ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
気がつけば半年以上と更新を待っていた皆さん、申し訳ありませんでした。
5-1
『魔導惑星マジーク』。『
『
「と言うのが、大体のマジークの仕組みになります」
「へぇ~」
ティーラウンジでカルーアからマジークの説明を聞いたカズヤは、感心したように頷く。
同じ席に座るリコ、ナノナノ、アニスもカズヤと同じようにそれぞれ感心していた。ルクシオールに居るメンバーの中でマジークに関して最も知っているのは、そのマジークに住み、公認A級魔女の資格を持つカルーア。故にカズヤ達はこれから向かう事になるマジークに関してカルーアから説明を聞いていたのだ。
「それでよ。カルーア。お前と〝データ”との間にどんな因縁があんだよ?」
「親分。〝データ”じゃなくて〝ディータ”なのだ」
「うっ!」
ナノナノの指摘にアニスは顔を赤く染めた。
カズヤ、リコ、カルーアはアニスの様子に苦笑を浮かべる。そんな雰囲気を変えようと、カルーアの傍に浮かんでいたミモレットがカルーアとテキーラの間に在る因縁に関して説明する。
「ディータはカルーア様とテキーラ様が公認A級魔女になる時の試合で争そったのですに。結果は言うまでもなくテキーラ様が勝利。でも、ディータは自分の敗北が認められずマジークを去ったですに。それからは全く話を聞く事が無かったですにが……」
「今じゃ、セルダールを支配したクーデター軍の幹部って訳か。逆恨みも大概にしろってんだ」
実際アニスの言う通り、ディータのカルーア、テキーラ、そしてマジークに対する憎しみは逆恨みとしか言えない。
公認A級魔女の認定はマジークに於いて厳選且つ公平に行われる。カルーア、テキーラはその資格を実力で獲得した。普通ならば選ばれなかったと言え、カルーア、テキーラ、そしてマジークと言う惑星を憎むなどどう考えても可笑しい。
アニスだけではなく、カズヤ、リコ、ナノナノも疑問を感じていた。その疑問にカルーアは答える。
「ディータさんが私を嫌っている理由は、『私がマジーク出身でない』事が大本の理由に在ります」
「えっ? カルーアってマジークの出身じゃないの?」
「はい。私は元々は別の惑星に両親と一緒に住んでいました」
「その惑星に偶然カルーア様とテキーラ様のお師匠様が訪れたですに。お二方のお師匠様はカルーア様の魔法の才能を見抜き、マジークに来るように勧めたのですに。でも、マジーク出身のディータには、別の星の出身のカルーア様に負けた事が認められなかった。プライドだけは、人一倍高かったのはよく覚えてますに」
「それで、この前の通信の時にテキーラさんにあんなに敵意を向けていたんですね」
説明を聞いたリコは、ディータのテキーラに対する敵意の高さの原因が納得出来た。
プライドが高く、その上絶対に認められない相手に敗北したディータの怒りは底が知れない。逆恨みだからと言って侮る事は出来ない。ましてやこれからルクシオールが向かう惑星は、ディータが最も憎んでいるマジーク。どんな謀略や工作を仕掛けて来るか検討もつかない。
最悪、マジーク全土も巻き込む謀略を仕掛けて来る可能性は十分に考えられる。
「マジークを逆恨みしてやがるディータの事だ。ぜってぇ碌でもねぇ事してきやがるぜ」
「その可能性は高いですね」
「うん。この前の最後の通信の様子だと考えられるね」
「マジークが心配なのだ」
「…マジークには強力な魔法使いの方々も居りますし、ディータさん一人だけに負ける事はありません……ですけど…」
「もしも『セルダール』軍が動いたら、ちょっと不味いですに」
「えっ? どういう事なの、それ?」
何処となく不安と心配な様子を見せるカルーアとミモレットの様子に、カズヤは質問した。
それはアニス、ナノナノ、リコも同じなのか、カルーアとミモレットを見つめる。
「……マジークはセルダールと同じぐらい有名な星です。ですけど、決してマジークはセルダールと戦う事が出来ないんですの。それは歴史的にも証明されている事です」
「歴史的にって? どういう事だ、そりゃ?」
「何でマジークがセルダールと戦う事が出来ないの?」
「もしかして二人とも知らないのですに?」
『
『
「セルダールを護る騎士団には魔法を断つ剣技『練操剣』の使い手が居りますの。その剣技の前では如何なる魔法も通じませんの」
「昔、マジーク出身の邪悪な魔法使いがセルダールを支配しようとして戦いを挑み、敗北に追い込んだという歴史があるのですに。だから、マジークはセルダールを『
「な、なるほど」
「へぇ~、全然知らなかったぜ。マジークとセルダールがそんな関係に在るなんてよ」
初めて聞いたカルーアの説明に、カズヤとアニスは感心したように何度も頷く。
ナノナノとリコも感心しながらカルーアを見つめていると、何かを思い出したのか、ナノナノは憂いを覚えたように顔を下に俯ける。
「……そう言えば、リィちゃん……無事だと言いのだ」
「あっ! そう言えば……」
ナノナノの言葉にリコも思い出したのか、同じように憂いを覚える。
二人の様子にカズヤとアニスは首を傾げ、カルーアに顔を向ける。
「リコちゃんとナノちゃんが心配しているのは、最後の『ルーンエンジェル隊』のメンバーの方の事ですわ。名前は〝リリィ・C・シャーベット”。ルーンエンジェル隊に入る前にはセルダール騎士団の近衛隊長を務めてましたの」
「『ルーンエンジェル隊』の任務に集中する為に近衛隊長の役職の引継ぎの手続きにセルダールに戻っていたんです」
「って事は、クーデターに巻き込まれている可能性は高いなこりゃ」
「そうだね。無事だと良いけど」
会ったことは無いが、カズヤも最後の『ルーンエンジェル隊』のメンバーの無事を祈る。
ピコで再会する事が出来たアルモのおかげで、今回のクーデターを引き起こした主犯の正体は判明している。しかし、気を抜くわけには行かない。主犯が分かったとしても今だクーデター軍がセルダールを支配下に置いているのに変わりはない。
気を引き締めて行かなければならないとカズヤ達は思いながら、代金をメルバに支払いティーラウンジを出る。
「それでは、私とミモレットちゃんは研究室に行きます。失礼しますわ」
「んじゃ、俺様は少しばっかり運動してくっか」
「ナノナノは医務室のお手伝いに向かうのだ」
カルーア、アニス、ナノナノはティーラウンジの前でカズヤとリコと分かれた。
残されたカズヤはリコに顔を向け、これからどうするのか尋ねる。
「リコはどうするの?」
「私は倉庫の整理に行こうと思います。マジークでは補給も出来るようですし、今の内にリストを作って置こうと思って」
「それじゃ、僕も手伝うよ」
「あ、ありがとうございます!」
カズヤの言葉にリコは嬉しげな笑みを浮かべ、二人は一緒に倉庫に向かって歩き出す。
(良かった。リコが落ち込んでなくて)
アルモからの報告は確かにカズヤ達の助けになった。
だが、同時にリコには辛い報告も在った。大好きな姉であるミルフィーユが『
最も今は何とかその時のショックを乗り越えて、絶対にミルフィーユを助けだすと決意をリコは抱いている。故に最近は『紋章機』の調子が良くなっている。
しかし、それとは別の問題がルクシオールでは発生していた。
(……今日もちとせさん。格納庫で練習しているのかな?)
ルクシオールのブリッジでは、マジークとの通信可能距離に到達し、マジークに駐在している『
『……そう、今回のクーデター騒ぎの犯人はヴェレルの奴だったのね』
「あぁ、まんまと騙されていたようだ俺達は」
モニターに映るランファの不機嫌そうな様子に同意するように、レスターは艦長席に座りながら同意を頷く。
『ヴェレル』。今回のクーデターを引き起こした主犯をレスター、ランファ、いや『
『セントラルグロウブ』の詳細を知る為にヴェレルを目覚めさせたのだが、とうのヴェレルは長い間コールドスリープ状態で記憶を失っていると証言。警戒は続けていたが、怪しい動きは見られず、また『セントラルグロウブ』には戦力らしい物を発見出来なかったので油断してしまっていたのだ。
「アルモの証言から考えるに、『
『そんなのが二年間も見つけられなかったなんて可笑しいわよね。第一『セントラルグロウブ』が攻められた時にも発見出来なかったんでしょう?』
「あぁ……恐らく何らかのカラクリが在るんだろう」
『……まぁ、主犯が分かったおかげでマジーク政府との交渉が少しは進むわ。アンタ達が報告してくれたディータって言うマジーク出身の協力者の情報も役に立つわね……で、話は変わるけど、『ファントムシューター』だったかしら? 『ゴースト』の正式名称は?』
「名乗ったのがその『ファントムシューター』に積まれているAIだがな」
『二年間も謎だった相手の情報が分かったのは嬉しいけれど』
「……逆に謎が増えてしまった」
レスター達が求めていた『ファントムシューター』の情報は確かに前回の事件で得られた。
だが、同時に更なる謎が生まれた。『
極めつけは『ファントムシューター』のAIが望んでいるパイロット候補が、今ルクシオールに居るちとせと言う情報。
『……ちとせパイロットにが選ばれるなんて、一体どうなっているのかしらね? それにタクトが絡んでいるかもしれないなんて何の冗談よ?』
「俺にも分からんが、少なくとも『ファントムシューター』の後ろにタクトが居るのは間違い無い。俺の指揮に前置きなしで合わせられるのは全宇宙でアイツだけだ」
『でも、通信で繋がった時の声はタクトの声じゃなくて合成音だったんでしょう? 何で声まで隠すのよ?』
それもまたレスター達を悩ませている事の一つだった。
レスターは間違いなく『ファントムシューター』の背後にはタクトが居ると確信している。だが、何故タクトが二年間も自分達に内緒で行動していたのか分からない。
『
「鍵が在るとすれば、アイツが残した言葉」
『『絶対に乗っちゃ駄目だ』だったかしら? ……どういう事なのよ。本当に? 『ファントムシューター』のAIはちとせを乗せたがっていて、タクトはちとせを乗せたくない。もう! 訳が分かんないわよ!!』
「俺に怒るな。だから、アイツが残したもう一つの情報に関して調べて貰いたいんだ。最後にアイツはマジークと予言と言う言葉を言っていた」
現実主義者のレスターとして予言と言うのは余り信じていないが、タクトに繋がる何ならかの手掛かりが得られるのならば形振りは構っては居られない。
『それをマジーク政府に確認して欲しい訳ね。……分かったわ。アンタ達がこっちに到着する前に何とか調べて見るわね。じゃ、待っているわよ、マジークで』
通信が切れると共には、モニター画面に映っていたランファの姿が消えた。
レスターは力を抜きながら椅子に深々と座り込むと、アルモがレスターに近寄ってコーヒーを差し出す。
「司令。どうぞ」
「すまん」
此処最近、正確に言えばピコを出てから余りレスターは休めていなかった。
クーデターだけではなく、『ファントムシューター』に関する事柄まで神経を注がなければならない。アルモはそんなレスターを支えようと、今は秘書的な役所についている。時にはちとせの代わりにオペレーターとして仕事もこなしている。
そんなアルモの献身をココは優しげに見つめながら、レスターに話しかける。
「せめてもう少しフェムトを調べる時間が在れば良かったんですけど」
「『ファントムシューター』がフェムトを去ってからすぐに、警戒レベルが引き上がったから今の戦力では無理と判断するしかなかった。自らに関する情報は徹底的に隠すつもりのようだ」
レスター達ともフェムトを調べれば何か分かると思っていた。
だが、それは無理だった。フェムトの周囲に配置されていた自動砲台は機能を即座に回復。更に内部の警備システムのレベルも最大になっている。現在のルクシオールの戦力ではフェムトの攻略は難しいほどにまで上がって居る為、レスター達はフェムトを調べずにマジークに向かうしか無かった。ただでさえ時間も無いのだから、今は諦めるしかなかったのだ。
「一体、『ファントムシューター』ってなんなんでしょうね?」
「マイヤーズ司令は『禁断の紋章機』って言っていましたけど」
「『禁断』か。……一体『ファントムシューター』には何が秘められているんだ」
フェムトに『ファントムシューター』専用と思われる修復施設が在っただけでも、何らかの計画が過去に進められていた事は窺える。しかもその計画は『
もしかすればクロノ・クエイクが起きる前に繋がっていただろう多くの世界も関わっていた可能性さえも在る。だが、それだけの途轍もない計画ならば何故『
(『
『ヴァル・ファスク』との戦争で負けると『
もしかしたらクロノ・クェイク後に『
「……一先ずはランファが何らかの情報を得てくれることを願うしかないか……それで? ちとせは今日も?」
「……はい」
「……格納庫で紋章機に乗る練習をしています」
「……うっ!!」
「ちとせさん!!」
クロスキャリバーのコックピット内部に入ったちとせが口元を押さえて、膝を床につけると同時に医務官のモルデンが駆け寄る。
青い顔をしてガタガタと体を震わせるちとせを心配し、モルデンは背中を擦る。
「大丈夫ですか。今日はもう止めましょう。これ以上は流石に……」
「……だ、大丈夫……です」
明らかに痩せ我慢だと分かる声音で答えながら、ちとせは立ち上がろうと膝に力を入れようとする。
だが、幾ら意思を込めても膝は上がらず床に着いたままちとせは両手で体を抱き締める。どんなに意思を込めても、心に負った傷が紋章機に拒否反応を起こしているのだ。
しかも、まだちとせはクロスキャリバーのコックピットの入り口付近の床に居るだけ。コックピットの座席にさえ辿り着いていない。もしもモルデンがコックピットの座席に運んだりすれば、更に拒否反応を起こしてちとせは半狂乱になってしまう。
「…な、何で……何で私は……」
嘆きながらちとせは力無くクロスキャリバーの床に手を打ち付ける。
入り口から僅か数メートル先にコックピットの座席が在る。だが、其処に辿り着くまでの距離が、ちとせにとって実際の距離ではなく、何処までも遠く離れた地平線に思えるほどに離れていた。
「……乗れさえすれば……紋章機に乗れさえすれば……『ファントムシューター』に……そうすれば……あの人の居る場所に……い、行けるのに……あぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「……ちとせさん」
嘆き悲しむちとせの姿を見ていられず、モルデンは顔を背ける。
それは格納庫に居る整備班の面々も同じく、誰もが格納庫に響き渡るちとせの嘆きの声に辛そうに顔を歪めるのだった。