「おはよう、國枝くん」
「おはよー」
「ああ、おはよう、神崎、茅野」
寒い季節が続く中、今日も変わらず登校。その道中で、神崎茅野コンビが声をかけてきた。
すると、二人はごそごそと鞄を漁り、可愛らしくラッピングされた小さな箱を手渡してきた。
「はい、ハッピーバレンタイン!」
「お、ありがとう」
今日は二月十四日。バレンタイン。
日本のそれは元々のものと意味合いが多少異なるが、しかし恋愛や友情を示すいいきっかけでもある。
「遅くなっちゃったけど、修学旅行のときのお礼もかねて、ちょっと気合い入れたからね」
「そりゃ楽しみ。後でいただくよ」
言葉と見た目から、どうやら市販品ではないようだ。わざわざ手作りしてくれたらしい。
「あたしたちからも、ほら」
「いつもありがとう」
「うおっ」
急に後ろから現れたのは、中村と矢田だ。彼女らもまた、違う形の箱を渡してくる。
「いつぞやのナンパ男から助けてくれたのとか、あといろいろ」
「いつかはお礼に何か渡そうとしてたんだけど、遅れちゃった」
てへ、ごめんね、と舌を出す二人。
そんなこと気にしなくていいのに、とは言わず、ありがたく二人の厚意を受け取る。
登校途中で四つも貰ってしまった。今までのわびしいバレンタインとは比べ物にならない。
「ところで、國枝くんはいつ不破ちゃんと付き合うの?」
「!?」
「腕時計もプレゼントしたらしいね」
「!?」
ほっこりしていたところに、矢田と茅野が爆弾発言を繰り出してきた。
「な、な……なんで……?」
「うわぁ、サスペンスの犯人ばりの驚き方」
「主演男優賞だね」
「いやバレバレだから。あんたが不破ちゃんのこと好きなの」
はあ、とため息をついて、中村が続ける。
「さっさと付き合うかと思ったら、どっちも奥手だもんね。せっかく誕生日も二人にしてあげたのに」
衝撃の真実。
初詣に誘った時、みんなに断られたのはそういうことか。俺ってそんなにわかりやすいのか?
みんなはいつ気づいてたんだ? あれ、そもそも俺はいつから不破のことが……
混乱する俺に、みんなはうんうんと頷いた。
「もー、そういうところでぐいぐいいかないから中々進まないんだよ?」
「そーそー。クリスマスデートもしたんでしょ?」
「毎晩俺のために味噌汁を作ってくれ……くらいは言わないと」
「言うかァ! チョコどこいった!?」
いつの間にか混ざってきていた倉橋までがにやついた笑みを浮かべる。
女子はどうも、こういう話題が好きだ。やいのやいのと囃し立ててくる。周りには……味方になりそうな人は誰もいない。
通学路が山道ってのが仇になった。人の目を気にしなくていいから、いくらでも騒ぎ立てられる。
「あんだけ強いのに、いざとなったらへたれなんだから國枝は。男は砕けろ、でしょ」
「当たらせろよ。それただ一人で爆発四散してるだけじゃないか」
「大丈夫大丈夫。告白したら、ちゃんと受け止めてくれるよ」
中村はいい笑顔で俺の肩に手を置いた。
「……まあ、骨は拾うから」
「ちょっと待て。マジで怖くなってきた。大丈夫だよな? 不破にビンタとかされないよな?」
「不破ちゃんを何だと思ってるの?」
「決心するの遅い」
「じれったかった」
「早くくっついたらいいのに」
「正直腕時計とかセンスなさすぎて引いた」
「ちょっとは励ませ!」
俺のツッコミが空に響く。そんな朝の風景だった。
△
教室に入ってからは、チョコの乱舞に一喜一憂する男子でいっぱいだった。
俺も、狭間から手作りのを貰い(呪いではないかと疑うようなアンケート用紙も一緒に渡された)、
速水からは『銃弾を受けてくれたお礼』として市販のアーモンドチョコをいただいた。銃弾止めたのまだちょっとトラウマなのに、銃弾っぽいチョコ渡されちゃったよ。
あと、奥田から国語を教えたお礼として。カルマ監修ってのがすごい引っかかるけど。
気付けば鞄に入りきらないほどのお菓子が手元にある。困っていたところ、原が自分の分とともに紙袋をくれた。女子のグループメッセージの話し合いから、こうなることを予期していたらしい。
いやでも原さん。でかいわ。チョコでかいわ。箱がホールケーキくらいのでかさなんだわ。
矢田と一緒にみんなに渡している倉橋の分も合わせて、けっこうな数貰ってしまった。
男としては当然嬉しい。にやけないように、取り繕わなければ。
△
「なんだかそわそわしてて、勉強どころじゃなかったな」
あっという間に放課後になった。
教室に漂う甘い匂いに殺せんせーが反応してしまい、たびたび授業がストップしてしまう事態を除けば、今日も平和だった。
「ねー、國枝。みんなの様子見に行かない? 放課後にチョコ渡すやつも多いと思うからさ、面白いもの見れるかもよ」
「遠慮する。そんな下世話なことしてられるか」
「そうよ、カルマ。國枝はこれから大事なイベントがあるんだから。じゃー、ごゆっくりー」
朝と同じにやけ面で、中村がカルマを引っ張ってどこかへ向かう。
彼女の言う『大事なイベント』とは、もちろん……
自覚したとたん、緊張してきた。
ふう、と深呼吸して、今日は何でもない日だと言い聞かせる。そう、今日は普通の日だ。
特に、岡島みたいに五分に一回机の中覗き込むのは異常。
入ってるわけないだろう。入れようとしてる奴がいるとしたら、むしろやりづらい。
『一つも貰えてねえ!』と嘆きながら、血の涙を流さん勢いで俺を睨むのはやめてほしい。
日頃の行いの報いだ。
まあチョコを貰えない可愛そうな男子にも、倉橋や矢田が渡してるから、涙流すような奴はいないだろう。
と、そこまで考えて気づいた。
あれ、そういえばあの二人は、朝に一斉にみんなに渡したはず……
俺は消沈して机に突っ伏す岡島を見て合掌した。
誰か……誰か岡島を救ってやってください。
△
「今日はやめておこう。このあとイリーナに呼び出されていてな」
落ち着くためには、落ち着いている人と話すのがいい。
そう思って烏間先生に世間話でも振りに来たが、首を横に振られた。
「デートですか?」
「……そうだな。まあ、浮かれた話だけで済むとは思ってないが」
「浮かれた話だけで済ませてもいいんじゃないですかね。今日はバレンタインですし」
本来のそれとは意義も目的も違うが、日本式に則って期待に胸を膨らませるのも悪くない。
迷惑をかけなければ、はしゃぐのもまた一興だ。
「い、いた!」
職員室の扉が開けられて、焦ったような声が響く。
そこには、不破がいた。
「く、くくく國枝くんっ」
「不破、どうしたんだ?」
慌てた様子の不破を宥めて、深呼吸を促す。
それでもなんだか落ち着かない様子の彼女が目を泳がせながら口を開いた。
「あ、あの、一緒に帰らない? なんて……」
「ああ、いいよ」
「ほ、ホントに?」
「嫌なわけないだろ。それに、俺もお前に用事があったしな」
俺は烏間先生に向き直り、ぺこりと礼をする。
「話しかけておいてすみません。俺はこれで」
「気にしなくていい。今日はバレンタインだ。浮かれていても仕方がない」
「からかわないでください」
「先にからかおうとしたのは、君のほうだ」
ふっ、と様になる笑みを浮かべて、烏間先生は俺たちを見送った。
△
陽が落ちるのが早い。いまさらそんなことを思う。木々に囲まれた帰り道の中にいると、光は余計に届かない。おかげで寒さはいっそう厳しく感じる。
「みんな一喜一憂してたね」
「もうすぐで卒業だしな。想いもひとしおってことだろ。貰えてなかった岡島も涙流してたしな」
隠されてると思って、山に探しに行ったんだっけか。情熱があるというか、諦めが悪いというか。
ふと不破を見ると、きらりと手首が光った。
俺がプレゼントした腕時計が、夜のわずかな光を反射したのだ。
「着けてくれてるんだな」
「うん。あれからずっと着けてるよ」
照れ臭そうに、不破は腕をさする。
今まで飾り気のなかった不破がいきなりそんなもんを着けてきたら、誰だって不思議に思う。
きっと誰か訊いたんだろう。どおりで女子たちが知っていたわけだ。
「く、國枝くんはチョコ貰った?」
「神崎と茅野、中村と狭間と原と……奥田もだな。あとみんなに配ってる矢田と倉橋から」
照れを隠すために、不破が話題を逸らす。
手に持った紙袋が重い。律からも渡されて、すでにパンパンだ。どうやって作ったんだあいつは。
「そういや、お返しは三倍返しでってよく聞くけど、あれって手作りの場合はどうしたらいいんだろうか」
量……ってわけでもないだろうし、質を三倍にしてこいってことか。菓子作りもしたことない男子にそれは酷だろう。
「どうなんだろうね。漫画だと、主人公がお菓子作り上手かったり、なんかお菓子とは別のもの買ったり……とか」
「あー、そういえばアクセサリーとか渡してたのとかあったな」
「そうそう。でもあれは中学生とか高校生がやるとちょっと重いかなって私は思うな」
うんうん、と俺は頷く。
誕生日のは、お返しじゃないからセーフ。
「あんまり参考にならないな」
「まあ、結局『義理だから!』ってごまかして、返すときもあっさりなことが多いからねー。そもそもホワイトデーは描写されないことも少なくないし……って違ーう!」
いきなり不破が両手を上げて叫ぶ。びくりとして、俺たち二人の足が止まった。
周りに人がいないとはいえ、近所迷惑だぞ。
「ク、クッキーとかマカロンで返そうと思ってたが、ダメか。そうか、渡す物にも意味があるっていうから、吟味しないといけないな……」
「いや、それはそれでいいと思うけど! 思うけど! そうじゃなくて!」
怒っているような表情を俺に向けて、不破が手をわちゃわちゃと動かす。
「私が言いたいのはそうじゃなくて……」
どんどんと勢いがなくなって、不破の顔が赤くなっていく。寒さのせいじゃないことは、よくわかっていた。
「そうじゃ……なくて」
夜の闇に消え入りそうな小さい声で、不破は呟く。
足は止まり、簡単に振り払えそうなくらいの力で袖を掴んでくる。
そうして、どれくらいの時間が経っただろうか。実際は一分も経っていないくらいだったと思う。けど彼女にとってはかなり、数十分にも感じるほどだったんじゃないだろうか。
「その、これ」
彼女は俺から少し視線を逸らして、あるものを差し出してきた。
今日何度目になるだろうか。丁寧に包装された小さな箱だった。
他の誰かに貰った時とは違って、心臓がどきりと跳ねる。
「私、漫画のこととなるとちょっと暴走したりするじゃない? でも國枝くんはしっかり聞いてくれたり、えっと、私のことを守ってくれたり、だからこの前も一緒に出掛けようって誘ったり……ええっと、何言ってるんだろうね、あはは」
ぽりぽりと頬を掻いて、彼女は恥ずかしさを誤魔化す。
ゴーグルをしていないのに、俺の目は不破に集中する。
その表情がとても愛おしくて、一瞬も見逃したくなくて、釘付けになってしまう。
「その、だから……私、國枝くんのこと……」
「不破、好きだ」
思ったことが、そのまま口をついて出た。
「え……え?」
「難聴なのはラブコメ漫画の主人公だけでいいから」
思わず笑みが漏れた。
不破が勇気を出してくれたことはわかる。だから、俺はそれ以上に勇気を出して彼女を受け入れたい。
「不破、俺はお前のことが好きだ。付き合ってほしい」
俺のストレートな告白に、彼女は固まった。
呆けた表情のまま、頬をつねって戻す。少し赤くなっただけで、何も変わらなかった。
「夢……じゃないんだよね」
「ここまで漫画っぽいリアクションされたら逆に困るな」
「いやだって、本当に信じられなくて」
「冗談を言うにはタチの悪いタイミングだ。それに、もう隠すのはこりごりだからな」
嘘をつき続けて、傷つけるのは終わりだ。何より、俺がそうしたくない。
不破に対しては俺の正直な気持ちを知ってほしい。
恥ずかしいとか気持ちを押し殺してだとかで伝えなくて、手遅れになるのは嫌だ。
「今日ずっと言おうとしてた。俺は不破が好きだ」
三回『好きだ』と言っても、まだ彼女は動かない表情のまま、その場に立ち尽くしていた。
「で、返事は? 保留?」
「ちょ、ちょっと待って! 言う、言うから!」
ぶんぶんと首を振って、深呼吸。何度か大げさに息を吸って、不破は胸の前でぎゅっと手を結んだ。
「もう一回。もう一回だけ言って」
改めてとなると恥ずかしさがこみ上げてくる。だけど、言わないわけにはいかない。
「不破、好きだ。俺と付き合ってほしい」
不破の目が潤んで、吐息が漏れる。じーんと痺れて身体が一瞬こわばった。
見上げてくる目は今にも涙がこぼれそうで、木々の向こうに見える星を映し出している。
沈黙が数秒続いて、不破はようやく俺の言葉を沁み込ませたのか、口を開いた。
「はい。私も國枝くんが好き。大好き」
今度は、俺のほうが信じられないという気持ちになった。
けど、言葉の意味だけはすぐに理解できて……即座に顔を手で覆った。
「ええ!? なんで!?」
「今の俺はおそらく他人には見せられない顔になっておりますゆえ」
「もう、それは卑怯! もう顔は隠さないで!」
力づくで俺の手を引きはがしてくる。そんな初心なやりとりに、どちらともなく笑い出した。
不破は手に持ったままの箱を俺の手に置いて、にこりと微笑んだ。
「ね、食べてみて。夜中まで頑張ったんだ」
「見ればわかる」
「わかるのは……そんなとこまでわかってくれるのは、國枝くんくらいだよ」
包装を取って、箱を開ける。いくつかのクッキーが入っていた。
それを、緊張の面持ちの不破を前にして口に放り込む。
形は不格好だけれど、とびきり甘くて、今まで食べた何よりも美味い。
「美味しい。美味しいよ」
太陽いらずの明るい笑顔を咲かせて、不破は喜びに震えた。そのまま、俺を倒す勢いで抱き着いてくる。
おっと。俺は箱を落とさないようにしてバランスを取りながら、彼女を受け止めた。
防寒のためのもこもこした服の上からでもわかる細さと柔らかさ。俺とは違う華奢な身体。
俺はこの小さな身体にどれだけのものを背負わせてしまったのだろう。
少しでも一緒に苦しみを持てたら、歓びを分け合えたら、と感じて、ぎゅっと抱きしめ返す。
「そっかぁ、國枝くんの彼女になったんだぁ」
とろけた声が胸から聞こえる。
不破は俺の胸に顔をうずめて、擦りつけてきた。ふわり、と柔らかい匂いが鼻をくすぐる。花のような……とにかく心地の良い匂いだった。
「やったやった。特別だ。もう恋人なんだぁ~」
「きゃ、キャラ変わってませんかね」
「それは最近の國枝くんもそうでしょ?」
顔を見上げてくる。とてつもなく近い。
これだけ近いと、さっきからバクバクいってる鼓動も丸聞こえに違いない。だって、彼女の鼓動もちゃんと感じられるくらいなんだから。
「素直になったり、はしゃいだり。さっきの告白だって、ちょっと國枝くんらしくなかった」
「嫌だったか?」
「そんなわけないじゃん! 國枝くんがしてくれた中で、一番嬉しいよ」
周りに誰かいたとしても、体勢はこのままだっただろう。
放したくない。
まさか、『このまま時が止まればいいのに』なんて陳腐なことが浮かぶなんて、思ってもみなかった。
「こう、恋人っぽいことでもどうですかっ?」
「恋人らしいこと、ねえ」
恥ずかしさやら嬉しさやらが極まって、変なスイッチが入ったみたいだ。
そんなこと言われても、なかなか思いつかない。
今まで、恋人なんてできたことがなかった。最近は特に、そんなことを考える余裕もなかったし。
「じゃあその一歩目! 名前で呼んで!」
そうか。恋人になったのに、いつまでも苗字で呼び合うのはちょっと距離を感じるな。
こほん、と咳払い。
「優月」
「うん、響くん」
「……なんだか照れるな」
「いまどきこんなんで照れないでよ」
「そういう優月も顔真っ赤だぞ」
「えっ、うそ!?」
「ほんと。耳まで赤い」
うぅ、と不破……優月はまた顔をうずめてくる。
「慣れないとな。これからは何度も呼ぶことになるんだろうし」
「うん、響くん」
「優月」
「響くん」
「優月」
「響くん」
「優月……何回やるんだ?」
「私が満足するまで」
それから何度も名前を呼びあった。
夜は暗さを増して、闇を作っていく。でも、俺たちはその場で足を止めたまま、帰る気なんてなかった。
「ね、もっと恋人らしいこと、してみない?」
「もっと……ていうと……」
優月は元々近すぎる距離を詰めてきて、潤んだ目で見上げてくる。先ほどとは違う、乞うような、焦がれるような熱っぽい視線。
ビッチ先生の教育の賜物か、天然か。どちらにしても俺は見事に心を射抜かれた。
見つめられると恥ずかしいのに、目が離せない。
惚れた弱みとはよく言ったものだ。
殺人鬼にも、数段体格のいい外国人にも勝ってきて、殺人の衝動を抑えることもできた俺が、優月の魅力に抗えない。
お互い、言葉もなくゆっくりと顔を近づける。吐息すらはっきり聞こえて、緊張が伝わってくる。心臓は爆発しそうなくらい響いているが、それが心地いい。
ここはみんなの帰り道。漫画なら、ここで邪魔が入ってくるところだ。そして俺たちはとっさに離れ、この場の雰囲気もうやむやになる。
そうならなければ……そう、ならなければ……
…………
……
△
「國枝くん、集合~!」
次の日の昼休みのことである。
いつものように寺坂たちと机を囲んで弁当を食っていると、矢田が急に呼び出してきた。
その周りには女子全員が集まっており、中心には優月と岡野がいる。
行きたくないんですけど。中村がすっげえにやにやして見てくるんですけど。
「おーい、聞こえてんでしょ、不破ちゃんの彼氏さん」
「うっわ、ばらしやがったあいつ……」
女子だけじゃなくて、男子もバッとこっちを見る。特にカルマなんかは、これ以上ないおもちゃを見つけたような悪い顔だ。
仕方ない。これ以上言いふらされるのは勘弁だ。男どもになにか言われる前に、俺は女子たちの輪へ向かった。
「一名様ごあんな~い」
倉橋が俺を輪の中心に座らせる。優月の隣。
すぐそばにはすでに前原と岡野がいて、湯気を上げながら突っ伏している。
この二人は、なんだか俺のあずかり知らないところでイベントを起こしていたらしい。昨日も二人して暴れていたのを何度か見た。
その後でなんだかいい雰囲気になったのも知っている。
なるほどなるほど。バレンタインの引力に吸い寄せられたってことか。
彼らほどではないが、優月も顔を真っ赤にして俯いていた。質問責めにでもあったか。
なるほど、次の犠牲者は俺ってわけか。なるほどな。逃げたい。
「で、不破ちゃんと付き合ってるってのは本当なの?」
「直球だな……本当だ」
すでに優月に聞いているだろうが、彼氏からの証言を聞けてキャーとはしゃぐ女子たち。
できるだけ何でもないふうを装っているが、これはあれだ。ものすごく恥ずかしい。
「國枝くんのほうから告白したって聞いたけど、それも本当?」
「本当」
今度はお~、という感嘆の声。いやもうほんとやめろ。こっちは平静を保つので精一杯なのに、どんだけむず痒い質問してくるんだ。
『死神』の拷問も耐えきった俺の超合金精神がぶっ壊れそうなんですけど。
「ぶっちゃけどこまでやったの?」
中村コラお前、いきなりステップ飛ばした質問してくんなや。
「……優月に聞いたんじゃないのか」
「いやあ、不破ちゃんはさっきの質問でノックアウト」
と、倉橋。
「だから詳しいことはあんまり聞けてないんだよね」
と、矢田。
「ていうか、いま優月って」
と、速水。
「名前で呼び合う関係ってか~? そりゃそうだよね、付き合ってんだもん」
と、中村。
それで俺を呼んだのか。それにしても女子たちはノリノリである。
名前で呼ぶなんて、はたから見たらそう大したことはないのに、鬼の首を取ったかのように突っ込んでくる。
うーむ、この勢いに押されて、前原と岡野はこのありさまになったってわけか。プレイボーイをのしてしまうとは、この集団凄まじいな。
優月もうぶなところがあるし、すぐにゆでだこになったに違いない。
よし、覚悟は決まった。
「えーい、わかった。どんな質問でもかかってこい!」
「はい、はい! 何発ヤったのよ! 教えなさい!」
「ビッチ先生も混ざってくんの、これ!?」
いの一番に手を挙げたのは誰かと思えば、まさかの教師。しかも内容が教師のするもんじゃない。
「告白してすぐヤるわけねえだろ! 次!」
「はい、はい! 告白の言葉はなんですか!? そこがなければ先生作の生徒の恋愛小説が書けません!」
「お前もかい!」
今度は殺せんせーである。なんだここの教師。
「普通に『好きだ』って言っただけ! はい次!」
「じゃあキス! キスはしたんでしょう!?」
「それも突っ込みすぎ……ってまたあんたか、ビッチ先生! あんただって四月から烏間先生と同棲するくせに!」
「な、なんでそれを……」
ハッと口に手を当てるビッチ先生。
女子たちの好奇の目が、すべてそちらへ向いた。
「いやあ、朝に偶然烏間先生と会ったから、昨日のこと聞いたんですよねえ。なんでも? 四月から? 烏間先生と同居するらしいじゃないですか? それも? 烏間先生のほうから誘ったとか?」
「う……えっと」
一斉に睨みつけられて、ビッチ先生はじりじりと後退していく。そして……
「撤退よ!」
「逃がすな、追え!」
逃げるビッチ先生を、ばたばたと女子たち+殺せんせーが追いかけていく。
ふう、なんとかなったかな
「優月、優月ー。大丈夫か?」
しゅうしゅうと湯気を立てる優月を揺する。反応はない。うーん、駄目みたいですね。
ま、時間が経てば元に戻るだろ。一件落着ということで。
「國枝、ちょーっといいかな?」
はい、逃げられません。
悪魔の笑みを浮かべるカルマたちに、俺は逃げることを諦めて全てを話さざるをえなかった。