ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
ルクシオールのスクリーンに映っていた光景を見ていたカズヤを含めたルーンエンジェル隊の面々は、言葉を失って呆然としていた。
光り輝く翼を左右に広げているファントムシューター。
そのファントムシューターが放った絶技としか言いようのない遠距離精密射撃。戦艦並みの頑丈さを持っていた筈のクラストブレイカーが、ピンポイントでエンジン部を撃ち抜かれて破壊される光景を前に、カズヤ達は息を呑むしかなかった。
(これがムーンエンジェル隊のエースだったちとせさんの実力と、真の力を発揮した『紋章機』なのか!?)
「すげぇ……あの姉ちゃん。あんなすげぇこと出来たのかよ?」
「ああ、私の遠距離射撃など遠く及ばない精密射撃だ。しかも、威力だけではなく速度も凄まじい」
「ほんとにクラストブレイカーに届くのが一瞬でしたわね~」
「あの速さ、亜光速に達していたと思います」
「ちとせ凄いのだ!」
口々にちとせへの賞賛が上がる中、ファントムシューターから通信が届く。
「あっ! 司令!? ファントムシューター、いえ、ちとせさんから通信です!」
「すぐに繋げ!!」
「了解!」
ココが指示に従いコンソールを操作すると、画面に『紋章機』のコックピット席に座るちとせの姿が映った。
『此方、『白き月』派遣研究員、烏丸ちとせです。皆さん、ご心配をおかけしました。只今戻りました』
『ちとせさん!?』
「ちとせ! お前、大丈夫なのか!?」
スクリーンに映ったちとせに、レスターは問い質すように叫んだ。
ちとせが今乗っているのは、『禁断の紋章機』とタクトが告げ、『黒き月』の思想が基になっているファントムシューター。
嘗て戦った『黒き月』が製作した『ダークエンジェル』のように、ファントムシューターに取り込まれているのではと『ダークエンジェル』の事を知っているレスター、ココ、アルモはスクリーンに映るちとせを心配する。
そんなレスター達を安心させるように、ちとせは微笑んで報告する。
『安心して下さい。体調は今のところ問題ありません』
(えっ? ちとせさんが笑った)
これまでのちとせが浮かべて来た微笑みと全く異なる魅力的と言える微笑みに、カズヤは呆然と魅入ってしまった。
それはただがむしゃらに心身を削りながら前に進むちとせしか知らなかったリコ、カルーア、ナノナノ、リリィ、アニスも同じであり、呆然と微笑むちとせを見つめてしまう。
だが、それは最愛の人を失ってからのちとせしか知らない者だけ。
それ以前のちとせを知っているココとアルモは、口に手を当てて涙を流して喜んでいた。
(アルモ! ちとせさんが!?)
(うん! ココ! 私達の知るちとせさんが帰って来てくれた!?)
もう二度と見れないと思っていたちとせの心からの微笑み。
それを再び見れた事が、ココとアルモは嬉しくて仕方がなかった。
「はぁ~、色々と言いたい事があるが、先ずは確認するぞ、ちとせ」
『はい、何でしょうか、クールダラス司令?』
「あの馬鹿はちゃんと其処にいるのか?」
『俺ならちゃんといるから安心してくれ、レスター!』
変わらずの無機質な男性寄りの電子音声だが、タクトが返事を返して来た。
その声にレスターは米神をヒクつかせつつ、腕を組みながらタクトに告げる。
「無事で何よりだ、タクト……お前には色々と言いたい事と聞きたい事は山のようにあるが、それは他のメンバーと一緒に聞かせて貰うぞ。ミントは居ないが、ランファとヴァニラ、それにフォルテがいるから覚悟して置け」
『えっ?』
『フォルテ
想像だにしていなかった様子でタクトとちとせは声を漏らした。
(ちとせがエンジェル隊の皆を
ムーンエンジェル隊を除隊した後、ちとせはムーンエンジェル隊の面々を
そのちとせが再びムーンエンジェル隊の面々を
とは言え、何時までもその嬉しさに浸る訳にはいかない。聞かねばならない事が山ほどあるのだから。
「その辺りの事情は、知らないようだな……お前ら何時から起きていた?」
『え~と、確か丁度『
『そのぐらいでしたね。それから状況を確認しようと調べていたら、ファントムシューターがルクシオールの通信システムにアクセスして、皆さんとヴェレルの会話を聞いていました』
「あっ! 調べたら、確かにハッキングされていました!」
ココの報告にレスターは頭が痛そうな顔をした。
通信システムを含めてルクシオールのセキュリティは強固な筈なのに、誰にも気づかれる事なくファントムシューターのAIはハッキングしていた。
機械と人との差なのかも知れないが、ルクシオールのシステムを好き勝手操作されるかも知れない。
かと言って、ファントムシューターを逃がす訳にもいかない。
「……一応聞くが、二人ともルクシオールに戻って来るんだろうな?」
『えっ? はい。そのつもりでしたが……戻っては不味いのでしょうか?』
「いや、すぐに戻って来い」
『了解しました。ファントムシューター、これより帰投します。後、ブリッジに向かう前に自室に立ち寄りたいのですが、宜しいでしょうか?』
「ああ、構わんぞ」
『ありがとうございます! では!』
ちとせとの通信が切れた。
映像の中でファントムシューターはエンジェルフェザーを消失させて、そのままルクシオールに戻って来る。
(良かった! ちとせさん凄く元気になってた!)
暗く無茶ばかりをするちとせではなく、明るいちとせの姿が見られてカズヤは何だか嬉しい気持ちになった。
そんな中、ブリッジ内に通信を告げる音声が鳴り響く。
「司令! ランファさんからです!」
「繋いでくれ」
「了解しました」
『レスター! 無事なの!? それとファントムシューターの事はどうなってるのよ!?』
通信が繋がると共にランファが問い詰めるような声音で質問してきた。
「此方は無事だ。それでファントムシューターの方だが、ちとせが操縦した」
『っ!? ……無事なのよね? ちとせは?』
『黒き月』の思想が基になっている『禁断の紋章機』に乗っただけではなく、ちとせは操縦してファントムシューターの『紋章機』としての真の力を引き出してしまった。
これがシャープシューターだったならばともかく、ファントムシューターには明らかに『黒き月』の思想が宿っている。
『禁断の紋章機』の力を引き出したちとせに、何かしらの代償のようなものが発生していてもおかしくない。
嘗て『黒き月』が製作した人を取り込んだ『ダークエンジェル』と直接戦ったことがランファにはあるだけに、尚更に不安と心配を感じてしまう。
「今のところは降りられるようだ。俺達からも離れて『アナザースペース』に単身で行く気は無いと見て良いだろう。尤も、ファントムシューターの兵装が無くなったからかも知れんが」
先ほどのクラストブレイカーの破壊と共に、ファントムシューターに唯一残されていた兵装である大型バレルレールガンも発射と同時に半ばから銃身が消失した。
ちとせが放った『フェイタルアロー』は、本来ならばシャープシューターに備わっていた特殊兵装がなければ使用できない必殺技。それをちとせは高まりに高まったテンションと、『紋章機』の力を使用して無理矢理再現したのだ。
「幾ら『紋章機』としての真の力を発揮出来たとしても、兵装が無い以上、今のファントムシューターはまともに戦えまい」
『……そうね。分かったわ。こっちの損害状況の把握とか終わったら、そっちに行くからちとせもタクトも逃がさないでよね!』
「ああ、分かってる」
『それと、もう一人帰って来たわよ』
言いながらランファが横に移動すると、フォルテの姿が映し出された。
「教官!!」
「フォルテさん!!」
「先生なのだ!!」
「まぁ~!!」
無事なフォルテの姿にカズヤ、リコ、ナノナノ、カルーアが喜びの声を上げ、リリィを含めたブリッジにいる面々も嬉しそうにする。
唯一、フォルテの事を良く知らないアニスだけが姿を見ても喜んでいないが、仲間達の喜ぶ姿に微笑んではいた。
「そう言えば、敵艦の中にいたんですよね~」
動かなくなったクーデター軍の無人艦隊は全て爆発していた。
そうなれば、敵旗艦に乗っていたフォルテも無事では済まない筈。
『レスターが気を利かせてくれてね。ヴァニラが迎えに来てくれたのさ』
「ご無事で何よりですわ~」
「まったくだ」
『正直、あんな所には一秒だっていたかなかったよ……それにしても、まさかクラストブレイカーがもう一機別の場所にあったなんてね』
「それはお前のせいではないだろう。寧ろあの最後の一機は、ヴェレルに殺された連中さえ知らなかった奴個人の最後の隠し玉だろうからな」
『だろうさね。あの艦にいた連中は、アンタらが六機のクラストブレイカーを破壊した時点で顔色が真っ青になってたからね』
もしも最後のクラストブレイカーの存在を知っていれば、往生際が悪く更に抵抗していたに違いないとフォルテは思った。
『色々話したい事はあるけど……ケジメだからね。レスター……すまない』
「……この件に関しては俺個人の裁量でどうにかできる範囲ではない……だが、個人としてはお前の判断は間違っていなかった」
「そうですよ! フォルテ教官はやるべき事をやっただけです!!」
「はい! ベストを尽くしたと思います!!」
「先生はなんにも悪くないのだ!!」
「そうですわ~。被害は最小限だったと思います~」
「私でも同じ事を選択したはず! 気に病む事は無い!!」
実際フォルテが首魁としてクーデター軍内で動いていなかった場合、『
マジークでのディータの行動。セルダールに設置されていたクラストブレイカーの件から考えても、彼らが矢面に立って動いていれば、途轍もない被害が星々に広がっていたのは明白だった。
自身を慰めてくれる教え子達にフォルテは、僅かに微笑む。
『レスター。とにかくあたしはヴァニラとそっちに行くよ。渡したい情報もあるし……それにさっきのゴースト……いや、ランファから聞いたけど、ファントムシューターだったね。ソイツに関しても色々と聞きたいんだ』
「ああ、それは俺達も同じだ。何せその情報を握っている相手は、俺達がずっと探していた相手だからな」
『っ!?』
「アイツを相手にするなら俺一人では心許ない。期待しているぞ、フォルテ」
『……了解したよ。こっちはアイツに直接言いたい事が山ほどあるからね』
『覚悟しておくように言っておいてね、レスター』
『絶対に聞き出します』
(うわぁ~、マ、マイヤーズさん。大丈夫かな?」
スクリーン越しでも伝わって来るフォルテ、ランファ、そして後から出て来たヴァニラが発するオーラに、カズヤはタクトの心配をするのだった。
ルクシオールに戻り、ファントムシューターから降りたちとせは、無事な姿に涙を浮かべて喜んでくれたクロワ達整備班の面々に挨拶を終えた後に真っ直ぐに私室に向かった。
着ている服は研究員としての制服ではなく、医務室の病人着。ファントムシューターに乗る直前まで医務室で過ごしていたので仕方が無かった。
しかし、その胸元には乗る前には身に付けていなかった黒い翡翠型の宝石のペンダントが揺れていた。
そして私室に辿り着いたちとせは、部屋の中に入る。
その部屋の中には、研究資料と思わしき本や書類の山が其処かしこに散らばっていた。
「すみません、散らかっていて」
一人なのに誰かに語るようにちとせは謝罪した。
その謝罪に答えるように、ちとせの胸元で揺れるペンダントから電子音声が響く。
『いや、構わないさ……ちとせがそれだけ俺に会う為に、頑張ってくれていたってことだから』
ペンダントから意思を伝えるのは、今はファントムシューターの機能によって保護されているタクトだった。
そのペンダントは言うなればクロノクリスタルのようなもの。違いがあるとすれば、センサーの役割も兼ね備えているので、周囲の様子もタクトは伺うことが出来る。
だからこそ、今のちとせの自室の状態にタクトは心が痛かった。
(きちんと整理整頓して、規律を大切にしていたちとせがこんなになるまで追い込まれていたなんて! 俺は!?)
自分がいない間のちとせの現状を知る度に、罪悪感でタクトは胸が張り裂けそうだった。
「タクトさん?」
『ああっ、いや、何でもないんだ。でも、エルシオールと違って普通の船室でちとせは過ごしていたんだね』
エルシオールの時のちとせの私室は、故郷の家屋を模した造りとなっていて、狭いながらも庭があったりと純和風の私室だった。
対してルクシオールでのちとせの私室内は、研究員という事で多少は広いが普通の乗員が過ごすような船室だった。
「今の私は『白き月』からの派遣研究員でしたから、エルシオールの時のような部屋の内装は無理でしたし、元々今の任務が終わったらまた『白き月』で『アナザースペース』の研究か、新たにファントムシューターを追う任務に就く予定でしたので」
『グフッ!!』
「タ、タクトさん!? どうされました!? もしかして保護機能の方に何か異常でも!?」
『い、いや、そうじゃなくて……ちとせがどれだけ俺に会う為に頑張ってくれていたのか知る度……心が痛くなって……もう本当にごめんなさい』
「い、いえ、その!? 前にも言いましたが、タクトさんがどうして
ファントムシューターから降りた事によって、
「あ、あの、シャワーを浴びて来ますね」
『あ、うん……ペンダントはテーブルにでも置いてくれて構わないから』
「それでは、失礼します」
言われた通りペンダントをテーブルに確りと置いたちとせは、シャワー室に入っていった。
『はぁ~、それにしてもランファとヴァニラも居るのか……フォルテが居るのは覚悟していたけど、ランファとヴァニラも凄く怒っているだろうなぁ……身体があったらどうなっていたのか考えるだけで恐ろしい……ん?』
「ふん♪ ふん♪ ふふ~ん♪」
ペンダントのセンサーが捉えたのは、ちとせがシャワー室の中で喜んでいる声だった。
それはタクトとどんな形にしても一緒にいられる喜びから来るもの。
ちとせの喜ぶ様子を本来ならばタクトは歓迎すべきだったが、それどころでは無かった。
(ファ、ファントムシューター!?)
先ほどのちとせの放った『フェイタルアロー』によって起きたシステムエラーの修繕と改修を行なっているファントムシューターに、タクトは呼びかけた。
(……疑問? センサーに異常が無いのに何故混乱?)
(そ、そのセンサーが問題なんだ! ちとせがシャワーを浴びている間だけでも、センサーを切れないかな?)
ペンダントのセンサーが捉えたのは、ちとせの声だけではない。
肌を弾くシャワーの水音。
お湯がちとせの肌を伝う水の流れ。あらゆるちとせの情報をペンダントに備わっているセンサーは捉えていた。
それはつまり、センサーを使って外界の情報を把握しているタクトに余すことなく伝わる事を意味する。
タクト本人には全く他意はないのだが、いけない事を知ってしまうような感覚がむず痒く、一時でも機能停止を願ったが……。
(不可。ペンダントの機能調整は所有者に依存。本機が可能なのは
(つまり、ちとせに頼まないと調整は無理って事?)
(肯定……本機は調整に専念。会話遮断)
(わぁーー!! 待ってくれ!!)
せめてファントムシューターとの会話で気を紛らわせようとしたタクトだが、無常にも会話は途切れた。
そのまま少しの間、タクトはセンサーから伝わって来るちとせの様子を考えないように必死に戦った。
「お待たせしました、タクトさん」
『や、やぁ、ちとせ』
「? どうされました? 少し様子が?」
『い、いや、何でもないよ。なんでも!? そ、それよりもペンダントの調整を頼むよ』
「お任せ下さい! 研究員として働いていたので、こういった調整は以前よりもずっと得意になりましたから。では、失礼します」
ペンダントを手に持ち、ちとせはコンソールを操作して調整を開始した。
その様子は研究職に就いてからずっと辛さと悲しさに満ちていた姿からは想像も出来ない程に、ちとせは幸せそうだった。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる