ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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黒百合大好き様、誤字報告ありがとうございました!


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「……や、やった」

 

 クロスキャリバーの『ハイパーブラスター』に貫かれて爆発するクラストブレイカーをモニターで見ていたカズヤは、呆然と呟く。

 セルダールを滅ぼさんとする脅威だったクラストブレイカー。その最後の一機がカズヤとリコの手によって破壊された。

 徐々にその実感が沸き上がり、喜びで操縦桿を握る手をカズヤが震わせる中、リコから通信が届く。

 

『シラナミさん! 私達やりました!!』

 

「う、うん! 僕達はやったんだ! あっ! そうだ! アニスは!?」

 

 自分達を敵の砲撃からレリックレイダーで盾となって庇ったアニスの事を思い出したカズヤは、慌てて通信を繋ごうとする。

 だが、その前にアニス本人からブレイブハートに通信が繋がる。

 

『よぉ……や、やったな……』

 

「アニス!?」

 

『無事なんですか!? アニスさん!?』

 

『まぁ、何とかな……今追いついて来てくれた、ナノの応急修理を受けてるところだ……レリックレイダーは動かねぇけどなぁ』

 

「それでも無事で良かったよ」

 

『はい……本当に良かったです』

 

 少なくともアニスの命に別状はない事を確信したカズヤとリコは、心から安堵した。

 それと同時に、ブレイブハートとクロスキャリバーの出力が一気に低下してしまう。

 

「わっ!」

 

『きゃっ! シ、シラナミさん……クロスキャリバーとブレイブハートが……』

 

「うん……かなり無理をさせたからね」

 

 次々とモニターに表示されるエラーとブレイブハートのダメージ情報をカズヤは確認していく。

 ブレイブハートの状態は酷いものだった。度重なる合体の連続で、クロスキャリバーと繋がっているジョイント部分からは火花も上がっている。

 クロスキャリバーの方も敵の砲撃を受けたり、無茶な動きもしたせいで損傷を負っている。

 それは合体を終えた後に後方で防衛線を行なっていたスペルキャスター、イーグルゲイザーも同じであり、レリックレイダーを応急修理しているファーストエイダーも損傷が見られる。

 

(これ以上の戦闘は全員無理そうだ……それにしてもさっきの最後のは一体?)

 

 最後のクラストブレイカーを破壊する瞬間、クロスキャリバーとブレイブハートは、これまでの戦いの中でも経験した事がない勢いで出力が上がった。

 だが、その出力の急激な上昇の理由がカズヤには分からず、考え込んでいるとルクシオールから通信が届く。

 

『カズヤ! 良くやってくれた!』

 

「司令! はい、クラストブレイカー! 全機破壊に成功しました!」

 

『ああっ、本当によくやってくれた』

 

 心から感謝していると言うようなレスターの声が通信越しに聞こえてくる。

 

『一先ずエンジェル隊は、損傷を負ったレリックレイダーを回収してルクシオールに戻って来てくれ。その状態ではこれ以上の戦闘は無理だ。クラストブレイカーが破壊されたと同時に敵艦隊の動きも止まったが、まだ何かあるかも知れないからな』

 

「はい。分かりました」

 

 レスターとの通信を終えたカズヤは、幸いにも移動は出来るようなので操縦桿を操作してクロスキャリバーと合体したままルクシオールに向かって移動を開始する。

 

(これできっと、フォルテ教官も……)

 

 きっと無事にフォルテが戻って来るのをカズヤは心の中で確信していたのだった。

 

 

 

 

 

「ク、クラストブレイカーが……全て破壊された……」

 

 旗艦内部のブリッジでルーンエンジェル隊の『紋章機』によって、クラストブレイカーが破壊された様子を見ていた『EDEN(エデン)』排斥派の者達は呆然としていた。

 彼らにとってクラストブレイカーはセルダールを掌握しているための最大の切り札。その全てが破壊された今、彼らにセルダールを支配する力はない。

 クラストブレイカーが全て破壊されたとセルダール騎士団が知れば、即座に反逆されて彼らは終わる。

 その現実をヒシヒシと彼らが感じる中、無言でコンソールを操作していたフォルテが呟く。

 

「そうみたいだね……」

 

「おい、貴様!! 手引きしたな!?」

 

 明らかに隠されていた筈のクラストブレイカーの位置を把握して、迅速な速度で破壊した敵側の動きに、一人の兵がフォルテに向かって銃を向けた。

 

「おいおい、銃なんて向けないでおくれよ」

 

「黙れ! 敵側の我が軍の陣を抜けてからの手際が良すぎる! 『紋章機』はクラストブレイカーへ最短航路で到達したぞ。隠されていた筈のクラストブレイカーにだ! 事前情報を得ていたに違いない!!」

 

「さぁ、あたしゃ知らないねぇ……」

 

「おい! さっきからコンソールを弄って何をしている!?」

 

 今度は別の兵が銃をフォルテに向けながら質問した。

 その質問に対して何でもないようにフォルテはあっさりと答える。

 

「何って、この部屋の酸素濃度を上げているのさ」

 

「酸素濃度だと!?」

 

 その言葉に兵は目を見開き、他の兵士達も愕然とした顔をした。

 人間には確かに酸素が必要だが、それは一定の濃度まで。一定値を超えた酸素は、人体を破壊する毒物に変貌してしまう。

 それと同時に銃器の類も濃度が高い場所で使用すれば、大爆発を起こしてしまう。

 

「いーい感じの濃さだねぇ……その銃を撃ったらドカーンだ」

 

「き、貴様!?」

 

「なんだい? 腕っぷしで勝負しようってのかい? 言っておくけど……あたしゃ強いよ!」

 

『うっ!』

 

 拳を構えるフォルテに、兵達は呻く事しか出来ない。

 先ほどの件もあるが、フォルテにはセルダールの元近衛騎士団長であるリリィと互角以上に拳で戦って勝利したと言う話があるのだ。

 クラストブレイカーという絶対的な脅威がなくなった以上、最早彼らにはフォルテを従える事は出来ない。

 

「もう諦めな! セルダールは解放されたのさ!!! この戦いはお前達の負けだ! さぁ、出ておいき! 追っ手はかけないでおいてやるよ。ボスにたっぷりといいつけると言い」

 

「く、くそ!! 覚えておけ!!」

 

 最早勝てないと分かったのか、『EDEN(エデン)』排斥派の者達はブリッジから出て行った。

 残されたフォルテは即座にコンソールを操作して、ルクシオールに通信を繋ごうとする。

 

「全く、終始見張りやがって、落ち着かなくてしょうがなかったよ……レスター! レスター!!! 聞こえるかい!?」

 

『フォルテか!!』

 

 ブリッジの中にレスターの声が響いた。

 ちゃんとルクシオールに繋がった事を安堵しながら、フォルテは状況を説明する。

 

「あたしが乗ってる艦は把握してるんだろう? 今其処から小バエどもが飛び出すよ! 行き先は親バエのところさ! 奴の事だ、必ず近くにいる筈だよ」

 

『っ!? 分かった! 其方にはヴァニラが迎えに行く! 後は任せろ!』

 

 ルクシオールとの通信が切れる。

 それを確認したフォルテは額に手をやって悩むような顔をする。

 

「ヴァニラまで来てるのかい……こりゃ、皆から叱られるのは覚悟しないとねぇ」

 

 そう言いながらも、何処となく嬉しそう様子でフォルテも艦から脱出する為にブリッジを出るのだった。

 

 

 

 

 

 フォルテとの通信を終えたレスターは、即座にあるアルモに指示を出す。

 

「アルモ! 敵旗艦から出た小型機の行方を追うんだ!」

 

「了解……えっ!?」

 

「どうした!?」

 

「セルダール方面から攻撃です! 小型機が破壊されました!」

 

「何!?」

 

 アルモの報告にレスターがスクリーンに目を向けて見ると、宇宙空間で跡形もなく爆発する小型機の映像が映し出されていた。

 一時セルダールを支配下に置いていた『EDEN(エデン)』排斥派の者達は、呆気なく死んだのだった。

 

「今の攻撃の発射座標は!?」

 

「確定できてます!」

 

「発射座標へ主砲一斉砲撃! 無事な他の艦にも通達して攻撃させろぉ!!!」

 

「了解!!!」

 

 レスターの指示に従い、ココが操作するとルクシオールの両翼に備わっている連装レーザー砲が発射され、更には連合艦隊からも次々にレーザー砲が放たれる。

 放たれたレーザー砲群は、小型機を撃墜した攻撃が放たれた箇所に向かって直撃し、爆発が起きる。

 その爆煙の中から、無人艦と同様に黒の装甲に赤い輝きを発している巨大艦-『グラン・ヴェレル』が、装甲に傷一つ無い姿で進み出て来た。

 

「データにはありません! ですが、かなり巨大な艦です! あんな艦がこんなに近くにあった事に気付けなかったなんて!!」

 

「落ち着け!」

 

 異様としか言えない巨大艦である『グラン・ヴェレル』の出現に、ブリッジが浮足立ちそうになるのをレスターが諫めた。

 同時にブリッジの扉が開き、帰還したカズヤ達が入って来る。

 

「エンジェル隊、帰還しました! って!? えええっ!!」

 

「こ、この艦は!?」

 

 スクリーンに映る異様な巨大艦を目にしたカズヤ達も目を見開いて驚く。

 

「静かにしていろ。漸く本命のご登場だ」

 

「本命って……まさか、例の!?」

 

 この状況でクーデター軍側から出て来る相手が誰なのかを察して、カズヤは険しい目を他のエンジェル隊のメンバーと共にスクリーンに映るグラン・ヴェレルに向けた。

 

「敵巨大艦から通信です!」

 

「スクリーンへ回せ」

 

 漸く首謀者の顔が目に出来ると思い、レスターはアルモに指示を出した。

 だが、スクリーンに映ったのは敵の首謀者では無かった。

 何らかの機械を兼ね備えた拘束椅子のような物に座らされて、眠るように目を閉じている髪の毛の色と同じ桜色の優美なドレスを着た女性が映し出された。

 その女性を目にしたリコは、目を見開き悲鳴のような声で叫ぶ。

 

「お、お姉ちゃん!!!」

 

「ミルフィーユ……」

 

『ミルフィーさん』

 

(この人がリコのお姉さん!? ミルフィーユ・桜葉さんなのか!?)

 

 『ABSOLUTE(アブソリュート)』にある『セントラルグロウブ』の襲撃以降、その所在が全く分からなかったミルフィーユ・桜葉が拘束された姿でスクリーンに映し出された。

 同時に画面外から声が響く。

 

『いやぁ、お見事、お見事。実に、良い戦いだった。英雄の片腕を務めた男対その英雄に指揮された猛将の火花散る激争。期待以上の興奮を味わう事が出来たよ。ふふふふっ』

 

「姿を隠してないで出てきたらどうだ。此方はとっくに貴様が首謀者だと分かってるぞ、ヴェレル!!」

 

『っ!? ……そうか。そうか。貴様らはあの忌まわしいイレギュラーと繋がっていたのだったな。となれば、あの時、逃げられた娘が其方の手に渡っているということか』

 

 スクリーンの画像がミルフィーから移り変わった。

 それと共に現れたのは背中に蝙蝠の翼らしきものを生やし、ローブのようなものを羽織り、口元を長く垂れ下げた布で覆い貸した壮年の男。

 『セントラルグロウブ』の襲撃犯であり、クーデター軍の真の首謀者であるヴェレルがスクリーンに映し出された。

 

『ご無沙汰している、レスター・クールダラス殿』

 

「まさか、お前が今回の件の首謀者だとアルモから聞いた時は驚いたぞ」

 

『ふふふふっ、本来ならば最後の最後まで身を伏せておくつもりだったのが……本当に忌々しきイレギュラーな存在だったよ、あのゴーストは!?』

 

 心の底から忌々しそうにヴェレルは吐き捨てた。

 

(なんだ? このヴェレルって奴……ファントムシューターに邪魔をされたからだけじゃなくて、他にも理由があって嫌っているように見える)

 

 カズヤにはファントムシューターに関してだけ声を荒げるヴェレルの様子に、そんな印象を感じた。

 

『だが、最早奴はいない。そうこれからの秩序に、本来あるべき世界に最も不要な物はこの世から消え去ったのだから』

 

「本来あるべき世界? それが今回のクーデター騒ぎと何の関係がある?」

 

『クーデター? ……ふふっ、ははははははっ! これはクーデターなどではないよ、クールダラス殿。私も『ABSOLUTE(アブソリュート)』も本来の姿に戻るだけのこと。神が再び全てを統べる時が来たのだ』

 

「神だと?」

 

『そうだ! 私さ! 私は『ABSOLUTE(アブソリュート)』唯一の生き残り。次元管理を継承する者! クロノ・クェイクから数百年! 長きにわたる雌伏の時は終わったのだ!』

 

(っ!? なるほど! だから、ヴェレルはファントムシューターを異様に敵視するどころか憎んでまでいるのか!)

 

 レスターは、何故ヴェレルが過剰なまでにファントムシューターを敵視するのか理解した。

 本来平行宇宙を移動する為には、『ABSOLUTE(アブソリュート)』を介さなければならない。だが、その中で今のところ唯一の例外が存在している。

 それこそがファントムシューター。『アナザースペース』という『ABSOLUTE(アブソリュート)』と同じ未知の空間を介して平行宇宙に移動する機能を兼ね備えた『禁断の紋章機』。

 自らの絶対的な秩序を崩壊させかねないファントムシューターの存在を、ヴェレルは決して認めず、散々邪魔された事でその感情は憎しみへと至ったのだ。

 

『私はゲートキーパーを得た! 次元管理の力を! 崇高なる『ABSOLUTE(アブソリュート)』の血を継ぐ者が相応しい力を得たのだ! 私が神以外のなんであろうというのだね?』

 

「おい! さっきから黙って聞いてたけどな、自惚れてんじゃねぇぞ!!」

 

 ナノナノの治療を受けながら話を聞いていたアニスが、我慢出来ないと言うようにスクリーンに映るヴェレルに向かって叫んだ。

 

「『ABSOLUTE(アブソリュート)』ってだけで、そんなに偉いのかよ!?」

 

『おやおや、これは驚いた。まさか、動物を飼っていようとはな』

 

「なっ!? この野郎!? って! イテテ!」

 

「親分! まだ治療が終わってないのだ!」

 

「そうだ。静かにしてろ、アジート」

 

 負傷を負っているアニスを諫めるようにナノナノとレスターは声を掛けた。

 

「今の説明からすると、嘗ての『ABSOLUTE(アブソリュート)』は全ての宇宙の管理機関だったと言う訳か?」

 

『いかにも。数多の宇宙における中心的存在。ゲートを介し全てを管理、統治する神の社。それが『ABSOLUTE(アブソリュート)』。絶対なる神殿なのだよ! そして、その神殿に相応しき者が、相応しい力を携えて、戻って来たのだ!! これこそ、神の光臨と言えるではないか!! 全ての宇宙は全てを取り戻すのだ!! 偉大なる多次元宇宙文明の復活だ! くくくくくっ!!!』

 

 傲慢に自らを神だと称したヴェレルは、通信で繋がっている全ての者達に宣言した。

 

『『NEUE(ノイエ)』の民よ、喜びたまえ! 私は先ず最初にこの宇宙を統べる事にした!! この崇高なる再統治の第一歩となる事を誇りたまえ!!! ははははははっ!!』

 

 これから始まる崇高な目的の先にある未来を喜ぶように、ヴェレルはスクリーンの向こう側で高笑いを続ける。

 それに対してレスター達は思うところはあっても、下手に口を挟めない。

 『ABSOLUTE(アブソリュート)』が嘗てどのような場所で、どのような役割を担っていたのか、レスター達は知らないからだ。

 唯一の『ABSOLUTE(アブソリュート)』でコールドスリープ状態で発見されたヴェレルが言うのならば、本当にそうだったのではないかと疑うしかない。

 もしもそれを否定できるとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……う~ん、なるほど、そう言う動機で動いたのか』

 

『っ!?』

 

 レスター達とヴェレルとの会話に割り込むように、電子音声で合成された男性の声がブリッジ内に響いた。

 その男性寄りの電子音声にレスター達は慌てる。その声を発する物は、格納庫で休眠状態にあった筈。

 だが、その声の持ち主はレスター達の動揺に構わずに、ルクシオールの通信システムを介してヴェレルに話しかける。

 

『レスター。悪いけど、少し口を挟ませて貰うよ。やぁ、初めましてヴェレル』

 

『誰だ貴様は?』

 

 何処となく聞き覚えがあるような気がしながらも、ヴェレルは割り込んで来た相手に返答した。

 

『なに、ちょっとした野次馬みたいなものだと思ってくれ。ただ、今、『NEUE(ノイエ)』にいる者として幾つか聞いておきたい事があるんだ。神を名乗っているんだから、下々の者の言葉に答えてくれるだろう?』

 

『……良かろう』

 

『先ずそうだね。さっきミル……女性が拘束されている姿が見えたけど、彼女に何をしたんだい?』

 

『時空の女神か? もう一度見るかね?』

 

 ブゥンっという音と共に再びスクリーンに拘束されながら、何らかのユニットに座らされているミルフィーユの姿が映し出された。

 

「まぁっ~!!」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

 改めて拘束されているミルフィーユの姿に、カルーアとリコは悲鳴を漏らしてしまう。

 

『っ……見たところ、彼女には意識が無いようだけど?』

 

『フフッ、どうやら無知の相手のようだ。教えてやろう。時空の女神が居る場所はマスターコアの中。そしてその纏わりついている機械は制御装置だよ』

 

『彼女は無事なのかい? 制御装置なんて使うって事は、無理やりやらされているんだろう?」

 

『ふふふっ。安心したまえ。ただ一人のゲートキーパーだ。丁重に扱わないとな。危害は一切加えていないよ……但し、私に協力する気が一切無かったのでな。少々素直になって貰う為に工夫させて貰ったよ』

 

『マインドコントロールかっ』

 

 もしも電子音声ではなく肉声だったら苦い声を発していたような口調で呟いた。

 

『そのようなものだ。今では私が『眠れ』と命じれば、素直に従ってくれる。実に可愛い女神様だ……』

 

『…………』

 

『ん? どうかしたのかね? ()()()()()の女性の境遇に同情でもしているのかね?』

 

『はぁ~……『影』を利用しているからって随分強気だな、()()は』

 

『っ!?』

 

 何気なく発されたような言葉。だが、明らかにヴェレルの顔に動揺が浮かんだ事がレスター達にも分かった。

 

(『影』? 一体何のことだ?)

 

 意味が分からなかったカズヤは内心で首を傾げるが、無機質な男性寄りの電子音声の主、タクトはヴェレルに更に言い募る。

 

『ミルフィーはセントラルグロウブのマスターコア内。しかも、その意思はお前の自由。全ゲートの管理を掌握されたうえに、『影』まで使われてるとなれば、いや~、参った。完敗だよ。実に論理的かつ合理的な計画だ。いや~、昔の人達も考えもしなかっただろうね。まさか、『影』を()()()な考えで利用するなんてさ』

 

『き、貴様っ!? 何者だ!? なぜ、何故!? 『影』を知っている!?』

 

『さぁ~て、誰なんだろうね? 昔の人達がお前の所業に怒って化けて出たのかも知れないよ』

 

『ふ、ふざけおって! ……もう良い。これ以上長居をすると()()()()()()()()()からな』

 

()()()()()()()()()? まさか!? ココ!! アルモ!! セルダール周辺の衛星軌道フルスキャンだ!!』

 

『りょ、了解!?』

 

 戸惑いながらも、ココとアルモは即座にタクトの指示に従って動く。

 それは積み重ねて来た信頼からくるもの。タクトが慌てると言う事は、何かがあるという事に他ならない。そしてそれは的中してしまう。最悪な結果として。

 

「ああっ!? セルダールに向かって直進する物体を一つ確認! ク、クラストブレイカーです!?」

 

「何だと!? スクリーンに映せ!!」

 

 ヴェレルが映る別のスクリーンが展開され、カズヤ達が決死の思いで破壊したクラストブレイカーと同じ物がセルダール本星に向かって進んでいた。

 

「そ、そんな!?」

 

「クラストブレイカー!? まだ、残っていたのか!?」

 

 別の地点に七つめのクラストブレイカーが存在していた事に、カズヤ達は目を見開いた。

 

『フフフッ、先ほどの戦いで一つだけ気に入らぬところがあった。それはオチだ。私のシナリオではどちらか片方が、あるいは両方が華々しく散る結末を期待していたのに、どちらでもない結末は非常に不満だった。故にこれは報いだ。神のシナリオを崩した貴様らへの御下賜だ!』

 

「くっ! すぐに主砲の照準をクラストブレイカーに合わせろ!! 他の艦にも通達! クラストブレイカーを何としても破壊しっ!?」

 

「ぬわっ!」

 

「きゃー!!」

 

 突如としてルクシオールが激しく揺れた。

 上下左右にその揺れは断続的に続き、ココがその理由を耐えながら説明する。

 

「敵自動操縦艦が自爆していきます!! そ、相乗効果で強力な衝撃波が発生! 本艦及び連合艦隊にもダメージが出ています!!」

 

「クラストブレイカーへの照準は!?」

 

「衝撃波でセンサーに異常!? 照準が定まりません!? 他の艦も被害が出ていて撃てません!?」

 

「そんな!?」

 

「セルダールが!?」

 

 絶望的な状況。ルクシオールや他の連合艦隊は、今の自動操縦艦の爆発でセンサーや損傷を負ってしまいクラストブレイカーの対処が出来なくされた。

 『紋章機』とブレイブハートは、六つのクラストブレイカーの破壊を成功させた代償にボロボロになってしまっている。何よりもカズヤ達がブリッジにいる以上、今からでは間に合わない。

 誰もが絶望感を抱く中……。

 

『……私達に任せて下さい』

 

 最強の天使の声がブリッジ内に響き渡った。

 

 

 

 

 

「ははははははっ!!」

 

 もう間もなく七つめのクラストブレイカーでセルダールが崩壊する瞬間が浮かんでいるのか、グラン・ヴェレルのブリッジでヴェレルは高笑いを上げていた。

 最初からヴェレルは、レスター達が勝った時にはこうするつもりだった。フォルテが勝つならば、そのままセルダールを中心に『NEUE(ノイエ)』を支配する。

 切り捨てた『EDEN(エデン)』排斥派の者達にさえも秘密にしていた七つめのクラストブレイカー。

 一発でも直撃すれば、セルダールに甚大な被害が及び、今後の戦いはヴェレルが有利となる。

 何よりも自分に逆らった者達が、どうなるのか示す為の良いデモンストレーションだとヴェレルは考えていた。

 

(しかし、一体何者が『影』の事を?)

 

 笑いながらもヴェレルは、話をした正体不明の何者かの事は忘れていなかった。

 『影』とは、ミルフィーユに並ぶヴェレルの支配の根幹を成すもの。決して誰にも知られないようにされていた筈のそれを、自分以外の何者かが知っていた事はヴェレルを慌てさせた。

 

(……まあ、良い。どちらにしてもゲートキーパーである時空の女神も『影』も我が手中にあるのだからな)

 

 今はこれから始まる自身が満足する為のショーを眺めようと思い、望遠カメラを起動させて、損傷を負ったルクシオールを映す。

 

「ん? 発射口が動いている」

 

 ルクシオールの『紋章機』が発進するための発射口が動いている事にヴェレルは気が付いた。

 

「愚かな。奴らの『紋章機』は、全て先ほどの戦闘の影響でまともに動くはずがない。自棄でも起こし……」

 

 言葉が途中で途切れた。

 ルクシオールから一機の『紋章機』が飛び立つ。その『紋章機』の姿を見たヴェレルは目を大きく開き、全身を大きく震わせる。

 

「何故だ!? 何故!? 貴様が其処にいるのだ!? イレギュラーーーー!!!!!」

 

 ルクシオールから飛び立った『紋章機』。

 ファントムシューターは、セルダールに向かって直進するクラストブレイカーに、唯一残された武装である大型バレルレールガンを向けるのだった。

 

 

 

 

 

(懐かしいですね、この感触は)

 

 もう二度と、最愛の人を失ってから乗れなくなったシャープシューターと同じ形状のコックピット席に座りながらちとせは、手に握る操縦桿の感触を懐かしく感じていた。

 まるで愛機だったシャープシューターのコックピット席に座っているような感覚。アレほど乗る事を拒絶していた筈なのに、不思議と今のちとせの心は自分でも驚くほどに落ち着いていた。

 その理由は分かっている。

 

『大丈夫かい、ちとせ?』

 

「ええ、大丈夫です、タクトさん」

 

 無機質な男性寄りの電子音声。

 しかし、ちとせにはその声の持ち主が自身の最愛の相手である事が分かっている。

 ファントムシューターに搭載されている『H.A.L.O.(ヘイロゥ)システム』。そのシステムと完全にちとせは適合してしまった。

 それ故に同じようにファントムシューター内の装置に精神を保護されているタクトの存在を、ちとせはダイレクトに感じていた。

 だからこそ、ちとせには今タクトがどんな気持ちでいるのかも全て分かっている。

 その上で迷うことなくちとせは、最愛の人に告げる。

 

「この選択を私は後悔しません。タクトさんと一緒なら何処までもいけます」

 

『っ……ああ、そうだな! 全部終わったら結婚しよう、ちとせ!!』

 

「タ、タクトさん!? そ、それは!?」

 

 夢の中で自ら申し出た約束を思い出したのか、ちとせは真っ赤に顔を染めて慌てた。

 

《……テンション向上を確認……システム最適化完了……第一リミッター解除条件達成……》

 

 さっさと進めろと言うように、ファントムシューターの電子音声がコックピット内に響く。

 その声にちとせとタクトは現状を思い出し、モニターに映るクラストブレイカーに集中する。

 

「ファントムシューター……」

 

『第一リミッター……』

 

「『解除!!』」

 

《A.R.Kシステム起動》

 

 A.R.Kシステム起動と共にファントムシューターの左右から吹き出すように白い閃光が放たれた。

 白い閃光は白銀に輝く大きな翼-『エンジェルフェザー』へと変化し、まるで解き放たれる事を喜ぶように羽ばたいた。

 それは『紋章機』が真の力を発揮する時に発生する白銀の翼。

 光り輝くその翼を見せた時こそが、『紋章機』の真の姿だとされる形状。

 そしてその姿となったファントムシューターは、パイロットとなったちとせのテンションも合わさり、残された兵装である大型バレルレールガンに光の弓を形成する。

 迸るエネルギーによって形成された光の弓は引き絞るように形を変える。

 そしてコックピットの中にいるちとせは、遠方に存在しているクラストブレイカーを捉える。

 もう間もなく大気圏に突入する。そうなれば、重力に引かれたクラストブレイカーは更に速度を増して、地上へと落下しセルダールに壊滅的な被害を与える。

 だが、ファントムシューターの中にいるタクトは確信していた。そのような結末が訪れる事は無いという事を。

 何故ならば……。

 

「正射必中」

 

 翼を取り戻した最強の天使がいるのだから。

 

「フェイタルアローーー!!!」

 

 大型バレルレールガンから放たれた三発の弾丸は、必中の亜光速弾へと変わり、ピンポイントでクラストブレイカーのエンジン部を貫き大爆発を引き起こしたのだった。




因みに専用兵装出ない事とちとせのテンションMAX越えのせいで、大型バレルレールガンもお亡くなりになっています。
ファントムシューターの情報更新は、兵装完璧後に改めて書きます。

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
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