中村が上空から飛び降りてきながら、銃を乱射する。
当たりそうな弾をナイフで弾いて、なんとか避けることには成功したが、不意打ちに姿勢がぐらつく。中村は着地すると同時に、俺の身体を蹴り飛ばした。
仰向けに倒れた俺を、すかさず吉田が狙う。
突き立ててこようとするナイフを足で蹴り飛ばし、中村の射撃を避けつつ岩に隠れる。
中村たちの射線から逃れて耳を澄ますと、さらにもう一人近づいてきていた。
「ここまでか……」
じりじりと近づいてくる足音が聞こえる。
一人相手ならともかく、三人の射撃を避けきることは不可能だ。次に姿を現した瞬間、蜂の巣にされてゲームオーバー。
……せめて一人くらいは道ずれにしてやる、
ナイフを強く握り、息を潜める。撃たれるより速くナイフを繰り出すつもりでいた。
どくどくと心臓が鳴る。
勝負は一瞬。タイミングを逃せば終わり。
さあ、行くぞ。
と勢いづいた瞬間、突然、中村が飛び退いた。
その場所へ銃弾の雨が降り注ぐ。反応が遅れた村松は銃弾を受けて、倒れ伏した。
青色BB弾。仲間の攻撃だ。
驚いていると、近くの木の枝に杉野が着地した。
「よ、待たせたな」
続いて片岡、茅野、不破、前原が視界に入った。こちらをカバーするように、少し離れたところから銃を構えている。
「助かった……」
安堵のため息をついて、岩に寄り掛かる。援軍がもう少し遅ければ、殺られていた。
赤組も気づくのが早かった。中村と吉田はいち早く察知して、もうどこかへ隠れている。
「他は?」
「狭間が隠れて撃ってきて、磯貝が殺られた。神崎さんが返してそのまま千葉を殺ったけど、カルマがやり返し。で、そのまま竹林と矢田を殺って奥に引っ込んでった」
こっちで戦ってる間に、戦況はめまぐるしく変わったみたいだ。
殺られた人数が多い。特にリーダーの磯貝と意外とゲームが得意な神崎がやられたのがでかい。
赤組の残りはカルマ、岡島、菅谷、寺坂、中村、吉田、堀部。
青組は片岡、茅野、渚、杉野、不破、前原、そして俺。
片岡や前原、杉野といった能力が高いのが残っているが、あちらも相当なメンツが残っている。
カルマは言わずもがな。体術に優れ、参謀役もこなせる中村。身体能力じゃ、岡島、寺坂、吉田がタフだったり素早かったり。時間をかければ発見するのが困難な迷彩も施せる菅谷、ドローンなどの機械を操る堀部。
……思えば、誰を相手にしても厄介が過ぎるな。それだけみんなが成長してるってことか。
「って、いま思うことじゃないな」
「ん、どうした?」
「いや、こっちの話」
俺はふう、と息を吐いて気を引き締める。
中村と吉田以外の場所がわからない以上、うかつに動くのは危険だ。が、じっとしてて回り込まれたら元も子もない。
「片岡、どうする?」
「うーん……」
油断なく辺りを警戒しながら、片岡は考えをめぐらす。
「まずは……」
と、迷ったのも数秒、指示を飛ばし始める。
それを俺たちは一回で理解し、各々視線を交わらせた。
ばっと杉野と前原が身を乗り出し、銃を撃つ。木に隠れたままの赤組は、弾幕が落ち着くのを待つしかない。
二人がリロードしている間は、片岡と茅野が弾をばらまく。
「行って!」
片岡の号令を受けて、俺と不破は同じ方向に飛び出す。
俺たちに課せられた使命。
それは、菅谷と堀部を見つけること。
積極的に表に出ることはなく、裏からのサポートを得意とする彼らは、今もじっとして好機を窺っている。
それらが最後の最後まで残っていたら面倒だ。目が利く俺たちが見つけて、退場させる。
赤組は俺たちの姿を捉えつつも、邪魔されて狙えない。
難なく射程外に抜け、上下左右に目を見張りながら、木から木へと飛び移る。
おそらく、そんなに離れていないと思うが……
「見つけた!」
草むらに紛れ、じっとしている菅谷。
さすが、本物と見分けがつかないほどの色づかいで存在を消していた。
だが俺と不破からは逃れられない。
あちらもこちらに気づく。
隠れて射撃するつもりだったのだろう、スナイパーライフルのみを装備していた。
だったら……
俺は不破の前に出つつ、距離を詰める。
よし、銃口も指も見える。これなら楽勝だ。
パンと放たれた銃撃を慣れた手つきで防ぐ。
「不破!」
「任せて!」
俺の後ろでチャンスを窺っていた不破は横に跳び、引き金を引く。
「うわっ」
急襲に対処できず、菅谷はアウトになった。
「げぇ、結構自信あったのにな。てかBB弾防ぐとかアリかよ」
「意外とできるもんなんだなって、自分でも驚いてる」
ここまでナイフ一本で戦えているのが奇跡に近い。
まあそれしかできないからなんだが……
「よし、これで後は……」
「ああ、堀部だけだな」
と油断しそうになった瞬間、殺気を感じた。
本能のまま飛び退く。パパパパと銃弾が目の前を通過した。
「わっ」
不破は避けられず、赤インクがつく。
犯人は堀部。すぐ近くに潜んでいたのだ。
どこに忍んでいるかと思えば、菅谷を囮にして監視してやがったな。
堀部はすぐに照準を向けてくるが、その間に懐に入らせてもらっている。
銃を蹴り上げ、呆気に取られているところをナイフで切ってやった。
「ぐっ」
咄嗟のことだったから、思いきりやってしまった。
フードの上からだったが、首筋に叩き込んだせいでくらりときたようだ。
「大丈夫か」
「ああ、なんとか」
まだ目を回している堀部に手を貸して立たせる。
「大丈夫か」
「ああ、なんとか」
相変わらずの無表情で、ぱっぱと服に着いた草土を払う。
「ドローンに銃を付けられてたら、俺たちの負けだったな」
「細かい調整が必要で、完成にはまだかかる」
堀部の得意なこととして、機械・電子工作がある。
今回も飛行ドローンを使って偵察・監視を行っていたようだが、搭載しているカメラの画質があまり良くなく、迷彩を施して隠れているE組はほとんど見つけられなかったらしい。
これがどんどん小型化して、敵をはっきり捉えられるようになり、武器も装備できるようになれば殺せんせーも焦るだろう。
できたとしても、まだまだ先のことだろうけど。
「だけど、これで終わりだ」
珍しく、堀部がにやりと笑った。
嫌な予感がして、スマホを見る。
画面には両組の残り人数と、誰が残っているかが記されていて……
そこで、俺は自分のミスに気付く。もっと、完全に安全を確認してからチェックすべきだった。
片岡と茅野、杉野、前原が殺られている。
まさか、この短時間でこの四人が仕留められるなんて、信じられない。
いいや、そんなことは驚愕の二番目だ。
一番は、いま俺の目に映っている。
気配も音も消さずに、真っすぐこちらに向かってくる影がある。
カルマ、岡島、寺坂、中村、吉田。
残りの赤組全員が向かってきていた。