季節外れの大雨が地面を叩きつけている。
私はその中を歩いていた…
「作戦は失敗したのか…まあいい。どちらにしろ戦いの仕上げといこう…その前に。」
闇の玉座に座る男は、突然立ち上がると北川光司の前に立った。
「絶王、そして悪道。お前達は用済みだ。」
男は光司の首を片手で持ち上げた。そして、右脚を異形の姿に変え蹴り飛ばした。
彼は最期の言葉を発するまでもなく壁にめり込むように打ち付けられた。
男は、彼が死んだ事を確認すると今度は私に標的を変えた。
私は急いでその場を後にしようと走り出した。
「逃がさない。」
背後で突然火の手が上がった。爆発だ。その爆風で私は倒れそうになったが、悪道に変身しその場を過ぎ去った。
「豪災、怪駕。追いなさい。」
追手は撒いただろうか…
背中に降り注ぐ雨が傷口に染みて痛い…
足も動かない…
その時、私は地面に倒れた。こんな時に足を挫いてしまった…
ここで…死ぬのか…
一美…香…
その時、背中に当たっていた筈の雨が止んだ。だが、周りを見ても雨は降っている。
それは薄れゆく意識の中で分かった…
どこだ…どこへ行った…
あの女はどこだ…
私は、何かの物陰に隠れていた。
声は、明らかにあの男だ。
それもそうだな…私はあの時貴方を殺そうとしたのだから…
その時、外から聞こえていた彼の声が消えた。
そうか…他の場所に…
「ようやく見つけた…仲間の敵だ。」
その時、目の前の暗がりから
私は…ここで死ぬのか…
私は、彼が剣を振り下ろすと同時に瞼を閉じた。
痛みはなかった。ただ、そのかわり私を現世へと誘った。
最初に見えたのは白い天井だった。
私は、ベッドの上で寝かされていた。
それに、服も乾いたものに着せ替えられている。
見覚えのないその部屋は、清潔な空気が保たれているのはまだ寝ぼけている私にもよく分かった。
身体をゆっくりと起こすと、その部屋の全貌が分かった。木目調の勉強机、黒や黄色、白などの謎のオブジェクトが飾られている棚。そして、その棚の前で本を読んでいる男の後ろ姿がある。間違いない、彼だ。でもなんで…
「なぜ…助けた?」
「うわっ!びっくりした…」
彼は驚きながら後ろを振り返った。私が起きた事に少し安堵の表情を浮かべたが、すぐに掻き消した。
「大丈夫か?」彼はそう聞いた。私は素直に「今は」と答えた。
私は、改めて不思議な事を質問した。
「なぜ私を助けた?」
「そうだな、普段の俺ならあの時見捨てるか、そのまま殺していただろうな。」
「なのに助けた?」
「…一美に言われたんだよ。早苗を倒すのは…止めるのは私だって。何故なら、親友だから…ってな。」
そうか…一美が…
「後で一美に感謝しろよな。」
そう言うと彼は部屋を後にした。
一美に感謝…か。
「流石に連絡しておくか…」
大雨の中、清宮一美はダークブルーの傘をさして歩いていた。
雨のせいか、人の通りがない大通りを進む彼女の前に緑の傘をさした初老の男が迫ってきた。
その人は、一美の姿を見ると、口を開いた。
「清宮さん?」
一美は、声の主に覚えがあり、反応した。
「湯山先生、こんにちは。」
その男こそ、康介達の担任の湯山玄武という男だった。
「こんにちは、清宮さんはこれからどこに?」
「友達の家に…」
「東雲さんの?」
湯山は、彼女にそう聞いた。何故ピンポイントに聞いてきたのか分からなかったが、素直に違います、と答えた。
「気をつけて行くんだよ」と先生の言葉を後ろに聞きながら、康介の家に向かった。そこにいる早苗に会う為に…
「彼女の家では無かったか…」
何か意味深な事を口にした湯山玄武は、再び正面を向き歩き始めた。
「…」
早苗は、茶色のシミ以外何もない天井を見上げていた。
これから先、どうすればいいのか…このまま死ぬのか…
彼女にとって人生は「既に諦めた」ものだった。
あの時、バイフーとの死闘で死ぬつもりでいた…このまま生き残っても組織に捨てられる、それなら自分から死を選んだ方がいいと。
そして実際捨てられた…
行き場のない彼女は、今こうしてベッドの上で時が過ぎて行くのをぼーっと寝て感じていた。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
入ってきたのは、康介だった。
彼は、何か腹の満たしになればとお粥を作ってきた。
彼女は、そのお粥を受け取ると恐る恐る口にした。正直、お粥自体美味しいと思わないが、それでも食べれはする…筈。
だが、彼が作ったお粥はお世辞にも食べれるとは言えないものだった。まず水分量がおかしい。正直水の中に米粒が入った物を飲んでいる感覚だ。味も何か違う味がした、それもお粥に入るべきではない物の…
「上手くないだろ?」
康介が自虐気味にいう。彼女は、それを当然の如く「美味くも上手くもないね。」と言った。だが、彼女はそれをなんとか完食した。
彼は無理して食べなくていいと言ったが、彼女は無視した。
「とりあえず、腹を満たす事はできた。感謝する。」
「ああ。」彼は生返事を返すと机の上に食器を置いた。
そして、何か聞きたそうな顔をして彼女を見た。
彼女もそれを感じ取った。
「何から話せばいい?」
「そうだな、まずは何故あそこで倒れていたのか?だな。」
「…私は、組織に捨てられた。ただそれだけのことだ。死んでもいい、なんて思っていたのに逃げ出してね。」
「あんたでもそんな事思うんだな。」
「私は、とっくに心は死んでいる…体だけ生かされている。実際その様な物だからな。」
「そうなのか?」
「あのアトランティスが消滅した日、私や他の仲間達は死んだ。そして、その中の一部から私達を選び、蘇生し、身分を偽らせ、飼い慣らした。」
その様な重大な事を簡単に口にする彼女に少し驚いたが、彼はそれを押し込めた。
「私の本当の名前はもう覚えていない。家族は誰か、どこで生まれたのか、そもそも何故あそこに居たのか。」
そう言うと、彼女は押し黙ってしまった。思い出せない記憶がある事が悔しかった…寂しいと感じた。
「俺についても聞きたいか?」
ネガティブな感情に陥っていた彼女に康介は声をかけた。
「…そうね。でも、話していいのかしら?私は敵なのよ。裏切るかもしれないのよ?」
「確かにな。でも、あんたもその敵に割と多くの事を話しただろ?」
言い返せなかった彼女は、仕方なく気になっていた事を聞いた。
「今でも夢に出てくる…レイを私が消した時に見せたあの怒り、なんなのかしら?」
「…そりゃ、もちろん友達がやられたんだから…」
「それだけじゃないでしょ?いくら他人が殺されたとしても、あそこまで怒りに包み込まれる事はない…そう私は思うのだけど…」
康介は、重いため息を吐いた。痛いところを聞いてくるな、そう思った。
「…俺が昔アトランティスの一件で誹謗中傷を受けた事は当然しているだろ?」
「ああ、よくその話を聞かされたからな。」
「俺が中学生の頃までその様な事は続いた。話しかけても無視される、心ない言葉を浴びせられる。だが、その日はそれだけじゃなかった…
中2の頃、放課後彼は教室で1人残って帰宅の準備をしていた。部活に入っていたが幽霊状態だった為、いつも早く帰っていたが、その日は日直の仕事で遅くなっていた。そんな時だった。
教室に2人の女子と3人の男子が入ってきた。いつも彼を寄ってたかって虐めている主犯格の人物だった。
丸刈りで野球の男は、ポケットの中からマッチを取り出した。
「これ、マッチなのは分かるだろ?」
「…だからなんだ?」
康介は、睨む様な口調で言う。
「火をつけて、お前を痛めつけるんだよ。」
そう言うと、マッチを一本取り出し火をつけた。そして、それを制服で隠れる左肩に押しつけようとした。逃げようとする康介を残りの2人の男子が抑え、1人の女子がカッターを突きつけた。
「抵抗すると殺すわよ。」
恐怖で頭が真っ白に染まる中、火は彼の体に押し付けられた。
「お前の父さんが人殺しなのが悪いんだよ。」
「人の痛みを知れよ。」
「お前、責任とって死ねよ。」
「お前達、何している。」
その時、見回りの教師が彼らの元へ寄ってきた。
「康介がマッチで遊んでたんで、止めようとしたんですよ。」
その言葉で、康介の中の何かがぷつりと切れた。
「そうなのか?山田、そんな事しちゃ…」
「ふざけんなよお前ら!」
教師が近づいてきたのを両手で払い除けた康介は、女子が持っていたカッターを手にした。そのカッターからは銀に煌めく刃が出ていた。
「やめなさい!」
「何がやめなさいだ。やめさせるべきはこいつらだ!俺の事を…散々傷つけておいて、そいつらの味方をするのか?俺が父さんの息子だから虐められても容認するのか?」
感情の高ぶりでつい右手を振り回してしまった。
「嫌っ!」
その時、そう叫んだ女子がいた。彼女の左頬からは血が流れ出ていた。
「山田、お前!」
立ち上がった教師は、康介の体を掴み、カッターを手放させると廊下側に投げ飛ばした。
その当時、康介は生徒だけでなく教師からの態度も冷たいものだった。その為、この件については「マッチで火遊びする山田康介を止めようとした生徒が逆上された上、カッターで斬りつけられた」と言う間違った事実が広まった。
康介は反論したかった…でも、生徒を斬りつけた事は紛れもない事実であったが為に出来なかった。
それ以降、彼の中に新たな自分が生まれた。その自分は、抑えることのできない物、極端に死を恐れた彼が生み出した…良いとは言い難い存在だ。
あの時、あの世界では生き残る為に仕方なかったとはいえ、人の死を体感するのは非常に怖かった。それがあそこで爆発した。それが答えだ。」
その話を聞き終えた早苗は言葉が出なかった。
あまりにも深く重い話で何気なく聞いた事を、そしてその様な思い出を話させてしまったことを恥じた。
「よく、それで死を選ばなかったのね。」
「そうだな…俺は父さんを信じていた。だからかもな…」
一美は、康介の家の近くまで来ていた。ようやく着くと胸を撫で下ろそうとした。その時だった。
何かを探す様に歩く南条翔の姿があった。
「南条!?」
「おっ、一美じゃないか。こんな所で会うなんて奇遇だな。」
南条翔はベルトを取り出し装着した。
「せっかくだ。餌として使わせて貰おうか。」
豪災に変身した彼は、エレクスに変身しようとする彼女のバックルを矢で弾き飛ばした。そして彼女の動きを電気を纏った鎖で拘束した。
「きゃあっ!!」
一美は叫んだ。
その声は、部屋で話をしていた2人にも聞こえた。
「今の声は?」
「分からない。俺見てくる。」
康介は、部屋を後にし、家を出た。
ほぼ同じタイミングに早苗の携帯に着信音がなった。電話だ。相手は南条翔だ。
ゆっくりと電話に出ると、南条の声が聞こえた。
「君の親友、清宮一美を今捕まえた。無事に返して欲しければこい…?」
「一美!!」
「康介!」
その時、電話の先から康介と一美の声が聞こえた。まさかこの近くか…彼女はそう考えた。
「海老で鯛を釣る。金目鯛を狙ったが、餌にかかったのは普通の鯛だったな。」
「一美を返してもらう。」
ウォーズに変身した康介は剣で豪災の元に迫る。
しかし、豪災の雷の攻撃で近づけない。一旦距離を取る為に後ろに下がったウォーズは後ろから人が近づくのを感じた。
「どうやら金目鯛も釣れたみたいだな…」
後ろには、東雲早苗の姿があった。
「あんた…」「早苗!!」
早苗の腰にはバックルが巻かれていた。
「康介、私もお前と同じだ。死を恐れ生きてきた。」
悪道のキーを握りしめ、一美を見た。
「その恐れに、私は屈しない。私を本気で止めようとする
ウォーズはその答えに、右手を差し出した。
「早苗、頼む。」
早苗は、ウォーズの右手を掴んだ。
そして、キーをバックルに装填した。
「変身!」
[悪道ノ鍵…][施錠…][悪魔ノ覇道…仮面ライダー悪道…]
悪道はウォーズと共に並び立った。ウォーズはスペシャルキーを手にし、変身した。
[Special key!][open!][I win the battle!KAMEN RIDER WAR-Z Special!]
2人は顔を見合わせた。
「行くぞ。」
「ああ。」
そう言うとウォーズは背中の翼を展開して豪災向かって飛び出した。
豪災は雷を次から次へと浴びせようと迫るが、それらを蛇腹剣で悪道が空間を切り裂く様に消していく。その剣の隙間をウォーズは飛び、豪災の元に居る一美を救出した。
豪災は、ウォーズに攻撃を仕掛けようとしたが、それよりも早く悪道が右脚でその攻撃を防ぎ豪災を蹴り上げた。
豪災はそのダメージで戦闘継続が難しくなり、その場を後にした。
救出された一美含めた3人は、康介の部屋にいた。
早苗は、ジーッと見つめる一美の視線に目を何度か逸らした。
一美は、本当に早苗が共に戦ってくれるのか心配だった。が、すぐにその心配は無くなり、泣きながら早苗に抱きついた。
よかった、よかったと叫ぶ一美を康介は見ていた。
その時、背後から道永が帰宅してきた。この訳の分からない状況に、道永は康介に「何があった?」と聞いた。
「…ケンカの仲直り…的な?」
彼の部屋に雲の隙間から漏れる太陽の光が指し込んだ…