貌なし【完結】   作:ジマリス

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84 激戦

 中村が上空から飛び降りてきながら、銃を乱射する。

 当たりそうな弾をナイフで弾いて、なんとか避けることには成功したが、不意打ちに姿勢がぐらつく。中村は着地すると同時に、俺の身体を蹴り飛ばした。

 

 仰向けに倒れた俺を、すかさず吉田が狙う。

 突き立ててこようとするナイフを足で蹴り飛ばし、中村の射撃を避けつつ岩に隠れる。

 

 中村たちの射線から逃れて耳を澄ますと、さらにもう一人近づいてきていた。

 

「ここまでか……」

 

 じりじりと近づいてくる足音が聞こえる。

 一人相手ならともかく、三人の射撃を避けきることは不可能だ。次に姿を現した瞬間、蜂の巣にされてゲームオーバー。

 ……せめて一人くらいは道ずれにしてやる、

 

 ナイフを強く握り、息を潜める。撃たれるより速くナイフを繰り出すつもりでいた。

 どくどくと心臓が鳴る。

 

 勝負は一瞬。タイミングを逃せば終わり。

 さあ、行くぞ。

 

 と勢いづいた瞬間、突然、中村が飛び退いた。

 その場所へ銃弾の雨が降り注ぐ。反応が遅れた村松は銃弾を受けて、倒れ伏した。

 青色BB弾。仲間の攻撃だ。

 

 驚いていると、近くの木の枝に杉野が着地した。

 

「よ、待たせたな」

 

 続いて片岡、茅野、不破、前原が視界に入った。こちらをカバーするように、少し離れたところから銃を構えている。

 

「助かった……」

 

 安堵のため息をついて、岩に寄り掛かる。援軍がもう少し遅ければ、殺られていた。

 赤組も気づくのが早かった。中村と吉田はいち早く察知して、もうどこかへ隠れている。

 

「他は?」

「狭間が隠れて撃ってきて、磯貝が殺られた。神崎さんが返してそのまま千葉を殺ったけど、カルマがやり返し。で、そのまま竹林と矢田を殺って奥に引っ込んでった」

 

 こっちで戦ってる間に、戦況はめまぐるしく変わったみたいだ。

 殺られた人数が多い。特にリーダーの磯貝と意外とゲームが得意な神崎がやられたのがでかい。

 

 赤組の残りはカルマ、岡島、菅谷、寺坂、中村、吉田、堀部。

 青組は片岡、茅野、渚、杉野、不破、前原、そして俺。

 

 片岡や前原、杉野といった能力が高いのが残っているが、あちらも相当なメンツが残っている。

 カルマは言わずもがな。体術に優れ、参謀役もこなせる中村。身体能力じゃ、岡島、寺坂、吉田がタフだったり素早かったり。時間をかければ発見するのが困難な迷彩も施せる菅谷、ドローンなどの機械を操る堀部。

 ……思えば、誰を相手にしても厄介が過ぎるな。それだけみんなが成長してるってことか。

 

「って、いま思うことじゃないな」

「ん、どうした?」

「いや、こっちの話」

 

 俺はふう、と息を吐いて気を引き締める。

 中村と吉田以外の場所がわからない以上、うかつに動くのは危険だ。が、じっとしてて回り込まれたら元も子もない。

 

「片岡、どうする?」

「うーん……」

 

 油断なく辺りを警戒しながら、片岡は考えをめぐらす。

 

「まずは……」

 

 と、迷ったのも数秒、指示を飛ばし始める。

 それを俺たちは一回で理解し、各々視線を交わらせた。

 

 ばっと杉野と前原が身を乗り出し、銃を撃つ。木に隠れたままの赤組は、弾幕が落ち着くのを待つしかない。

 二人がリロードしている間は、片岡と茅野が弾をばらまく。

 

「行って!」

 

 片岡の号令を受けて、俺と不破は同じ方向に飛び出す。

 

 俺たちに課せられた使命。

 それは、菅谷と堀部を見つけること。

 積極的に表に出ることはなく、裏からのサポートを得意とする彼らは、今もじっとして好機を窺っている。

 それらが最後の最後まで残っていたら面倒だ。目が利く俺たちが見つけて、退場させる。

 

 赤組は俺たちの姿を捉えつつも、邪魔されて狙えない。

 難なく射程外に抜け、上下左右に目を見張りながら、木から木へと飛び移る。

 

 おそらく、そんなに離れていないと思うが……

 

「見つけた!」

 

 草むらに紛れ、じっとしている菅谷。

 さすが、本物と見分けがつかないほどの色づかいで存在を消していた。

 だが俺と不破からは逃れられない。

 

 あちらもこちらに気づく。

 隠れて射撃するつもりだったのだろう、スナイパーライフルのみを装備していた。

 だったら……

 

 俺は不破の前に出つつ、距離を詰める。

 よし、銃口も指も見える。これなら楽勝だ。

 パンと放たれた銃撃を慣れた手つきで防ぐ。

 

「不破!」

「任せて!」

 

 俺の後ろでチャンスを窺っていた不破は横に跳び、引き金を引く。

 

「うわっ」

 

 急襲に対処できず、菅谷はアウトになった。

 

「げぇ、結構自信あったのにな。てかBB弾防ぐとかアリかよ」

「意外とできるもんなんだなって、自分でも驚いてる」

 

 ここまでナイフ一本で戦えているのが奇跡に近い。

 まあそれしかできないからなんだが……

 

「よし、これで後は……」

「ああ、堀部だけだな」

 

 と油断しそうになった瞬間、殺気を感じた。

 本能のまま飛び退く。パパパパと銃弾が目の前を通過した。

 

「わっ」

 

 不破は避けられず、赤インクがつく。

 

 犯人は堀部。すぐ近くに潜んでいたのだ。

 どこに忍んでいるかと思えば、菅谷を囮にして監視してやがったな。

 

 堀部はすぐに照準を向けてくるが、その間に懐に入らせてもらっている。

 銃を蹴り上げ、呆気に取られているところをナイフで切ってやった。

 

「ぐっ」

 

 咄嗟のことだったから、思いきりやってしまった。

 フードの上からだったが、首筋に叩き込んだせいでくらりときたようだ。 

 

「大丈夫か」

「ああ、なんとか」

 

 まだ目を回している堀部に手を貸して立たせる。

 

「大丈夫か」

「ああ、なんとか」

 

 相変わらずの無表情で、ぱっぱと服に着いた草土を払う。

 

「ドローンに銃を付けられてたら、俺たちの負けだったな」

「細かい調整が必要で、完成にはまだかかる」

 

 堀部の得意なこととして、機械・電子工作がある。

 今回も飛行ドローンを使って偵察・監視を行っていたようだが、搭載しているカメラの画質があまり良くなく、迷彩を施して隠れているE組はほとんど見つけられなかったらしい。

 これがどんどん小型化して、敵をはっきり捉えられるようになり、武器も装備できるようになれば殺せんせーも焦るだろう。

 できたとしても、まだまだ先のことだろうけど。

 

「だけど、これで終わりだ」

 

 珍しく、堀部がにやりと笑った。

 

 嫌な予感がして、スマホを見る。

 画面には両組の残り人数と、誰が残っているかが記されていて……

 そこで、俺は自分のミスに気付く。もっと、完全に安全を確認してからチェックすべきだった。

 

 片岡と茅野、杉野、前原が殺られている。

 

 まさか、この短時間でこの四人が仕留められるなんて、信じられない。

 

 いいや、そんなことは驚愕の二番目だ。

 一番は、いま俺の目に映っている。

 気配も音も消さずに、真っすぐこちらに向かってくる影がある。

 

 カルマ、岡島、寺坂、中村、吉田。

 残りの赤組全員が向かってきていた。

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