ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
「はぁ~……」
自室のベットの上で仰向けになりながらカズヤは溜め息を溢した。
(結局休暇中ずっとリコの男性恐怖症の克服の訓練をしていたけど、握手以上の進展はなかったなぁ)
寧ろ初日に、長年のリコの男性恐怖症の緩和と言う結果を出したのだから充分だと言えなくもないが、これまで握手以上の触れ合いをリコとしていたカズヤとしては残念に思えてしまった。
(何時かは休暇の前の時のように、リコと触れ合えるようになれるのかな? いや、それよりも……)
カズヤの脳裏に浮かぶは男性恐怖症が少なからず、緩和している事を証明したリコとランティが握手を交わしている光景。
(もしもあの時、最初に僕がリコの手を握っていたら同じ結果を出せていたのかな?)
あの光景を目撃した時は、カズヤの中には驚きこそあれ嫉妬は無かった。
だが、残りの休暇全てを費やしても初日以上の成果が出なかった事で、徐々にカズヤの中でランティに対する嫉妬のような感情が募って行った。
無論、あの時の事は偶然でしかない事はカズヤも分かっている。現に次の日の特訓にランティも参加していたが、成果は上がらなかったのだから。
それでもどうしてもカズヤの中でモヤモヤが募って行った。
「はぁ~……くよくよしていても始まらない。少しブラつこう」
部屋にいても気が滅入るばかりだとカズヤは考えて、クローゼットを開けて制服の上着を着る。
「アレ? しっかり締まらない。ああっ、留め具が壊れてる」
クローゼットの留め具が壊れている事にカズヤは気が付いた。
「参ったなぁ。後で修理しないと」
今修理しても良いが、どうにも気分が乗らなかったので誰も部屋に来ないからとそのままにした。
カズヤは、自室から外に出て廊下を歩いてルクシオールの中を進んで行く。
(そう言えば、紅茶が切れていたっけ。『シャンクス』に寄って行こう)
リコが紅茶を趣味にしていると知ってから、カズヤも自室では良く紅茶を飲むようにしていた。
(リコ……)
カズヤが休暇中に仲を深めようと決意していた想い人であるリコ。
だが、仲が進展するどころか後退するような状況になってしまった。その事を改めて実感し、カズヤは憂鬱な気持ちになりながら、宇宙コンビニ『シャンクス』の扉をくぐった。
「ええっ!? そうなんですか?」
(あっ……リコ……)
噂をすればと言うように、丁度思い浮かべていた相手であるリコが、コンビニ店員である、ルコと何やら仲良く話をしていた。
「はい、此方の商品はそう言う仕様になっております」
「知りませんでした! あっ! 本当だ! すっごーい!!」
(何だか二人とも楽しそうに話してるな……初日の訓練が終わった後から、あんなに楽しそうに男性と話をするリコをよく見かけるんだよなぁ……)
男性恐怖症の訓練の前までは、何処かリコと会話をする男性の間には、双方ともに距離があったように今のカズヤは思える。
それは当たり前だった。何故ならばリコ本人も含めて、ルクシオールに所属している乗員は、男性恐怖症の事をしている。発作が起きると容赦なくリコに投げ飛ばされる事を知っていて、不用意に接触しようとするはずがない。
しかし、男性恐怖症克服の訓練によって、明確な線引きが明らかになった。
曖昧だった範囲に明確な線が引かれた以上、それを踏み越えない範囲で距離感が縮まるのは当然だった。
カズヤもそれは分かっているのだが、そもそも休暇の前までその線など関係なくリコと接触出来ていたが故に、嫉妬のような気持ちを感じてしまうのだ。
「あ、あのところで、さっきの話なんですが……?」
「ああ、はい。
「そうですか。ありがとうございます」
何処となくホッとしたようにリコは息を吐きながら、ルコにお礼を言った。
(今の何の話だろう?)
商品とは違う会話がリコとルコの間でされたように感じたカズヤは、一歩前に踏み出して二人に近づく。
「や、やぁ」
「っ!」
「あ。シラナミさん」
リコとルコも漸くカズヤが店内に入っていた事に気が付いた。
「なんだか楽しそうだったけど、何話してたの?」
出来るだけ自然を装いながら、カズヤはリコとルコの会話の中に入ろうとする。
だが、リコはカズヤの顔を見ると、何かを思い悩むような顔をして視線を逸らす。
「いえ……なんでも……あ! そろそろ、失礼します! ルコさん。仕事中なのに変な事を聞いてすみませんでした!」
「いえ、丁度暇でしたから。またのご利用お待ちしていまーす!」
「それじゃ……」
パタパタと慌ただしくリコは、シャンクスから出て行った。
(そう。これなんだよなぁ)
自分に目もくれずにシャンクスから出て行ったリコの様子に、カズヤは暗くなる。
(気のせいだと……)
「思いたいのはぁ!!」
「ひぃっ!!」
いきなり怒鳴るような大声を上げたカズヤに、ルコは怯える。
だが、カズヤは怯えているルコに構わずに、内心で疑問に思った事を考える。
(リコは僕の顔を見ると、何だか思い悩むような顔をするようになった気がする!!! それに今みたいにすぐにいなくなるんだよなぁ!!! まさか、避けられてるのかなぁ!?)
思い当たる節はないとカズヤは思いたかったが、心当たりは残念ながらあった。
(リコが男性恐怖症の克服の為の訓練を始める事になった原因は、触れても何ともなかった僕に対しても恐怖症の発作が起きたから……その事が原因なのかも知れない)
そう考えればリコに避けられるようになった事にも納得出来た。
状況的に見れば、恐怖症が悪化したともいえるのだ。
(せっかく緩和してるのに、もしまた僕の行動で症状が悪化してしまうのを、リコは恐れているんじゃ!?)
「あ、あの……い、いかが……なされました?」
「あっ! す、すいません」
恐る恐る怯えるように声を掛けて来てくれたルコに気が付いたカズヤは、自分のした事に気が付いて謝罪した。
「な、何でもないんです。何でも……あの、何時も此処で買ってる紅茶の袋が棚に無かったんですけど?」
「ああ、すいません。丁度、在庫が切れまして。明日には入荷されるんですけど」
「そうですか」
目的の物が無かった事に、カズヤは残念そうな声を出した。
「でも。もしかしたら……ティーラウンジの方でなら販売しているかも知れませんよ」
「ティーラウンジに……分かりました。失礼します」
「あ、ありがとう……ございました」
まだ脅えが残っているのか、ルコは店外に出ていくカズヤの背に恐る恐る声を掛けながら見送った。
(はぁ~、失敗した……それにしてもティーラウンジって気分じゃないんだよなぁ……それにリコが行きそうな場所だし)
紅茶が趣味でケーキ好きのリコなら、ティーラウンジに向かったかも知れないと思いカズヤの足は別方向に進んだ。
(格納庫の方に行ってみよう。何かできる事があったら、班長に頼んでやらせて貰おう)
そう決意したカズヤは、少し足早に格納庫に向かった。
「げはははっ!!」
「やだぁ! 班長さんったらぁ!」
(っ!?)
格納庫内に入ってみると、クロワと楽しく談笑でもしているのか、リコの楽し気な声が聞こえて来た。
(ま、まさか、こっちに来ているなんて!?)
リコと会わないようにするために、わざわざ格納庫に来たのに当てが外れたカズヤは落ち込む。
それでもクロワとリコの会話が気になるのか、恐る恐る物陰に隠れながら会話を盗み聞きするように聞き耳を立てる。
「それで、そのあと、なんて言ったんですか?」
「そりゃ、勿論……ん?」
何かに気が付いたようにクロワは会話を中断して、カズヤがいる方に顔を向けた。
「何でぃ、カズヤじゃねぇか! よぉ! そんなところに隠れてどうしたぁ?」
(バレた!?)
どうしてバレたのかと思うカズヤだったが、身体は隠せてても物陰から影が飛び出ていたのだ。
カズヤが居る事にリコも気が付き、再び何かを思い悩むような顔を浮かべた。
「そ、それじゃ、私はこれで失礼します!」
「おお? 何だ、どうした急に?」
いきなり逃げるように駆けだしたリコに、クロワは面を食らったような顔をした。
しかし、リコは構わずに急ぐように格納庫から出て行った。
隠れている意味が無くなったカズヤは、深い溜め息を溢しながら出て来る。
「はぁ~……」
「ああん? なんだ、おめえら? ケンカでもしてのかぁ?」
「いえ、別に?」
「じゃあ、何だよ、リコのアレは?」
「さぁ~……? さっぱり僕にも……」
寧ろその理由はカズヤの方が知りたいぐらいだった。
「おいおいおい! なんかあんだろう? カズヤが来た途端に、
「えっ!? 今のどう言う意味ですか!? 班長とリコは楽しく会話していたじゃないですか?」
「そりゃおめえ、俺が気を紛らわせるために会話してたからだ。リコの奴、最初に来た時はさっきおめえの顔を見た時のような、何か悩んでる顔をしてやがってよぉ。どんな用で来たのかと思ったら、
「ちとせさんがリコに頼みごとをしていたんですか?」
セルダールを解放した翌日にはちとせはファントムシューターに乗って、『
それならば事前にリコに何かを頼みごとをしていってもおかしくないようにカズヤは思ったが、クロワは困惑するような顔をして口を開く。
「いや、それがよぉ……これがおかしい話でな。そのリコが渡して欲しいって言ったデータだったら、ちとせの嬢ちゃん本人が『
「ええっ!? それじゃリコが言っている事はおかしいですよね!?」
「だろ? まぁ、来た時の様子を見て思わずデータは渡しちまったが」
「一体どんなデータをリコに渡したんですか?」
「おめえさんのブレイブハートとリリィの嬢ちゃんのイーグルゲイザーの合体データだ」
「僕とリリィさんのデータ?」
何故そんなデータをリコがクロワに求めたのか分からず、カズヤも困惑した。
ちとせならば分かる。ちとせは『白き月』から派遣された研究員で、ブレイブハートと『紋章機』のデータ収集も仕事の一つなのだから。
現にちとせは、呪いが掛かるまでブレイブハートと『紋章機』の運用データなどの収集と管理を行なっていた。特に合体した後のデータは大切で、必ず整備班から送るように頼んでいた。
そして『
(明らかにリコは嘘までついている。一体どうして?)
しっかり者のリコが嘘までクロワについてデータを求めた理由が、カズヤには分からなかった。
「まぁ、とにかくだ。訓練も最初の時と違って効果が出てねぇのも、リコが悩んでいる理由の一つかも知れねぇ」
「は、はい……それじゃ……また……」
「……辛気くせぇなぁ……たくよぉ……」
落ち込んだ様子を見せながら去っていくカズヤの背を、クロワは心配そうに見つめながら呟いた。
「………むぐぁぁぁっ!! はぁ! はぁ! はぁ!!」
息が詰まりそうな心境から逃れる為に、カズヤは通路の中で思いっきり息を吐きだした。
(か、確信した!! 僕はリコにさけられてるぅ!!)
カズヤがいると分かれば、リコは即座にその場から離れる。
これで避けられてないと言えない訳が無く、カズヤは心にダメージを受けていく。
「ぬぁぁぁ!!」
(なんでだぁ!? どうして、リコに避けられるんだぁ!!!)
「ぐぅぅっ!! ぶはぁぁっ!!」
明確な好意を抱いている相手に避けられていると言う事実は、カズヤは更に深いダメージを負った。
(駄目だ! 考えれば考えるほどに心が痛い! 何かで気を紛らわせるか落ち着かせないとどうにかなりそうだ!)
何処か気を紛らわせる場所はないかと、足早にカズヤはルクシオールの中を進んで行く。
そして辿り着いたのは、ティーラウンジだった。
(リコは……いないか)
ティーラウンジ内にリコがいない事を安堵しながら、カズヤは座席に座った。
すると、ウェイトレスを担当しているメルバが微笑みながら近づいて来た。
「ご注文はなんですか?」
「え~と、紅茶を。それと部屋でも飲みたいんで、在ったら紅茶の袋もお願いします」
「分かりました。すぐに持って来ますね~」
メルバは営業スマイルを浮かべて、カズヤがいるテーブルから離れて行った。
これで気分を変えられると思う中、他の席に座っている乗員の会話が聞こえてくる。
「いや~、桜葉少尉がいきなり質問して来た時は驚いたよぉ」
(えっ? 桜葉少尉って、リコの事!?)
盗み聞きをするようで少し申し訳ない気持ちになりながらも、リコの事が気になったカズヤは声の聞こえて来た方に聞き耳を立てる。
「どんな質問をされたんだ?」
「ああ、ほら。セルダール解放の少し前の夜中に、不審な影がルーンエンジェル隊のメンバーが暮らしている区間の夜中に出たって話があっただろう?」
「ああ、在った、在った! 確か監視カメラの映像に巨大な招き猫が映ったとかだったよなぁ」
(それリリィさんの事だぁ!?)
身に覚えがあり過ぎる話に、カズヤは内心で叫んだ。
(そうだよね。あんな目立つ着ぐるみ姿が、監視カメラに映っていない筈がないよなぁ)
今更過ぎる事にカズヤは気が付く。
その間にもどうやら会話している乗員は警備班の面々なのか、話を続けていた。
「それでどうして桜葉少尉が、そんな事を質問して来たんだ?」
「ああ、いや。着ぐるみの話は序で出た事で、本命の方は『セルダール解放前の深夜の時間帯に、自分達が暮らしている区間内を移動した相手は居なかった』かって話だ」
(何でそんな質問を聞いたんだろう、リコは?)
セルダール解放前となれば、もうそれなりに日数が経過している。
何故そんな事を今更リコが警備班に確認したのか、理由が分からずカズヤは首を傾げた。
もう少し詳しく話を聞こうと、更なる聞き耳を立てようとしたところで、目の前に注文した紅茶が置かれた。
「紅茶をお持ちしました。あと、此方ご注文された紅茶の袋となります」
「あっ。はい、ありがとうございます。って、此れは!?」
テーブルに置かれたのは、リコが一番気に入っている紅茶の銘柄の袋だった。
(そう言えば、どの銘柄の紅茶にするか伝えていなかったなぁ)
今更ながら注文の仕方が不味かった事にカズヤは気が付く。
逆にメルバは、カズヤの様子に首を傾げて質問した。
「アレ? 違いました? てっきり、リコさんを元気づける為かと思ってそれにしたんですけど?」
「えっ!? 元気づけるって、リコに何かあったんですか!?」
「……実はですね。最近リコさん、此処数日ラウンジに来てもケーキを注文しなくてただ紅茶を飲んで思い悩むような顔を座っているんですよ」
「ええええっ!? リコがケーキを注文しない!?」
信じられないようなメルバからの話に、カズヤは大声を思わず上げてしまった。
リコが大のケーキ好きなのはルクシオールの乗員なら誰もが知っている。カルーアと共に『
カズヤの知る限りでは、ティーラウンジにいる時は、必ずケーキを注文して食べていた。
そのリコがティーラウンジに来ても、ケーキを注文しないなど……。
(どう考えてもおかしいじゃないか! それにやっぱり、班長に嘘までついてデータを渡して貰うなんて、リコらしくない!!)
間違いなくリコが何か深い悩みを抱えていると確信したカズヤは、メルバが持って来た紅茶を急いで飲んで立ち上がる。
「メルバさん! 支払いをお願いします!!」
「は、はい!!」
カズヤの勢いに押されながらもメルバは会計を済ませる。
会計を終えたカズヤは、紅茶の袋を持ってすぐさまティーラウンジを飛び出した。
今度は明確な目的を持って、リコを探す為にカズヤはルクシオール内の通路を走る。
(リコが何かを悩んでいるなら、僕は力になりたい!)
その気持ちを抱いてカズヤはルクシオールの中を走る。
しかし、ティーラウンジに行く前は先々でリコがいたのに、今度は倉庫などリコが居そうな場所を探しても見つからなかった。
(一体何処に? もしかして自室の方に戻ったんじゃ?)
そう思ったカズヤが自分達が居住している区間に戻ろうとしたところで……。
「あはははははは!!!」
「んんっ!!」
何処からともなくリコの楽し気な笑い声がカズヤに耳に届いた。
「もう! 冗談ばっかり!」
(いた! リコの声に間違いない!!)
「早くして下さい! ランティさん! お腹が空いているんですから!!」
(ラ、ランティだって!? それじゃあリコは食堂に!!)
急いでカズヤは食堂の方に向かい、中を覗いてみる。
すると、探し人であるリコとコックであるランティが楽しく談笑していた。
「分かった、分かった。それで何にする?」
「そうですねぇ……では、本日のパスタをお願いします」
「了解。しばしお待ちいただけますか? お姫様」
「うむ。苦しゅうないぞよ」
「はははははは!! それじゃ待っていてくれ……ふぅ、漸く元気になってくれたか」
(ランティが厨房に引っ込んだ。今しかない!)
楽しくリコがランティと談笑している様子に思わないところが無かった訳ではないが、今はそれよりも聞きたい事の為にカズヤは食堂に足を踏み入れてリコに近寄る。
リコはすぐにカズヤに気が付き、やはり何処か思い悩むような顔を浮かべた。
「シ、シラナミさん……」
「リ、リコ。その、君に聞きたい事が、あ、あるんだ!」
「あっ! わ、私、ちょっと急用を思い出しました!」
そうリコは言い終えると共に座っていた椅子から立ち上がって、食堂を出て行った。
「ちょ! ちょっと、待って!!」
「ランティさんに謝っておいて下さい! それじゃ!!」
カズヤの呼びかけに構わず、リコは足早にルクシオールの廊下を走り抜けて行った。
「リコ……」
すぐさま追いかけるべきだったが、明確なリコの拒絶にカズヤは足を動かせず呆然とするしかなかった。
そんな中、リコが注文したパスタを作り終えたランティが厨房の奥から出て来る。
「は~い! お待たせ!!! 本日の……あああっ!?」
朗らかに笑いながら出て来たランティだったが、食堂内に注文したリコの姿が無く変わりにカズヤが居る事に目を見開いて固まった。
「なんで、リコがお前に変わってるんだ?」
「僕じゃ悪いかぁぁぁぁ!!!」
「っ!?」
鬱憤を晴らすようなカズヤの雄たけびに、ランティは目を見開いた。
「い、いや……悪くないぞ……すまん」
「はぁ、はぁ、はぁ……いや、僕の方こそゴメン」
大声で叫んだ事で少し落ち着いたのか、カズヤもランティに謝罪した。
そのままカズヤが食堂の椅子に座ると、ランティも対面するように椅子に座った。
「なんだ? どうした? 変だぞ、
「ごめん。ちょっと色々と悩んでいて……って?
「ああ、そうだ」
カズヤの問いにランティは神妙な顔をしながら、渡す相手がいなくなったパスタをテーブルに置いて話し出す。
「お前が来る大分前から、リコはずっと食堂にいたんだ」
「ずっと? でも、注文したのはついさっきだよね? その前はどうしてたの?」
「席に座って何かのデータを何度も確認していた」
(データの確認? それって班長がリコに渡したって言うデータのことじゃ!?)
クロワに嘘までついてリコが求めたデータ。
何故データを求めたのか理由は分からないが、まさか長い時間思い悩む程のことだったカズヤはランティの話で知った。
「最初、俺はリコが悩んでいるのは、てっきり特訓が上手く行っていないからだと思ってたんだが、どうやら違うようだ」
「それは……僕もそうだと思う」
カズヤとしては認めがたい面もあるが、リコの今の悩みは男性恐怖症の克服訓練の事ではないのは明らかだった。
何か別の悩みを抱えていて、それに他ならぬ自分自身が関わってるのだとカズヤは察した。
「順を追って離すが、中々注文せずにずっと悩んでいたリコに俺は話しかけた。其処で先ず聞かれたのは、展望公園の夜遅くに何か不審な事はなかったかって聞かれたんだ」
「何でお前にそんな事をリコは……って!? そう言えば、お前!?」
「ああ、週に一度、展望公園の深夜でおでん屋をやってるからな」
趣味なのか或いは他に事情があるのか、ランティは食堂が終わった後の夜遅くの週に一度、展望公園が真っ暗になると共に屋台を引いておでん屋を営んでいた。
「その事をリコは知っていて、俺に聞いていた訳だ」
「で、お前はなんて答えたんだよ?」
「足早に展望公園を去って行った人影と、ずぶ濡れになっていたお前が展望公園にいたって答えた」
「ぶほぉっ!!」
まさか自分とリリィの事を話していたとは思ってもみなかったカズヤは吹き出した。
「ランティ! お前!?」
「事実だろう?」
「うぅ……」
指摘された事にカズヤは言い返せなかった。
夜中に真っ暗な展望公園でずぶ濡れになっているなど、普通に考えればおかしいのだ。
不審な事と言われれば、当事者で無ければカズヤも間違いなく答えていた。
「お前には悪いと思ったが、リコと会話をする切っ掛けが必要だったからな」
「そうか。じゃあ、僕が来た時に楽しそうな会話はリコの気が紛れていたからだったんだな」
クロワと同じ事をランティもしていたのだとカズヤは察した。
「俺の方でリコに関して知っているのは此処までだ。それで、お前の方はリコについて何を知ってるんだ?」
「うん。僕が知ってるのは……」
カズヤは自分が知る限りの、此処最近のリコの様子についてランティに話した。
「……正直信じられないような話だな。あのリコが嘘までつくなんて」
「それは僕も同感だけど、班長が嘘をついたとは思えない」
「まぁ、実際此処最近のリコの落ち込みようは酷いものだ。どういう訳だか避けられているお前は知らないだろうが、食事も満足に取っているとは言えないぞ」
「ええっ!? ま、まさか、其処までリコは深い悩みを!?」
「ああ、そうだ。てっきり訓練が上手く行っていないからだと思ってたんだが、今のお前の話から考えると違うようだ。少し待ってろ」
言い終えるとランティは厨房に戻って行った。
一体何をとカズヤが待っていると、暫らくしてランティは手に袋を持ったランティが戻って来た。
「ほら。コイツを持ってリコに会いに行け」
「これは?」
「注文されていたパスタの作り直しだ。先に作っていたのは話している最中に冷めちまったからな」
「ランティ! 分かった! リコに渡すよ」
「お代の方はお前に付けておくぜ」
「それぐらいは構わないさ」
リコに会いに行く理由が得られるのだから、カズヤは迷いなく頷きランティから袋を受け取った。
「カズヤ。忠告しておくが、リコへの対応は間違うなよ。間違ったら大変な事になるぞ」
「う、うん。分かった」
何時になく真剣なランティに気押されながらも、カズヤは頷き返して食堂から出て行った。
向かう先は自身を含めたルーンエンジェル隊の面々が居住している区間。足早にピロティを通り過ぎ、リコの私室に向かおうとしたところで……。
「あっ!」
「リコ!?」
丁度ピロティを通っていたのか、カズヤはリコと出会った。
カズヤに気が付いたリコは、すぐさま自分の部屋に逃げようとする。そんなリコに向かってカズヤは叫んだ。
「待ってくれ、リコ!! ランティから君に届ける物があるんだ!!」
「えっ? ラ、ランティさんから?」
カズヤの声に、リコは立ち止まった。
その事にカズヤは内心でランティに感謝と複雑な気持ちを抱くが、今は構わずにリコに持っていたパスタが入っていた袋を差し出す。
「これ!? リコが注文したパスタだ! ランティから届けるように頼まれたんだ。受け取ってくれ」
「………あ、ありがとうございます、」
振り返ったリコは、届けてくれたカズヤに感謝しながらパスタを受け取った。
「そ、それじゃ……」
「待って! リコに聞きたい事があるんだ!」
「わ、私、忙しいんです!」
「嘘だ!」
「う、嘘じゃありません!」
「だったら、どうして班長に嘘までついたりしたんだ!!」
「っ!?」
何故それをと言うようにリコは動揺してカズヤを見つめた。
「君が班長から渡して貰ったデータ。アレはちとせさんから頼まれたって言ったみたいだけど、班長はちとせさんが『
「………」
カズヤの告げた事実にリコは目に見えて落ち込みながら、顔を俯かせた。
「リコに悩みがあるんだったら力になりたい。だから、話して欲しい」
「………此処じゃ話したくありません……シ、シラナミさんの部屋で話させて下さい」
「えっ? 僕の部屋で?」
言われた場所にカズヤは戸惑う。
(いや、この際場所はどうでも良い。今はリコと話す方が何よりも大事だ)
今はリコと話をするのが何よりも大事だと思ったカズヤは頷く。
「分かった。それじゃ、僕の部屋に行こう」
「は、はい」
何処か決意を固めたようなリコの声に僅かな疑問を感じながら、カズヤはリコと共に自室に向かって歩き出したのだった。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる