貌なし【完結】   作:ジマリス

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61 連帯責任

 夏の暑さがまだ少し残っている。

 ぱたぱたと手で顔を仰ぎながら、俺は山道を登る。

 

 体育祭が終わってから、本校舎の連中がE組を見る目は変わっていた。

 

 元から人気だった磯貝や片岡が登下校する際には、後輩が寄ってきて周りが賑やかに。

 その二人じゃなくても、声をかけられる者は多い。

 顔が良い前原、野球大会でもいいところを見せた杉野、寡黙な仕事人の千葉。

 言わずもがなの神崎、ビッチ先生の教えがなくとも男子人気の高い倉橋と矢田、クールビューティ速水。

 

 どれだけ言い寄られても、みんな断る技術を持っていたり、興味がなかったり……少なくとも、殺せんせーのことをばらしてしまうような口の軽い者はいない。

 

 評価が高くなるのは良い。

 そのおかげで変にいじめられることもなくなるだろう。

 

 校舎が見えてきたところで、小さな背中が目に入った。

 

「堀部、おはよう」

「國枝か」

 

 頷いて返してくる堀部。

 

「昨日は結構遅くまで教室に残ってたらしいな」

「ああ。勉強の遅れを取り戻さないとな」

「遅れっていってもなあ……この間の小テスト、なかなか高得点だったじゃないか」

「なかなかじゃまだ足りない。A組を倒すんだろ」

 

 強気な発言に、俺はにやりとする。

 一学期期末テストでは、『教科トップをより多く取ったクラスの勝ち』というルールのもとで勝利した。

 だが中間テストのときに殺せんせーに提示された『総合点数で、E組全員がトップ50に入る』という条件で勝ってこそ、本当の勝利と言えよう。

 仲間になったばかりの堀部が心配だったが、杞憂だったようだ。

 

「そういえば、お前に言い忘れてたことがある」

 

 校舎に入って靴を替えると、堀部はそう言って、俺を人差し指で指した。

 

「シロに気をつけろ」

「わかってる。次に現れた時、どんな手を使ってくるか……」

「そういう意味じゃない」

 

 堀部の強い否定が入る。

 

「あいつはお前にかなり興味を持ってた。触手を持った俺に勝てるお前にな」

「またその話か……だから、あれは周りが水に囲まれていたから……」

「たとえ多少水にさらされても、普通の人間くらいには勝てると思っていた。負けるはずがないと、シロは絶対的な自信を持っていた」

 

 そのことは俺も感じていた。

 じゃなければ、堀部にも不利なプールで決着をつけようだなんて思っちゃいないはずだ。

 自分の作品が一番強いと自負してるからこその作戦。

 

 ……だが堀部の触手は外されたところで、諦めはしないはずだ。

 どこかにいる『蟷螂』を捕まえて無理やり実験体にするか、また鷹岡を使うか、それとも……

 

「……おれに触手でも埋め込む気か?」

「あり得ない話じゃないな」

「冗談のつもりだったのに……」

 

 とは言いつつ、危険に構えておいて損はないだろう。

 

 シロは自分以外のものを道具としてしか扱っていない。

 周りの人間や俺たち子ども、あるいは手塩にかけた堀部でさえも、使い捨ての駒でしかないのだ。

 奴が今までやってきた非道なことを思えば、今度はE組に手を出してくる可能性も大いにある。

 その中で因縁濃い人物と言えば、俺だ。

 

「気を引き締めておくよ。忠告ありがとな」

 

 シロに捕まる危険を考えて、身体にGPSでも仕込むかな。なんて冗談を言って、俺たちは教室の扉を開ける。

 

 もっちり。

 

 突然、頬に柔らかい感触が触れた。

 呆気にとられたが、すぐに殺せんせーの触手が当たったのだと理解した。

 

「こ、殺せんせー?」

 

 彼は、すみませんと言いながら堀部にも同じことをした。

 

 いきなりのことに狼狽する。

 殺せんせーが俺に触れてくるのも珍しいが、こうやって申し訳なさそうにしてくるのも珍しい。

 

「どうしたんですか、急に。スキンシップ?」

「実はですね、昨日、岡島くんたちが……」

 

 殺せんせーは話し始めた。

 

 昨日の放課後、岡島をはじめとした何人かが、帰宅時に屋根から屋根へ飛び移り、フリーランニングの練習をしていたらしい。

 そして誰もいない路地裏に着地しようとして飛び降りた時、自転車に乗っていた老人とあわや衝突しかけたようだ。

 その人……松方さんとぶつかりはしなかったものの、彼は驚いて転んでしまい、骨にヒビが入った。全治二週間。 

 

 それを聞いた殺せんせーはその日のうちに話を聞きつけ、該当する生徒たちをぴしゃりと叩いた。

 

「で、俺たちにもビンタしたってことか」

「すみませんねえ。扱いに差が出てしまうといけませんから」

「殺せんせーが謝ることじゃないだろ」

 

 というか、ビンタとは思えなかった。さすがにパシンと叩くことは出来なかったのだろう。

 

 フリーランニングを習っている時点で、いやそもそも暗殺訓練を積んでいる時に、訓練場を学校のみに限定しようと取り決めをしなかったのは俺たちだ。

 烏間先生は忠告してくれていたが、絶対に従うべきルールを作らなかった責任は、力を持つ俺たちにある。

 それがわかっているから、他のみんなも文句は出せなかった。

 

 地球を救うために殺せんせーを殺さなきゃいけない重圧、普通より力を持った高揚感。

 体育祭を終えて、それが一気に押し寄せてきたのだろう。調子に乗ってしまった。

 一歩間違えれば、事故を起こしたのは自分かもしれないのだ。

 

 岡島たちは深く反省して、いまはがっくりと肩を落としている。

 蓄えた力に関しては、俺も正しい使い方をしていない自負があるから文句は言えない。

 

 全面的に殺せんせーが正しい。これで暴力を受けたとは流石に言えんわなあ。烏間先生も今回ばかりは見て見ぬふりだし。

 

「それで? 勉強禁止ってことは、他に何かやらせるつもりなんだろ」

「いつも話が早くて助かります。そうです。連帯責任として、君たちにも一緒に罰を受けてもらいます。その内容は……」

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