ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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最早忘れられてもおかしくないこの作品に、評価、感想、お気に入りをして頂き深く感謝します。


5-4

 ブリッジは重苦しい空気で満ちていた。

 マジークの魔法院の長であるキャラウェイが語ったのは、『全ての終焉』に関わるとされる『()()()()()

 しかし、その肝心の内容は遥か昔に失われ、今では『()()()()()』に関して詠みあげたマジークでも概要しか分からなくなってしまっていた。

 だが、その概要だけでも恐ろしいものだった。

 

「……あ、あの口を挟むようですけど、それは何かの間違いじゃないですか? だって、その予言が詠みあげられたのはもうずっと昔の事なんですよね? 今も世界は、宇宙はずっと続いているじゃないですか?」

 

 思わずカズヤは口を挟んでしまった。

 実際、今日まで宇宙は続いているのでカズヤの意見は最もだった。

 だが、そんなカズヤの希望を砕くようにキャラウェイは険しい顔をしながら口を開く。

 

「其処の方? 貴方は『NEUE(ノイエ)』出身ですか?」

 

「えっ? あっ、はい。そうですけど」

 

「では、貴方も知っている筈です。この『NEUE(ノイエ)』に古から伝えられていた言い伝えを」

 

「あっ!」

 

 キャラウェイの言葉にカズヤは思い出した。

 子供の頃から、それこそカズヤが産まれる遥か昔から『NEUE(ノイエ)』に伝わる言い伝えを。

 

宇宙は一つではない。

 

幾重にも存在し。

 

絶対の神殿により統べられる。

 

やがて時が震え。

 

神殿への扉は閉ざされる。

 

再び開かれるのは遥かな未来。

 

白銀の翼を持つ天使に導かれ……

 

 ただの伝説に過ぎない言い伝えだと、『NEUE(ノイエ)』に住む誰もが思っていた。

 しかし、その言い伝えが真実だったという事は、今の『NEUE(ノイエ)』に生きる誰もが知っている。

 その事実に気が付いたカズヤは、思わず身体を震わせながら呟く。

 

「まさか、あの言い伝えも……」

 

「ええ、そうです……あの言い伝えもまた、遥か昔にマジーク出身の予言者が詠みあげたものなのです」

 

「っ!?」

 

 カズヤは息を呑んだ。

 『NEUE(ノイエ)』に伝わる言い伝えは遥か昔から伝わるもの。それが真実だという事は、既に証明されている。

 ならば、別の予言もまた真実である可能性がある。それが例え破滅に繋がる予言だったとしても、否定できる根拠は既に別の予言が真実だったと証明されてしまった時点で失われてしまったのだ。

 

(まさか、フェムトにあった施設は、その予言とやらの対処の為に用意されたのか)

 

 レスターの脳裏に浮かんだのは、フェムト内部に存在していた隠し施設。

 明らかに『ファントムシューター』専用の施設で会った事も加え、今だフェムト内部で眠りについているナノナノの姉妹達も起こして何かしらの作業をさせた疑い。

 それらの全ては遥か昔に用意されていた『()()()()()』への対処の為だったとすれば、説明がついてしまう。

 

(やはり、『ファントムシューター』には過去の『NEUE(ノイエ)』だけではなく、『EDEN(エデン)』も関わっていたと見て間違いない。でなければ、わざわざ『EDEN(エデン)』製の紋章機と同じ型の機体にする必要はない。だが、『全ての終焉』だと? それほどの大事なら、何故アイツは俺達に頼ろうとしないんだ!)

 

 最早確信に近い形で『ファントムシューター』の背後には、タクト・マイヤーズが関わっているのは明らか。

 だからこそ、レスターを含めてタクトと言う人物を知っている誰もが分からなかった。何故『アナザースピース』から帰還しながら、自分達の前に現れようとしないのか。

 その疑問の答えが分からず誰もが疑問に思う中、ブリッジの扉が開き、険しい顔をしたテキーラがミモレットを伴って入って来た。

 

「あっ!」

 

「カル……いや、テキーラ!?」

 

 ブリッジに入って来たカルーアではなく、変身したテキーラに気が付いたカズヤは驚いた。

 

「はぁい、心配かけたかしらね?」

 

「あたりめーじゃねぇか。もう動いて平気なのかよ?」

 

「ええ、アタシはね……」

 

「ん?」

 

 何処となく言い淀んだテキーラにカズヤは疑問を感じた。

 

「ミーモも大丈夫なのだ?」

 

「もう元気ですにー!」

 

「良かった!」

 

 心配していた三人の内、テキーラとミモレットの無事な姿にリコは安心した。

 しかし、テキーラは苦々し気な顔をして、先ずレスターに顔を向け、そしてキャラウェイが居る事に気が付く。

 

「お師匠様!?」

 

「久しぶりですね、テキーラ。こんな状況でなければ会うのは嬉しかったのですが……」

 

「丁度良かったわ! すぐに医務室に来て!?」

 

「んん? 医務室にですか?」

 

 突然のテキーラの言葉にキャラウェイは面をくらった顔をした。

 

「どう言う事だ、テキーラ? 今は会談中なんだが」

 

「重要な話なの!? クールダラス! アンタも来て! それとシラナミも!?」

 

「えっ、僕も?」

 

「ええ、そうよ! ほら、お師匠様! 急いで!」

 

「テキーラ? 一体何が?」

 

 何時になく焦ったテキーラに連れられて、レスター、キャラウェイ、カズヤは医務室に連れられて行った。

 

「こ、これは!?」

 

 医務室についたキャラウェイは、其処で今だ意識が戻らずに眠り続けるちとせを見て目を見開いて固まった。

 カルーアとテキーラの師で彼女は気が付いたのだ。ちとせの身体から感じられる禍々しい魔力の気配を。

 

「一体誰がこんな事を!?」

 

「どう言う事だ、テキーラ? 俺にはただちとせが眠っているようにしか見えないが?」

 

「僕にもだけど? ちとせさんがどうかしたの?」

 

 何故キャラウェイが大慌てしているのか分からず、自分達をこの場に連れて来たテキーラにレスターとカズヤが質問する。

 

「その前にシラナミに尋ねたいの?」

 

「僕に?」

 

「火事騒ぎの事ですに」

 

「そう。カルーアが意識を失う直前の記憶だと、シラナミとちとせと一緒にいるんだけど、間違いない?」

 

「うん、そうだよ。それで冷蔵庫の中で意識を失った二人と店員さんが、救急隊の人にレスキューワゴンに運ばれて行ったんだ」

 

「それはどのくらい!? どのくらい、私達がそのワゴンに運ばれてから、皆と離れてどのくらい経っていたの!?」

 

「う~ん……僕も警察の人に事情聴取を受けてから結構長く……そう。多分、一時間ぐらいはワゴンから離れていたと思う」

 

『っ!?』

 

 告げられた事実にテキーラとミモレットは息を呑んで固まった。

 そしてテキーラは苦い顔を浮かべて呟く。

 

「その時か……やられた」

 

「やられた? 何を?」

 

「油断したわ。まんまとディータの策に嵌められた」

 

「ディータ!? ちょっとテキーラ! 何が何だかさっぱりだよ!?」

 

「ああ、俺もだ。一体どう言う事なのか、説明しろ、テキーラ」

 

「ああ、ごめんなさい。順に説明するわ」

 

 自身が焦り過ぎたと気が付いたのか、テキーラは順に説明する。

 

「多分、アルコールか何かを嗅がされて変身した影響なんでしょうけどカルーアの意識が無い時だけど、私には朧気に記憶があるの。何処かの個室の中でディータが何かをちとせに施してる光景が」

 

「何だと?」

 

「ええっ!?」

 

「夢か何かだと思っていたんだけど、今のシラナミの話で確信したわ。アイツは私達よりも先にマジークに潜入していて、あの火事騒ぎを引き起こすようにカルーアの記憶の中にいるチンピラを誘導したんだと思うわ」

 

「待て、テキーラ。今の話は憶測に過ぎないぞ。第一、レスキューワゴンに救助されたお前達だけでいる筈が無いだろう? 何かあった時の為に救助隊の誰が居るはずだ」

 

「そうだよ。僕は確かに救助隊の人が一緒にワゴンの中に入るのを見たよ」

 

 その時の事を思い出したカズヤが説明した。

 

「その救助隊の隊員もディータの一味だったとしたら?」

 

「えええっ!? まさか、そんな!?」

 

「……テキーラの話はあながち間違いではないかも知れません」

 

 テキーラの説明を援護するように、ちとせの容態を見ていたキャラウェイが口を開いた。

 

「身内の恥を晒すようですが、このマジークにもディータの考えに同調する者は大勢いるのです」

 

「ディータの考えって……もしかしてマジークの出身者じゃないテキーラが、公認A級魔女の称号を得た事ですか?」

 

「ええ、そうです。他にもこの度のクーデター騒ぎで『EDEN(エデン)』の方々に対して、不信感を得た者を操り、例の火事騒ぎを起こした可能性は充分に考えられます。何よりも……」

 

 言い淀みながらキャラウェイはベットで眠るちとせを、申し訳なさそうな顔をしながら見つめた。

 

「彼女には呪いが掛けられています。しかも念入りに」

 

「なっ!?」

 

「ええっ!? ちとせさんに呪いが!? 一体どんな!?」

 

「それを知る為に、お師匠様にちとせを診て貰うようにお願いしたのよ」

 

 テキーラも若くして公認A級魔女の称号を得た天才だが、ディータもまた公認A級魔女候補に名が上がる程の魔女。

 幾らテキーラでも、同格に近い相手がちとせに施された呪いをすぐに解析して、発動条件を見極める事は出来なかった。

 

「幸いなんて絶対に言えないけど、幾らディータでも一時間程度なら命に関わるような呪いを掛けるのは無理。それにこのままちとせが眠っていてくれれば、呪いの発動条件が満たされる事は無いと思う。それにこの場には私よりも数段以上も実力が上の魔女。お師匠様が居るわ」

 

「ええ、彼女、ちとせさんに施された呪いの術式は判明しました。後は、これを解析し、発動条件を満たす前に解呪すれば彼女は安全です。遅くとも一日以内には解呪は見込めます」

 

「良かった!」

 

 一先ずちとせの安全にカズヤは喜び、レスターも安堵の息を吐いた。

 

「では、私は急いでマジークに戻り、呪いの解呪の準備を急ぎます。クールダラス指令。残る話は後日と言う事で」

 

「ええ……キャラウェイ氏。どうかちとせの事を宜しくお願いします」

 

 レスターは深々とキャラウェイに向かって頭を下げた。

 魔法や呪いの類など、レスターには完全に門外漢であり、頼れるのは目の前にいるテキーラとその師であるキャラウェイのみ。

 キャラウェイはレスターに向かって頷く。事はマジークの者が起こした。

 ちとせに掛けられている呪いを直接調べた事で、キャラウェイ自身もディータが関わっている事を確信できた。

 

(急ぎ魔法院に戻り、対策を練りながら彼女に施された呪いの解析も急がねばなりません)

 

 己のすべき事を考えながら、キャラウェイは足早にレスター達の前から去って行った。

 その場に残ったレスターは、カズヤとテキーラに顔を向ける。

 

「俺はキャラウェイ氏を見送った後にブリッジに戻る。二人は一先ず休んでいてくれ。敵がマジークに潜んでいる以上、何時何が起きるか分からないからな。今の内に休んでおけ」

 

「分かりました」

 

「そうさせて貰うわ。私もまだ本調子じゃないし。ああ、でもシラナミ」

 

「はい?」

 

「ちょっと付き合って。アンタにはまだ話があるのよ」

 

「は、はい……」

 

(話って何だろう?)

 

 疑問を覚えながらもカズヤは、テキーラの後をついて行った。

 そして彼らが去り、医務室にはカルテの整理をしているモルガンとベットの上で眠るちとせだけが残された。そんな中……。

 

「んっ……タクトさん……いやぁ……私を置いていかないで……」

 

 悲し気な声を発するちとせの全身に、禍々しい紫の光の紋様が浮かび上がっている事に気付く者は誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 カズヤとテキーラ、そしてミモレットは無言でエレベーターに乗っていた。

 空気が何処となく重く感じたカズヤは、隣にいるテキーラに尋ねる。

 

「あの……どこへ?」

 

「アタシの部屋よ」

 

「そう……」

 

(えっ? 部屋って、テキーラの!?)

 

 普通に返事を返してしまったカズヤだが、女性の部屋にこれから向かう事を知って内心で慌てた。

 今日までに何度かカルーアとテキーラの研究室には訪れた事はあったが、私室に訪れるのは初めて。

 しかも大人っぽい女性であるテキーラに誘われた事に気付いて内心ドギマギしながら、エレベーターから降りてピロティを通る。

 

(あっ、でも、ミモレットも一緒にいるから二人きりって訳じゃないか)

 

 そう思うとカズヤの高鳴っていた心臓も落ち着いて来る。しかし……。

 

「ミモ……」

 

「なんですかに?」

 

「ちょっと出てて」

 

「に!?」

 

(えええっ!?)

 

 カズヤの予想に反してテキーラは、ミモレットの退出を願った。

 

「なんでですかに? それだとカズヤと二人っきりに」

 

「良いから!」

 

「うっ……わ、分かりましたですに……カズヤ。くれぐれも不埒な事を考えるなですに」

 

「わ、分かってるよ!」

 

 落ち込みながら去り際に忠告されたカズヤは、慌てながらも返事を返した。

 そのままミモレットはピロティの方へと去り、その場にはカズヤとテキーラだけが残った。

 カズヤの方は内心でドキドキだったが、テキーラの方は何でもないと言うようにあっさりと私室の鍵を開けた。

 

「さ、中に入って……」

 

「お、お邪魔します……」

 

 此処まで来たらと覚悟を決めたのか、カズヤはカルーアとテキーラの私室に足を踏み入れた。

 部屋の中はきちんと整理整頓されていて、床はモフモフとした絨毯になっていた。

 

「まぁ、適当に座ってよ……」

 

「うん。よいしょ……此処がカルーアとテキーラの部屋なんだね。研究室とは随分と雰囲気が違うね」

 

「私生活と魔法の研究は分離してるのよ。此処には魔法に関わる物は余り置いてないわ」

 

(言われてみればそうかも……)

 

 余り魔法に関して詳しい訳ではないが、部屋の中に置かれている物は普通のインテリの類だった。

 失礼にならない程度に部屋を見回していると、部屋の中に微かに漂う良い匂いにカズヤは気が付いた。

 

「何だか良い匂いがするね」

 

「マジークのお香よ。心を落ち着かせると言われてるわ」

 

「確かにそんな感じがするね。良い香りだ」

 

 漂うお香の香りに部屋に入る前まで、高鳴っていた心臓が落ち着いて来るのをカズヤは実感していた。

 とは言え、何時までも香りで誤魔化せるか分からないので、意を決してカズヤは本題に入る。

 

「えっと、それで話って?」

 

「……………」

 

「あ、あの……」

 

 無言で押し黙ったテキーラに、不安を感じたカズヤが恐る恐る声を掛けると……。

 

「シラナミ!」

 

「わぁ! は、はい!」

 

 いきなり大声で呼ばれたので、思わず驚きながら返事を返した。

 

「アンタ、火事の時のカルーアの様子……気付いてるでしょう?」

 

「あ、う、うん、ちょっと……いや、かなり怯えていたように見えたけど……」

 

 ちとせの方も大変だったが、カルーアも異様に怯えてずっと気絶したミモレットを抱き締めながら震えていた事をカズヤはちゃんと覚えていた。

 

「はぁ~。ちとせの方で大変だったみたいだから、もしかしたらって思ってたけど、当然気付くわよね。せめてもの救いはアンタとちとせにしか見られていないって事ぐらいか」

 

「……あ、あのさ。カルーアがアレだけ怯えるってことは、それなりのワケがあるんだよね?」

 

「まぁね……」

 

「良かったら教えてくれないかな? そ、その……嫌じゃなければ……」

 

 気にはなるがカズヤも無理に聞くつもりは無かった。

 もしも話すのを拒否されれば、そのまま部屋を出ていくつもりでもいる。

 しかし、テキーラの方はもう決めていたのか口を開く。

 

「そぉねぇ……。まぁ、話すつもりだったから、ミモを閉めだしたんだけどさ……ちょっと長くなるわよ」

 

「うん。今は時間もあるし、大丈夫だよ」

 

「ふぅ……これはカルーアが魔法を使わなく……いえ、使()()()()()()()理由に深く関係しているわ」

 

使()()()()()()()?」

 

「そっ……まだ凄く小さかった頃の話。カルーアには女の子の友人が居たの。名前は『ミモレット』」

 

「ミモレット?」

 

 その名前はカルーアとテキーラの使い魔と同じ名前。

 偶然とは思えずにカズヤがテキーラを見つめると、彼女は神妙な顔をしながら頷いた。

 

「そう、ミモの名前はこの友達から取られているの……カルーアは毎日ミモレットと遊んでた。遊び場は近所の使われなくなった納屋。時間を忘れるほど遊んで、良く怒られたわ。それだけ、仲が良かった。でも、カルーアが8歳になった時、事故が起こるの」

 

「事故?」

 

「そう。その日、カルーアは学校で習った発火魔法をミモレットに見せた。別に自慢したかった訳じゃない。仲の良いミモレットに自分の成長を見て欲しかっただけ……そして納屋は火事になってしまうの」

 

「火事に!?」

 

「ええ、業火に囲まれて二人は動けなくなってしまうの」

 

(それって、今日の火事と同じじゃないか!?)

 

 テキーラの説明と今日の火事の状況が似すぎている事にカズヤは気が付いた。

 

「やがて、煙を吸い過ぎたミモレットは、カルーアの腕の中でぐったりと項垂れた。その時よ、カルーアの中で眠っていた真の力が覚醒したのは」

 

「真の力?」

 

「ミモレットを助けたいと願うカルーアの心に、眠っていた魔力が目覚めた。大気はカルーアに呼応し、猛烈な嵐が業火に包まれる納屋を襲ったわ」

 

「そんな事が……」

 

 物語ような話だが、今カズヤが聞かされている話は実際に起きた事。

 カルーアにそんな過去があったことを驚きながらも、カズヤは口を開く。

 

「でも、そのおかげで二人は火事から助かったんでしょう?」

 

「確かに二人は助かったわ。カルーアが引き起こした豪雨でね。その豪雨で火事が収まり始めると、ミモレットも目を覚ました……そして見てしまったの」

 

「何を?」

 

「吹き荒れる雨と風の中心で魔力を解放するカルーアを……その悪魔のような姿を……」

 

「っ!?」

 

(まさか、そんな!?)

 

 此処までの説明でカズヤはテキーラが言いたい事が朧気ながら理解出来た。

 当時8歳の子供が、本来ならば対処する事など出来ない災害を、超常の力で蹴散らした。だが、それを目の当たりにした同い年子供がどう思ってしまうのか。

 

「二人は助かった。でも、ミモレットは二度とカルーアに近寄らなかった」

 

(そんな!?)

 

 最悪の可能性が当たってしまった事に、カズヤの顔に苦悩が浮かぶ。

 

「そして、カルーアは人前で魔法を使わなくなった。火事を起こしたのも、友達を危険に晒したのも魔法のせい。友達が離れていくのも魔法のせい。そんなトラウマが心に刻み込まれてしまったのね……これがカルーアが魔法を使わない……いいえ、使()()()()()()

 

「そうだったんだ。そうか。それでさっきの火事の時……」

 

「ええ、状況が似過ぎてたわ。別人とは言え、ミモレットがまたもやあんな事になったし……思い出したくもない事を追体験しちゃったわけ」

 

「それで、あんなに怯えていたんだ)

 

(でも……偶然なのかな?)

 

 カズヤは違和感を感じた。

 少なくともミモレットがランファ特製の激辛1000倍カレーを食べたのは偶然だが、その後の火事に関しては背後にカルーアとテキーラを憎悪しているディータが関わっている。

 

(もしかしたらディータはカルーアの過去を調べて、精神的に追い詰める為にあの火事騒ぎを起こしたんじゃ)

 

「今回もカルーアは最初は魔法で何とかしようとしたわ……でも、出来なかった。それほどトラウマは大きいの」

 

(やっぱり、カルーアもちとせさんと同じようにトラウマを抱えていたんだ)

 

 重症度で言えばちとせの方が上かも知れないが、カルーアもまたトラウマを抱えていた。

 

「それなのに僕、魔法でなんとかしてって言っちゃった……ごめん、テキーラ」

 

「気にする事はないわ。あの状況なら……そ、そう……考えて……当然……」

 

「テキーラ?」

 

 急に目蓋が上がったり下がったりし出したテキーラに、カズヤは不安を感じて声を掛ける。

 

「どうしたの? 大丈夫?」

 

「ご、ごめん。大丈夫よ……ただ眠いだけ……今まで耐えていたけど、カルーアが眠っているのに引っ張られて来たみたい……うぅ~」

 

「そ、そうだったの!? 大丈夫? 長話する事になってごめん!」

 

 知らなかったとはいえ、テキーラに無理をさせていた事に気付いたカズヤは謝罪した。

 

「気にしないで……うぅ……誘ったのは私だし……ただ、流石に限界みたい……お願い、ベットに連れて行って……もうまともに歩けそうにないの」

 

「えぇ!? た、大変だ! ほら、こっちだよ!」

 

 慌ててカズヤはテキーラを支えて、部屋の中にあるベットの上に横にならせた。

 

「ありがとう……シラナミ……んんっ……」

 

 礼を告げると共にテキーラの姿が変わり、カルーアへと戻った。

 

「すぅ~、すぅ~」

 

「カルーアに戻っちゃた……良く寝てるな。毛布を掛けてっと。それじゃ、おやすみ、カルーア、テキーラ」

 

 これ以上此処にいる必要は無いと思ったカズヤは、カルーアの私室から出た。

 

(それにしても……カルーアにもあんな重い過去があったなんて)

 

「話は終わったんですかに?」

 

 カズヤが考え込んでいると、ピロティでずっと待っていたのかミモレットが飛んで来た。

 

「ああ、ミモレットか。うん、話は終わったよ」

 

(ミモレットも自分の名前の由来を知ったら驚くだろうな)

 

 そう考えるカズヤだったが、勝手に先ほどの話をするつもりは無かった。

 わざわざテキーラがミモレットの同席を断ったのだから、カズヤが話す訳にはいかない。

 

「では、わちしはご主人様のところに戻るですに~」

 

「あっ、待って。カルーアもテキーラも寝ちゃってるよ。二人とも今日は色々あって疲れてる。今は寝かせてあげようよ」

 

「そうですかに……では、暫らくは部屋に入らないですに……」

 

「うん、それが良い」

 

「暇ですに……散歩でもして来るですに~」

 

 何処となく落ち込んだ様子でミモレットはカズヤの前から去って行った。

 

(なんか色々考えちゃうな……『ファントムシューター』に繋がる『()()』の事とか、ちとせさんに掛けられた呪い……それにカルーアの過去とか……もし起きた時に立ち直れなかったら……)

 

 次々と襲い掛かる出来事に、まだ新人隊員でしかないカズヤは暗い事ばかりが浮かんでしまう。

 

「だめだ! だめだ! 暗く考えちゃ!」

 

(ずっと謎だった『ファントムシューター』の事も少し分かったんだし、ちとせさんに掛けられた呪いだって明日には解ける! カルーアもきっと大丈夫さ!)

 

「僕も気晴らしに少し歩こう」

 

 ミモレットに続き、カズヤもルクシールの中を散策する為に歩き出したのだった。

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
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