銃撃の音が近づく。
シロが逃げた先を追いかけて、ようやく今回のターゲットが見つかった。
堀部を拉致したトラックは、殺せんせーを誘い込んで道路のど真ん中に止まっていた。
トラックの荷台、そして歩道に一列に生えている木からも弾が飛んでいる。
屋外だが、完全に包囲された形だ。
堀部を捕まえているネットは対先生用の物質を混ぜられているうえに頑丈なようで、武器もない殺せんせーは破くこともできない。
周りからは銃弾の嵐。そのほとんどが堀部を狙っているせいで、殺せんせーは逃げることもできずに防戦一方にならざるをえない。
夏休み合宿の暗殺でも利用したことだが、殺せんせーは自分に向けられる以外の攻撃には少し反応が遅れる。
そしてその攻撃の対象が生徒であれば、彼は放っておくことが出来ない。
服や風圧で防ぐが、それもどこまでもつか……またしても生徒を利用したやり方に、嫌気が差す。
我慢なんかする必要ないだろう。ここで反撃させてもらう。
まずは、道路脇の木の上から殺せんせーを狙っている奴らからだ。
手始めとして、カルマがそのうちの一人を蹴り飛ばす。
油断していた男は空中に投げ出され、下で待機していた部隊が大きな風呂敷で受け止め、すぐにす巻きにする。
岡野や前原、機動力に優れた者がカルマが続く。
ちょうど、E組はフリーランニングを教えてもらっている。
殺せんせーと堀部ばかりに気を取られている奴らにばれず、木を登るくらいなんてことはない。
アクロバティックな動きが得意な岡野は、特に素早く動いて次々と落としていく。
「くそっ」
トラックの荷台に陣取っている三人の視線が、E組に向いた。
「よそ見してんなよ」
磯貝、前原、俺でそいつらを一人ずつ片づける。
残った一人は、渚の猫騙しで麻痺させ、俺が蹴って沈めた。
やはり、対殺せんせーの服を纏ってるだけで、こいつら自体は大したことない。シロが動かせる戦闘部隊は『蟷螂』が殺してしまったからだろう。
磯貝たちが拾っておいたガラスの破片でネットを切る。すぐさま堀部を救出して、木陰に移動させた。
あっという間に、シロが敷いた策は崩壊した。奴が甘く見ていて、利用していた生徒たちによって。
「ほーら、簡単だったでしょ」
「予想以上にな」
カルマの軽口に返す。面白いくらいに上手くいった。
全員が成し遂げたことは大きい。それでいて、一人ひとりの行動量自体は大したことない。
俺なんて、奇襲をかけて一発殴っただけだ。
シロがうろたえている間に、飛び蹴りをかます。
彼の白い布、その口部分がじわりと赤く染まる。
「やっと一発だ。お前が俺たちにやったことを考えれば、まだ足りないぞ」
「この……ガキが……!」
おーおー、ようやく化けの皮が剥がれてきたな。
中学生に馬鹿にされて怒ったか。そんな安っぽい感情で、俺たちに向かってくるな。
さすがに超絶不利な状況は理解しているようで、シロは表面上の冷静を整えた。
「……ここは退いたほうが賢明なようだね」
心底焦ってるくせに、余裕ぶってトラックで去っていくシロ。
追って、もう立てなくなるまでボコボコにしてやりたいところだが、堀部のほうが優先だ。
まずいことにかなり弱っている。暴れていた姿は見る影もなく、ぐったりとしていて、息も荒い。
「殺せんせー、どうしたらいい?」
「……触手は意志の強さで動かすものです。イトナくんに力や勝利への病的な執着がある限り、触手細胞は離れません」
「逆に言えば、その執着を取り除けば触手を離せるってことだね。それがどんだけ難しいことか……」
「うちのクラスの中にもまだ完全に心開いてるわけじゃねー奴がいるってのに」
カルマと寺坂はこんな時に同時に見てくる。
「で、國枝はどう思うよ」
「そこで俺に話振ってくるんだな……」
俺はため息をついて、もう一度堀部を見る。
これだけ体力を消耗して、触手に苦しめられているのに、目にはまだ殺意が宿っている。
恐ろしいまでの執着……自分にかけた呪いとも言えるそれに、彼は縛られている。
「根本の原因がわからないことにはどうしようもないが……それは不破と律に調べてもらった」
「うん、みんなこれ見て」
不破がスマホを操作し、全員に情報が行き渡る。
それほど遠くもない過去の、とあるニュース記事が載っていた。
「堀部電子製作所?」
「スマホの部品作ってたところ。特有の技術を持ってたらしいけど……一昨年倒産してるね」
「で、堀部の親は夜逃げか……」
数々の記事に目を通して、なんとなく堀部イトナという人間が見えてきた。
こいつは捨てられたのか。真実はどうあれ、堀部はそう思ってる。
理不尽に襲われ、汚され……生き抜くためには力が必要だと感じたんだ。
そしてシロに利用され、その命すら削られて……また捨てられたのだ。
「どうやって説得するかな」
深い闇が垣間見えたところで、手が出しづらい。
これだけの経験をした人間なんて、このE組にいるのか。彼の苦しみを理解してやれる人間なんているのか。
「けっ、んなもんな、どうせどうでもよくなるんだよ」
寺坂がそんなことを言った。俺たちの悩みや価値観をぶっ壊すような、そんな言葉を。
「その時にクソ重い悩みでもな、過ぎりゃ小さく思えてくるもんだよ。触手で暴れたこと、黒歴史にしてやるよ。そんためには、生きてもらわなきゃ困る」