ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
ステリーネと整備班の面々の頑張りに寄ってエンジンの修理を終えたルクシオールは、惑星ピコ付近の宙域へと辿り着いていた。
既に惑星ピコに居るヴァニラはナノナノに起きた事の詳細なデータを送り、惑星ピコで落ち合う事になった。最も例の放送のせいでピコにルクシオールが降りる許可は貰えず、ヴァニラが乗ったシャトルを受け入れる予定だった。
「それじゃ、もうすぐヴァニラさんが来るんですね?」
「あぁ、そうだ」
シャトルの搬入口に向かいながら、レスターはカズヤの質問に答えた。
もうすぐピコに到着すると艦内アナウンスで知らされたカズヤは、ブリッジで詳しい話をレスターから聞こうとブリッジに向かっていたのだが、その途中でヴァニラの出迎えにシャトルの搬入口に向かっていたレスターと会い、二人は話をしながら搬入口に向かっていた。
「どうやらヴァニラは元々ルクシオールが来ると知った時から乗るつもりだったようだ。到着予定時刻を伝えたら、その時間にシャトルで来ると連絡が届いた」
「…それだけヴァニラさんはナノナノの事を心配しているんですね。確か、ナノナノの母親代わりをしているんですよね?」
「そうだ……しかし、どうもそれだけでは無いようだ」
「えっ? どう言う事ですか」
「通信じゃ話せない事らしい。会った時に話すと連絡が返って来た……(もしやヴァニラが話そうとしている事は、ミントが言っていた『ゴースト』に関する事かもしれんな)」
ヴァニラが通信で説明しなかったのは、『ゴースト』に関わる情報では無いかとレスターは考えていた。
ミントから補給受けた時に伝えられた『ゴースト』に関する情報。それは“惑星ピコに『ゴースト』が降り立った”と言う情報だった。正直な話、その情報をミントから聞いた時、レスターは信じられない気持ちを抱いた。何せこれまで『ゴースト』は明確に惑星に接触するような行動をした事は無い。各惑星が接触を試みようとしても、その姿を晦ましてしまう。にも関わらず惑星ピコに『ゴースト』は降り立った。
本来ならば情報を得た時点で惑星ピコの行政府に説明を聞きたいところだったのだが、状況が状況なので後回しにしていた。最もそれ以外にちとせが不安定になってしまう事も恐れ、レスターは情報を秘匿していたのだ。どちらにしてもヴァニラが来た時に教えてくれるだろうとレスターは思い、カズヤと共にシャトルの搭乗口へと向かう。
レスターとカズヤが搭乗口に辿り着くと同時に、シャトルが一機入って来て着陸する。
「丁度来たようだな」
そう、レスターが呟くと共にシャトルの入り口が開き、ヴァニラが降りて来る。
神秘的な雰囲気を纏っているヴァニラにカズヤは見惚れてしまう。見惚れているカズヤに気がつくがレスターは構わずに、ヴァニラに近づく。
「久しぶりだな、ヴァニラ」
「はい……お久しぶりです、レスターさん」
「……今回のナノナノの事は済まなかった。もっと注意しておくべきだった」
「いえ…私もナノナノにナノマシンの使い過ぎる事に関して言っておくべきでした。レスターさんだけの責任ではありません」
「……すまん。それじゃナノナノのところに案内する」
「待って下さい……。その前に会わせた人が居ます」
ヴァニラはゆっくりとシャトルの入り口の方に振り返り、釣られてレスターとカズヤも目を向ける。
すると、シャトルの入り口から『アルモ・ブルーベリー』が感極まるような顔をしながら出て来た。
「うぅ……うぅぅっ」
「…ア………アルモなのか?」
「クールダラス司令!!!」
ーーーガバッ!
嬉しさに満ちた声と共にアルモはレスターに抱きついた。
抱きつかれたレスターは混乱してアルモを見つめる。それはカズヤも同じだった。
『セントラルグロウブ』の件で行方不明になっていた筈のアルモが、ヴァニラと共に現れたのだから。一体どう言う事なのかとレスターはアルモに抱きつかれながらヴァニラに質問すると、驚くべき答えが返って来た。
「アルモさんはピコに運ばれて来たのです。『ゴースト』に」
「……何だと?」
「ええぇぇぇぇぇぇっ!?」
レスターとカズヤは揃って目を見開きながら驚いた。
詳しく話を聞くと『
その後アルモを外に連れ出すと共に『ゴースト』は飛び去り、その行方は不明となった。残されたアルモはヴァニラが病院に運び、治療をピコで受けていたのだ。
予想外のアルモとの再会で驚いたレスターだが、驚きから立ち直ると共に疑問に思った事を質問する。
「待て? 『ゴースト』のコックピットだと?」
「はい。其処に気絶していたアルモさんが
(……どう言う事だ? 無人機の筈の『ゴースト』にコックピットが在った? いや、それ以外にも気になる事が在る…………『『セントラルグロウブ』からの避難者を匿っている。其方の惑星に在住している『
気絶したアルモをナノマシン技術に寄って、治療技術が高いピコに運ぶのは確かに不自然ではない。
だが、レスターはどうにも『ゴースト』の動きが気になった。何か小骨が引っ掛かるような印象を感じ、レスターは顔を難しげに歪める。
話を聞いていたカズヤは知らされた事実に固まっていたが、驚きから立ち返ると共にアルモに質問する。
「……そ、そうだ!? アルモさん!! ミルフィーユさんはどうなったんですか!? 通信の時に一緒に居ましたよね!! もしかしてミルフィーユさんも一緒に居るんですか!?」
悲しげな顔をしているリコの顔を思い出しながら、カズヤはアルモに問いかける。
その問いにアルモは暗く悲しげに顔を俯かせ、事情を知っているヴァニラも同じように悲しげに顔を暗くする。
二人の様子にカズヤは最悪の予感が頭を過ぎり、レスターも顔を険しくする。
「……何が在った? ミルフィーユに?」
「…………捕まっているんです。ミルフィーユさんは……『ヴェレル』に」
「ッ!? 『ヴェレル』だと!? では、『
覚えの在る人物の名前が出て来た事にレスターは驚きながらも、内心では僅かに納得を覚えた。
平行宇宙を行き来する為の重要拠点である『
そして『ヴェレル』と言う人物は『セントラルグロウブ』の構造を知り尽くし、尚且つ防衛網の情報を知る事が出来る人物だった。
「最初から得体の知れない奴だったが……まさか、奴が『セントラルグロウブ』の襲撃の黒幕だったとは……」
「……『ヴェレル』はこう言っていました。『全てを取り戻す時が来た』って……ミルフィーユさんは奴に捕まって、私も危ないところを『ゴースト』に助けられたんです」
「…そうか」
「あの……司令? 『ヴェレル』って一体誰なんですか?」
『ヴェレル』に関して知っているレスター、アルモ、ヴァニラと違い、正体が分からないカズヤは質問するが、三人は答えずレスターはカズヤに顔を向ける。
「カズヤ。気になるのは分かるが、今は待ってくれ。詳しい話はアルモから詳細を聞いてからだ。今はそれよりもナノナノの事を優先だ」
「あっ! は、はい!」
確かに『ヴェレル』に関しても重要だが、今はそれよりもナノナノの事の方が重要だった。
ミルフィーユの事は心配だが、ナノナノの方も放っておくわけには行かない。その上、これから衛星『フェムト』に向かう為に戦闘が控えている。
気には成るが今はナノナノを救う方に集中しようとカズヤは考える。
「それとミルフィーユの件はリコに伏せておいてくれ。アルモは途中でミルフィーユと別れ、他の者と避難誘導に当たっていた事にする。理由は言わなくても分かるな?」
「…はい」
もしもミルフィーユが捕らえられて居る事をリコが知れば、戦闘に間違いなく影響が出る。
詳細が明らかになり次第に伝えるのは決めているが、今は知らせる訳には行かない。もしも知ってリコのテンションが下がってしまえば、戦闘で撃墜されてしまう可能性が高いのだから。
カズヤもその事を理解し、姉の安否を知りたがっているリコに罪悪感を抱きながらも今だけは話さないようにしようと心に決める。
(ゴメン、リコ)
頭の中に浮かぶリコにカズヤは内心で謝罪しながら、レスター達の後を付いて行く。
しかし、フッとカズヤは在る事を思い出し、歩きながらヴァニラに質問する。
「あっ! そう言えば……あのヴァニラ先輩? 一つ聞いて良いですか?」
「…何でしょうか?」
「え~と……『ゴースト』に在るって言うコックピットに乗った時に、何か変な感じはしませんでしたか?」
「変な感じ?」
「はい。ルーンエンジェル隊の皆が『ゴースト』に接触した時に、怖い感じを受けたらしいです」
「怖い感じ? ……全員がでしょうか?」
「僕は何も感じませんでしたけど……他の皆は怖い感じを『ゴースト』から受けたって言ってました。もしかしたらヴァニラさんも、何か感じたかもしれないと思って質問したんですけど?」
カズヤの質問にヴァニラは悩むように眉根を寄せて考え込む。
そして考えが纏まったのか、ヴァニラはカズヤの質問に答える。
「……私はルーンエンジェル隊の皆さんが感じたと言う印象を、『ゴースト』から感じませんでした。……寧ろ……」
「寧ろ?」
「…………いえ、何でも在りません」
ヴァニラはゆっくりと首を横に振るうと共に、前へと向き直り医務室へと向かって行く。
カズヤはヴァニラの様子に疑問を覚えて首を傾げるが、取り合えず気に成っていた事だけは分かり、内心で別の疑問について考える。
(皆が『ゴースト』から感じていた印象をヴァニラ先輩は感じていなかった。『紋章機』に乗っていなかったからかな。それともやっぱり気のせいなのか?)
そうカズヤが考えている間に医務室の前へとレスター達は辿り着き、レスターが医務室に最初に入る。
ーーーブゥン!
「モルデン。ちとせ。ヴァニラが来たぞ」
「あぁ、レスターさん。それは良かった」
「ヴァニラさんが来てくれたんですね!」
レスターの報告に、医務室で意識が戻らないままのナノナノの様子を見ていたモルデンとちとせは喜んだ。
ヴァニラはレスターの前に出ると共にモルデンに向かって頭を下げ、次に久々の再会であるちとせに顔を向ける。
「お久しぶりです、ちとせさん」
「此方こそ久しぶりです、ヴァニラさん」
「……以前お会いした時よりも、顔色は良いみたいですね。良かったです」
「…………心配してくれてありがとうございます。それでナノちゃんの状態ですが、私の見立てでは送った資料どおりだと思いますが、一応ナノマシンの専門家で在るヴァニラさんにも見て頂きたいのですけど」
「はい」
ちとせの頼みにヴァニラは頷くと共に、ナノナノの傍に近寄る。
意識が無く、ベットに横になっているナノナノを心配そうにヴァニラは見つめながら、注意深くナノナノを診察して行く。医務室内にはヴァニラがナノナノを診察する音だけが響き、他の誰もが静かに診察が終わるのを待つ。
その間にちとせはゆっくりとレスターの方に視線を向け、横に立つアルモに気がつき目を見開く。
「えっ!? ア、アルモさん!?」
「ど、どうも…」
「如何してアルモさんが此処に!?」
「…実はな……」
ゆっくりとレスターはちとせにアルモに起きた事を説明する。
事情を聞いたちとせは『ゴースト』がアルモを助けたと言う事実に驚愕し、ミルフィーユが敵の手に落ちている事に心配で顔を暗くする。
「まさか、あの『ヴェレル』が『
「あぁ、俺も驚いた。だが、確かに奴ならば『
「同感です……しかし、幸いだったのは防衛に当たっていた軍の殆どが『
「あぁ、『
「………あの~、その指揮をしてくれた指揮官に関してなんですけど」
嬉しい報告に喜ぶちとせとレスターに、恐る恐るアルモが声を掛けた。
何処か困ったようなアルモの様子にちとせ、レスター、そして話を聞いていたカズヤも目を向けると、アルモが何か怖がるようにレスターを見つめる。
「お、怒らないで欲しいんですけど」
「何がだ?」
「…実は、その『
『………はっ?』
告げられた事実に、レスター達は思わず間の抜けた声を出してしまった。
そして徐々にアルモの言った意味を理解して来たレスターは、困惑に満ち溢れた顔をして口を開く。
「ちょっ、ちょっと待て!? 『ゴースト』が防衛に当たっていた艦隊の指揮を執ったのか!?」
「は、はい!」
「誰がそんな許可を出したんだ!? 幾ら『ゴースト』が『
「その『ゴースト』がメッセージで指揮権を貰いたいって送って来たんです! それでミルフィーユさんが許可を出して…」
「……ミルフィーユか…確かにアイツなら許可を出しても可笑しくは無いか」
疲れたように溜め息をレスターは溢した。
所属不明の相手に指揮権を与えるなど普通ならば在りえない事だが、ミルフィーユならば在りえるとレスターは納得出来た。そう言う常識外れの事態を平然と引き起こすのが、ミルフィーユ・桜葉と言う女性なのだ。
話を聞いていたちとせも、ミルフィーユならば在りえると納得したように頷いていた。カズヤは話には聞いていたが予想以上に破天荒な行動をしたミルフィーユに驚き、言葉を完全に失っていた。
その間にナノナノの診察を終えたヴァニラが、ナノナノに毛布を被せ直して顔を上げる。
「……ちとせさんの見立てに間違いは無いと思います」
「そうか……やはり、フェムトに向かうしか無い訳だな?」
「はい」
レスターの質問にヴァニラは真剣な顔で頷く。
やはりフェムトに向かうしか手段が無いとハッキリし、レスターは通信機のスイッチを入れてブリッジと繋ぐ。
ーーーピッ!
「ココ。エンジェル隊を全員ブリーフィングルームに集合させてくれ」
『了解しました』
「頼んだぞ」
ーーーピッ!
通信を切ったレスターはゆっくりと医務室内を見回しながら口を開く。
「ちとせ。お前はブリッジに向かってくれ。詳しくアルモやヴァニラから『ゴースト』に関して聞きたいだろうが、これから戦闘になるからな。今はそっちに集中してくれ」
「了解しました」
「ヴァニラとアルモは医務室で待機していてくれ。戦闘が終わった後に連絡を入れるから、ブリッジに来てくれ」
「分かりました」
「はい!」
「カズヤは俺と一緒にブリーフィングルームだ」
「はい!!」
レスターの呼びかけにカズヤは返事を返し、アルモとヴァニラを残して医務室からちとせ、レスター、カズヤは出て行くのだった。
《成分分析率75%まで達成》
(漸くか……思っていたよりも分析に手間取ったな)
《分析の結果、本機に付着しているペイントに使われている成分は、全て『
(流石だね。そう言うところまで抜け目が無い)
思い出すのは幼い外見でありながらも、大人顔負けの冷静な判断力と決断力を持った金髪の褐色肌の少女。
付着したペイントに『
今居る場所が特殊な施設で無ければ、ペイントを消す目処は立たなかっただろう。改めて彼女を恐ろしさを感じた。
《成分分析完了後…消去用の“ナノマシン”の作製を開始する》
(うん。それで頼む…そしてそれが終わった後、俺達はセルダールで情報を収集後に、『紋章機』を運用していた艦に接触する)
フルメンテを行なっている間に、今後取る行動は決めていた。
やはり単独での行動は危険が多過ぎる。その上、敵側は此方を目の敵にして狙って来る可能性が高い。故に他の『紋章機』を運用している、ルクシオールと接触して協力関係を結ぶ事を決めたのだ。
どちらにしてもミルフィーユとの約束も在るので、ルクシオールとの接触は避けられない。ならば、早い段階で協力関係を築き、今後の行動をし易くする方がメリットが多い。接触した時に追われる可能性も在るが、電磁波を発するペイントさえ無くなればステルスによって逃げ切る事は出来る。
(とは言っても、先ずはペイントの消去を急がないと)
《同意……早急な消去は必要事項》
(……やっぱり、怒っているよね? 明らかにペイント付けられた事、怒ってるよね?)
《怒りと言う感情は存在せず》
何時ぞややったようなやり取りを行ないながら、付着しているペイントを消去する為の“ナノマシン”が出来るのを待つ。
ナノマシン作製を行なっている“小柄な影”が完成を告げるのを会話も無く黙したまま待つが、突然警報音が鳴り響く。
ーーービィィィィッ! ビィィィィッ!!
(何だ!?)
《『
(『紋章機』の反応だって!? まさか!?)
《自動砲台寄り送られて来た映像の照合の結果、接近して来ているのは『紋章機』を運用している艦艇と一致》
(……何で此処にあの艦が向かって来ているんだ?)
接近して来ている艦艇であるルクシオールの来訪は、完全に予想外だった。
近くに在る惑星ピコならば、重要な情報を持っているアルモが居るので訪れても可笑しくは無い。だが、今潜んでいる施設は自動砲台などの護りが在るのでルクシオールがやって来る理由は普通ならば無い。
まさか、ペイントから出ている電磁波が感知されたのかと考えるが、施設内部に居る限り電磁波が感知される可能性は低い。秘匿性を重視している為に対策は施されているのだ。
(試運転で外に出た時から、あの艦が来るまで時間は経ち過ぎている。電磁波を感知されてた可能性は低い筈だ)
《同意》
(……一体何の為に此処に向かって来ているんだ? …………とにかく、先ずは“あの子”をカプセルに戻した方が良いな。“あの子達”の秘密が知られたら、利用される可能性が高い。ナノマシンの完成が遅れるけど、すぐに戻してくれ)
《了解》
同意の音声が響くと共に、ナノマシン作製を行なっていたらしい“小柄な影”が作業を中断して通路に向かって歩いて行く。
(それと自動砲台から送られてくれる映像を俺にも見せてくれ)
《了解》
同時に自動砲台からの映像が展開される。其処には、四機の『紋章機』と施設を護る為に在る複数の自動砲台との戦闘が繰り広げられていたのだった。
次回で漸く『ゴースト』が居る場所が判明します。
もう分かっている人は分かっているでしょうけど。
同時に『ゴースト』も乗り手の所在地を知る事になります。
今回は更新が遅れて申し訳ありませんでした。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる