ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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八章前半終了です。

黒百合大好き様、誤字報告ありがとうございました!!


8-6

 『白き月』内部の謁見の間に沈黙が満ちる。

 『白き月』の主であるシャトヤーンは沈痛な面持ちを浮かべ、ノアも流石に何も言わずに成り行きを見守っている。

 ちとせは、すぐさま謁見の間に入って来たトランスバール皇国宰相であるルフトと女皇であるシヴァに向かってかしずいた。

 シヴァはちとせの前まで来ると鷹揚に口を開く。

 

「烏丸ちとせ。良くぞ『NEUE(ノイエ)』より帰還してくれた。其方が帰還してくれたおかげで、我らは『ABSOLUTE(アブソリュート)』と『NEUE(ノイエ)』で何が起きているのか知る事が出来た。深く感謝している」

 

「勿体無きお言葉、身に余る光栄です……ですが、まだ事態は解決しておりません」

 

「うむ。『クロノゲート』を唯一開放できる『ゲートキーパー』であるミルフィーユ・桜葉が未だ敵の手の中にあるのだったな」

 

「報告によれば、今回の一連の件の首謀者が『ABSOLUTE(アブソリュート)』で発見された唯一の生存者であったヴェレルとされていたが、間違いはないのかね、ちとせ君?」

 

「事実です。ヴェレルは『ABSOLUTE(アブソリュート)』に存在していた防衛機構を用い、『セントラルグロウブ』を襲撃しました。それに伴いセルダールに地殻破壊爆弾クラストブレイカーを向けて人質に取り、フォルテ先輩をクーデターの首謀者として扱い、『NEUE(ノイエ)』を支配下に置こうとしました。また『NEUE(ノイエ)』宇宙に於いてヴェレルの協力者と思われる『NEUE(ノイエ)』人を確認出来ましたが、今のところ其方は死亡し捕らえるには至っておりません」

 

 出来る事ならばヴェレルの協力者である『NEUE(ノイエ)』人を捕らえたかったのだが、ディータはマジークで自ら命を絶ち、セルダールを支配下に置いていた連中はヴェレルが処断して死亡。

 残念な事にヴェレルに協力する『NEUE(ノイエ)』の者達の背後関係は不明のままだった。

 唯一判明しているのは、マジークでディータが秘匿された禁忌である『魔封結界』を使用した事から、過去にマジークを支配下に置いた邪悪な魔法使いの一族が存在している可能性。

 マジークが早期に『EDEN(エデン)』側のルクシオールに協力するのを決定したのも、その一族の関与を調べる為だったのだが、情報は今のところ一切手に入っていない。

 

「それでフォルテ・シュトーレンはどうなった? 例え傀儡として動かされたにしても、『NEUE(ノイエ)』の者達からすればクーデターの首謀者の一味として見られている筈だ。何の処罰も下されるはずがあるまい」

 

 今でこそシヴァはトランスバール皇国女皇だが、実を言えばトランスバールの皇族としての立場は途轍もなく低く、先代の皇王ジェラールが庶民の女性の間に儲けた事になっている。

 それ故に幼き頃から『白き月』に預けられていた。そのおかげで皇国で起きたクーデターによって首都が壊滅し、ジェラールを始めとした皇族達が全員死んだ中、唯一『白き月』に居たシヴァだけが難を逃れたのだ。

 その後、タクト・マイヤーズ率いるムーンエンジェル隊と共にクーデターを引き起こした軍を討伐する事で、シヴァはトランスバール皇国を統べる者となった。

 そのような経験をしたが故に、クーデターの首謀者として祭り上げられてしまったフォルテの事がシヴァは心配であり、ルフトとシャトヤーンも安否が心配だった。

 

「フォルテ先輩に関しては、非公式ですがセルダールの王であるソルダム陛下より、クールダラス司令に『寛大な処置を約束する』と伝えられています」

 

「そうか……ならば、セルダール王の言葉を一先ずは信じるとしよう」

 

 セルダールの王であるソルダムとは、『NEUE(ノイエ)』と交流出来るようになってからシヴァもあっている相手。

 出来る事ならば信じたい気持ちでいるが、シヴァの両手は硬く握り締められて震えている。

 シヴァにとってフォルテは大切な部下であり、立場を超えた仲間だと思っている。そんなフォルテにもしもの事があれば、幾ら心優しいシヴァとは言え冷静ではいられない。

 現にちとせがファントムシューターに乗って『NEUE(ノイエ)』から帰還するまでは、毎日『クロノゲート』近辺で待機しているエルシオールに乗っていたノアに連絡を入れていたのだから。

 揺れる心を落ち着かせるようにシヴァは息を吐くと、ちとせが手に持っているペンダントに目を向ける。

 

「っ……」

 

 すぐにシヴァは言葉を発せられなかった。

 言葉を口にして返答が返ってくれば、信じたくない現実が嫌でも事実だと思い知らされるために。

 

(烏丸ちとせは、コレを乗り越えたのだな)

 

 どのような経緯があったのかまでは、送られて来た報告の中には詳しく記されていなかった。

 だが、シヴァもまた一目見て、ちとせがムーンエンジェル隊の隊員だった頃に戻り、強い覚悟を抱いているのが分かった。

 

(私はこんなにも恐れているのに……)

 

 シヴァには誰にも話した事が無い秘めた想いがあった。

 その想いが報われる事は無いと理解しているが故に、心の奥底に蓋を閉めて忘れるようにしていた。

 だが、あの日。タクトが『アナザースペース』から帰還できなかった日。

 シヴァは一人になった時に心の底から泣いた。兄や父のようにしたい、いや、それ以上の感情さえも抱いていた大切だった存在を失ってしまった事を知って心の奥底から泣いた。

 立場故にタクトを殉職扱いするしかなかった事にも泣いた。

 そのタクトが『EDEN(エデン)』軍が密かに追っていたファントムシューターの背後にいるかも知れない可能性があると聞かされた時、シヴァは否定した。

 『アナザースペース』から戻って来ているならば、自分達に会いに来る筈だと。

 そしてファントムシューターに乗ってちとせが『NEUE(ノイエ)』から一時帰還し、送られて来た報告を目にしてシヴァは倒れた。

 即日にちとせとタクトが呼び出されなかったのは、シヴァの心が落ち着く事が必要だったからだ。

 会談の日が訪れ、電子音声ではあるが確かに聞こえた懐かしき声に不覚にもシヴァは泣きそうになった。

 今でも本当は泣きそうになるのを必死に堪えている。

 

「……ひ、久しいな……タ、タクト・マイヤーズよ」

 

 震える唇を必死に動かし、声を震わせながらシヴァは言葉を発した。

 

『お久しぶりです、シヴァ()

 

(ああ、これは……本人だな)

 

 偽物という可能性は、たった今タクトが口にした呼び方によって失われた。

 トランスバール皇国の頂点に立つが故に、シヴァの事は『陛下』或いは『女皇陛下』と呼ばれる。

 だが、唯一タクトにだけはシヴァは『様』付けで呼ぶ事を許可していた。もしも此処で『女皇』や『陛下』と呼ばれていれば、偽物だと思う事が出来た。

 しかし、タクトは証明した。自分が本物のタクト・マイヤーズである事を。

 

「……愚か……者……このような形で……帰って来るなど……」

 

『謝罪の言葉もありません……この身はシヴァ様との約束を果たせなかった不忠者です』

 

 『ヴァル・ファスク』との決戦の前の作戦会議の時、タクトは約束していた。

 

 決して主君であるシヴァを嘆き悲しませるマネはしないと。

 

 だが、その約束は果たされなかった。

 予想外の出来事があったにしても、主君であるシヴァとの約束を違えたことは間違いない。

 故にタクトは言い訳せずに、シヴァの言葉を待つ。

 

「……マイヤーズよ……あの黒き『紋章機』。我らが『ゴースト』と呼んでいたあの機体は、四年前に現れた。その時既にお前は……」

 

『お気付きの通り、『クロノゲート』での接触の時点で、既に俺のファントムシューターの中に精神が宿っていました』

 

「ならば何故その時点で私達に告げなかったのだ!? そんなにも私達は『ウィル』や『全ての終焉』とやらに対して頼りなく無力だと思っていたのか!?」

 

 シヴァが何よりも悔しいと感じたのはその事だった。

 無論、『アナザースペース』に潜んでいる『ウィル』に対して何か出来るとは言えない。『アナザースペース』に行く事が出来るのは、ファントムシューターのみ。

 それでも一人でずっとファントムシューターと共に行動していたタクトに、何らかの支援は出来た筈。

 ちとせをファントムシューターから護って欲しいと頼まれれば全力で護っていた。

 物資や施設などの支援が必要ならば、『EDEN(エデン)』軍を介して協力出来ていた。

 その事にタクトが気付かない筈がないのに、四年もの間音信不通でいた。

 

「答えよ、マイヤーズ!!」

 

『……怖かったんです』

 

「なに?」

 

『俺は怖かった……皆に俺がタクト・マイヤーズじゃないって言われるのが、怖くて仕方が無かった。今でこそちとせが俺の音声データを登録してくれたから、今の声が出せるようになりました。でも、その前は無機質な電子音声でしか声を発せられなかったんです』

 

「それは誠か、烏丸?」

 

「はい。今、タクトさんが言った通り、私達に最初に接触した時の声は、合成された音声でした」

 

 ちとせの報告にシヴァの顔が曇る。

 今はハッキリとペンダントを介して会話しているのがタクト本人である事を確信出来ているが、全く別の、しかも機械で合成された音声だとすればすぐに本人であると確信できるとは断言できない。

 

「確かにそれではタクト本人と確信できたとは言えませんな。ワシとて『セントラルグロウブ』での防衛戦で帰還した軍の者達から報告があるまでは、ファントムシューターという機体の後ろにタクトがいるとは思っても見ませんでしたからな」

 

『えっ? 先生は俺の事に気が付いていたんですか?』

 

「ワシを誰だと思っている? 今でこそ宰相としての方に専念しておるが、まだまだ軍の指揮の方も衰えておらんぞ。そして改めて言うぞ、タクト。良くぞあの場に駆け付けてくれた。もしもあの時、お前とあの『紋章機』が駆けつけていなければ、『セントラルグロウブ』の防衛にあたっていた『EDEN(エデン)』軍は勿論、『セントラルグロウブ』内にいた者達も助からなかったであろうからな」

 

 実際、ファントムシューターが駆けつけるまでは『セントラルグロウブ』の防衛にあたっていた『EDEN(エデン)』軍は劣勢で無人艦隊に蹂躙される寸前だった。

 その事は、帰還した防衛にあたっていた『EDEN(エデン)』軍の者達からの報告によって明らかになっている。

 そんな危機的状況に駆け付けてくれたファントムシューターとタクトには、シヴァとルフトも感謝していた。

 

「その事に関しては私も感謝している。だが、それとこれとは話は別だ」

 

『分かっています……結局、俺は怖くて逃げていたんです。ちとせや皆に拒絶される事を』

 

「タクトさん……」

 

 ちとせは憂いに満ちた顔で手に持つペンダントを見つめた。

 ファントムシューターにタクトが関わっているのが明らかになったのは、様々な要因が重なった結果。

 もしもそれらが無い状態で、ファントムシューターにタクトの精神が宿っているといると言われても信じられない者は必ず出ていた。

 そうなっていた時に、タクトが受けていたでろう精神的なダメージを察しているノアが口を開く。

 

「まぁ、そうよね。実際、私だってちとせが元気になっていなかったら、タクト本人の精神がファントムシューターに宿っているなんて思わなかったでしょうし……証明するまでに誰かが不用意にタクト本人じゃないって疑っていたら危なかったと思うわよ」

 

 タクトがどれだけ危うい状態にあるのか察しているノアも、擁護するように意見を告げた。

 

『ありがとう、ノア』

 

「別にお礼を言われる事じゃないわよ……アンタの状態を解決する方法は、今のところないんだから」

 

「……分かった。その事に関しては不問としよう」

 

 シヴァもタクトが苦しんでいた事を理解し、四年間の音信不通に関しては不問とする事にした。

 

「だが、再びお前と烏丸が戦場に立つ事は別だ。報告によれば、あの黒き『紋章機』は寄りにも寄って『黒き月』の思想を基にしているそうではないか」

 

 シヴァが思わずと言った様子で、『黒き月』の管理者であったノアに顔を向けた。

 

「言っておくけど、あの『紋章機』に関しては『黒き月』そのものは関わってないわよ。『クロノ・クェイク』が起きる以前の『EDEN(エデン)』上層部が、管理者である私や当時の初代シャトヤーンにも黙って二つの月の技術流用して製作した機体なんだから」

 

「分かっている。だが、それでも『紋章機』を『黒き月』の思想に染めるなど」

 

「シヴァ陛下……」

 

 複雑そうに顔を歪めるシヴァに、シャトヤーンが声を掛けた。

 今でこそ『黒き月』の管理者であるノアと和解出来ているが、出会った当初は『黒き月』がトランスバール皇国にもたらした悲劇の数々によって険悪な関係だった。

 それ故に『黒き月』に関しては、未だシヴァはその思想を認めきれずにいる。

 しかもその思想に染められた『紋章機』が存在しているのだから、尚更だった。

 

「アンタが『黒き月』の思想を受け入れられないのは分かってるわ。でも、忘れた訳じゃないでしょう? その『黒き月』の技術で強化した七番機の事を」

 

「忘れてはいない。それ故に聞くがノア。あの黒き『紋章機』は、お前の命令を聞くのか?」

 

「無理ね。アレは完全に『黒き月』と『白き月』から独立した機体よ。私やシャトヤーン……いえ、アレは誰の命令も聞かないわ。勿論、宿っているタクトとパイロットに選ばれたちとせを含めてね」

 

 実際、『黒き月』の管理者であるノアと『ライブラリ』の管理者であるルシャーティと接触しても、ファントムシューターは二人に従う様子は無い。

 今は大人しくしているが、もしも兵装が得られないと分かれば、ちとせが乗った時に勝手にエンジェルフェザーを展開して『白き月』からの逃亡を企てかねない。

 

「なんとも……我々の知る『紋章機』とは全く違うの」

 

「『禁断の紋章機』……マイヤーズ司令がそう称するのも仕方がないかも知れません」

 

 『紋章機』は人と共に戦い、人の可能性を引き出す機体。

 だが、ファントムシューターは人の可能性を利用し、人と共に戦う事を拒絶してただ与えられた目的だけを達成する為だけに動いている。

 

「だが、幾ら『紋章機』とは言え、今のあの『紋章機』には兵装が無い。兵装が無ければ……」

 

「あるんでしょう、ちとせ、タクト。ファントムシューターには新しい兵装を得る手段が。だけど、アンタ達二人はその手段を使わせたくない。考えられるとすれば強力過ぎるから、或いは……()()()()()()()()()だからじゃないの?」

 

「なに? そうなのか、烏丸、マイヤーズよ」

 

 確かめるようにシヴァは、ちとせとタクトに質問した。

 その質問にちとせは悲し気な顔をしながら頷いた。

 

「はい。ファントムシューターの新たな兵装。それは『NEUE(ノイエ)』宇宙の惑星ピコにあるナノマシン研究施設と私達が考えていたフェムトにあります」

 

「報告では其処に、あの『紋章機』の秘密施設もあるそうじゃな」

 

「その通りです、ルフト宰相……これは既にヴァニラ先輩とクールダラス司令、ランファ先輩、フォルテ先輩にミント先輩には話しましたが、あの施設に今も眠っているプディングシリーズと呼ばれているナノちゃんの姉妹達……その子達こそがファントムシューターの()()なのです」

 

『っ!?』

 

 信じられないようなちとせの報告。

 今はルクシオールにいるナノナノの事はシヴァ、ノア、シャトヤーン、ルフトも報告として知っている。ヴァニラが引き取り娘のように慕っている事も。

 その姉妹達が未だフェムトの研究施設内で眠っているという事も情報として知っていた。

 

「それはどう言う事なのだ、烏丸よ? 直接会った事はないが、報告としては聞いた事がある。フェムトという施設で発見され、ヴァニラ・H(アッシュ)のように人の治療が出来る人型のナノマシンの集合体だと。その姉妹達は違うと言うのか?」

 

「……私も出来れば違っていたらと思いました。ですが、紛れもない事実です。今はフェムトで眠るナノちゃんの姉妹の子達は、人を治す事は出来ません。その代わり()()などの修復を行なう事が出来ます。他にはナノちゃんが出来る他者への変身も出来ません。その代わり機械のパーツに変身できます。そして一番重要なのは一人ではパーツにしか変身できませんが、これが何人も集まって行えば機体などにも変身する事が可能なのです」

 

『そしてその機能を使い、兵装が壊れた場合は新たなファントムシューターの兵装となるようにあの子達はプログラミングされてしまっているんです』

 

「まさか、そんな……」

 

「……なるほど、用意周到に準備されていたって訳ね。そうなると、ちとせ。アンタの体内に投与されたナノマシンの本来の調整役は……」

 

「……はい。ノアさんの想像通り、ナノちゃんです」

 

 本来ファントムシューターの搭乗者に選ばれた者に投与されるナノマシンの調整役。

 その者こそ、今はヴァニラが引き取り娘のように想っているナノナノ。正式個体番号プディング031号だった。

 

『だけど、あの子はその命令を忘れてしまっている。きっとあの子の遺伝子提供者だったヴァニラの先祖が、ファントムシューターの計画に反対して命令を忘れさせたんだと思います』

 

 プディングシリーズは本来『戦争用』として製作されていた。それをファントムシューターの計画に流用し、いずれ訪れる『全ての終焉』に関わる出来事に対して盾であり矛を担う役割を与えられた。

 だが、非道と呼べるその計画に反対していた者達もいた。その者達の抵抗手段がファントムシューターの搭乗者に投与されるナノマシンの調整役であるナノナノへの命令を削除。

 

「ですが、その命令削除も完全ではありません。ナノちゃんの根幹に刻まれてしまっている以上、私の体内に投与されたナノマシンへの接触やファントムシューターへの接触を行なえば、ナノちゃんは全てを思い出してしまいます」

 

「それは、今のその子が、消えてしまう可能性もあると言う事なのですね?」

 

『その通りです、シャトヤーン様。だから、ヴァニラや皆と親しいあの子達を悲しませたくないんです』

 

「相変わらずね。そう言う役割を与えられているものに、そうさせたくないなんて」

 

『身勝手なのは分かってるさ。でも、今はフェムトで眠っているあの子達にも宇宙の素晴らしさを知って欲しいんだ』

 

 タクトも自身が身勝手な考えを持っているのは分かっている。

 過去の人々が未来の為に遺してくれたものを出来れば、使用したくないなど身勝手以外何ものでもない。

 

『それでも他に方法がある以上、あの子達を犠牲になんてしたくないんだ』

 

「その方法こそが、この『白き月』に残っているシャープシューターの予備兵装を使用する事なのですね、マイヤーズ司令」

 

『はい、シャトヤーン様』

 

「シャトヤーン様。お使いしている身でありながら、このような進言は失礼なのは分かっています。ですが、どうかシャープシューターの予備兵装の使用許可を戴きたいのです」

 

「………」

 

 シャトヤーンは思い悩むように顔を俯かせた。

 今のタクトとちとせの説明によって、シャープシューターの予備兵装を渡さなければどうなるのか分かってしまった。

 しかし、渡すという事は再びタクトとちとせを過酷な戦いの運命に進ませる事を意味する。二人が既に硬く決心してその運命に挑もうとしている事も、今の会話で分かった。

 そしてシヴァは拳を硬く握り締めながら言葉を発する。

 

「……マイヤーズ。其方と烏丸が過酷な運命に挑もうとしているのは分かった……だが、私は……お前達にこれ以上戦って欲しくない」

 

『シヴァ様……』

 

「シヴァ陛下……」

 

「故にトランスバール皇国女王として其方らに命じる。タクト・マイヤーズ、烏丸ちとせ……今を持って両名ら私直属の独立部隊として『全ての終焉』とやらの解決に尽力を尽くせ。その解決にトランスバール皇国は惜しみなく協力する」

 

『……えっ?』

 

「え、えええええっ!? ど、独立部隊!? し、しかもシヴァ女皇陛下の直属に、私とタクトさんが!?」

 

 予想外と言っていい命令と立場を与えられたことにタクトは唖然とし、ちとせは取り乱してあわわと慌てて周囲を見回し出した。

 

「そしてノア。そなたには烏丸の体内に投与されたナノマシンの研究と『全ての終焉』とやらの調査を頼みたい」

 

「優秀な助手を私から奪っておいて……まぁ、仕方がないわね。良いわよ。私だって昔の『EDEN(エデン)』の上層部が何をしようとしていたのか知りたいところだから」

 

 表面上は不満そうにしながらも、ノアはシヴァの提案を了承した。

 

『……ええと、シヴァ様。これは……』

 

「流石の其方も分からぬか……実際、私は其方と烏丸が戦う事は本心では反対だ……だが、あの黒き『紋章機』に、其方らの命運が握られている以上、手出しは不可能だ。ならば、協力しながらも此方は此方で『全ての終焉』への打開策を考え、同時に其方らを黒き『紋章機』より救う手段を探すしかあるまい」

 

「それにタクトよ。これはお前が正式に戻って来るための下作りも兼ねておるのだ」

 

『下作りですか?』

 

「うむ、何せお前さんは『EDEN(エデン)』では公式に死亡扱いになっとるからな。しかもトランスバール皇国は勿論、惑星ジュノーでも国葬扱いでだからのう」

 

『あっ、そう言えば……』

 

 自身が『EDEN(エデン)』でどんな扱いになっているのか思い出したタクトは、内心で冷や汗を流さずにはいられなかった。

 

「ルフトの言う通りだ。故にお前はあの『ヴァル・ファスク』との決戦後、謎の勢力である『ウィル』の調査の為に、表向きには死亡したという事にして私の命で様々な調査を行なっていた事にする。その過程で『全ての終焉』を始めとした未だ『クロノゲート』が開放されていない先に四つの未知の宇宙を発見したなど、功績を上げていた事にする」

 

「まぁ、アンタが私達に送った情報は制限されていたものだけど、充分過ぎるほどに有益な情報ばかりだったから嘘とは言い切れないわね」

 

「ノアの言う通りだ。その功績を其方が肉体を取り戻して帰還後に発表する」

 

『……ありがとうございます、シヴァ様』

 

 『ウィル』から奪われた身体を取り戻せるという確証が無いと言うのに、それでも自分達を信じて協力してくれようとしているシヴァにタクトは感謝しかなかった。

 

「ありがとうございます、シヴァ陛下。この御恩は決して忘れません」

 

 ちとせもシヴァが再び向けてくれた信頼と信用に応える為に硬く決意を固めながら感謝した。

 

「よい……だが、直属になった以上これだけは厳命する。絶対に全てを終わらせて私達の元に戻って来るのだぞ」

 

『「はいっ!!」』

 

「……では、決まりましたね」

 

 シャトヤーンもシヴァが見せた決意に心を決め、ちとせとその手に大切に持たれているペンダントを見つめながら口を開く。

 

「お渡ししましょう。貴方達が求める物。嘗てのちとせの愛機であった『紋章機』。シャープシューターの予備兵装を」

 

 

 

《第八章前半『帰還・白き月へ』終了・第八章後半『天使の休息・想いの芽生え』に続く》

 




次章はカズヤとそのヒロインsideです。

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
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