ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
カズヤ達がリコの男性恐怖症の緩和訓練を勤しんでいる頃。
『
「ノアさん。此方は終わりました」
「ご苦労様、ちとせ。こっちも、もうすぐ終わるわ」
ちとせとノアが作業を行なっている台の上に載せられているのは、プローブと呼ばれる人型のロボットだった。
以前、アニスがルクシオール内で使ったプローブと同じ物の類ではあるが、アニスが使ったプローブよりも手足の関節を始め、指の関節まで確りと人間を模倣するように成功に造られている。
頭部の方は菱形の何かを嵌められるような形状をし、ノアが入念に器具を持って調整を施していた。
ちとせも、何度もプローブの関節の動きに不具合はないか、入念にチェックを繰り返し行っている。
更にはプローブに組み込んだプログラムの方にも、異常はないかも確認していく。
二人の様子は何処までも真剣であり、目の前のプローブの完成に失敗は許されないと言う様子だった。
「……終わったわ」
頭部の作業も終わり、満足の行く出来だったのか、ノアは流れていた汗をちとせから渡されたタオルで拭う。
「それじゃあ、ちとせ」
「はい」
緊張しながらちとせは返事を返し、首元に掛けていたペンダントを外す。
更に首にかける部分の紐も慎重に外して、菱形の黒い宝石部分だけにした。そのままプローブの頭部のはめ込む部分に宝石を嵌めた。
するとプローブが起動し、事前に入力されていたホログラムが光学迷彩機能によってプローブ全体に投影されていく。
投影が終わった後のプローブの姿はトランスバール皇国軍の司令官服を纏った男性となった。
その姿は紛れもなく、ちとせの想い人にして『
無論、本人ではなくプローブに入力されたタクト本人の画像をホログラムとして纏っている偽物でしかない。
だが、投影が終わると共にプローブの右手が勝手に上がり、何かを確かめるようにカチャカチャと音を立てて手を握ったり開いたり繰り返していた。
『……動く』
プローブから声が出る。その声は音声データから造られたものだが、紛れもなくタクト本人の声を模したもの。
『……お、俺……今、機械だけど手を動かしてるんだよな? そうだよな! ノア! ちとせ!!』
「ええ、そうよ、
「ああっ、タクトさん……はい、タクトさんは今、自分の意思で手を動かしているんです」
『や……やったぁぁぁぁぁぁ―――!!!!』
大喜びするようにタクトのホログラムを纏ったプローブは寝かされていた台の上から上半身を上げて、両手を頭上に掲げた。
『ありがとう! 本当にありがとう! ノア!! ちとせぇ!!』
偽物の機械の身体であるプローブだが、そのプローブを操っているのは紛れもなくタクト本人だった。
『これが手を動かす感覚!! 身体があった時は何でもない事のはずだったのに、こんなにも嬉しく感じるなんて、思っても見なかった!!』
もしも本当の肉体だったら涙を流していたほどにタクトは大はしゃぎするが、ノアもちとせも何も言わなかった。
それどころか、ちとせは目尻に涙を浮かべて喜び、ノアも満足そうに頷いている。
何せタクトにとっては、四年ぶりにまともに何かを自分の意思で動かしているのだ。
これまでずっとファントムシューターのセンサーの類でしか情報を得ることが出来ず、或いはファントムシューターがハッキングした機器にしか精神保護されているタクトは干渉出来なかった。
しかし、今、タクトは確かに自分の意思だけでプローブを動かしているのだ。
「それじゃ、タクト。次は立ってみなさい」
『ああ、うん……分かった』
肩を回したり、
タクトはプローブの頭部をコクリと頷くように動かし、両足を動作させた。
ちとせはハラハラした様子でタクトの動作を見つめる。今のタクトは四年間まともに身体を動かしてなかった。何気ない動作でさえ、今のタクトには難しくなっていてもおかしくない。
ゆっくりと台の上からプローブの両足が床に置かれ、そのまま立ち上がった。
『おっとと!』
「だ、大丈夫ですか!?」
『ああ、問題ないよ、ちとせ。いや~、立つのでこんなに緊張したのは生まれて初めてかなぁ。あはははははっ!』
頭の後ろに片手を置きながら、タクトが笑うとホログラムの映像も笑う動作を行なった。
「一応、問題ないみたいね。ただ感情表現の映像に遅れがあるから、その辺りの改善は必要ね」
冷静にノアは言葉を発しながらも、タクト用にカスタマイズしたプローブの出来に満足そうに頷いた。
今、タクトの意思が反映して動いているプローブは言うなれば、『義体』だった。
ファントムシューターの機能で精神が保護されているタクトだが、それは完璧ではない。現にタクトは自身の声を忘れていた。
ましてや肉体の感覚など、大型戦闘機であるファントムシューターで補える筈が無いのだ。
このままでは例え肉体を取り戻して精神が戻っても、何らかの不具合が発生する恐れがある。
そもそもファントムシューターの精神保護はあくまで取り込んだ精神を保護するまでであり、肉体に戻した精神まで安定させる機能はない。
其処でノアは、ちとせが所持しているファントムシューターのコックピット内に置かれていた昔の研究者が製作したと思われるクロノクリスタルを解析し、プローブに組み込む事を思いついた。
勿論、ちとせはそれに賛成し、二人は即座に解析と専用のプローブの開発に取り組んだ。
『でも聞かされた時は嬉しかったけど、こんなに早く出来るとは思ってなかったよ』
タクトはプローブの足の調子も試すように、屈伸しながら感心するしかないと言うように呟いた。
「このぐらいは簡単よ。一番手間取ったのはクリスタルの解析の方で、プローブの調整自体は簡単だったから……ただ個人的にはクリスタルに備わっていたセンサー機能をわざわざ人間レベルまで落とす事が不満ね。せっかくの高性能のセンサー機能を悪くするなんて技術者としてしたくない事なんだから」
『俺的にはこれぐらいが一番だよ。正直センサーが良すぎるせいで、色々と大変だったから』
(もう本当に大変だったからね!)
ファントムシューターのセンサー以外で外界の事を知れるようになったのは良いが、ペンダントのクリスタルに備わっているセンサーも高性能なせいで知りたくもない情報までタクトに伝わってしまうのだ。
(せめてちとせがシャワーを浴びる時だけは、ペンダントの機能を停止するようにファントムシューターに頼んだのは良いけど……センサーを切っていたからちとせにすぐに返事を返せなくて、泣きながらちとせがファントムシューターのところまで走ってきたりとか、他にも俺が知っちゃいけないような『白き月』の区間とかも分かるから本当に困ったよ)
しかし、今はその悩まされていた高性能なセンサーも、人間が把握レベルまで低下しているのでタクトとしては本気で助かった。
「軽い動作には問題はないようですね」
『そうみたいだ』
「じゃあ、次はファントムシューターのところまで歩いて見ましょう」
『分かった』
ノア、ちとせ、タクトは研究室から出て通路を歩きだす。
義体として使っているプローブは、確りと消音機能も使ってるので機械の動作音は聴こえない。
そして歩くと言う動作を自分で行なえている事に、タクトは深い感慨と喜びを覚えずにはいられなかった。
『機械だけど、こうして自分の意思で身体を動かせるなんて、夢にも思ってなかったなぁ』
「少しでも慣れておきなさい。無くなっていた感覚を取り戻しておかないと、アンタの身体を取り戻した時に大変になるんだから」
『ありがとう、ノア』
言外に『ウィル』に奪われた身体を取り戻そうとしている事を示してくれたノアに、タクトは深い感謝を抱いた。
そして横に並んで歩いているちとせに、横目を向けるようにセンサーを向けた。
プローブの高さは、タクト本人の背の高さに合わせている。懐かしい視点。
自身にとって何よりも大切な相手が横に並んで歩いている。思わずちとせの手を握りたい衝動にタクトは駆られるが……。
(……この機械の手で、ちとせの手を握って良いのか?)
義体とは言え自分の意思で動かせる身体を得たとはいえ、温もりなど感じられない機械の手。
タクト自身の姿をホログラムで投影しているに過ぎない偽りの身体。もし触れてちとせに拒絶されたとタクトは不安を覚える。
しかし、そんなタクトの不安を晴らすようにちとせの方から手を握って来た。
「大丈夫です、タクトさん。此処にいるのが貴方だと私は分かっていますから」
『……ちとせ。ありがとう』
「タクトさん……」
「……身体を与えたのは、間違いだったかしら?」
通路の真ん中で互いに向き合って見つめ合うタクトとちとせを、ノアは眺めながら呆れたように言葉を零すのだった。
『白き月』の兵器工場区間。
本来は秘匿されているその区間にノア、ちとせ、そして義体を得たタクトは入り、其処に港から移動したファントムシューターの下に向かった。
『白き月』の作業員達がファントムシューターの周りで作業をしている。
無論、他の『
長距離レールガンである大口径の大型ロングバレルレールガン。
中距離ミサイルであるミサイルポット。
レーザーファランクスを発射する中距離レーザー砲。
最後に粒子ビーム砲である機銃。
それらの兵装が整備されて、ファントムシューターに取り付けられている。
『いや~、こうしてみるとやっぱりファントムシューターは俺が知ってる『紋章機』とそっくりだ』
今までと違う視点でファントムシューターを、興味深そうにタクトは眺めながら呟いた。
《否定。本機が『紋章機』である事は事実。しかし、『
タクト達が居る事を察したのか、ファントムシューターは音声を発して答えた。
『そう言う意味じゃないんだ……君の今の姿はまるでシャープシューターみたいだなって思ったんだよ』
ファントムシューターの外観は、『
それ故にカラーリングの違いはあるが、予備兵装を装備したファントムシューターは、タクトとちとせが共に乗り、クロノ・クェイクボムに挑んだシャープシューターにソックリだった。
『……やっぱりシャープシューターはあの時の事で……』
「はい……私が此方側に帰還した後、何とか修理できないかとノアさんやクレータ班長を始めとした皆さんが修理に挑みましたが……」
「無事だったのは、生命維持装置の部分だけ。『紋章機』にとって一番重要な『
『……そうか』
改めて知らされた事実に、タクトは機械の両手を強く握り締めて上を向く。
(ありがとう、シャープシューター。君がいなかったらちとせは護れなかった。だから、約束するよ。絶対にちとせと運命を乗り越えて見せる)
夢の中でも決めたようにタクトは新たに誓いを抱く。
その様子をちとせとノアは黙って待つ。やがて、タクトは頷くと共に二人に振り返った。
『それじゃあ、これから何をすればいいかな、ノア?』
「そうね。確か後十日ぐらいはあっちも動けないのよね?」
『うん。レスターの話だと、結構マジーク艦隊がヴェレルの仕掛けた爆発でダメージを受けたらしくて、修理に時間が掛かるみたいだ。セルダール側も戦力を出してくれるって、ソルダム陛下と言う人が密かに伝えてきたそうだ』
「ルクシオールに搭載されている『紋章機』の方も、戦闘の影響でダメージがあります。特に連続で合体を行なったブレイブハートと一番ダメージを受けたレリックレイダーの修理には時間が掛かると、整備班の方々から報告が送られています。その上に、レリックレイダーは改造機であることが判明してしまい、最悪の場合はエンジン部を一から変える必要もあるとの事です」
「そう……で、タクト。今アンタが知っている範囲の『
『……ヴェレルを『
冷静に今判明している範囲での戦力を分析し、其処にファントムシューターも加えた上でタクトは自分の考えを示した。
「追い出すだけね……そうね。ヴェレルの奴にとっては『
「追い込まれれば、『
タクトはちとせに向かって頷いた。
『ああ、そうだ。正直に言うけど、俺が確認したまだ開いていない『クロノゲート』の先にある四つの宇宙は、『
「支配するには持って来いの宇宙って訳ね」
『ああ、だから出来れば次の戦いでヴェレルとは決着をつけたいけど、アイツの下には『影』に加えてミルフィーがいる。ミルフィーがいる以上、アイツはその気になれば『
ヴェレルは記憶を失っている。
何処までの記憶を失っているのか分からないが、もしも記憶を完全に取り戻せばどうなるか分からない。
自分の所業に反省して素直に投降してくれるならば、タクトとしては助かるが、逆の可能性もある。
《個体名ヴェレルは既に危険因子と認定。『影』を恣意的目的に使用した以上、『
話を聞いていたのか、ファントムシューターも外部音声で考えを示した。
その中にあった単語にタクトとちとせは目を見開き、ノアは訝し気な顔をする。
「『光』? 『影』の他にも『
《肯定。『黒き月』の管理者の行動を観測した結果、情報開示する事を認定した》
『良いのかい? ノアに『光』の事を教えて?』
《否定。あくまで『光』と言う呼称のみを開示。『光』の機能及び危険性は開示せず》
「つまり、私達で見つけて調べろって事ね。良いわ。どうせその辺りの事は『ライブラリ』にある秘匿データに記録されているでしょうから」
今はヴェレルの方を優先だと言うように、ノアもファントムシューターに追求しなかった。
「さてと、タクトの義体の方には、問題が無い事は分かったわ。それじゃあ、早速だけどタクト。アンタが開示できる限りの情報を全部と四年間の行動に関しての報告を纏めてしなさい」
『……え~と、ノアさん? 聞き間違いかな? 俺が開示できる情報と四年間の行動記録って聞こえたんだけど?』
「ええ、行ったわよ。因みに期間はアンタとちとせが『
『ちょっと待って!? 『
この後の予定としてはファントムシューターに兵装装着後、試運転を行なった後に微調整をして問題がなければノアを乗せて『クロノゲート』前で待機しているエルシオールに戻る。
その後にノアをエルシオールに降ろして、『
実質、『白き月』に居られるのは後、二、三日もない。その間に提供できる情報を纏め、四年間の行動を報告しろなど本来ならば出来る筈が無いのだが……。
「今のアンタなら可能でしょう。機械に接続して報告を纏めるだけなのよ」
現状のタクトの状態を最大限に活用すれば、問題無いとノアは言い切った。
「あ、あの、タクトさん! 私も力に……」
「ちとせは駄目よ。アンタはアンタで持って来た『
「は、はい……分かりました」
ちとせの方にもノアは仕事を命じた。
タクトに協力したいが、ノアが告げた仕事は元々ちとせが関わっていた物だけに断る事は出来ない。
申し訳なさそうにちとせはタクトを見つめる。それに対してタクトは安心させるように投影した自身の姿を微笑ませた。
『大丈夫だから安心してくれ、ちとせ……ただノア?』
「なに?」
『なんだか、本当に四年分以上もこれから働かされそうな気がするんだけど、気のせいかなぁ?』
「気のせいじゃないわよ。アンタにはこれから四年分、私達を心配させた分、みっちり働いて貰うからね」
『ははははっ……出来ればお手柔らかにお願いします』
それが叶わない事を悟りながらも、タクトに出来るのは願う事だけだった。
と言う訳でタクトは義体を手に入れました。
あくまで機械の身体なので飲食は不可能ですが、少しタクトに対する遠慮がなくなりました。
オリジナル兵器。
名称:タクト専用プローブ。
詳細:軍用のロボットであるプローブをノアとちとせが改良した義体。頭部にファントムシューターからちとせが回収した菱形の黒いクロノクリスタルを取り付ける事で起動。本来はホログラムなど投影して潜入する偵察用のプローブに、タクトのホログラムだけを投影するように改良。通常のプローブよりも人間を模した機体になっているで、手足の関節なども精巧に造られている。但し人間に近づけ過ぎたので、通常のプローブよりも力などは弱く、更には動作も人間が行なえる範囲でしか可動出来ない。
あくまでタクトに人間としての感覚を取り戻させる為だけに製作された義体。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる