勝る力は絶対にない。」
「別に私はそう思わないかな…」
イチミンはやや引き気味に言った。
「ねえ親父、なんで俺には妹や彼女居ないんだ?」
康介は総三にそう聞いた。
「そんなに、女が欲しいなら私がなろうか?」
すると彼は長髪のカツラを取り出そうとした。
「それは遠慮します。」