ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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黒百合大好き様、誤字報告ありがとうございました!


7-8

 フォルテがヴァニラを伴ってルクシオールに来る事を知ったルーンエンジェル隊の面々は、出迎える為に一足早く格納庫に来ていた。

 

「ママが来るだけじゃなくて、フォルテ先生にも会えるなんて嬉しいのだ―!」

 

「そうですわね~」

 

「無事で何よりだ」

 

 フォルテの来訪をナノナノ、カルーア、リリィは嬉しそうに語り合う。

 一緒に来ていたカズヤは、ふと気になった事があったのでリリィに質問する。

 

「あ! そう言えばリリィさんもフォルテ教官の指導を受けたんですか?」

 

「ああ、そうだが、何だ、カズヤもか?」

 

「ええ、ルーンエンジェル隊の皆は同門って事ですね」

 

「ふふ、そういうことになるかな」

 

「お~い、俺は違うぜ。後、俺はあくまで雇われの身でルーンエンジェル隊でもねぇからな」

 

「あっと、そうか」

 

 アニスの指摘にカズヤは頷いた。

 この場にいるメンバーの中で唯一アニスだけが、ルーンエンジェル隊のメンバーではない。あくまでミントの伝手からの外部協力者。

 何せ出会いが出会いなだけに、軽はずみに一応軍部隊であるルーンエンジェル隊の正式メンバーに組み入れる事が出来る訳もなく、司令であるレスターも認めていない。

 少し寂しいような気持ちにカズヤはなるが、アニスは気にした様子もなく気になった事を質問する為に口を開く。

 

「あのよぉ……その、フォルテさんって言うの、一応説明してくんねぇかな? 顔は見てっから分かるけど、どんな人なのかって気になって仕方ねぇぜ。俺にしてみれば敵でしかなかったからなぁ」

 

 尤もなアニスの言葉にカズヤ達は頷き、リコが代表して説明する。

 

「フォルテさんはムーンエンジェル隊のリーダーだった人ですよ」

 

「ムーンって、お前らの前のエンジェル隊だっけか? 姐さんやあの女も所属してたっつう」

 

「はい、そうです」

 

「へぇー! ってことは、姐さんのリーダーだったのか……」

 

「そうなりますね」

 

「そして、アニスを除く僕達全員は、フォルテ教官に指導を受けてるって訳だ」

 

「なるほどな」

 

 感心したようにアニスは呟いた。

 そのままシャトルの発着場に向かおうとしたところで、整備班の班長であるクロワの声が響く。

 

「ぼさっとすんな! 少しでも早く状態の確認を急ぎやがれ!!」

 

「あっ!」

 

 クロワの声に気が付いたアニスが顔を向け、罰悪そうに顔を歪めた。

 整備班の面々が集まっている場所には、損傷をかなり負ったレリックレイダーがハンガーに吊るされていた。

 

「これは……」

 

「改めて見るとかなりの損傷だな」

 

 カズヤとリリィもレリックレイダーの損傷度を目にして、顔を歪めずにはいられなかった。

 他の『紋章機』も戦闘で損傷を負ったが、やはり今回の戦いで一番損傷が激しいのは戦闘の最中で不調を起こしたレリックレイダーだった。

 

「アニスさんが私達を庇ってくれて助かりましたけど」

 

「いや、気にすんなよ。そもそもこうなったのは俺がへまをやらかしたからだ」

 

「全くだぜ!」

 

 アニスの言葉に同意するように、クロワが顔を顰めながら近寄って来た。

 

「だから、俺は言っといたんだ。肝心な時に動かなくなっちまっても知らねぇってよぉ!」

 

「……悪かった……そのよぉ……レリックレイダーは直るのか?」

 

 流石のアニスも今回の件は効いたのか、素直にクロワに謝罪して、不安そうに愛機の事を尋ねた。

 

「やれるだけの事はやってやるさ!」

 

「……レリックレイダーの事、頼む」

 

(レリックレイダー……直ると良いけど)

 

 自分とリコを庇った為に損傷を深く負ったレリックレイダーを、カズヤは見つめた。

 そんな中、ナノナノはクロワに近づいて尋ねる。

 

「班長」

 

「おう、なんでい?」

 

「ちとせは大丈夫だったのだ?」

 

「ちとせの嬢ちゃんか? おう、元気だったぜ。自分でファントムシューターから降りて、そのまま俺らに挨拶をすると、一人で歩いて出て行ったぜ」

 

「ちとせが一人で歩いて?」

 

「ん? ああ、そうだぜ。それがどうしたんだ、嬢ちゃん?」

 

 何かに驚いた様子でいるナノナノに訝しみながらも、クロワは尋ねた。

 

「はんちょー! 何時まで話しとるんや!! はよ! こっち戻ってきて、手伝ってやー!!」

 

「おう! 今行くぜ! じゃあ、俺は行くぜ、嬢ちゃん」

 

 呼ばれたクロワは足早に修理されているレリックレイダーの方に向かって行った。

 残されたナノナノは、今のクロワの話を聞いて感じた違和感について考える。

 

(おかしいのだ。ちとせは乗る前はかなり弱っていて、数日の間ずっとコックピットの中にいた筈なのに、元気に一人で歩けるなんて)

 

 ファントムシューターに乗ってしまう前に、ちとせの健康管理をしていたのはナノナノとモルデン。

 呪いの影響でちとせはかなり衰弱し、もう少し経てば一人で歩けないほどになっていたほどに追い込まれていた。

 そのちとせが元気に降りたばかりか、誰の手も借りずに一人で歩けたことにナノナノは違和感を覚えずにはいられない。

 

(ファントムシューター……)

 

 格納庫の一角で今は沈黙しているファントムシューターに、ナノナノは目を向けた。

 フェムトで眠るナノナノの姉妹達を目覚めさせることが出来るかも知れない機体。だが、ナノナノはその事を口にする事が出来なかった。

 

(やっぱり……怖いのだ……何でこんなにファントムシューターが怖く感じるのだ?)

 

 自らの愛機であるファーストエイダーからの警告もあるが、それと同じぐらいにナノナノはファントムシューターを見ていると不安と恐怖を感じずにはいられなかった。

 それはナノナノを構成しているナノマシンが発する警告。遥か昔のナノナノの開発者がインプットしていた警告だった。

 万が一にも、ファントムシューターと直接接触して、()()()()()()()()()()()()()()()()が目覚めないようにするための警告なのだ。

 

「おい、ナノ? どうしたんだ?」

 

「っ! な、何でもないのだ!? 早く発着場に行くのだ!」

 

「あっ! なんだ? アイツ?」

 

 急に元気になったナノナノにアニスは訝しみながらも、他のメンバーと共に発着場に辿り着く。

 

「あっ! 入って来たのだ!」

 

 丁度発着場にフォルテとヴァニラを乗せたシャトルが到着した。

 到着したシャトルのハッチが開き、先ずフォルテが降りて来てカズヤ達に気が付く。

 

「おっ! なんだい……みんなして?」

 

「せんせーい!!」

 

 フォルテを確認したナノナノは、すぐさま嬉しそうに駆けだして抱き着いた。

 

「先生なのだ! 先生なのだ!」

 

「あはははは! およしよ! こら!」

 

「良かったですわ~」

 

「フォ、フォルテさん……」

 

「リコ、また泣いてる」

 

「だ、だって……だって……」

 

「シュ、シュトーレン中佐……ぐふ! うぅぅ……」

 

「えええ!! リ、リリィさんまで!?」

 

 まさかのリリィまで泣き出す事態に、カズヤは面くらうしかなかった。

 そんなに風にフォルテと面識のある面々が、無事な姿に喜びを表す中、件のフォルテがナノナノに抱き着かれながら歩いて来る。

 

「やぁ、みんな。色々と済まなかったね」

 

「教官……」

 

「カズヤ……頑張っているみたいだね。アンタの戦いぶり見事だったよ」

 

「いえ、皆に支えられてばかり……まだまだです!」

 

「ふふふっ、ちょっとは良い男になった……かな? ……んで……」

 

 ゆっくりとフォルテはファントムシューターの方に目を向けた。

 其処にはカズヤ達に向けていた温かさはなく、燃え上がるような怒りだけがフォルテから発される。

 

「アレが駄目な男が宿ってるファントムシューターだね」

 

「はい、駄目な人が宿って居るそうです」

 

 フォルテの後について来ていたヴァニラも同意するように答えながら、ファントムシューターに目を向けた。

 

(きょ、教官もヴァニラさんも怖い……マイヤーズさん、頑張って下さい!)

 

 下手に介入して自分にまで飛び火するのを恐れたカズヤは、せめてタクトの冥福を祈った。

 

「行きますか、フォルテさん?」

 

「いや、あっちはじっくりと長くなるからね。先ずはこっちの方を済ませてからだよ。レスターはブリッジかい?」

 

「は、はい。レスターさんはセルダール政府と通信中で、フォルテさんとヴァニラさんにはエンジェル隊と共にブリーフィングルームで待っていて欲しいとの事です」

 

「ん……そんじゃ、皆で行くか!」

 

「はい!」

 

 フォルテの言葉にカズヤ達は頷き、一行はブリーフィングルームに行く為に歩き出す。

 

(……かなり無理してるな、フォルテ。調整が終わったら、急いでちとせにブリーフィングルームに向かって貰わないとまずそうだ)

 

 ファントムシューターのセンサーでタクトがフォルテ達の様子を窺っていた事に気が付かずに。

 

 

 

 

 

「よっこらしょっと」

 

 ブリーフィングルームに辿り着いたフォルテは、疲れたと言う様子を見せながら椅子に座った。

 

「ふ~……やっぱ『EDEN(エデン)』の椅子は一味違うねぇ~」

 

「敵の椅子は、座り難かったんですか?」

 

「まぁね……あんまり悪過ぎて壁に寄りかかって立っている方が多かったよ………」

 

「教官?」

 

 急に無言になったフォルテを訝しみ、カズヤは声を掛けた。

 その様子を見ていたヴァニラはフォルテの心情を察して顔を曇らせる。

 

(フォルテさんは自責の念を抱えてしまっている。ですが、下手な慰めは返って悪化を招きかねない)

 

 ヴァニラとしてはフォルテがした事を責めるつもりはない。

 状況的に仕方なかった事であり、フォルテがやらなければもっと酷い状況になっていたのが目に見えていた。だが、どちらにしてもクーデターという大問題では済まない事態を起こした事は事実であり、下手な慰めは返ってフォルテを傷つけかねない。

 どうすればいいのかとヴァニラは頭を悩ませていると、フォルテが顔を上げてアニスに目を向ける。

 

「あっ! そうそう、お前さん。えっと、アニスだっけか?」

 

「えっ? 俺?」

 

「アンタもエンジェル隊のメンバーになったのかい?」

 

「ああ、いや俺は違うぜ。ミントの野郎の紹介で、外部協力者って奴だ」

 

「へぇ~、ミントのね」

 

「アニス・アジートだ。よろしくな!」

 

「はいよ。フォルテ・シュトーレンさ」

 

 アニスとフォルテは互いに自己紹介をした。

 それと同時にブリーフィングルームの扉が開き、険しい顔をしたレスターが入室してきた。

 

「待たせたな」

 

「レスター…………済まなかった」

 

 レスターの入室と共に立ち上がったフォルテは、深々と頭を下げた。

 ブリーフィングルームの中が重い空気で満ちた。いや、それは本当は誰もが気付いていながらも目を逸らしていた。

 だが、暗く重い空気は最早隠せない程に強まってしまい、カズヤ達も何も言えず無言で頭を下げ続けるフォルテを見ている事しか出来ない。

 

「信じてた……きっと皆なら何とかしてくれるって……勝手な事だって分かってるけどね」

 

「………既に言った通り、この件は俺の裁量でどうなるものではない」

 

「ああ、分かってるさ……でも、やっぱアイツの副官だっただけはあるね」

 

「甚だ不本意だがな」

 

(く、空気が更に重くなっていく)

 

 良くなるどころか更に悪くなっていく空気にカズヤは負けそうだった。

 

「あたしは……」

 

「失礼します」

 

(えっ)

 

 フォルテの言葉を遮るように、ブリーフィングルームの扉が開き声の主が入室してきた。

 その相手の姿を見たカズヤは一瞬、それが誰なのか分からなかった。その人の顔も声も知っている。

 だが、その人物が発する気配というべきものが、全くの別人と思う程に違っていた。

 それはブリーフィングルームにいる誰もが思った事なのか、呆然と入室してきた女性を見つめてしまう。

 自身に視線が集まっている事に気が付いた女性は、少し困惑しながらも自分のすべきことの為にレスターに身体を向けて敬礼しながら口を開く。

 

「クールダラス司令。烏丸ちとせ。只今帰還いたしました!」

 

『…………』

 

 敬礼を行なって挨拶をしたちとせを、ブリーフィングルームにいる全員が呆気に取られた様子で見つめてしまう。

 

「あ、あの、皆さん。どうかされましたか?」

 

「ああ、いや……その、だな……ちとせだよな?」

 

「? はい、そうですが、クールダラス司令? 本当にどうされたのですか?」

 

 確認するように訪ねて来たレスターに、ブリーフィングルームに研究員としての制服を着て入室してきたちとせは訳が分からないと言う顔をしながら答えた。

 状況が分からずにちとせは困惑するが、すぐにフォルテに気が付くと、そのまま傍に近づいて手を握る。

 

「フォ、フォルテ()()!? 本当に、本当にご無事で何よりです!? ずっと、ずっと心配していました!」

 

「い、いや、ちょっと待っとくれよ、ちとせ……今、あたしの事をなんて呼んだんだい?」

 

「? フォルテ()()とお呼びしましたが?」

 

「ああ、そうだね……じゃあ、ヴァニラの事はなんて呼ぶんだい?」

 

「ヴァニラ()()ですが?」

 

『…………えええっ!!』

 

 明らかに呼び方が変わっている事と雰囲気が全く違うちとせに、遂に全員が耐えきれなくなかったのか驚愕の声を上げてしまった。

 だが、その中でフォルテとヴァニラ、そして事前に()()と呼ぶようになっていた事を知っていたレスターは気が付いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、あの、本当にどうされたのですか? 皆さん? 何か私、変な事をしてしまったのでしょうか?」

 

「い、いえ、あの……ちとせさんはフォルテさんやヴァニラさんの事は、私と同じように『さん』と呼んでいましたよね?」

 

「えっ? あ!! あああっ!!」

 

 リコの指摘に自分でも気づいたのか、ちとせは慌てたように口に手をやった。

 

「し、失礼しました! そうですよね! フォルテせん……じゃなくてフォルテさんやヴァニラさんと呼んでいたのに、昔みたいに先輩なんて呼ぶなんて! 私なんて事を!?」

 

「……いや、良いよ、ちとせ」

 

「えっ? フォルテさっ!?」

 

 ちとせの言葉を遮るように急にフォルテは強く抱き締めた。

 

「フォ、フォルテ()()!? あの何を!?」

 

「全く……待たせすぎなんだよ」

 

「はい、ずっとこの日が来てくれるのを待っていました」

 

 強くフォルテは漸く帰って来てくれたちとせを確かめるように抱き、ヴァニラも目尻に涙を浮かべながらちとせとフォルテの側に近寄って来た。

 

「良いんだよ、ちとせ。あたしらの事は()()って呼んでくれて!」

 

「はい、私の事もそう呼んで下さい。そして言わせて欲しいんです」

 

『おかえりなさい、ちとせ(さん)』

 

 その言葉はあの日、『アナザースペース』から帰還した時に本来ならばムーンエンジェル隊の全員がタクトとちとせに伝えたかった言葉。

 だが、伝える事が出来なかった言葉。しかし、今こそ言うべきだとフォルテとヴァニラは確信し、ちとせに告げた。

 言われたちとせの身体が震えた。そして改めて実感してしまった。

 ずっと自身がフォルテやヴァニラ、そして他のムーエンジェル隊のメンバーを含めて、大勢の人達を悲しませていた事を。

 瞳から涙が零れる。自然とちとせの手もフォルテを抱き締めるように背中に回った。

 

「っ……フォルテ先輩……ヴァニラ先輩……ただいま、戻りました……あっ、あぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」

 

 決壊するようにちとせの瞳から涙が溢れた。

 フォルテとヴァニラも涙を溢すが、それでも嬉しそうに微笑む。

 漸く本当の意味でちとせが帰って来てくれたのだから。

 

(フォルテ先輩、ヴァニラ先輩。私は本当に果報者です……だからこそ、私は乗り越えます。タクトさんと一緒に運命を乗り越えて見せます!)

 

 そしてちとせもまた心を新たにする。

 これから先に訪れる自身の運命を知りながらも、愛する相手と共にその運命を乗り越える事を。

 

「す、すいません、クールダラス司令。ブリーフィングの邪魔をしてしまって」

 

 時間が掛かった再会を喜び合った後、ちとせはフォルテから離れてレスターに頭を下げた。

 

「気にするな。お前が来る前の空気のままブリーフィングをする方が問題だったろうからな」

 

(た、確かに……あの空気のままブリーフィングは嫌だなぁ)

 

 カズヤもレスターの意見には同意であり、内心で心から頷いた。

 空気を変える意味でも、フォルテの心情の面でもちとせが来てくれたのは助かったとカズヤは心から想ってる。

 

(教官。本当に嬉しそうだ。それにしてもこれが自然体のちとせさんなのか)

 

 張り詰めている時は纏っている重たい空気もあって、ちとせにどう接すればいいのかカズヤは分からなかった。

 だが、今のちとせにはあの陰鬱な空気は微塵も感じられず、寧ろ明るい空気が全身から発せられている。

 

「ち、ちとせさん。ほ、本当に良かったです……」

 

「ええ、ちとせさんが元気になってくれてよかったですわ~」

 

「ちとせも、フォルテ先生も、ママも元気になって良かったのだ―!」

 

「もう完全に別人にしか見えねぇぜ、ちとせの姉ちゃん」

 

「うぐっ! うぅぅぅぅっ!! 良かった! 本当に良かったぁぁぁぁぁ!!」

 

(リ、リリィさん。自分の事のように泣いて喜んでいる)

 

 ルーンエンジェル隊の面々もちとせが苦悩から解放された事を察したのか、我が事のように喜び、泣いていた。

 

「いや~、本当にちとせが戻って来て良かったよ。これがタクトのおかげってのがちょっと複雑なんだけどね」

 

「そうだな。少しは自分の行ないを反省して貰いたいが……」

 

『……嫌って程に後悔しているよ、レスター』

 

「そうか。それだったらこれからの自分の行動を……ん?」

 

 この場で聞こえる筈がない、しかし、懐かしく感じる声が聞こえた事に気が付いたレスターは訝しんで周囲を見回した。

 その声が聞こえたのはレスターだけではなく、ヴァニラも驚いたように周囲を見回しながら呟く。

 

「今、確かにタクトさんの声が?」

 

「あっ!」

 

 忘れていたと言うようにちとせは胸に手を当てて、自身の首から下げていた菱形の黒いクロノクリスタルのような物が嵌まったペンダントを確認した。

 

「す、すいません! 報告が遅れました! 実は此方のペンダントを介して、ファントムシューターの中にいるタクトさんと話をする事が出来るんです」

 

「何だと!?」

 

「タクトさんと」

 

「話が出来るって!?」

 

 重大な説明にレスター、ヴァニラ、フォルテは声を上げ、カズヤ達もちとせが首から外して手の平に載せたペンダントを見つめる。

 

「調整してタクトさんの音声データをペンダントに登録しました」

 

『や、やぁ……レスター』

 

「………」

 

『フォルテとヴァニラも久しぶり! 二人とも元気そうで良かったよ!』

 

『…………』

 

 レスター、フォルテ、ヴァニラは無言だった。

 その無言は圧力を伴い、タクトに容赦なく圧し掛かる。そうされる事をしてしまったと自覚しているタクトが、彼らに対して出来る事は一つだけ。

 

『………謝って済む話じゃないのは分かってる。それでも……本当にごめん!』

 

「……話す気はあるのか?」

 

『俺としてはもう皆に全部話したいと思ってる。例えば■■■■■■■■■の■■とかを』

 

(えっ? 今なんて?)

 

 何か重要な情報をタクトが伝えようとしたのをカズヤは察した。

 だが、肝心の部分がノイズのような音で遮られてしまい、何をタクトが伝えようとしたのか分からなかった。

 他の面々も困惑した顔をするが、唯一ちとせだけは分かっているのか、タクトに沈痛な面持ちで話しかける。

 

「やはり無理なようです」

 

『っ……そうか。すまない、レスター。伝えられる情報は限られていそうだ』

 

「……ファントムシューターか」

 

 今、タクトが重大な情報を自分達に伝えようとしたのはレスターも分かった。

 だが、それを邪魔するもの。ファントムシューターがタクトの言葉を遮ったのだ。

 

(どうやら本当に、タクトよりも権限はファントムシューターの方が上のようだ)

 

 前にタクトからその事に関しては告げられていたが、それでもこれまでの行動から僅かな疑いが残っていた。

 だが、長い付き合いであり副官を務めていたレスターには今のタクトが重大な情報を告げようとしたのが分かる。

 しかし、ファントムシューターがそれを認めない。

 

「ちとせの方はどうなんだい? このペンダントの事と言い、色々とあの『紋章機』に乗って分かったんじゃないのかい?」

 

「……すいません、フォルテ先輩。実はファントムシューターに乗っている時は覚えていたんですが、降りるとファントムシューターが保持している情報の大半が朧気になってしまい、よく思い出せないんです」

 

「えええっ!?」

 

「だ、大丈夫なんですか!? それって!?」

 

 軽度の記憶喪失に近い状態になっているちとせを知って、カズヤは驚き、リコは心配して声を掛けた。

 

「大丈夫です。情報が朧気になっているのは、ファントムシューターに搭載されている『H.A.L.O.(ヘイロゥ)システム』から離れたからです。再び乗ればそれらの知識も思い出せるようになります」

 

「ん? だったらよぉ? 乗ったまま通信で聞けば良いんじゃねぇのか?」

 

「いや、マイヤーズ殿の時の事を考えれば、恐らく通信で情報を伝えるのも、ファントムシューターが邪魔をするだろう」

 

「其処まで保持している情報の開示を赦さないなんて~」

 

(一体どんな情報をファントムシューターは、保持しているんだ?)

 

 マジークでファントムシューターが『全ての終焉』を告げた予言に関わる事は、カズヤ達も分かっている。

 しかし、肝心の予言の内容は消失し、あくまで概要のみしか残されてない。そうなれば完全な情報を保持しているファントムシューターが告げるしかないのだが、タクトとちとせが望んでもファントムシューターはしようとしない。

 その理由はヴェレルの行動に原因があった。

 

(ヴェレルが『影』を悪用したのは間違いない……アレを悪用した以上、もう一つの情報が外部に知られて悪用されるのを恐れているんだ)

 

 『影』を悪用されたのは不味いが、もう一つ。

 『ABSOLUTE(アブソリュート)』には恐ろしい物がある。もしそれをヴェレルが迂闊にも目覚めさせてしまえば、その瞬間、全てが()()()

 そしてヴェレルという悪用してはならない物を悪用した者が現れた以上、情報に関してはこれまで以上に厳しく管理しなければならない。

 レスター達ならば情報を伝えても問題無いとタクトとちとせが思っても、ファントムシューターが認めない限り、情報の開示は不可能だった。

 

「ですが、幾つか話せることもあります。例えばですが、ファントムシューターが告げた『GA-000』の識別番号。これは確かに『白き月』で製作された『紋章機』の識別番号でした」

 

「では、ファントムシューターは元々は『白き月』で製作された『紋章機』だったのですね」

 

「はい、ヴァニラ先輩。ですが……」

 

『待った、ちとせ』

 

「えっ? タクトさん?」

 

 急にタクトに止められたことにちとせは驚く。

 

『俺はこんな状態だから構わないけど、このブリーフィングじゃ席の数が足りないだろう? 立ったままで聞くには長話になるから、何処か皆で席に座れる場所で話そうじゃないか!』

 

「えっ?」

 

『俺の話は勿論だけど、全員気になっている事があるだろうからさ。良いだろう レスター?』

 

「……はぁ~、仕方がない」

 

『おっ、やけに聞き分けが良いな』

 

「お前が俺にエンジェル隊の面倒を押し付けてくれたからな。というか、お前よりも俺の方がエンジェル隊との付き合いが長くなったぐらいだ」

 

『いや~、面目ない……』

 

「その代わり話せる範囲の情報は全て話して貰うぞ」

 

『分かってるさ。皆も気になった事があったらどんどん聞いてくれ! ところで提案した俺が聞くのも何だけど、これだけの人数が座れる良い場所ってこの艦の中にあるのかな?』

 

「それでしたら、ティーラウンジは如何でしょうか? エルシオールと同じようにこのルクシオールにもティーラウンジがあります」

 

『ティーラウンジか良いね。其処にしよう。じゃ、皆! 移動! 移動!』

 

「アンタはちとせに運ばれないといけないだろう、タクト」

 

『はははは、それを言わないでくれ、フォルテ』

 

 タクトの提案によってブリーフィングルームにいた者達が、ティーラウンジに向かって行った。

 カズヤもそれに続こうとするが、最後尾にいたリリィの呟きを目にする。

 

「なるほど。アレがシュトーレン中佐が認めた上官か。見事なものだ」

 

「えっ? どう言う事ですか?」

 

「ん? カズヤも気づいているだろうが、シュトーレン中佐は現在自戒の念に苛まれている」

 

「はい、それは僕も感じていました」

 

「この件に関しては幾ら私達が言っても、そう簡単に解決できる問題ではない。そしてクールダラス司令ではこの問題の解決は難しかっただろう」

 

 下手な慰めは返ってフォルテの心情を悪化させるだけである上に、昔よりも柔軟性があるが、やはり真面目なレスターでは場の雰囲気を変える事は難しい。

 

「だが、あのマイヤーズという人物は、異例としか言えない提案をして場の雰囲気を変えた。恐らく烏丸研究員がブリーフィングルームに入室して来たのも、彼の提案によるものだ」

 

「なるほど……でも、マイヤーズさんは何時フォルテ教官の事に気が付いて」

 

「気が付くチャンスはあっただろう? 格納庫にシュトーレン中佐が来た時だ」

 

「ああっ!」

 

 今はちとせが持つクロノクリスタルと似たような機能を持つペンダントで会話出来るようになったタクトだが、その精神が宿っているのは格納庫にあるファントムシューター。

 何の反応も無かったのでカズヤは気にしていなかったが、確りタクトはフォルテの様子を窺っていたのだ。

 

「正直な話、良い印象はなかった人物だったが、考えを改める必要があるようだ」

 

「そうですね」

 

 前を向けば、其処にはちとせを中心にフォルテとヴァニラが集まり、三人で微笑みあいながら歩いている。

 フッと、カズヤは三人の他にもう一人。男性が、ちとせ、フォルテ、ヴァニラと一緒に笑い合いながら歩いている光景を幻視した。

 

(ムーンエンジェル隊の司令官タクト・マイヤーズさんか)

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
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