「俺は、戦いに肩入れできるほど余裕もない。危ない事をするつもりもない。」
そう言うしかなかった。俺には、果たしたい願いがある。他の事する余裕なんて、ない。
「どうやら、こちらも先回りされていた様です。」
夜闇の路地裏から、早苗の声が聞こえた。彼女はスマホを顔に当てている。誰かと話している様だ。
「そうか。お前ほどの強さならあの3人が束でかかって来ても勝てるだろ。」
彼女は一美、香、昭彦を頭に浮かべた。
「はい…」
「なら、心配する必要は無さそうだな。」
電話はここで終わった。彼女はスマホを顔からそっと離した。
そっと溜息をついた彼女は、キーを取り出した。
「私には、もうこうするしか道が…」
もうすぐ暁の刻が迫る頃、昭彦はホテルの部屋の窓から東の空を見ていた。星が瞬く黒い空から赤い朝日の空に変わろうとしていた。
彼はずっと考え事をしていた。医者は戦場には出ない。人を救う仕事だ。なんの繋がりのない仮面ライダーはできない。そう考えていた。だからこそ、彼は断ったのだ。父親の二の舞にならない、運命に勝つ医者になると…
その時、部屋のドアをノックする音が響いた。
こんな朝早くに誰だ、そう思って扉を開けた。
「おはよう、アッキー。」
香だった。どうやら早く目が覚めて彼を起こして散歩しようとしたのだろう。
昭彦は彼女を部屋に入れ、朝日を見る事を提案した。それを快く快諾した香は一緒に窓際に座った。
「朝日なんて真面目に見たことなんてないや。」
香が興味津々に言う。
「そうだろうな、だいたい香が起きる時刻にはとっくに朝日は顔を出してるからな。」
そう昭彦が言ったのを最後に部屋に静寂が訪れた。
徐々に眩しい光が部屋を包んでいく。
その様子を2人はずっと見ていた。
朝日がほとんど顔を出した頃、香は懐から何かを取り出し、昭彦に渡した。
「イチミンから、渡してくれって。」
「俺は…仮面ライダーにならないって言っただろ。」
昭彦は顔をしかめた。受け取る気配もない。
「…昭彦。」
香は、久々に彼の名を言った。
「…なんだ?」
「人には言えない事情はいくらでもあると思う。それも大事かもしれない。でも、医者と仮面ライダーは繋がってる…似てる気がするんだ。」
昭彦は、はっとした。俺の脳の中を見たのか、そんな顔をしている。ついさっきまで考えていた事を…
「だって、どちらも人の命を救う事じゃない?医者は診断したり、手術したりで。仮面ライダーだって、昨日のイチミンみたいに人の命を助ける為のものだから。だから、せめて医者に向けて本格的に勉強する前の少しの時間だけでもいいから、力を貸して…」
医者と仮面ライダーは似てる…か…
一応ベルトを受け取ったものの、彼はまだ決断できなかった。
一美も加わり3人は東京見物をしようと丁度ホテルの地下駐車場でタクシーを待っていたその時だった。
目の前に変身した状態の早苗…悪道が現れた。
「一美、香、今日こそお前達を…」
早苗は言葉を詰まらせた…その詰まりを剣を強く握りしめる事で飲み込もうとした。
「早苗…」
悪道は、ホッパーを呼び出した。戦う準備はできたと言う合図だった。
「私達も。」
「ああ。」
一美と香はそれぞれベルトを巻き、キーを構えた。
「「変身!!」」
[open!][Lightning goddess!KAMEN RIDER ERE-X!]
[set up!][大展開!][仮面ライダービクトリケーン!!]
雷鳴の女神エレクス、勝利の神風ビクトリケーン。風神と雷神の様な2人は、互いに剣を構えた。
「私達の神的プレイで」「シビレなさい!」
「臨むところだ、私も負けるわけにはいかない。」
悪道は、右の剣の刀身を蛇腹状に変化させた。
鞭の様にその剣を操り、地下駐車場の壁を傷つけながら2人に迫る。
2人はその勢いに押される事なく武器に力を与え、振りかざす。雷と風が混ざり合い嵐の様に迫る。
その嵐を悪道は蛇腹剣で切り裂いていく。
その切り裂いた隙間からホッパー達が攻めかかる。
不意の攻め立てでエレクスとビクトリケーンは、後ろに下がる。
その姿を昭彦はずっと見ていた。
「…俺は…どうすれば。」
そう考えていたその時、目の前にビクトリケーンが倒れた。慣れない戦いでホッパーに調子を狂わされ、完全に防戦状態になっている。
「香!」
気がつけば彼の体は既にベルトにキーを刺していた。
[set up!][大展開!][仮面ライダードゥアリティ!!]
昭彦の体は、ドミネートとも、デスとも違う新たなドゥアリティに変身していた。二つの姿が混ざり合った姿、ドゥアリティデュアルに…
彼は彼女に近寄り、庇う様に立った。
「アッキー、決心ついたんだね。」
「ああ、だが1ヶ月の間だけだぞ。」
そう言うとドゥアリティは2本の剣を構えた。
そして、迫り来るホッパーの群れを次々と薙ぎ倒していく。
エレクスは、悪道との一騎打ちの状態まで持ち込んでいた。
ほぼ互角、そこまで持ち込んでいた…が、エレクスは悪道に脇腹を蹴られ、その場に倒れ込んだ。
「一美…」
悪道は、剣をエレクスに振りかざした。
が、その切先は寸前の所で止まっていた。
「なんで…」
一美はそう呟いた…その答えを彼女は知る前に横槍が入った。
ドゥアリティが全てのホッパーを始末し、悪道に迫っていた。
「また次だ…」
悪道はそう言うとドゥアリティに切られる前に姿を消した。
「とりあえず、昭彦がドゥアリティになってくれてよかったよ。」
一美は言う。
「あくまで、俺が本格的に東京で暮らす1ヶ月後までだぞ。だから…それまでに決着をつけてくれよ。」
「分かった、約束する。」
昭彦は、そう言うと微笑んだ。
「ちょっと、浮気ですか!」
その2人に香が割り込んだ。
当然そのつもりのない2人は、顔を見合わせると大笑いした。