ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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今話は原作と幾つか違う点があります。


6-3

 ブリーフィングルーム内では、既にレスターの指示に従ってカズヤが集めたルーンエンジェル隊の面々が自らの席に座っていた。

 

「あの~、戦闘でもないのにブリーフィングルームに集まれって一体何なのでしょう? 私、出来れば呪いの研究に集中したいのですが~」

 

 カルーアはマジークを出た後から、ずっとちとせに掛けられた呪いの研究に勤しんでいた。

 マジークを出る直前に師であるキャラウェイから届けて貰った呪いの解析結果も材料に、解呪の手段を探っていたが、今だ成果は出ていない。

 だからこそ、一分一秒も無駄には出来ないとカルーアは思っている。

 

「でも、カルーアさん自身が無理をしたらいけません」

 

「ですが~、リコちゃん~。ちとせさんがあんな事になったのは私のせいですから~」

 

「それは違うよ、カルーア! 悪いのはディータの奴だよ!」

 

「そうなのだ! あのひねくれおばさんが悪いのだ!」

 

 落ち込むカルーアを擁護するようにカズヤとナノナノが叫んだ。

 実際、カルーアもテキーラも悪くない。悪いのは嫉妬心をこじらせた挙句に、マジークまで滅ぼそうとしたディータだった。

 

「ところで、親分は何でふくれてるのだ?」

 

「うっせー! 放っとけ! ミントの野郎~……」

 

(まだ怒ってるんだ)

 

 格納庫でのアニスとミントの一方的な戦いの様子を知っているカズヤは、額から汗を流すしかなかった。

 そうしている間にブリーフィングルームの扉が開き、レスターが入室して来る。

 

「待たせたな、お前達」

 

「あっ、司令」

 

 レスターの入室に気付いたカズヤ達は椅子に座り直した。

 

「ああ、楽にしてくれて構わない。集まって貰ったのはちょっとした事だからな」

 

「それは何でしょうか~」

 

「現在本艦はミントの商会が所有するデパートシップの補給を受けている。停泊している位置も小惑星帯の奥深く、敵には早々見つからないはずだ。『紋章機』も現在はアジートの機体を除いてフルメンテ中だ。なので、これからの戦いを考えて今よりクルー達に順番にデパートシップ内での自由行動の許可を与える事にする。その第一陣がお前達ルーンエンジェル隊の面々だ」

 

「デパートシップ内での……自由行動ですか?」

 

 正直言えばカズヤはかなり惹かれた。ルクシオールの窓から見た巨大なデパートシップ。

 その中を限られた時間内だともしても、自由に行動できることに惹かれない筈がない。だが……。

 

「あの~、それでしたら私は研究の方に専念したいのですが~」

 

「ナノナノも興味はあっても、ちとせの方に専念したいのだ!」

 

 カルーアとナノナノは二人揃って、休暇を拒否した。

 二人がそう言うのを分かっていたと言うように頷くレスターだったが、ちゃんと休暇を取らせる意味があった。

 

「カルーア。ナノナノ。お前達はそう言うと思っていた。だが、ちとせの事は確かに重要だが、お前達自身も無理をし過ぎれば今後の戦いに影響する」

 

「それはそうですけど~」

 

「でも、ちとせが……」

 

「……これは補給を終えた後に言うつもりだったが、本艦は補給完了後にセルダール方面に進み、ファントムシューターの捜索を行なう」

 

『っ!?』

 

 レスターの宣言にカルーアとナノナノだけではなく、カズヤ、リコ、アニスも目を見開いて驚いた。

 

「ミントからの情報によって、奴は現在積極的にクーデター軍の侵攻を妨げる為に単機でゲリラ戦を仕掛けている。どうやら例の未知の移動法は、長距離だけではなく短距離でも使用できるようだ」

 

「マジかよ……それってつまり、目の前にいたのにこっちの背後に回り込む事も出来るって事だよな?」

 

「その通りだ、アジート」

 

(な、なんて恐ろしい移動法だ)

 

 今現在ルクシオールや他の艦で使われている『クロノドライブ』は、光年単位で距離を移動する為の長距離移動法。

 だが、ファントムシューターが用いている謎の移動法は『クロノドライブ』のような長距離移動法だけではなく、世界間移動に加え、短距離転移に近い事まで可能と言う事がミントが持って来た情報によって判明した。

 

(『時間も空間も関係ないアナザースペース』。その言葉通りだな)

 

 ステルス機能が電磁波を発生させるペイントが付いてしまったことで無意味になってしまったファントムシューターが、次に使用したのは、自らに備わっている謎の移動法を用いた戦闘手段。

 事前にこの戦法を知る事が出来て良かったと、レスターは心の底から思った。

 

「言うまでもないが、ファントムシューターは強敵だ。だが、俺達はちとせの為にも必ず奴を次の機会に捕獲する。その為に今の内に英気を養ってくれ」

 

「……分かりましたわ~」

 

「ナノナノも了解なのだ! 必ず次は捕まえるのだ!」

 

 カルーアとナノナノも休暇を了承した。

 

(良かった! 二人とも最近根を詰めた様子だったから心配してたんだよね)

 

 人知れずカズヤは安堵の息を吐き、ミーティングを終えてそれぞれブリーフィングルームを退出した。

 

(それにしてもデパートか……アレだけ大きいと全部は周り切れないだろうし、やっぱり買い物を中心とすべきかな? う~ん、パンフレットとか在れば良いのに)

 

 全てを周れない以上、どうすべきかとカズヤは悩む。

 そんなカズヤに……。

 

「あ、あの……シラナミさん」

 

「えっ? あっ、リコ」

 

 聞こえて来た声に振り向いてみると、リコがいた。

 

「どうしたの、リコ?」

 

「すみません。急に声を掛けて……でも、その……え~と……」

 

「ん?」

 

「そ、その……良かったらで良いんですよ。よ、よかったらで……い、一緒に行きませんか!! デパートシップに!」

 

「あっ!」

 

(こ、これって誘われてる!?)

 

 男嫌いのリコからのまさかの誘いにカズヤは目を見開いて驚く。

 

「いえ、本当に良かったらで良いんです」

 

「リコ……ありがとう、誘ってくれて。僕で良ければ是非お付き合いさせて貰うよ」

 

「あ……あ~、シラナミさん」

 

 自身の誘いを受けてくれたカズヤに、リコは花咲かんばかりの笑顔を浮かべた。

 その笑顔にカズヤも嬉しくなって笑顔を浮かべながら、リコに声を掛ける。

 

「よし! 早速行こうよ! デパートシップは広いから急いで行かないと、せっかくの休暇がなくなっちゃうからね。リコは行きたいところとかあるの?」

 

「は、はい……そのアクセサリーを扱っているお店に」

 

「アクセサリーか。なら急いでいかないとね。アレだけ広いと探すのも大変そうだから」

 

「それなら大丈夫です。事前に調べておきました。メモも取ってあります」

 

「はは、流石はリコだ。これで迷わないね」

 

(良かった。実は広すぎて迷子にならないか、心配だったんだよね)

 

 カズヤとしては胸を張って女性を案内したいところだったが、流石にあの大きさのデパートシップでは迷子にならない自信がなかった。だが、まだまだカズヤの認識は甘かった。

 

「いえ、その、実は30軒以上もあるらしくて」

 

「ええっ!? 30軒!?」

 

「とても全部は回れませんね」

 

「デパートシップ……大き過ぎ……」

 

 最早自身の想像を超えたスケールを誇るデパートシップに、カズヤは愛想笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

 デパートシップの中はカズヤとリコが想像していた以上に広かった。

 事前のリコのリサーチのおかげで、何とか一軒目にアクセサリーショップに辿り着く事が出来たが、他の場所を回っている余裕はなさそうだったので買い物は其処だけにして、カズヤとリコはデパートシップ内のベンチに座っていたクレープを食べていた。

 

「結構美味しいね」

 

「はい! とても! ふふっ」

 

(嬉しそうだな、リコ。やっぱりあのアクセサリーをプレゼントして正解だった)

 

 先ほど訪れたアクセサリーショップで、カズヤはリコから姉であるミルフィーユとの心温まる姉妹の髪飾りに関する話を聞いた。

 そのお礼と言う訳ではないが、カズヤはリコがアクセサリーショップ内で気に入った髪飾りをプレゼントしたのだ。

 リコはそれを喜んで受け取ってくれたので、カズヤとしてもプレゼントした甲斐があった。

 

「それじゃ、これからどうしようか? 他のアクセサリーショップにやっぱり行ってみる?」

 

「いえ、流石に次の場所を見つけるのも大変そうですから」

 

「だよね……」

 

 一軒目を見つけるだけでも時間は掛かった。

 流石に近場に別のアクセサリーショップがあるとも思えない。だが、まだ少しだけ時間はある。

 カズヤとリコはどうしたものかと思い悩んで周囲を見回していると、リコがある一軒のお店に目を留める。

 

「アレ? もしかしてあのお店って?」

 

「どうしたの? 何か気になるお店でも?」

 

「はい。もしかしたらですけど」

 

 リコがカズヤの手を引いて案内したお店は、他の華やかなお店とは違う質素な雰囲気を纏ったお店だった。

 

(何だろう? 初めて見るような物ばかりだ?)

 

 店内に並んでいる物は、全てカズヤが見た事が無い物ばかり。

 

「やっぱり、このお店って」

 

 しかし、リコは何か知っているのか、頻りに置かれている品を確認している。

 

「リコは知ってるの?」

 

「はい。これはちとせさんの故郷の星の品です」

 

「えっ!? ちとせさんの故郷の星って、じゃあ、『EDEN(エデン)』の物なの!?」

 

 そう言われて改めて店内の品物を見回してみる。

 だが、店内に並ぶ品はこれまでカズヤが目にして来た『EDEN(エデン)』の物とは全く違い、質素ながらも何処か趣を感じさせるような物ばかりだった。

 

「ちとせさんの故郷の星は独特の文化だそうで、『EDEN(エデン)』でも珍しいんです」

 

「へぇ~、そうだったんだ」

 

「例えばこのお茶とかも、紅茶と違って独特の味わいがあるんです」

 

「紅茶と違うんだね」

 

「はい。他にも……」

 

 リコは次々と自分の知る限りの店内に、置かれている物をカズヤに説明した。

 

「本当に独特の文化なんだね。茶柱とか」

 

「ええ、そうですね」

 

(でも、ちょっと詳し過ぎないかな?)

 

 せっかくだからとちとせへのお土産に幾つかの品を買っているリコを見ながら、カズヤは疑問を覚えた。

 そのまま店内を出て、デパートシップ内の道を歩きながらカズヤは気になった事を質問した。

 

「リコは随分とちとせさんの事を知ってるんだね」

 

「ええ……その、実は最初の頃、私はちとせさんの事が苦手だったんです」

 

「えっ? そうなの? 今は仲が良いのにどうして?」

 

「……四年前、戦いからお姉ちゃんが帰って来た時、何時も笑顔で元気づけてくれていたお姉ちゃんが初めて私の前で泣いたんです」

 

「……っ」

 

 悲し気なリコの姿にカズヤは言葉が出せなかった。

 

「お姉ちゃんはその時、『一緒にいて欲しかった人達が居られなくなった』。『私にもっと力が在れば』って、本当に悲しそうに、私の腕の中で泣いたんです……だから、私はお姉ちゃんが泣いた理由を調べました。そしてちとせさんの事を知りました。どんな理由があってもお姉ちゃんを泣かせた人は赦せないって思っていましたけど……」

 

「ちとせさんに直接会って変わったんだね」

 

「はい……どんな酷い人なのかって思っていましたけど、直接会ったちとせさんは私が想像していた人とは違っていました……ただ大切な人にまた会いたいと必死になって頑張っている優しい人だって分かったんです……『紋章機』の事で不安になった時も、ちとせさんは優しく支えてくれました。自分の方が泣きたくて仕方ないのに」

 

「………」

 

 それは短い付き合いながらもカズヤも感じていた。

 ちとせが無理をしているのは明らか。だが、それでも彼女は止まらない。

 再び愛する人に会いたいと言う想いを抱いて、身を削りながらひたすらに前を進んでいる。まるで止まった時が自分の終わりだと言うように、ちとせは心身を削りながら進んでいる。

 必死に周りはそれを止めようとしているにも、ちとせは止まらない。その歩みを止めさせて、傷ついた心と身体を癒やせるのは、この世でただ一人だけなのだ。

 

「だから、私は必ずファントムシューターを捕まえたいんです……私達の『紋章機』は関わるなって、今でも警告していますけど、それでも……」

 

「うん。僕も同じ気持ちだよ、リコ。絶対に次でファントムシューターを捕まえよう」

 

「はい! シラナミさん!」

 

 カズヤが自身と同じ気持ちでいる事が嬉しかったのか、リコは笑顔を浮かべた。

 

(だけど……()()()()って……どうして『紋章機』はそんな警告をリコ達に伝えてるんだろう?)

 

 今だ分からないファントムシューターに関わる謎の一つ。

 その真実をカズヤ達がまだずっと先の事。そして真実を知った時は……全てが手遅れだった。

 

 

 

 

 

「シラナミ。ただいま戻りましたー!」

 

「同じく桜庭。今戻りましたー」

 

「ん? 戻ったか?」

 

 ブリッジに繋がるエレベーターから聞こえて来た声にレスターや、ブリッジにいる面々がカズヤとリコに顔を向けた。

 

「あら? カズヤ君、リコちゃんと一緒にデパートに行ったの?」

 

「はい」

 

 ココの質問にカズヤは笑顔で答えた。その話を聞いていたアルモが、羨ましそうに仲睦まじい様子のカズヤとリコを見つめる。

 

「いいなぁ。私もクールダラス司令と……」

 

「ふふっ、後で誘ってみたら?」

 

 仲睦まじくアルモとココはやり取りをしている。

 

「先ほど他のメンバーも帰還した。まだフルメンテは終わっていないから、お前達ももう暫らくは艦内で自由にしていて良いぞ」

 

「了解しました」

 

「はい」

 

 一先ず買って来た荷物の整理でもしようとカズヤとリコは、ブリッジから退出しようとする。

 だが、次の瞬間、ブリッジ内に緊急を告げる音声が響き、確認したココが目を見開く。

 

「これは!? まさか!? クールダラス司令!?」

 

「どうした、ココ?」

 

「信じられませんが、緊急回線でリリィさんが呼びかけて来ています!!!」

 

「何だと!?」

 

「えええっ!?」

 

 ココからの報告にブリッジは騒然となった。

 『リリィ』と言う名を言われて思い浮かぶのは、クーデター軍に占拠されたセルダールに一人残ったルーンエンジェル隊に最後のメンバーである『リリィ・C・シャーベット』。

 だが、まさかと言う気持ちを誰もが持ってしまった。

 何故ならばリリィがいるのは、クーデター軍が支配しているセルダール。幾らセルダールに近い小惑星帯に潜んでいるとは言え、偶然にも通信が届くなど本来はあり得ない。

 

「先ずは発信源の特定だ!」

 

「了解……発信源は『紋章機』からです。システムからリリィさんの識別情報も届いています。恐らく本人ですが、発信元は……えっ!? 嘘!?」

 

 まるで信じられないものを見たと言うようにココは固まった。

 何がとブリッジにいる全員が思う中、レーダーを確認していたアルモがルクシオールに近づく機影を捉えた。

 

「クールダラス司令!? 本艦とデパートシップに真っ直ぐに高速で接近する機影の反応があります!」

 

「何だと!? 最大望遠で捉えろ!」

 

「了解!」

 

 アルモは指示に従い、すぐさまコンソールを操作する。

 メインスクリーンにその映像が映し出された。その映像に映し出された機体を見たカズヤは、目を見開いて驚く。

 

「まさか、『紋章機』!?」

 

「リリィさんの機体!? 『イーグルゲイザー』です!?」

 

 メインスクリーンに映し出されたのは、ルーンエンジェル隊に所属するリリィが操る『RA-002 イーグルゲイザー』だった。

 画像越しでも被弾の様子が見られるが、レーダーの反応通り、真っ直ぐにルクシオールとデパートシップがある位置に向かって来ていた。

 

「……通信を繋げ」

 

 此処までくれば疑う余地がない以上、レスターは通信を繋ぐように指示を出した。

 

『此方ルーンエンジェル隊所属『リリィ・C・シャーベット』だ! ルクシオール! 聞こえたら返事をしてくれ!』

 

「此方ルクシオール、レスターだ!」

 

『っ! クールダラス司令!? 良かった! ()()()()、この小惑星帯の奥にいたのだな!?』

 

 通信が繋がった事を心の底から喜ぶリリィの声が聞こえた。

 だが、レスター達は違う。リリィの言葉の中には、聞き逃す事が出来ない言葉があった。

 

「待てリリィ? ()()()()だと? 誰から俺達がこの小惑星帯の奥にいると知らされた!?」

 

 万が一、その情報の出所がクーデター軍だった場合、不味いどころの騒ぎではない。

 今は格納している『紋章機』はレリックレイダーを除いてフルメンテ中で発進出来ない上に、傍にはデパートシップがある。

 見た目通りデパートシップはその巨大さのせいで鈍重な上に、武装は機銃ぐらいしか備わっていない。

 格好の的でしかないデパートシップを護りながら戦闘など無理だった。

 今すぐにデパートシップを避難させるべきかとレスターが悩んでいると、通信越しにリリィは驚くべき情報を報告して来る。

 

『信じて貰えるか分からないが、この情報の出所は『ゴースト』だ!?」

 

『っ!?』

 

 まさかの情報源に一同は言葉を失った。

 何故ならばゴースト事、ファントムシューターを捜索するつもりだったのに、その捜索相手の方がルクシオールの位置を掴んでいたと言うあり得る筈のない情報を告げたのだから。

 

『セルダールから何とか脱出した私は、追撃を受けている最中にゴーストに救われた! ()は追っての相手を引き受けてくれて、この座標に四機の『紋章機』がある事を通信で私に伝えてくれたんだ!』

 

()? 待て、リリィ!? お前はファントム……いや、ゴーストと話をしたのか!?」

 

『そうだ! 合成された男性寄りの声だったが、私は話をした! そしてゴーストが、私達が乗る『紋章機』の()()()()()()()()ことと、クールダラス司令! 貴方の事を知っている事が分かった!』

 

『っ!?』

 

 通信越しにリリィが告げた情報、それはレスター達に希望が絶たれたも等しい情報だった。

 

「……報告ご苦労……此方の正確な座標を送る。合流してくれ」

 

『了解した』

 

 リリィとの通信が切れた。

 レスターは重い空気に包まれるブリッジを見渡し、アルモに指示を出す。

 

「アルモ。遠距離スキャンを常時行なうようにしておいてくれ……ファントムシューターがリリィの追っ手を引き付けてくれているそうだが、別動隊が来る可能性もある。ココは整備班にイーグルゲイザーを受け入れる体勢を整えておくように連絡をしておいてくれ」

 

「……了解しました」

 

「……了解です」

 

 重い声でアルモとココは返答し、それぞれレスターの指示に従って動き出す。

 

「俺はミントにイーグルゲイザーの修理の追加発注を頼んで来る」

 

 言い終えるとレスターはブリッジから出て行った。

 エレベーターの扉が閉まる直前に、何かを叩くような音が聞こえたが、ブリッジにいる誰もが気にする事は出来なかった。

 そんな中、リコがブリッジの床に膝を着いてしまう。リリィが告げた絶望的な情報を知って、遂に耐えられなくなってしまったのだ。

 

「そんな……ファントムシューターが……私達の『紋章機』を感知出来るんだったら……追うのなんて無理じゃないですか」

 

「リコ……」

 

 涙を浮かべるリコに、カズヤは何も言えなかった。

 どの程度の距離までなのかは謎だが、少なくとも長距離でファントムシューターが他の『紋章機』の位置を感知できるのは明らか。

 『紋章機』に匹敵する性能を持つファントムシューターを相手に出来るのは、『紋章機』しかない。

 

(なのに、その『紋章機』がファントムシューターに位置を知らせてしまう……どうしたら良いんだ)

 

 

 

 

 

 リリィとの通信から数十分後。

 ルクシオール内には回収されたイーグルゲイザーが格納されていた。

 

「かなり被弾していますね」

 

 何かしていられないと落ち着かなかったカズヤは、レスターと共に格納庫に来て装甲に幾重にも被弾の形跡があるイーゲルゲイザーを眺めていた。

 本来は美しいディープブルーカラーの筈の装甲は黒く煤け、幾つもの破損個所が窺える。幸いにも航行に支障はきたしていないようだったが、それでも脱出時の壮絶さが窺えた。

 カズヤが見つめる中、コックピット部分の扉が開き、中から騎士を思わせるような制服を着て腰に剣を差した青い髪で左目を隠した女性が出て来る。

 

(あれが、リリィ・C・シャーベット先輩……)

 

 他のメンバーから話は聞いていたが、直接会うのは初めてなカズヤは思わずリリィを見つめてしまう。

 

「あっ! 出て来ました!」

 

「リィちゃん! 元気そうなのだ!」

 

「良かったですわ~」

 

「アイツが噂の奴か。結構やる見てだな」

 

 リリィの帰還の報を聞いたルーンエンジェル隊の面々も、格納庫に集まっていた。

 リコ、カルーア、ナノナノは久しぶりに会う無事なリリィの姿を喜び、アニスはその立ち振る舞いからリリィが相当な実力者だと察した。

 イーグルゲイザーから降りたリリィは、淀みなど微塵もない歩みで待っていたカズヤ達のところにやって来た。

 

(す、すごい……力強くて吸い込まれそうな瞳だ)

 

 決死の逃避行を終えて来た筈なのに、リリィから疲れた様子が見えず、何か強い意志のようなものを宿すその瞳にカズヤは圧倒されてしまった。

 

「クールダラス司令」

 

「無事でなに寄りだ、リリィ」

 

「心配を掛けた」

 

「リィちゃんなのだー!」

 

「プディング少尉。その呼び方は勘弁してくれと言っただろう」

 

 抱き着いて来たナノナノを優しく受け止めながら、リリィは僅かに苦笑を浮かべた。

 

「リィちゃんは、リィちゃんなのだ」

 

「ご無事で何よりです、リリィさん」

 

「心配しましたのよ~」

 

 クーデター軍に支配下に置かれたセルダールに唯一残ってしまったリリィの事は、誰もが心配していた。

 

「みんな、済まなかった。だが、感傷に浸っている場合ではない。クールダラス司令。緊急ミーティングを要請する」

 

「此方としては助かるが、先ずは医務室で検査を受けなくて大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫だ。私としても一刻も早く此方が知る情報を伝えたい。それに烏丸研究員もゴーストに関する話は聞きたいはずだ」

 

『っ!?』

 

 リリィの言葉にその場にいる全員が暗い顔を浮かべてしまう。その様子を見たリリィは、自分が居ない間に何かあった事を察した。

 

「何かあったのか、烏丸研究員に?」

 

「……ああ……此方でも色々と会った。その事も含めて長いミーティングをすることになるが……」

 

「私は構わない。この程度でどうにかなるヤワな鍛え方はしていないつもりだ」

 

「そうか……分かった。緊急ミーティングの要請を受け入れる。エンジェル隊は至急ブリーフィングルームに移動」

 

「了解しました! 皆、行こう!」

 

 カズヤの指示にエンジェル隊の面々は頷き、ブリーフィングルームへと移動を開始した。

 そしてブリーフィングルームに辿り着くと、それぞれ席に座った。

 

「さて、リリィ。先ほど通信で聞いたが、セルダールを脱出したお前が俺達が潜むこの小惑星帯に向かったのは、『ゴースト』からの情報で間違いないな?」

 

「そうだ。私は『ゴースト』からこの小惑星帯の奥に、ルクシオールが潜んでいる情報を教えて貰った」

 

『っ!?』

 

 事情を知らなかったカルーア、ナノナノ、アニスは驚いてリリィを見つめる。

 しかし、彼女達の驚きに構わずリリィは説明を続ける。

 

「セルダールに囚われていた時から、ルクシオールがマジークに向かった情報は得ていた。その後にマジークがクーデター軍からセルダールを解放すると宣言の報を聞き、騎士団の皆の力を借りて脱出を決行。元々この小惑星帯は敵の追撃を困難にするための逃走経路に入っていたが、私を助けてくれたゴーストからの情報を頼りに向かい、こうして皆と無事に再会出来たと言う事だ」

 

「あ、あの! ファントムシューターはどうなったんですか!?」

 

「ファントムシューター? 桜庭少尉。それは一体なんだ?」

 

「……ゴーストの正式名称です」

 

「っ!? そうか、其方も、ゴースト……いや、桜庭少尉の言葉ならファントムシューターと接触していたのだな。なら、私も今後はそう呼ぼう。それとファントムシューターがどうなったのか分からない。追っ手は引き受けてくれ、その後激しい戦闘が後方で起きていた事は分かったが、それ以降の事は不明だ」

 

「そう……ですか……」

 

 明らかにリコは気落ちしてしまう。

 

(私が居ない間に、此方でも色々とあったようだな)

 

 リリィも何か事情がある事を察するが、今はそれを聞いている余裕がない。

 重大な情報を持ってリリィは決死の思いでセルダールから脱出し、それを伝える為にルクシオールに戻って来たのだから。

 レスターも決意に満ちたリリィの瞳を見て、話を進める為に口を開く。

 

「では、本題に入ろう」

 

「ああ」

 

「先ず現在セルダールを支配下においているクーデター軍の首魁であるあのフォルテだが……アレは本人だな?」

 

「そうだ。シュトーレン中佐本人だ」

 

(そ、そんな……)

 

 出来る事ならば信じたくなかった事実。

 クーデター軍の首魁とされるフォルテが偽物ではなく、本人だったと告げられたことは、やはりフォルテを慕っていた者達には衝撃を覚えた。

 

「当然、理由があるんだろう?」

 

「勿論だ。シュトーレン中佐は人質を捕られている。その人質は惑星セルダールの民と……その王……」

 

「ソルダム陛下か」

 

(な、何だって!?)

 

 予想を超える規模の人質にカズヤは内心で驚き、他の面々も目を見開いて驚いていた。

 そしてリリィは悔し気に両手をギュッと握りながら口を開く。

 

「わ、私が居ながら、王には本当に申し訳が立たない!」

 

「少し落ち着け……それでフォルテが逆らえばどうなる?」

 

「セルダールに複数のクラストブレイカーが撃ち込まれる」

 

「クラストブレイカーだと?」

 

「地殻破壊爆弾、クラストブレイカー。衛星軌道上の何処かにセットされている。これを落とされた惑星は、地殻に重大な損傷を受けるらしい」

 

「ひ、酷い」

 

「地殻を破壊されてしまっては、その惑星は再起不能ですわ~」

 

 『地殻破壊爆弾』、『クラストブレイカー』。

 もしもそれがセルダールに落とされでもすれば、セルダールは崩壊。対処しようにも衛星軌道上の何処かにセットされている事しか分からず、探そうとすればどうなるか分からない。

 

「私達が気付いた時には手遅れだった。奴らは人知れずセルダールの軌道上にクラストブレイカーを設置し、シュトーレン中佐に首魁役をやれと脅したのだ。その要求をシュトーレン中佐は飲んだ。私は止めようとしたが、シュトーレン中佐はこう言ったんだ」

 

『これからの『NEUE(ノイエ)』においてセルダールは、リーダーとしてなくてはならない存在だ。あたしは皆を信じる。あいつらなら、何とかしてくれる筈さ。だから、言われた通り、クーデターを起こしてやろうじゃないか。ハンパじゃないのをね。下手に手加減すると、反抗勢力が立ち上がって被害が増すだけだ。本気で侵略するつもりで行くよ。それが一番良いのさ』

 

「フォルテの奴は!?」

 

 憤るようにレスターは震えた。

 まるで最後には自分一人が犠牲になるようなやり方。そのやり方は嘗てレスター達がしてしまい、大きな傷となって今もちとせを苦しませ続ける結果になった。

 

「辛いでしょうね~……」

 

「先生に酷いことを言っちゃったのだ」

 

 以前の通信の時に偽物呼ばわりした事を後悔するようにナノナノは俯く。

 それはカズヤとリコも同じであり、辛い立場に追い込まれていたフォルテに酷い言葉を口にしてしまった事を後悔するように俯く。

 

「……それでリリィ。『ABSOLUTE(アブソリュート)』の方に関しては何か情報はないか?」

 

「申し訳ない。残念ながら其方に関する情報は全くない。セルダールと同時に侵攻を受けたという事ぐらいだ。もしかしたら私よりも其方の方が多くの情報を持っているかもしれないぐらいだ」

 

「その通りだ。今度は此方からの情報を話そう」

 

 そしてレスターは自分達が得た情報を話していく。

 クーデター軍の真の首魁が『ABSOLUTE(アブソリュート)』でコールドスリープで眠っていた『ヴェレル』である事。フェムトで発見したファントムシューター専用の格納庫の存在に、その背後にいる者が死んだとされていた『EDEN(エデン)』の英雄であるタクト・マイヤーズである可能性。

 マジークで起きた出来事に加え、『全ての終焉』に関わるとされる『禁断の予言』。そしてちとせに掛けられてしまった『悪夢の呪い』に関する全てをリリィに説明した。

 聞き終えたリリィは、自身の想像を遥かに超える情報の数々に目を見開いて驚いた。

 

「まさか……そのような事が……」

 

「リリィ。セルダールには何か『()()』に関わる情報はないか?」

 

 セルダールは元々『NEUE(ノイエ)』の中心に近い惑星。

 過去のマジークが悪しき魔法使いの一族に支配された時も、セルダールがそれを討伐して救ったと言う過去もある。ならば、セルダールにも何かしらの『()()』に関する情報が残っていてもおかしくはない。

 

「……すまない。少なくとも私は『()()』とやらの話を聞いた事は無い……だが、陛下ならば何か知っているかも知れない」

 

「そうか」

 

(やはりセルダールを解放して、ソルダム陛下に直接お伺い立てるしかないか)

 

 元近衛騎士団長だったリリィが知らないとなれば、残るはセルダール惑星の王であるソルダムに聞くしかない。

 その為にはクーデター軍を討伐するか、セルダールから追い払うしかない。しかし、セルダールの衛星軌道上にはクラストブレイカーと言う惑星破壊兵器もある。

 

(此方の『紋章機』がこれで五機……だが……)

 

 どうしてもレスターは考えてしまう。

 この場にいるのが自分ではなく、親友であるタクトだったならばと。レスターの指揮もタクトには劣らない。だが、勢力が違う者達を纏める自信が無かった。

 

(お前はこんな重いものを背負いながらも、普段通りに過ごしていたんだな、タクト)

 

「なぁ、そういやよぉ。セルダールの騎士って魔法が切れるんだよな?」

 

「『練操剣』の事か?」

 

 アニスの質問にリリィは顔を向けて答えた。

 

「そうそう。その剣ならよぉ。あの女に掛かってる呪いとかも切れるんじゃねぇか?」

 

「ああっ!」

 

「そうですよね!」

 

「親分冴えてるのだ!」

 

 歴史的に見てもマジークが勝てなかった理由とされる魔法を断つ剣技『練操剣』。

 それならばちとせに掛けられた呪いも断てるかもしれない。その可能性に気が付いたカズヤ、リコ、ナノナノの顔に希望が浮かぶ。だが……。

 

「すまない。確かに『練操剣』は魔法を断てる。だが……」

 

「そもそも戦う為の剣技……ちとせさんの心身に喰い込んでしまっている呪いだけを断つ事は不可能ですわ~」

 

 『練操剣』は、魔法を断てるとは言え万能ではない。

 魔法を用いた攻撃や防御などは無効化できても、人に施された魔法を断つ場合はその施された相手まで斬ってしまう。

 

「そんな……」

 

「私の腕がもっと上ならば或いは呪いだけを断てたかもしれないが、己の未熟を恥じるばかりだっ!」

 

『………』

 

 ブリーフィングルームにいる誰もが暗い顔をした。

 最早残されたちとせを救う手段はファントムシューターを捕らえ、その背後にいるタクト・マイヤーズも捕らえるしかない。

 だが、ファントムシューターが『NEUE(ノイエ)』製の『紋章機』を感知できるとすれば、幾ら追ってもファントムシューター側が逃げれば捕らえる事は出来ない。

 

「……して……どうしてちとせのところに戻って来ないのだ!」

 

『ナノちゃん』

 

「ナノ」

 

「プディング少尉」

 

「ナノナノ」

 

 涙を浮かべて震えるナノナノに、カズヤ達は顔を向ける。

 

「もうちとせは限界なのだ!? もうすぐ自力で歩けなくなるかもって、モルデン先生に言われて……嫌なのだ! ちとせが居なくなるのなんて! だから、だから! 早く戻って来るのだ!!」

 

 心のからのナノナノの悲痛な叫び。

 だが、幾ら望んでもその現実は……()()()()()()()

 

 ビィビィッ!!

 

 突如としてブリーフィングルームに警報音が鳴り響いた。

 即座にレスターはブリッジへと通信を繋いだ。

 

「何事だ!?」

 

『クールダラス司令!? 本艦とデパートシップの傍で空間変動を感知! この反応はファントムシューターが消える時の反応に酷似しています!』

 

「何だと!?」

 

「まさか!?」

 

 即座にブリーフィングルームから全員がブリッジに向かって飛び出した。

 そして彼らは、ルクシオールのブリッジに居た全員がそれを目撃した。

 

 ルクシオールとデパートシップが停泊しているすぐ傍の宇宙空間。

 その空間に突如として罅が入り、空間が割れる。同時にスラスター部分から煙を噴き上げた一機の大型戦闘機。ファントムシューターが飛び出して来た。

 

『緊急パージ!!』

 

 金属音と共に火花を散らしていた両翼の小型ミサイルポットと左脚側に備わっていた中型レーザー砲がパージされ、次の瞬間、小型ミサイルポットと中型レーザー砲が爆発した。

 その衝撃にファントムシューターは巻き込まれ、装甲とスラスターが更に傷つく。

 爆炎が治まった後には、スラスターに損傷があるのか思うように移動できず、損傷を幾重にも負った状態のファントムシューターが、ルクシオールとデパートシップの傍の宇宙空間を漂っていた。




という訳でアニスの状況を利用した借金チャラとリリィを追撃してきた無人艦が無かった事になっています。
因みに最後のナノナノの叫びと同時に現れたのは偶然です。
フォルテが操る無数の無人艦隊と戦い続け、必死になって退避した先がルクシオールが居る地点だったんです。中にいる人物も損傷度合いを考えて、受け入れるしかありませんでした。

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
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