ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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黒百合大好き様、誤字報告ありがとうございました!

今回は切りが良いところで終わりにしたので短めです。


8-5

 トランスバール星系。

 現在の『EDEN(エデン)』宇宙において、最も力を持っている勢力であるトランバール皇国の本星がある星系。

 トランスバール皇国はクロノ・クェイクが起きる前まで最も栄えていた『EDEN(エデン)』文明の遺産である『白き月』の加護を受けて栄え、『ヴァル・ファスク』から『EDEN(エデン)』の首都惑星であるジュノーを解放し、戦争に勝った事でその地位は『EDEN(エデン)』宇宙において揺るぎない勢力となった。

 その首都惑星である皇国本星の衛星には、トランバール皇国に於いて政治的にも宗教的にも重大な意味を持つ『白き月』が存在している。

 その『白き月』に近い付近の空間が歪み、穴へと至ると共にエンジェルフェザーを展開したファントムシューターが飛び出して来た。

 

《通常空間にシフト完了。位置座標確認。トランスバール本星。『白き月』付近にシフト》

 

「まさか、本当にこんなあっさりと『白き月』があるトランスバール本星に着くなんてね」

 

 ファントムシューターの全天周囲の球体型のコックピット内にちとせと共に乗っていたノアは、殆ど一瞬で光年単位で計算しても、更に距離がある『クロノゲート』がある宙域からトランスバール本星まで辿り着いた『アナザースペース』を介しての航行法に険しい声を出さざるえなかった。

 

『ははははっ! 凄いだろう! ノア!』

 

「笑い事じゃないわよ、本当に」

 

 能天気なタクトの声に、ノアは頭が痛そうにしながら答えた。

 無理もない。空間異常で察知出来るとは言え、それは『クロノ・ドライブ』でも同じ事。

 だが、ファントムシューターが用いる航行法は、『クロノ・ドライブ』よりも比べものにならない程に優れている。

 

「しかも別の宇宙にまでいけるなんて……」

 

(もしもこの航行法が他の勢力に渡ったら、不味いどころの騒ぎじゃないわね)

 

 改めてちとせの事情があったにしても、ファントムシューターを秘密裏に追う判断は間違っていなかったとノアは思った。

 もしも公的に追う事をしていれば、『EDEN(エデン)』宇宙が求めるほどの何かがファントムシューターにはあると示すようなもなのだから。

 

「タクトさん。『白き月』にトランスバール本星ですよ」

 

『『白き月』にトランスバール本星!! 俺は帰って来たよ!!』

 

「なにそれ?」

 

『いや、何となくこう言った方が良い気がして』

 

《理解不能》

 

「ほら、機械にまで呆れられてるわよ」

 

『シクシク……ちょっと言ってみただけなのに』

 

 息があっているようなファントムシューターとノアの指摘に、タクトは少し悲しくなった。

 

「あ、あの。タクトさんにとっては四年ぶりにみる『白き月』と本星なのですから」

 

『い、いや、良いよ、ちとせ。冗談みたいなものだし……それにしても本当に久しぶりだな、『白き月』とトランスバール本星』

 

 感慨深いような声を出しながら、タクトはファントムシューターのセンサーを使って『白き月』と故郷であるトランスバール本星を眺める。

 タクトがどんな感情を抱いて眺めているのか『H.A.L.O.(ヘイロゥ)システム』を介して伝わって来るちとせは、嬉しさから涙を目尻に浮かべ、ノアも何も言わなかった。

 

『……ファントムシューター。君にとっても里帰りみたいなものだけど、何か思うところはあるかい?』

 

《否定。本機は『NEUE(ノイエ)』に於いて改修を施された機体。『白き月』で開発された『ホワイトエンジェル』と本機は別機と認定すべき》

 

「まぁ、そうでしょうね。AIを組み込んだ自立意思を持った機体なんて、完全に私の『黒き月』側よ。『白き月』で開発された『ホワイトエンジェル』なんて機体は、もう無いと思った方が良いわ」

 

『君達、なんか凄く仲が良くない? 四年も一緒にいる俺より息があっているように見えるんだけど』

 

「別にそう言う訳じゃないわよ」

 

《肯定》

 

「ふふっ……」

 

 気が合っているとしか思えないノアとファントムシューターの様子に、ちとせは思わず微笑んでしまった。

 そしてファントムシューターが真っ直ぐに『白き月』に向かっていると、ファントムシューターに通信が届く。

 

――ピピッ!

 

「『白き月』から通信です。繋ぎます」

 

 ピッとちとせが操作すると共にコックピット内に女性の声が響く。

 

『お待ちしていました』

 

「シャ、シャトヤーン様!?」

 

 ちとせにとって一番上の上司であるシャトヤーンからの直接連絡に、思わず声を出してしまう。

 だが、慌てるちとせと違いノアは冷静に通信先にいるシャトヤーンに声を掛ける。

 

「ちゃんと戻って来たわよ、シャトヤーン」

 

『その声はノア……どうやら本当に『クロノゲート』からこの『白き月』まで来たのですね』

 

「ええ、そうよ。数分だけど、『アナザースぺ―ス』にも行って来たわ」

 

『っ……『アナザースペース』にも……では、報告通り……』

 

「ええ、精神だけだけど帰って来たわよ」

 

 此処からは自分の番ではないと言うようにノアは口を噤む。

 自分の出番が来た事をタクトは悟る。此処で口を開く事で、相手がどんな気持ちを抱くのかも分かっている。

 『白き月の聖母』であるシャトヤーンの事は、タクト自身も敬愛しているお方。

 そんな方を悲しませる報告をしてしまう事に、罪悪感を感じながらも自分達が『白き月』に訪れた目的を果たす為に音声を発する。

 

『お久しぶりです、シャトヤーン様』

 

『っ……マイヤーズ司令なのですね?』

 

『はい。このような形での帰還。誠に申し訳ありません』

 

『いえ……貴方とちとせには何とお詫びをすれば……』

 

『お詫びなんて必要ありません』

 

「はい、タクトさんの言う通りです。シャトヤーン様がお詫びになられる事などありません」

 

 二人は自分達に起きた事で、誰かを責めるつもりはない。

 タクトとちとせからすればノアが考えてくれた『クロノ・クェイクボム』に対処する為の方法は、自ら進んで実行した方法。『アナザースペース』に呑み込まれる事も覚悟したうえで行なったのだから、その結果が望まない形になっても自分達の責任。

 ましてや当時は『アナザースペース』内に『ウィル』という謎の強大な勢力が存在しているなど、誰も夢にも思っていなかったのだから。

 

『マイヤーズ司令、ちとせ……分かりました。では、『白き月』への()()()()()()()()()の入港を許可します』

 

《誘導電波を確認……指示に従い移動》

 

 『白き月』から発せられた誘導電波に従って、ちとせは操縦桿を動かしファントムシューターの機首を向けた。

 そんな中、ノアは何か考えるような顔をしながら近づく『白き月』を見つめる。

 

「………今、シャトヤーンは()()()()()()()()()って、この機体の事を呼んだわよね?」

 

『ああ、シャトヤーン様は確かにファントムシューターの事をそう呼んでいたけど、それがどうかした?』

 

 未だファントムシューターの情報制限は掛けられているが、それでもレスター達に話した内容は全て報告データに纏めてノアに提出した。

 当然そのデータはトランスバール皇国にも送られ、『白き月』にも伝わっている。

 確かにシャトヤーンがファントムシューターの事を改修前の『ホワイトエンジェル』と呼んだ事は気になるが、敢えて嘗ての『白き月』に居た頃の名で呼んでもおかしくはない。

 

「……まっ、良いわ。どのみちすぐに会うんだから、その時に聞きましょう」

 

 意味深なノアの言葉にちとせとタクトは困惑するが、ノアの言う事は最もなので『白き月』に向かう。

 

 誘導電波に従って『白き月』へと入港を果たしたノアとちとせは、ファントムシューターから降りるとシャトヤーンが待っている筈の謁見の間へと向かった。

 

『『白き月』の中は変わっていないなぁ』

 

「シャトヤーンには機能的にしろって言っているんだけどね」

 

『えっ? まだ言っていたの?』

 

「当たり前でしょう。無駄なスペースを機能的にすれば、それだけ効率が上がるのに、シャトヤーンもシヴァも全く人の話を聞かないんだから」

 

「で、ですが、ノアさん。『白き月』は皇国の象徴でもありますし……な、内装を変えるのはやはり」

 

「この点さえ同意するなら、完璧な私の助手なのにね、ちとせは」

 

 そんな風に会話している間に、荘厳な雰囲気が漂う神殿を思わせるような謁見の間へと辿り着いた。

 既に其処には純白のドレスを纏い、淡い水色の長い髪にベールと冠を戴いた女性-『白き月の聖母シャトヤーン』-が待っていた。

 

「お待ちしていました。それとおかえりなさい、ノア」

 

「シャ、シャトヤーン様!? お待たせしてしまい申し訳ありません!!」

 

 まさかシャトヤーンの方が先に謁見の間で待っていた事に、慌ててちとせは謝罪した。

 『白き月』での上司である事もあるが、シャトヤーンは皇国の宗教的に象徴の存在。そんな相手を先に待たせていたことにちとせが慌てるのは当然だった。

 しかし、シャトヤーンは気を悪くした様子もはなく、ちとせを落ち着かせるように優しく声をかける。

 

「ちとせ。謝罪の必要はありません。私の方が早く会いたくて、こうして待っていたのですから……それでマイヤーズ司令は」

 

「……はい、此方のペンダントで会話を行なえます」

 

 ちとせはシャトヤーンに向かって膝を着き、首にかけていたペンダントを外して手の平に載せて掲げるように持つ。

 

『お久しぶりです、シャトヤーン様。このような形での拝謁になってしまった事を、深く謝罪いたします。誠に申し訳ありません』

 

「っ……いえ、マイヤーズ司令が謝罪されるような事はありません。事情はノアから送られて来た報告データで知っています」

 

 青紫色の瞳に悲し気な光を宿しながら、シャトヤーンは答えた。

 

「シヴァ陛下とルフト宰相も、もう間もなく此方に来られます」

 

「そう。少し早く着過ぎたみたいね。なら、丁度良いわ。シャトヤーン。何で貴女、ファントムシューターの事を()()()()()()()()()って呼んだの?」

 

『ノア?』

 

「ノアさん?」

 

 何故そんな質問を急にノアがしたのか分からず、タクトとちとせは困惑する。

 だが、シャトヤーンの方は質問の意味が分かっているのか頷くと、険しい声でノアに答える。

 

「先ほど貴女達が乗って来た『紋章機』を『白き月』のレーダーが『ホワイトエンジェル』と示すと共に、『白き月』内部のデータに変化が訪れました」

 

「『白き月』がファントムシューターに反応を!?」

 

『驚いた……ファントムシューターの情報だと、『ホワイトエンジェル』に関する情報は建造した『白き月』からも消去されている筈なのに』

 

 予想外の出来事にちとせとタクトは驚く。

 ファントムシューターに記録されている情報では、『ホワイトエンジェル』の存在は『白き月』から抹消された筈。なのに『白き月』はファントムシューターを『ホワイトエンジェル』と認識した。

 

「そしてノア。貴女と私に過去の『EDEN(エデン)』文明から指示が表示されました」

 

「過去の『EDEN(エデン)』文明からの指示ですって? ……なるほどね。ルシャーティの時みたいに、特定の何かが鍵となるロックが施されていた訳ね。全く……管理者である私や当時のシャトヤーンにも秘密にして一体何をしていたのかしらね。当時の『EDEN(エデン)』の上層部は……で、どんな指示が表示されたの?」

 

「『『白き月と黒き月』の管理者二人は、『ライブラリ』の管理者と共に『ライブラリ』で同時に同じ項目を検索せよ。さすれば『全ての終焉』に関するデータロックは解除される。未来の子らよ。どうか『終焉』を知っても、希望を失わないでくれ。我らは遺す。『禁断の希望』を』」

 

 シャトヤーンは険しい声で自身とノアに送られた過去からのメッセージを口にした。

 

『間違いない! ファントムシューターに記録されていた『ライブラリ』の秘匿データの開け方と同じだ!』

 

「では、検索する項目の事も!?」

 

「はい。表示されました」

 

「そう。これで昔の連中が、何をしていたのか分かるわね」

 

(ちとせを救う手段もこれで得られるかもね)

 

 待ち望んでいた情報が得られることにノアは安堵する。

 尤もシャトヤーンは立場上、手続きやら何やらが必要なのですぐに『ライブラリ』がある惑星ジュノーには迎えないが、それでも一歩前進したのは間違いなかった。

 

「今のところ此方から伝えられる事は以上です……そしてマイヤーズ司令、ちとせ。あなた方が『白き月』に戻って来たのは、今は保管されているシャープシューターの予備兵装をあの『紋章機』の兵装として使わせて欲しくてなのですね」

 

『はい。その通りです』

 

「どうか、お願いします、シャトヤーン様。今再び戦場に立つ為にも、シャープシューターの予備兵装を使わせて頂きたいのです」

 

「……私は出来る事ならば、あなた達が戦場に戻る事を望みません。以前の戦いで多くのものをあなた達は失い過ぎてしまいました」

 

 シャトヤーンは愁いを帯びた顔をする。

 タクトとちとせに起きた悲劇には、シャトヤーンも心を痛めていた。

 『アナザースペース』で生死不明となってしまったタクト。

 再び『アナザースペース』に辿り着く為に、心身を削って研究に勤しんでいたちとせ。

 もう充分過ぎるほどに二人は傷つき、タクトに至っては肉体さえも奪われてしまった。

 シャープシューターの予備兵装を二人に渡すという事は、そんな二人に再び戦う術を渡し、過酷な運命を進ませる手助けをしてしまう事を意味する。

 故にシャトヤーンはすぐに頷く事が出来なかった。

 

『それでもどうかお願いいたします! 俺達が運命を乗り越える為にも、どうか予備兵装を戴きたいのです!』

 

「……もしもそれで帰って来れなければ、どうするつもりなのだ、マイヤーズよ」

 

『っ!?』

 

 聞こえて来た声にタクトは言葉を失った。

 コツコツと謁見の間に二つの足音が響く。その内の一人は、先日通信で話したトランスバール皇国宰相『ルフト・ヴァイツェン』。

 そしてもう一人。タクトが知っている頃よりも黒い髪を伸ばし、女性的なドレスを身に纏った少女。何処となくシャトヤーンに似た印象を抱くその少女こそ、トランスバール皇国女皇『シヴァ・トランスバール』が、今にも泣き出しそうな顔をしながらも力強い瞳をちとせが持つペンダントに向けながら現れたのだった。

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
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