ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

54 / 66
今話で第八章後半は終わりとなります。


8-10

「あっ! これ本当に甘くて美味しい!」

 

「本当ですね! それによく冷えていて美味しいです!」

 

「こんな野菜が『EDEN(エデン)』にあるんですね~」

 

「不思議ですに~」

 

「うむ。興味本位で買ってみただけだったが、正解だった」

 

 スイカ割りと言う遊びを終えた後、丁寧に切ったスイカをそれぞれが堪能するように食べていた。

 

「でも、やっぱりリリィさんが成功させましたね」

 

「凄かったですよね。私は全然明後日の方に歩いて、棒を振ってしまったのに」

 

「私もそうでしたわね~」

 

 目隠しをしてスイカ割りに挑んだカズヤ、リコ、カルーアだったが、成功させたのは最後に挑んだリリィだった。

 時点でカズヤがスイカの目の前まで移動できたのだが、棒の代わりに振ったリリィが所持していた鞘に収まったままの剣の軌道がズレてスイカから外れてしまったのだ。

 

「なに、皆がやっているのを見ていたからこそ出来た事だ。正直一番最初にやっていたら、あそこまで上手く叩けたかどうか分からない」

 

「あっ。そう言えば、今更ですけど、その剣を棒代わりに使ってよかったんですか? 大切な剣だったんじゃ?」

 

「ああ、それは問題ない。この剣は普通の店で購入した量産品の剣だ」

 

「それじゃ、普段の制服の時に身に付けている剣は?」

 

「あれは近衛隊の証として王より直々に賜ったもの。万が一、盗まれでもしたら死んで詫びても足りないのでな。艦の自室に厳重なる監視のもと厳重に保管してある」

 

「なるほどぉ。凄い剣だったんですね」

 

 セルダール星を統治している王から直々に賜った剣。

 その価値は確かに計り知れないと、門外漢であるカズヤにもすぐに理解出来た。

 そんなカズヤとリリィに割り込むように、慌てた様子でリコが声を上げる。

 

「あ、あの! そう言えば、リリィさんとカルーアさんは一緒にアロマビーチに来たんですか!?」

 

「いや、違うぞ」

 

「ええ、私とリリィさんは別のシャトルで来ました」

 

「えっ!? そうだったんですか?」

 

 てっきり自分達と同じように一緒にアロマビーチに来たと思っていたカズヤは驚く。

 

「ああ。私は一人でシャトルに乗ってアロマビーチに来た」

 

「私はミモレットちゃんと一緒にです~」

 

「ああ、でも、アニスとナノナノが一緒のシャトルに乗るのは見たですにー」

 

「そうか。アニスとナノナノは一緒に」

 

 普段からナノナノはアニスの事を親分と呼んで慕っている事を知っているので、休暇を一緒に過ごす事に違和感をカズヤは覚えなかった。

 

「……でも、アニスさん。これからどうするんでしょう?」

 

「うん。何だかルクシオールを襲撃した事は無罪放免になったらしいし、ミントさんとの契約も完了したから」

 

「レリックレイダーが直ったら、ルクシオールを降りてしまわれるのでしょうか~?」

 

 最初の出会いこそ問題だらけだったが、一緒に戦って危険な戦いを潜り抜けて来ただけにアニスがルクシオールを去ってしまうかも知れない事にカズヤ、リコ、カルーアは暗くなってしまう。

 逆にまだアニスとはさほど交流を持っていないリリィは、余り悲しんだ様子もなく言葉を発する。

 

「それを決めるのはアジート次第だ。無理やり引き留めて戦わせる訳にもいくまい。これからの戦いはヴェレル軍との決死の戦いになるのだから。中途半端な気持ちで戦いの場に来られるのは迷惑だ」

 

 リリィの言う通り、今後の戦いは『NEUE(ノイエ)』や『EDEN(エデン)』だけではなく、未だ開かれていない『クロノゲート』の先に存在している宇宙の運命を賭けた戦いでもある。

 全宇宙の支配をヴェレルが目論んでいる以上、此処でヴェレルは必ず倒さなければならない。

 

「お姉ちゃん……」

 

 ヴェレルに囚われている姉であるミルフィーユの事を心配したのか、リコは僅かに顔を暗くしてしまう。

 

(リコ……何としてもヴェレルをミルフィーユさんを救わないと)

 

 改めてカズヤはヴェレルの手から、リコの為にもミルフィーユを救い出すと誓った。

 

「そ、それにしてもこうして皆で集まると、アニスとナノナノとも会いそうですよね」

 

「確かにそうですわね~」

 

「アロマビーチはホッコリ―随一のビーチだからな。確かに私達のようにあの二人も来ていてもおかしくない」

 

 カルーアとリリィはカズヤの話題転換の意味を察したのか、すぐに乗って来てくれた。

 とはいえ、話題に出したカズヤも流石にこの場にアニスとナノナノがいるとは思ってはおらず、あくまで話を逸らす意味で言葉を発する。

 

「まぁ、流石にこの広いビーチですぐに出会える筈がありませんよね。何かイベントに参加していたら見つけられそうだけど」

 

「そうですよね。アニスさんだったら、宝探しのイベントとかあったらすぐに参加しそうですけど」

 

「それならあっちで開催されているぞ」

 

『……えっ?』

 

 リリィの発言と指差した方向にカズヤとリコは呆然とし、恐る恐る其方に目を向けて見ると……。

 

『さぁ、皆さん! 凄い人物が出て来ました! 難関の宝探しイベント全てクリアしたアニス・アジートさんです!!』

 

「よっしゃぁぁぁ!!」

 

『おおおおおっ!!』

 

「親分! 凄いのだぁぁぁぁ!!」

 

 開催者らしき人物に表彰されている赤い水着を着たアニスと、そのアニスを称えるように大声を上げている人々に混じっている虎柄のワンピースタイプの水着を着たナノナノが居た。

 

「……居たね」

 

「……居ましたね」

 

 まさかの示し合わせてもいないのに、ルーンエンジェル隊全員が同じ観光地に来ていた事にカズヤとリコは汗を流しながら顔を見合わせあった。

 とは言え、こうして見つけてしまったのだからアニスとナノナノと合流しない理由もなく、ルーンエンジェル隊一同は揃って出会い、一緒に食事をという事になって出店していたカレーショップに訪れた。

 

「いや~、まさかおめえらもこのビーチに来てるなんてなぁ」

 

「驚いたのだ」

 

 アニスとナノナノもまさかのメンバー全員の集合に面をくらって驚いていた。

 

「それは僕達もだよ。やっぱり二人もアロマビーチがホッコリ―随一の名所だから?」

 

「まぁ、そんなところだ。後、ナノの奴が調べてくれたらさっきの宝探しイベントの事がネットに乗っていてなぁ。トレジャーハンターとしては参加したいと思った訳さ。まぁ、思ったよりも簡単すぎて拍子抜けだったけどなぁ」

 

「そうなのか? 聞いた話だが、あのイベントの最難関を突破出来た者はこれまでいなかったそうだが」

 

「それを突破するなんて、流石はアニスさんですね」

 

「凄いですわね~」

 

「親分はやっぱり凄いのだ!」

 

 口々に褒められたアニスは顔を真っ赤に染めていく。

 

「……そ、それよりも、おめえら一体何処に泊まっているんだよ?」

 

「私はこのビーチの近くのホテルだ」

 

「私もですわぁ~」

 

「親分とナノナノも同じなのだ」

 

「僕とリコはプライベートビーチの方にある別々のコテージに」

 

「プライベートビーチだぁ!? このビーチから結構距離あるぞ!?」

 

「え~と……はははっ」

 

「ちょっとその……はははっ」

 

 流石に来た手段を言いたくなかったのか、カズヤとリコは揃って苦笑いをするしかなかった。

 

「お待たせしました。甘口一つに中辛四つ、それと激辛1000倍となりますー!」

 

「おお来たな!」

 

「にー! この香りは!? し、暫らく失礼するですにーー!!」

 

 喜ぶアニスと対照的に、恐れるようにミモレットは何処かへと飛んで行ってしまった。

 

「ミモレットちゃん。アレ以来、カレーがどうにも苦手になってしまったみたいで~」

 

「まぁ、あんなことがあったらね」

 

 アニスが注文したランファ専用と言っていい激辛1000倍カレーで起きた出来事を知っているカズヤは、仕方が無いと頷く他になかった。

 

「しかし、アジート。お前はそれを食べられるのか? 私そのカレーの事は聞いた事があるが、流石に試すのは遠慮したぞ」

 

「あったぼうよぉ! 姐さんを慕ってんだから、オレが食べねぇ訳には行かねえぜ」

 

「そ、そうか」

 

 自信満々なアニスにリリィはそれ以上何も言わず、事の成り行きを見守る事にした。

 カズヤ達も何が起きても良いように身構える。そして意を決したアニスが激辛1000倍のカレーをスプーンで掬って口に含む。次の瞬間……。

 

「辛れぇぇぇぇぇーーー!!!」

 

 アニスの断末魔の叫びがアロマビーチに響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ~、何だかんだで結構楽しかったね」

 

「そうですね」

 

 夕暮れに染まった砂浜を、ザッザッと音を立てながらカズヤとリコは歩いていた。

 他の面々とはビーチで別れた。プライベートビーチの方に宿泊するコテージを選んでいたカズヤとリコが、戻る手段は来た道を戻る以外にない。

 スペシャリティパスがあるから、移動手段を確保できない訳でもなかったが、水着姿でそれを使うのはカズヤもリコも遠慮したかったので諦めて歩く事にした。

 

(それに夕暮れに染まった浜辺をリコと歩くのも悪くないし)

 

 気になっている女の子と一緒に夕暮れの浜辺を歩く。

 男ぽっく見えないと影で昔から言われていたカズヤだが、やはり男なので今の状況には胸の高鳴りを覚えずにはいられなかった。此処は一声かけるべきかとカズヤが決意しようとした瞬間、リコが先に声を上げた。

 

「あっ! シラナミさん!!!」

 

「えっ!? なに?」

 

「ほら、あそこです!」

 

「あっ!」

 

 リコが指差した先を見たカズヤは気が付いた。

 夕暮れの空を飛ぶ一隻の艦艇。カズヤ達の乗艦している艦艇である、ルクシオールが幻想的に夕暮れの空を飛んでいた。

 

「ルクシオールだ」

 

「港に入るんですね……」

 

「……こうして改めて見ると……やっぱり……大きい……」

 

 戦いを含めてだが多くの艦や機体を見て来たカズヤだが、ルクシオールはその中でも大きい艦である事をこうして目の当たりにした事で改めて実感させられた。

 

「あんな巨大な艦を地上に降下させるなんて……『EDEN(エデン)』の技術って、すごい……」

 

「あっ、それは違いますよ」

 

「どういうこと?」

 

 『EDEN(エデン)』出身のリコが否定した事に内心驚きながらも、カズヤは質問した。

 

「『EDEN(エデン)』の技術じゃなくて、ロストテクロノジーが凄いんです。今の『EDEN(エデン)』はそれを運用しているだけですから」

 

「う~ん?」

 

 リコの説明が今一つ良く分からなかったのか、カズヤは悩むように首を傾げた。

 『NEUE(ノイエ)』出身のカズヤからすれば、『EDEN(エデン)』の技術もリコの言うロストテクロノジーと大差ないものでしかない。

 

「でも、そのロストテクロノジーを使える形にしているのは『EDEN(エデン)』だよね?」

 

「ええ、まぁ……」

 

「なら、『EDEN(エデン)』も凄いってことじゃないかな?」

 

「うふふ。『NEUE(ノイエ)』だって、これからどんどん凄くなりますよ」

 

「そっか……そうだよね」

 

 今は確かに『EDEN(エデン)』には負けていても、何時か『NEUE(ノイエ)』もそれに追いつける。そんな未来をカズヤは想像するが……。

 

(……『全ての終焉』か……そんな事が本当に訪れるんだろうか?)

 

 遥か昔にマジークの予言者が予言したと言う未来に訪れるかも知れない『全ての終焉』。

 

(そんなの訪れないで欲しいな)

 

 港に向かっているエルシオールを見つめている、夕暮れに照らされているリコの横顔を見つめながらカズヤは密かに願うのだった。

 

 

 

 

 

(……結局聞けなかった)

 

 宿泊しているコテージの窓から、隣のカズヤが宿泊しているコテージを見つめながらリコは悩んでいた。

 リコがカズヤに尋ねたかったのは、昼間にリリィから聞かされた『カズヤが以前リリィが着ていた水着を見た』と言う話だ。

 カズヤとリリィが出会ったのは一週間と少しぐらい。その間に一体どう言う経緯でカズヤがリリィの水着姿を見る事になったのか、リコは気になって仕方が無かった。

 

「……やっぱり、私、シラナミさんの事が……」

 

 自らがカズヤに向けている気持ちが何なのかリコは分かっていた。

 まさか、極度の男性恐怖症を患っている自分が男性にそのような気持ちを抱く日が来るとはリコ自身夢にも思ってなかった。

 最初の出会いの時から、カズヤには不思議なものをリコは感じていた。姉であるミルフィーユに偶然選ばれて、ルーンエンジェル隊に選ばれた経緯も聞かされていた。

 だから、気になって一緒に行動していた。そうしていると不思議とカズヤは普通の男性とは違う印象を覚え、極めつけには自分が触れても拒絶反応が起こらずカズヤを投げ飛ばしたりしなかった。

 もしも今日のように浜辺に押し倒したのがカズヤではなく他の男性だったら、問答無用で投げ飛ばしていたに違いないとリコは確信できていた。

 なのにカズヤなら良いとあの時、リコは思ってしまった。其処までくれば自分がカズヤに抱いている気持ちが何なのかリコは分かる。だが……。

 

(……シラナミさんは、私よりもリリィさんの方が好きなのかな?)

 

 カズヤとリリィの付き合いはルーンエンジェル隊の中で一番短い。

 だが、どう言う訳か二人は短期間で強い信頼関係を結んだ。その過程がリコには気になって仕方が無かった。

 

(……シラナミさんも()()だから、リリィさんみたいな凛々しくて素敵な人の方が……)

 

 リコの脳裏にカズヤとリリィが一緒に笑顔を浮かべて歩く姿が浮かんでしまう。

 その想像を振り払うように、リコは首を何度も横に振るった。

 

(リリィさんが素敵な女性なのは間違いないですけど、私だって負けません!)

 

 自らが抱いたカズヤに対する気持ちに嘘はなく、また諦める事もリコにはもう出来ない。

 

(休暇はまだ続きますから、明日にでもリリィさんの水着の件は事情を聞いてシラナミさんとの仲を……)

 

 決意を新たにしてリコは眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

「う~ん! 良い朝だ!」

 

 早朝、自身が宿泊していたコテージから出たカズヤは朝日の光を浴びながら背伸びした。

 

(今日は朝は皆で食事を一緒にして、それから別行動。リコと一緒に買い物に行くの楽しみだなぁ……)

 

 今日の予定を思い出したカズヤは、嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 気になる少女と一緒に休暇を過ごせることにカズヤが喜んでいると、隣のコテージが開きリコが出て来た。

 

「あっ! シラナミさん! おはようございます」

 

「おはよう、リコ」

 

(くぅ~! 何だかとっても幸せだな!)

 

 明確にリコに好意を抱いている事をカズヤ自身も自覚し始めているので、何気ないやり取りさえも幸せな気分を味合わずにはいられなかった。

 

「そろそろ皆が来る時間だね?」

 

「はい! 皆さんと食事をするのも楽しみです!」

 

「おーい!」

 

「噂をすれば……」

 

 聞こえて来た声の方に顔を向けて見ると、運転手でもスペシャリティパスで雇ったのか、アニス、カルーア、ナノナノ、リリィが乗って来た車から降りて、カズヤとリコが宿泊しているコテージの方に歩いて来ていた。

 

「早く朝飯食いに行こうぜ!」

 

「カズヤー! リコたん!! 早く来るのだ!」

 

「はははっ、じゃあ行こうか、リコ」

 

「ええ」

 

 皆を待たせる訳にはいかないとカズヤは、リコに手を差し出して一緒に行こうとする。

 何時もの距離感よりも一歩進もうとしたが故に、カズヤの行動。極度の男性恐怖症を患っている筈のリコだが、カズヤならば問題無いとリコ本人も思ってその手を()()()

 

「っ!? いっ、いっ、いっ!!」

 

「リコ?」

 

 様子がおかしいリコに気が付いたカズヤが、声を掛けた次の瞬間にそれは起きた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

「わぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 リコの悲鳴と共にカズヤの身体が勢いよく振り回され、そのまま空高く投げ飛ばされた。

 それを見ていたカルーア、ナノナノ、アニス、リリィは目を見開いた。

 

「リコちゃんが……」

 

「カズヤを……投げたのだ」

 

 空を高く投げられたカズヤを、呆然とカルーアとナノナノは見つめるしかなかった。

 ルクシオール内では男性達が接触に気を付けるようにしているが、リコは極度の男性恐怖症を患っていて、うっかり触れでもすれば、次の瞬間にはリコの悲鳴と共に接触した男性が投げ飛ばされてしまう。

 その時のリコは女性とは思えないほどに軽々と男性を空高く投げられる程の怪力を発揮する。

 そして今日、初めてカズヤは実感しながら空を舞っていた。

 

「あ、あぁぁぁっ……」

 

 カズヤを投げたリコ本人は、自分がした事が信じられないと言うように両手を震わせながら見つめている。

 その間にカズヤは、真下に広がっていた海へと激しい水柱を引き起こしながら落ちた。

 

「おい! 不味いんじゃねぇか!?」

 

「ああ! 急いで救助だ!!」

 

 アニスとリリィはすぐさま海へと駆け出し、カズヤの救助に向かった。

 カルーアとナノナノは、膝を着いて座り込んでいるリコの下に急ぐ。

 

「リコちゃん!?」

 

「一体どうしたのだ!?」

 

 リコが極度の男性恐怖症を患っている事はカルーアとナノナノも知っている。

 だが、カズヤだけは何故かリコの男性恐怖症に反応せず、普通に過ごせていた。何故急にカルーアとナノナノは疑問を覚えながらリコに駆け寄る。

 

「カ、カルーアさん、ナノちゃん……わ、私、シラナミさんを……」

 

「大丈夫なのだ! 今親分とリィたんが救助に向かってるのだ!」

 

「それもよりも、リコちゃん。どうしてカズヤさんを?」

 

「わ、私にも……分かりません!!」

 

 寧ろそうなった理由を聞きたいのは、リコ本人だった。

 

「おい! しっかりしろよ!」

 

「カズヤ! 気をしっかり持て!!」

 

 海に入ったアニスとリリィは、溺れていたカズヤを海面に引き上げていた。

 

「やべぇ! これ意識がねぇぞ!!」

 

「急いで救命処置だ!! プディング少尉!!」

 

「すぐに陸地にカズヤを上げるのだ!!」

 

「あ、あぁぁっ……わ、私……なんてことを……」

 

 陸に引き上げられたカズヤの救命処置が、ナノナノを中心に始められている。

 だが、その中にリコは加わる事は出来ない。迂闊に接触してしまえば、再びカズヤを投げ飛ばしてしまいかねないのだから。

 

「先ずは飲んだ水を吐かせるのだ!」

 

「確かこうだったよな!」

 

 トレジャーハンターとしての知識の中に救命処置もあったのか、アニスがカズヤの胸を押して水を吐かせようとする。

 

「……ゴホォッ!」

 

「水を吐いたのだ! リィたん! 人工呼吸をお願いなのだ!」

 

「任せろ!」

 

 ナノナノの指示に従い、気道を確保したリリィがカズヤの口に自らの唇を重ねる。

 

「っ!?」

 

 救命処置に入れないリコは、カズヤとリリィの唇が重なる光景を目を見開いて見ている事しか出来ない。

 

「回復の魔法を使います!」

 

 カルーアも自分に出来る事をすると言うように魔法を使い、カズヤを中心に魔法陣を展開した。

 そして賢明な救命処置の結果……。

 

「ゴホ! ゴホッ! プハァッ!! い、一体何が、ゲホォッ!!」

 

「意識を取り戻した見てぇだな」

 

「危ないところだった」

 

「良かったですわぁ~」

 

「……うん。もう大丈夫なのだ」

 

 カズヤの胸に手を当てて検査をしていたナノナノからも、お墨付きを貰い一同は安堵する。

 

「はぁ、はぁ……アレ? 僕は一体?」

 

『………』

 

 一同はカズヤの質問にすぐに答えられなかった。

 まさか、リコに投げられて溺れかけ、危うく命を落としかねなかったなど言える筈がない。

 そしてカズヤの無事に安堵していたリコだったが、自身がしてしまった事を改めて実感し、瞳から涙が零れ出す。

 

「……めんなさい……ごめんなさい! ごめんなさい!! わ、私、うわぁぁーん!!!」

 

「リ、リコ……」

 

 謝罪を繰り返して泣き叫ぶリコに駆け寄りたい衝動にカズヤは駆られるが、その結果が更にリコを傷つける事になることを分かっているので、何も出来なかったのだった。

 

 

 

《第八章後半『天使の休息・想いの芽生え』終了・第九章『天使の心』に続く》

 




次回からは九章。
原作とは色々と変わった内容になります。

何故リコの男性恐怖症がカズヤにも発症したのは次章で。

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。