ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
ちゃんとこの章であの二人も帰って来ます。
ちょっとしたアンケートがあります。出来ればお答え頂けると嬉しいです。
9-1
「……なるほど。シラナミ君にも桜葉さんの男性恐怖症が発生してしまったと言う事なのですね」
ルクシオールの医務室。
医務官のモルデンは、聞いた報告に難しい顔をしながら目の前の椅子に座って顔を暗くしているリコと、そのリコを心配そうに見つめるカズヤ達に顔を向けた。
早朝の出来事からすぐに、カズヤ達はホッコリーの地上の港に停泊していたルクシオールに休暇でありながらも舞い戻り、ちとせの主治医も務めていた精神カウンセラーのモルデンに事情を説明した。
「モ、モルデン先生っ……わ、私、ど、どうしたんでしょう!? 昨日まで! 本当に昨日までは何ともなかったのに!? 今朝シラナミさんが手を握ったらいきなり怖くなって! そ、それで!! あああっ!!」
「落ち着いて下さい、桜葉さん。先ずは深呼吸をしましょう」
カズヤが危うく溺れかけた時の事を思い出して、身体を震わせているリコを落ち着かせるようにモルデンは優しく声を掛けた。
言われたリコは何度か深呼吸を行ない、気を落ち着かせようとする。
そしてある程度、気が落ち着いたのか顔は暗いままだが、確りとモルデンと向かい合った。
「落ち着いたようですね。では、確認しますが、桜葉さん」
「は、はい!」
「昨日、シラナミ君に男性を強く感じるような行ないをされませんでしたか?」
「ブゥッ!!」
モルデンの質問にカズヤは吹き出し、リコは顔を真っ赤に染めて固まった。
「どうですか? シラナミ君に強く迫られたりされませんでしたか?」
「モ、モルデン先生!? いきなり何を言ってるんですか!?」
「シラナミ君。これは重要な事なのです。これまでシラナミ君に対して男性恐怖症の筈の桜葉さんは平然と付き合えていました。触れたとしても、他の男性のように悲鳴を上げて投げ飛ばされる事などもなかった。なのに、今日急に男性恐怖症が発症したという事は、大きな心境の変化があったという事に違いありません」
「そ、そうだとしても、強く迫るような事なんて昨日は……」
「何言ってるんですに!! あったですに!」
恥ずかしがっているカズヤに変わるように、ミモレットが叫んだ。
その声を聞いたモルデンはミモレットに顔を向けて尋ねる。
「何があったんですか?」
「カズヤがリコを浜辺で押し倒したですに!」
「なっ!?」
「ほぉっ」
「大胆なのだ!」
その場面を見ていなかったアニス、リリィ、ナノナノはカズヤの大胆な行動に驚いた。
「い、いや、ちょっと待ってよ! アレは事故みたいなものだから」
「ですが~、事故だとしてもあの出来事は、リコちゃんがカズヤさんに男性としての意識を持つ切っ掛けになるのではないでしょうか~」
「うっ……」
カルーアの指摘にカズヤは、何も言い返せなくなった。
普通に考えれば、海の浜辺で女性を押し倒すような行為は男性的なものを女性に感じさせる。幾ら普段から女性的な顔立ちで、男っぽさを感じさせないカズヤでも、やっぱり男性だと思われるには充分だった。
ミモレットとカルーアの話を聞いたモルデンは、難しい顔をしながら口を開く。
「なるほど……シラナミ君が男性だと確信して出来事を、桜葉さんは経験してしまった……つまり、天秤が傾いてしまったと言う事なのでしょう」
「ど、どう言う事でしょうか?」
「私はずっと疑問に思っていました。どうして、シラナミ君だけがリコさんの男性恐怖症に反応しないのかと」
「ああ、それは俺も思っていたぜ。リコから自分が男性恐怖症って教えられた時に、何でカズヤは違うんだってなぁ。そりゃ、女見てな顔をしてるけどよぉ。カズヤは男だろう」
「うぅっ……」
気にしている女顔を指摘された事で怒りたいカズヤだったが、アニスがちゃんと自分を男性として見ているだけに怒るに怒れなかった。
「これはあくまで推論ですが、これまで桜葉さんの中ではシラナミ君は男性でありながらも慕っているお姉さん。つまり、ミルフィーユ・桜葉さんが偶然だとしても選んだ相手という事で、フィルターのようなものが掛かっていたのでしょう」
「なるほど……つまり、これまではそのフィルターのおかげでカズヤに対しては男性恐怖症が発症せずにいた。だが、カズヤを男性だと認識してしまった事で、そのフィルターが外れて他の男性のように恐怖するようになってしまったという事か」
「そ、そんな!?」
リリィの説明にリコは悲鳴を上げた。
皮肉な事に、明確にカズヤに異性としての好意を抱いているとリコ本人が自覚してしまった事で恐怖症がカズヤに対しても発症してしまうようになってしまったのだ。
「或いは明確にリコさんの中で男性のイメージが定まっていて、その相手と比較してシラナミ君が違うと認識していれば男性恐怖症が発症する事は無かったのでしょうが……その為にはイメージとなる男性が常日頃から桜葉さんに接触する必要があります」
「いや居ねぇだろう!! 何処の世界に自分が投げ飛ばされると分かっていて、触れる奴がいるんだよ!?」
アニスがそう叫ぶのは当然だった。
男性恐怖症に駆られている時のリコは、女性とは思えない程の凄まじい怪力を発揮し、成人男性を軽々と宙に高く投げ飛ばしてしまう。
落下して床や地面に激突すれば先ず間違いなく大怪我を負う。
そんな危険があるからこそ、ルクシオール内の男性乗員は迂闊にリコに触れないように注意している。
リコも自分のせいで誰かが傷つくのは嫌だったので、接触には気を遣っていた。
「せ、先生!? どうすれば男性恐怖症が治るんでしょうか!? わ、私、今更ですけど治したいです!」
何時の間にかそう言うものだと思うようになってしまった極度の男性恐怖症。
体質のようなものだとさえ諦めかけていた。だが、カズヤに明確な異性として好意を抱いている事を自覚したリコには、耐えられなかった。
「お願いします! お願いします! 治療に協力して下さい!!」
「落ち着いて下さい、桜葉さん。勿論、カウンセラーとして治療には協力しますから」
涙ながらに訴えるリコに、モルデンは決意に満ちた顔をして頷いた。
「では、治療方法に関してですが、やはり少々時間が掛かる方法になり……」
「今すぐにお願いします!!」
「えっ!?」
「ちとせさんがしていた荒療治でも構いません! どんな事だってしますから! だから、私のこの体質を治して下さい、モルデン先生!」
「いえ、ちとせさんと桜葉さんでは少々違うのですが」
「リコ、落ち着いて」
涙を流して懇願さえもし始めたリコを落ち着かせようと、カズヤは手を伸ばしてその肩に手を置いた。
――ポンっ
『あっ……』
「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぶほぉぉぉぉっ!!!」
リコの悲鳴と共にカズヤの身体が宙を舞い、そのまま落下先にあった物をなぎ倒しながら床に落ちた。
「ああっ!! シラナミさぁぁぁん!!」
「すぐに治療するのだ!!」
「……これは確かに一刻も早く治療しないといけないようですね」
予想以上の深刻な状況に、モルデンは覚悟を決めたような顔をしながら呟くのだった。
「……なるほど。リコの男性恐怖症がカズヤにまで発症してしまったという事か」
ブリッジでカズヤ達から一連の報告を聞いたレスターは、深刻な顔をしながら呟いた。
「まさか、休暇に行った次の日に急に戻って来て、こんな問題を持って帰って来るとは思ってなかったぞ、カズヤ、リコ」
「その、申し訳ありません!」
「ごめんなさい!」
カズヤとリコは、揃ってレスターに向かって頭を下げた。
話を聞いていたココとアルモも、事の深刻さを理解しているのか難しい顔をしながらカズヤとリコを見ていた。
「まさか、これまでリコちゃんの男性恐怖症に引っかからなかったカズヤ君までなんて」
「私も最初に聞いた時は驚いたけど、本当に発症したの?」
「本当なのだ。さっきまでカズヤは骨が色々と折れてたのだ」
「ははははっ」
ナノナノの説明にカズヤは、苦笑を浮かべるしかなかった
その様子にココとアルモはますます深刻そうな顔をし、レスターは深々と溜め息を吐いた。
「分かった。リコの男性恐怖症の治療に対して人員を割く事と訓練場所として銀河展望公園を使用する事を許可しよう」
「本当ですか!?」
レスターの許可にカズヤは驚いた。
現状、ルクシオールは修理で忙しい為に余計な人員は避けられないと言われるのを覚悟していた。だが、レスターが出したのは了承だった。
「仕方があるまい。お前とリコは今後の戦いで重要な要になるパイロット達だ。『紋章機』の特性も考えれば、多少の労力は使って構わん。アルモ、アレをスクリーンに」
「了解。皆、これを見て」
アルモに言われてカズヤとルーンエンジェル隊のメンバーの目がスクリーンに向く。
すると、ブレイブハートと合体したクロスキャリバーの画像がスクリーンに展開された。
その画像には、クロスキャリバーの左右から白い閃光が伸びている様子が映し出されていた。
「おい! まさか、これって!?」
「ファントムシューターと同じ!?」
「カズヤさんのブレイブハートと合体したリコちゃんのクロスキャリバーが~!?」
「エンジェルフェザーなのだ!?」
『
『紋章機』であるならば、『
「そうか! クラストブレイカーを破壊する時に、急にクロスキャリバーの出力が増したように感じていたけどアレは!?」
「私とシラナミさんで、『紋章機』の本当の力を引き出していたから!?」
自分達が『紋章機』の真の力を引き出しかけていた事実を知って、カズヤとリコは顔を見合わせて喜んだ。
「リコ!」
「シラナミさん!!」
二人は沸き上がる喜びのままに、
『あっ……』
「いやあぁぁぁぁぁっ!!! 触らないでえええっ!!」
「ぐおぉぉぉっ!! がふっ!!」
「治療するのだ!!」
リコの悲鳴と共にカズヤはブリッジに舞い上がり、そのまま床に激突した。
すぐさまナノナノが駆け寄り、ナノマシン治療を開始する。
カズヤを投げ飛ばしたリコは、自分がした事を自覚してナノナノの治療を受けているカズヤに何度も頭を下げた。
「すいません! すいません! シラナミさん!」
「い、いや、気にしないで……ぐふっ!」
「静かにするのだ! あばらが折れてるのだ! 下手に動いたら肺に刺さるのだ!」
「うぇぇぇ~ん!! 本当にごめんなさ~い!!」
ナノナノの報告にリコは床に座り込んで泣き出した。
一連の様子を見ていたココとアルモ、レスターは目を見開いて驚く。
「まさか……本当にカズヤ君にまでリコちゃんの男性恐怖症が発症したなんて……」
「今のかなり痛そう~」
「頭の痛い問題だな」
初めて『
今後の戦いにも確実に影響を及ぼす大問題に、司令官であるレスターは頭を抱えそうになる。
その間にナノナノの治療が完了し、カズヤは微かに痛みが残る胸を押さえながら立ち上がる。
「うぅ……もう大丈夫だよ。ありがとう、ナノナノ。リコも気にしないで。今のは僕の不注意だから」
「いえ……私の不注意でもありますから」
(これまでリコと出来ていた事が出来ない……それがこんなにも辛く感じるなんて)
怪我の痛みよりも、リコと触れあえない事実の方がカズヤには何倍も辛く感じる。
(またシラナミさんに怪我を!? 早く何とかしないと!?)
リコもまた、自分の手でカズヤを傷つけていることに深い罪悪感と後悔を抱く。
このままでは空気が悪くなって、カズヤとリコの精神状態が悪くなってしまうと感じたココは、話を再開する。
「話は戻すけど、この時、ブレイブハートが度重なる合体で疲弊していなかったら、カズヤ君とリコちゃんはもしかしたら完全な形でエンジェルフェザーを展開していたかも知れないの」
「その可能性は高いだろう。実際、この前の戦闘でのデータからは、合体していなかったファーストエイダー以外のブレイブハートの合体後の同調率はどれも高かったが、クロスキャリバーはその中でも群を抜いていた。アルモ」
「了解」
指示されたアルモがコンソールを操作すると、今度がスクリーンに同調率を示す為のグラフらしきものが表示された。
グラフは全部で五本あり、それぞれ分かりやすいようにオレンジ、青、水色、グリーン、赤で表示されている。
「これはこの前のセルダール解放の時の戦いで更新された、カズヤ君が乗るブレイブハートと各『紋章機』との同調率をグラフにしたものなの」
「この前合体していないナノちゃんは、更新されていないけど、合体した四機の『紋章機』。クロスキャリバー、イーグルゲイザー、スペルキャスター、レリックレイダーはどれも高い数値を更新したわ」
「その中でも最も高い数値を出したのが、クロスキャリバーだった」
「……本当だ」
スクリーンに映るグラフの中で一番伸びているのはオレンジ色のグラフ。
つまり、リコが乗るクロスキャリバーがカズヤの乗るブレイブハートと同調していた事を示していた。
そのグラフの高さにカズヤ、カルーア、リリィ、ナノナノ、アニスは感心したように頷く。しかし、リコだけは別のグラフを見て目を見開いた。
「……っ!?」
「ん? リコ? どうかした?」
「い、いえ……何でもありません」
(ど、どうしてシラナミさんとリリィさんとの同調率が私の次に……)
リコが気が付いたのは、リリィの乗るイーグルゲイザーとブレイブハートの同調率がテキーラが駆るスペルキャスターとアニスのレリックレイダーよりも上だった事。
カズヤとリリィの付き合いはルーンエンジェル隊メンバーの中で一番短い。なのに、テキーラとアニスを超えてリコの次に同調率が高い。
その事実にリコの心は乱れてしまう。だが、何とかその心の乱れに気付かれないようにリコは取り繕い、何でもないと言う顔をする。
そしてリコの取り繕いに気付かなかったレスターは、話を纏める為に口を開く。
「そう言う訳だ。カズヤとリコの不調は、ルーンエンジェル隊の今後にも左右する。その為なら多少は融通する」
「ありがとうございます、司令」
「レスターさん。本当にありがとうございます!」
リコの男性恐怖症の治療の為に忙しい中、人員を割いてくれる許可が貰えたことにカズヤとリコは揃って頭を下げ、背後にいるメンバーも頭を下げたのだった。
そして許可を貰えたらすぐに行動しなければとカズヤは、クロノクリスタルを用いてモルデンに連絡をする。
「モルデン先生。今、司令から許可を貰えました」
『そうですか。では、シラナミ君達は銀河展望公園に向かって下さい。私は向かいながら、事前に事情を話して参加を希望してくれた方々に連絡しますので』
「分かりました。それじゃあ、失礼します」
モルデンとの通信を切り、先ずはリコにカズヤは顔を向けた。
既に決意を固めているのか、リコは躊躇う事無く頷いた。
カズヤも頷き返し、次にカルーア、ナノナノ、アニス、リリィに顔を向ける。
「え~と、今更だけど、皆休暇は良いの?」
カズヤはリコの為に休暇の間も、男性恐怖症の克服の為の訓練に参加するつもりでいる。
カルーア、ナノナノ、アニス、リリィが望むなら此処で別れて、残りの休暇を満喫して貰っても構わないとカズヤとリコは考えていたが。
「水くせぇ事を言うなよ」
「及ばずながら、リコちゃんの悩みの解決に協力いたしますわ~」
「ナノナノが居ないと皆の治療が出来ないのだ」
「微力ながら力を貸そう」
四人とも休暇を返上してリコへの協力を申し出た。
その事にリコは感激のあまり、目に涙を浮かべて深々と頭を下げる。
「皆さん! 本当にありがとうございます!」
「僕もお礼を言うよ! 皆! ありがとう!」
リコとカズヤは揃って四人に向かって頭を下げた。
「そうと決まれば、さっさと行こうぜ! リコが居ねぇと、始まらねぇんだからよ!」
「は、はい!」
アニスに促されて、リコ達は訓練場所となる銀河展望公園に急ぐ。
その歩いている最中に、リコは耳にしてしまう。
「しかし、訓練場所が銀河展望公園とは……やはり、あそこはカズヤとの時にも思ったが、訓練場所として最適だな」
(えっ?)
意味深なリリィの呟きに、リコは思わず顔を向けるが、リリィは気付かずに前に進んで行く。
そしてリコは、質問する事が出来ずに、顔を僅かに暗くしてカズヤの背を見つめながら歩くのだった。
原作のタクトの身体を張ったリコへの行動にも意味があったと言う訳です。
カズヤにも身体を張らせてリコの男性恐怖症克服に貢献させたいので。
次回は阿鼻叫喚(主に男性クルーとカズヤが)の地獄絵図が広がります。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる