ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
「ちょっ……これって……」
「まさか……」
ルクシオールにシャトルでやって来たランファとヴァニラは、格納庫内の一角で鎮座している機体を見つけて驚愕の余り、ランファは当然として普段から無表情なヴァニラも目を見開いてその機体を見つめるしかなかった。
闇色のダークブルーカラーの機体。自分達の愛機である『紋章機』と同じ形状のフレーム。
兵装こそ大型バレルレールガンのみとなっていたが、二人がその機体を見間違える筈がない。
四年前に自分達の前に突然現れて、別宇宙へと単機で渡り、希望を見出しながらも、失われてしまったかも知れないと考えてしまっていたファントムシューターが静かにハンガーに吊るされていた。
「な、何で!? コイツがルクシオールに!?」
「例の放送では破壊したとフォルテさんが言っていましたが……」
「その破壊から免れて、俺達の前に移動して来たんだ、コイツは」
「レスター……」
「レスターさん……」
ランファとヴァニラに説明するように、レスターの声が格納庫内に響いた。
声の聞こえた方にランファとヴァニラが顔を向けて見ると、険しい顔をしたレスターがファントムシューターを見つめながら二人の下に歩いて来る。
「今、コイツは休眠状態でシステムの最適化を行なっている……ちとせを乗せてな」
「なっ!?」
「ちとせさんが乗られたのですか? このファントムシューターに……?」
二人は信じられないと言うように、ファントムシューターを見つめた。
ちとせの心の傷の深さを知っているだけに、ランファとヴァニラも二度とちとせは『紋章機』に乗れないと思っていた。
だが、ちとせは再び乗った。『禁断の紋章機』であるファントムシューターに、自らの意思で乗ってしまったのだ。
「ああ、ちとせは乗った……だが、俺はまた間違ったかもしれない。何せコイツは……
『っ!?』
レスターの発言にランファとヴァニラは、これ以上無いほどに目を見開いて固まった。
「本当に……タクトさんが……そのような事を言ったのですか……?」
「……ああ。タクトが言った言葉だ」
「……何処にいるのよ、アイツは? 四年間も私達どころか、ちとせにまで音沙汰なしでいたアイツは今何処にいるのよ!?」
もしもすぐ近くにいるのならば、今すぐにでも殴りかからんばかりの勢いさながらにランファはレスターを問い質す。
その問いに対してレスターはファントムシューターを見詰めながら答える。
「俺達の目の前にいる」
「はぁ? 目の前って……ファントムシューターしかないじゃない。通信で話をしたんでしょう、バカタクトと?」
「……そうだったら良かったと俺も思う。だが、コイツが俺達の前に現れた時、丁度俺達はミントのデパートシップから補給を受けていた。そしてルクシオールにちとせの見舞いにミントは来ていたんだ。そのミントが俺達に教えてくれた……このファントムシューターにタクトの精神が宿っている事を」
「はぁっ!? 冗談でしょうっ!?」
「……いえ、ランファさん……そうとも言えないかも知れません……」
「ヴァニラ!? アンタ何を言ってるのよ!?」
まさかのヴァニラの発言に慌ててランファは顔を向けた。
だが、ランファと違い、ヴァニラは一度乗り込んだ事があるのだ。ファントムシューターのコクピットに。
「以前アルモさんをファントムシューターがピコに連れて来た時に……私は、ファントムシューターのコックピット内に入りました……その時、私は感じたんです……懐かしい温かさを……あの温かさはタクトさんから感じた温かさに似ていました……」
「まさか……本当にタクトが機械に、ファントムシューターになったって言うの!?」
「いや、そう言う訳でもない。ファントムシューターには、タクト以外にこの機体にはAIが備わっている。どうやら其方の方が上位の存在のようだ」
「人よりも機械の、いえ、AIの方が上位……それはまるで……」
「『黒き月』よね」
嫌な事を思い出したと言うような顔をしながら、ランファは呟いた。
『黒き月』の管理者であったノアとは和解できたが、『黒き月』そのものにはトランスバール皇国を荒らされたり、その技術が敵となって襲い掛かって来ただけにどうしても嫌悪感を感じてしまう。
「ですが……『黒き月』がどうして『紋章機』を……」
「そうよ! 今は壊れちゃったけど、七番機だってノアを説得してタクトが突拍子もないアイデアを出して漸く完成したんだから」
今は六番機だったシャープシューター同様に失われた『
その機体はタクトのアイデアによって、『『白き月』の思想を基に、『黒き月』の技術で強化された機体だった』。
この七番機は他の『紋章機』と違い複座式という形になり、それに乗ったちとせとタクトによってトランスバール皇国の危機を救った事がある。
だが、それはあくまで例外に近く、タクトが突拍子もないアイデアを出したから実現できたこと。
本来ならば『黒き月』と『白き月』は、お互いをどちらが倒した後に融合吸収する事で新たなシステムを構築する事でしか交わる事が無いのだ
「確かに『黒き月』そのものが『紋章機』を、人の可能性を信じるとは思えん。だが、あくまで基になったのが思想部分だとしたら……俺達はそれに近いものと既に戦っている」
「っ!?」
「まさか……ヴァインさんがルシャーティさんにしたような事を……」
ランファとヴァニラの脳裏に浮かんだのは、自分達同様に『紋章機』の『
彼女は操られていたが、それでも無理やり高いテンションを引き出された事によって『紋章機』の力を全て引き出した。
ファントムシューターもその類の機体なのではないかと、レスターが考えている事をランファとヴァニラは察した。
「……何処のどいつよ! こんな物を作った奴は!?」
「『禁断の紋章機』……タクトさんは……この事を私達に伝えたかったのでしょうか?」
「分からん……詳しく話を聞く暇が無かったからな……俺はこのまま『
「当然よ。その後は『白き月』に運んでちとせを降ろして、封印よ! 封印!!」
「ですが、ランファさん……もしそうしたらタクトさんの精神も一緒に……」
「あっ、そうか……それがあったわね」
コクピット内にいるちとせを降ろす事は可能だとしても、ファントムシューターの機能によって精神が宿っているタクトは降ろせない。
「そもそも、どうしてタクトの奴。身体を失ってるのよ? ……その……言いたくないけど……やっぱりタクトは『アナザースペース』で……」
「その辺りも謎だ。だが、アイツは自分が『アナザースペース』で死んだとは言わなかった。精神と肉体が別れたと言っていたんだ」
「精神と肉体が……しかし、それは同じ事なのでは?」
「普通ならばな。だが、『アナザースペース』には謎の勢力『ウィル』がいる」
「ちょっ!?」
「レスターさん……それは……」
ランファとヴァニラは慌てて周囲を見回した。
『ウィル』という言葉は、トランスバール皇国でもトップシークレット。事情を知っているランファとヴァニラは構わないが、もしも事情を知らない者に聞かれてしまえば、レスターは処罰されてしまう。
無論、レスターとて処罰される気など無い。だからこそ、格納庫から人払いを命じたのだ。
「安心しろ。今、格納庫にいるのは俺達だけだ」
「お、驚かさないでよ!」
「はい……」
「済まん。先に説明しておくべきだったな」
説明不足だったことをレスターは謝罪した。
「だが、この件でも気になる事はある。俺達にとって『ウィル』はトップシークレット扱いだが、タクトがこの事を知っている筈がない。にも拘わらず、アイツは一度も『ウィル』という言葉を発せず、ファントムシューターのAIも
「それってつまり……」
「『ウィル』は、私達の想像を遥かに超える脅威である可能性……」
『アナザースペース』内でちとせとタクトを襲った謎の勢力である『ウィル』
当たり前の事だが、その存在に関しては謎のまま。襲われたちとせにしても、いきなり攻撃されて為すがままにシャープシューターを大破させられてしまった。
その後、敵側に囚われてしまい、後はタクトの機転のおかげで此方側に帰還する事が出来た。
それだけしか『ウィル』に関してレスター達は知らない。
何故『アナザースペース』にそんな強大な勢力がいるのか、そして果たして此方側に来れるのかなど、本当に謎しかない勢力なのだ。
「……今はこれ以上、『ウィル』に関しては考えても仕方があるまい」
「まぁ、そうよね。とにかく、今はファントムシューターよ。映像だとかなりダメージを受けていたみたいだけど、レスター達が修理したの? それともあの映像はフェイクだったとか?」
「いや、実際にコイツが俺達の前に現れた時はかなりのダメージを受けていた。その証拠に今、コイツの兵装は、あの大型バレルレールガンだけだ。そして修理に関してだが……どうやらコイツには『リペアウェーブ』と同じ機能もあるようだ」
「っ……では、ファントムシューターはナノマシンも扱えるのですね」
フェムト内にファントムシューター専用の秘密の施設があった以上、可能性としては考えられていたが、今の言葉で可能性ではなく事実だと明らかになった。
「ああ、だが、コイツの場合はハーベスターやファーストエイダーと違い他の『紋章機』を修理する事は出来ないようだ。あくまで自機のみ。『リペアウェーブ』というよりは、『リペア』だな」
『リペアウェーブ』と同じ機能を使っているならばと、試しに損傷を負っていた『イーグルゲイザー』を近づけて見たが、ファントムシューターの修理を行なっていたナノマシンは反応する事なく、自分だけの修理を行なっていた。
「ナノナノは……そのナノマシンの操作を出来なかったのですか?」
「ああ、駄目だった。それどころかナノナノは怖いと拒絶したぐらいだ」
ファントムシューターの正体を探る為に、出来る限りの事はレスター達もしようとした。
だが、内部をスキャンしようにもスキャンは通さず、ちとせが乗り込んでいる以上、下手に外部から干渉も出来ない。なら、機体を修理しているナノマシンからとナノナノに調べて貰おうとしたが、まるでナノナノは恐れるようにそのナノマシンへの干渉を拒絶した。
(いや、拒絶して正解だったのかも知れん……コイツにはフェムトにいるナノナノの姉妹達を起こした疑いがあるからな)
フェムトにいる今だ培養カプセルの中で眠っているナノナノの姉妹達。
ナノナノ以外は何をしても目覚めさせることが出来なかったその姉妹達を、ファントムシューターは起こして何らかの作業を行なわせていた。
「状況的に考えて、フェムトにいたのはフルメンテの為と此方が付けた電磁波ペイントを消す為だろうが」
「まだ、消せてないわね」
「そのようですね……」
闇色のダークブルーの装甲の一部だけピンクに染まっている部分を、ランファとヴァニラは確認した。
因みに今のところペイントを消すつもりはレスターにはない。ただでさえ追うのが難しいのに、この上にステルス機能まで復活したら手の打ちようがない。
「だが、此処でコイツを再び逃せば、次は捕らえるのも難しいだろう。どうやらコイツには『
「なっ!? そんな機能まであるなんて!?」
「一体誰が……『黒き月』の思想を基にした、このような『紋章機』を造ったのでしょうか?」
謎が一つ明らかになれば更に増えていく謎に、レスター、ランファだけではなくヴァニラまでも困惑するしかなかった。
「……取り敢えずファントムシューターに関しては此処までだ。今は目の前のセルダール解放を優先するとしよう」
「……ええ、そうね」
「はい……」
そしてレスター達は今後のセルダールに関しての会議を始めた。
(……本機に登録した精神の……仲間……本機には……仲間など不要と判断)
微かにファントムシューターの機首のセンサーに光が灯っている事に気付く事無く。
そしてレスター達に気付かれる事なくファントムシューターのセンサーの光が消え、システムの最適化へと集中する。自らに走り続けるノイズに
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる