ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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爆弾爆発です。


9-5

 リコと共に自室に戻ったカズヤは、リコが座る為の椅子を用意する。

 

「先に椅子に座っていて。丁度リコの好きな紅茶の銘柄の袋を買って来たところなんだ」

 

「あっ……はい、ありがとうございます」

 

 ほんの僅かだがリコは明るくなった声で返事を返した。

 

(ありがとう、メルバさん!!)

 

 気を利かせてリコの好きな紅茶の銘柄を用意してくれたメルバに感謝しながら、カズヤはキッチンの方に移動して紅茶を淹れ始めた。

 その間、リコは椅子に座りながら何かを探すようにカズヤの部屋を見回す。その視線はやがて微かに開いているクローゼットに向いた。

 

(もしかしたら、あの中に……本当にアレがあったら、私は……)

 

 此処数日リコは、ずっとある事を調べていた。

 最初は何かの間違いだと思っていたが、調べれば調べるほどに目撃者が多く事実としかリコは認めるしかなかった。

 

(シラナミさんは……リリィさんと付き合っているの?)

 

 そんな考えをリコが抱くことになったのは、様々な要因が重なった結果だった。

 僅か一週間と言う短い時間で、他のエンジェル隊の面々と同じぐらいに親密になっていたカズヤとリリィ。

 二人の仲が良い事は同じ仲間としてリコも喜んでいた。だが、その仲が友人としてではなく男女の関係ならば、カズヤに明確な好意を抱いてしまったリコにとって他人事ではない。

 男性恐怖症でありながらも、発症するまでは触れあえた男性のカズヤ。そのカズヤが自分以外の女性と付き合っているなど今のリコは受け入れられない。

 その相手かも知れないリリィは、リコから見ても凛々しい上に女性としての魅力も上な女性。

 それだけではなく、リリィはカズヤの()()()()()()()を得た女性でもある。

 

(……アレは人工呼吸……)

 

 溺れたカズヤを助ける為の人工呼吸(マウス・トウ・マウス)だと言うのはリコも分かっている。

 だが、そうさせてしまった原因は他ならぬリコ自身の男性恐怖症がカズヤに対しても発症してしまったから。

 リリィはただカズヤを助けようとしただけとリコも分かっている。しかし、その後にカズヤとリリィが乗るブレイブハートとイーグルゲイザーの合体後のデータが短期間ではあり得ない程に良かった事とリリィが発した意味深な言葉の数々が気になり、男性恐怖症の訓練の後にリコは調べた。

 その結果、様々な事が判明した。

 

(シラナミさんとリリィさんがティーラウンジで……ペアルックを着て一緒にケーキを食べていたところを見たって言う人もいた……他にもランティさんが夜の展望公園でずぶ濡れのシラナミさんと会ったり……その日の深夜に警備班の人がシラナミさんの部屋に猫の着ぐるみを着た人が向かったとか……色々な噂が流れていた)

 

 信じたくないような噂や話をリコは聞いてしまった。

 直接カズヤやリリィから話を聞けば、その誤解は解けただろう。だが、誤解とは思えないような話や噂、そしてデータで確かに示されたブレイブハートとイーグルゲイザーの合体後の同調率の数値。

 極短期間でその数値が出てしまっただけに、このまま行けば何れリリィが乗るイーグルゲイザーともカズヤがブレイブハートに乗って合体すればエンジェルフェザーを展開できるのではリコが危機感を覚えるに充分な出来事だった。

 

(もしもシラナミさんがリリィさんと付き合っている事を頷いたりしたら……)

 

 想像するだけでリコは、泣きそうになるぐらい悲しかった。

 だから、カズヤをリコは避けるようになってしまった。知って後悔するぐらいなら、知らずにいれば良い。

 そんな後ろ向きな考えに思考は支配され、しかし、それでも自分の考えを否定する材料が欲しくてコンビニ店員のルコを初めてとして多くの乗員に尋ね回っていたのだ。

 

「お待たせ、リコ」

 

「っ!? ……あ、ありがとうございます」

 

 目の前に淹れたの紅茶とランティから届けられたパスタを食べる為なのか、フォークが一緒に置かれた事にリコは気が付いてカズヤに礼を言った。

 ゆっくりとカズヤも対面するようにリコの前に座る。

 

「それでリコ……どうして班長にまで嘘をついたりして、ブレイブハートとイーグルゲイザーの合体後のデータを貰ったりしたの?」

 

(一番聞きたいのは僕を避けるようになった理由だけど……いきなり過ぎる気もするから、リコらしくない事から質問しよう)

 

 そう考えてカズヤは質問した。

 だが、その質問がある意味では自身にとって諸刃の刃である事にカズヤは気が付かなかった。

 

「……かしかったらです」

 

「えっ?」

 

「おかしかったからです!! リリィさんとシラナミさんの同調率が!? だ、だって二人が出会ったのはまだ一週間と少しぐらいなのに……私以外の他の皆よりも合体後の同調率が上っておかしいじゃないですか!?」

 

「えっ……あああっ!!」

 

 リコに指摘されて漸くカズヤは思い至った。

 ブレイブハートと『紋章機』の同調率の高さは、その相手との親密さも表している。これが同時期に出会ったカルーアとナノナノ、或いは少し遅れて一緒に戦うようになったアニスならばリコは気にしなかった。

 だが、リリィは違う。一番遅れて合流し、しかも前回のセルダールとの戦いがカズヤと一緒に戦った初戦闘。なのに、リコ以外のメンバーよりもリリィの方が同調率が高い。

 

(しまった! 確かにリコの言う通りおかしい!?)

 

 他のメンバーが誰も、それこそレスターとアルモ、そしてココも指摘しなかったが故にカズヤも気が付かなかった。

 だが、リコだけは気付いてしまっていた。他のエンジェル隊のメンバーよりもカズヤとリリィの同調率が高いことに。

 

「ア、アレはその……そう、リリィさんと僕の相性が良かったからじゃないかな?」

 

「……相性ですか」

 

 ギュッとリコは両手を強く握り締めた。

 カズヤの対応は好意を持っているリコにリリィとの仲を誤解されたくないと言う考えから出たもの。

 しかし、その対応はただでさえカズヤとリリィの仲を疑っているリコに対して、更なる疑念を抱く言葉だった。

 

「相性なんかで一緒に戦っていたテキーラさんやナノちゃん、アニスさんとの同調率がリリィさんよりも上なんですね、シラナミさんは」

 

「うっ……」

 

 リコの指摘にカズヤは僅かに呻いた。

 普通に考えれば、リコの指摘通り、相性だけで済ませられる筈が無いのだ。前回の戦闘では他に合体したテキーラとアニスも同調率の記録を更新しているだけに。だからこそ、返ってリリィとの同調率が目を引いてしまった。

 

(ま、不味い!! 何とか誤解を解かないと! で、でも……)

 

 リコが何かしらの誤解をしている事をカズヤは悟るが、問題はその誤解を解くのが難しいという事だった。

 

(しょ、正直にリリィさんとした特訓の事を話すべきかな? で、でも、あの特訓の内容を話すのは、もっと不味い事になるんじゃ……)

 

 話す事で逆にリコの誤解が強まりかねない程のリリィとの特訓。

 ド派手なピンクのペアルックを着て、リリィの手作りの特製あんこケーキをティーラウンジで食べさせて貰った事。

 夜の銀河展望公園の噴水で水着姿のリリィと水をかけ合い、その後背中を合わせて互いの体温を感じあった事。

 深夜に招き猫の着ぐるみを着たリリィが応援の為に訪ねて来て、そのまま部屋に入れてしまった事。

 部屋に入ったリリィと共に茶柱が立つまでお茶を腹が膨れるほどに飲み続けた事。

 その後にリリィに膝枕をして貰って眠ってしまった事。

 実際に効果が在った事は証明されたが、今のカズヤには何の嬉しさもなく、寧ろ話せば益々リコの誤解が深まりそうでカズヤは口に出来なかった。

 

(更に不味いのは……)

 

 チラリとカズヤの視線が、留め具が壊れて開いてしまっているクローゼットに向いた。

 今だ、クローゼットの中には特訓で使ったド派手なリリィの顔がプリントされたペアルックの片割れが入った袋が入っている。

 

(こんな事になるんだったら、さっさとルクシオールに戻って来た時にでもリリィさんに返しておくんだった!!)

 

 悪い意味で証拠品になりかねない物が、この場にある事にカズヤは慌てる。

 しかし、既にカズヤはミスを犯した。リコは話し始めてからずっとカズヤの様子を注意深く見ていた。

 それ故にカズヤの視線がクローゼットに向いたのを、リコは見逃さなかった。

 

(今、シラナミさんの目がクローゼットの方に……や、やっぱりクローゼットの中に、見たって言う人が言っていたが服が……)

 

 カズヤのミスは、リコが何処まで把握しているか知らない事だった。

 疑念を抱いてから数日と言う時間を得たリコは、その疑念の深める情報ばかり得てしまった。

 そして今のカズヤの反応で疑念は確信へと至り、リコは椅子から立ち上がる。

 

「私、部屋に戻ります」

 

「待ってくれ! リコ! 僕とリリィさんの同調率が高かったのは!」

 

 悲し気な顔をするリコに、これ以上誤魔化すのは不味いと気が付いたカズヤは事情を説明しようとする。

 だが、その前に艦内アナウンスが部屋の中に響く。

 

『全乗員に通達。本艦はこれより衛星ホッコリーの港を出て、宇宙港の方に移動します。各員は大気圏突破時の衝撃に備えて下さい』

 

「えっ!? ああっ!!」

 

 放送を聞いたカズヤは思い出した。

 今日、修理を終えたルクシオールはホッコリーを出て宇宙港の移動する予定だった事を。事前にその通達はされていたが、何時の間にかその時間が来てしまった事にカズヤとリコは漸く気が付く。

 同時にルクシオールは大気圏突破の衝撃の為か、少し強めに揺れた。

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

 身構えていなかったカズヤとリコは身体が強く揺れて、互いの身体が()()()()()()()()

 

「いやあぁぁぁぁぁっ!!」

 

「わぁぁぁっ!!! ぐふぅっ!!」

 

 手を握る以上の触れ合いをしてしまった瞬間、リコはカズヤを投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたカズヤはその先にあったクローゼットにぶつかってしまう。その衝撃によって留め具が壊れていた事で開いていたクローゼットの中に入っていた衣服が飛び散り、茶色の袋も外に出てしまう。

 

――パサッ!

 

「……あっ……」

 

 そしてリコは見てしまった。床に落ちると共に茶色の袋から飛び出したリリィの顔がプリントされたド派手なピンクのシャツを。

 それを見たリコは顔を俯かせて、カズヤを投げ飛ばした自身の手を振るえるように見つめて涙を溢す。

 

「……シラナミさん……もう私に近づかないで下さい!!」

 

 言い終えると共にリコは、床に倒れ伏すカズヤに背を向けて部屋から飛び出した。

 

「リ、リコ……違うんだ……僕とリリィさんは……ちが……」

 

 去っていくリコの背にカズヤは床に倒れながら手を伸ばすが、痛みと衝撃に耐えられず意識を手放してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 『EDEN(エデン)』宇宙側の『クロノゲート』前。

 何時再び開放されても良いように、『EDEN(エデン)』軍の精鋭が待機している。

 その旗艦となっている儀礼艦エルシオール。『EDEN(エデン)』軍が誇る最強の空母であり、数多くの戦いを潜り抜けてきた艦。

 その艦底部のハッチが開き、一機の『紋章機』。新たな兵装を得たファントムシューターが、発進準備を始めていた。

 発進準備が進む中、エルシオールのブリッジにいるノアがちとせと、そしてプローブと言う義体を得て一緒に席に座っているタクトと通信を行なう。

 

『ちとせ、タクト。分かっていると思うけど、ちゃんと二人とも『NEUE(ノイエ)』に戻るのよ』

 

『ああ、分かってるさ、ノア』

 

「ええ、ご安心下さい、ノアさん……()()まだその時で無いと分かっています」

 

 タクトもちとせも分かっている。

 『ウィル』に奪われたタクト本来の肉体を取り戻す時は、()()()()()

 二人の様子を見て大丈夫だと安心したノアは頷くと共に口を開く。

 

『こっちはこっちで『クロノゲート』が開放されたら、例のルクシオール専用の兵装と共に飛び込むわ』

 

『頼むよ……いや~、それにしてもまさかあんな物を造っていたなんて、流石だね、ノア』

 

『シヴァとシャトヤーンは最後まで渋っていたけどね。平行宇宙にどんな脅威があるか分からないのと、『ウィル』の脅威で無理やり許可を得たわ。まぁ、造って正解だったのはアンタのおかげで証明されたわ』

 

『俺としては、複雑だなぁ』

 

 ルクシオールの新たな兵装。

 それは本来、こんな事態さえ起きなければルクシオールが『EDEN(エデン)』に帰還後に、試射する予定だった兵器。その兵装と威力をノアとちとせから聞かされた時は、タクトも驚いたが、同時にヴェレルの切り札である『影』を撃ち破るに最適な兵器だった。

 但し強すぎる。現在緊急事態と言う事で、ルクシオールに装備されている主砲『クロノ・ブレイク・キャノン』さえも上回る威力を兼ね備えた兵器。

 『影』をどう対処すべきかと悩んでいたタクトにとっては、起死回生の切り札ではあるが、強すぎる力は容易く人を惑わせる。

 現にヴェレルは『影』と言う強大な力を一人で扱える事によって暴走し、全宇宙を支配しようとしている。

 

「大丈夫です、タクトさん。確かに恐ろしい力ですが、扱い方さえ間違えなければ良いんです」

 

『ちとせ……ああ、そうだ。俺達はヴェレルのように間違えたりしない』

 

 自身には仲間が居る事をタクトは再認識した。

 その仲間の一人であるミルフィーユを助ける為にも、『NEUE(ノイエ)』に戻ってルクシオールと合流しなければならない。

 その決意をタクトとちとせが強める中、通信先のブリッジにいるノアが声を掛ける。

 

『全くアンタ達は相変わらずお人好しね』

 

(まっ、そんなお人好しだから私も力を貸してるんだけどね)

 

 過酷な状況にいても折れずにいたタクトに、身を削りながらも研究者となって助手を務めていたちとせ。

 そんな二人が再び過酷な運命に挑もうとしているのならば、ノアもその力になるつもりだった。

 

『シャトヤーンも『白き月』と一緒にジュノーに向かっているわ。はぁ~、私のように一緒にファントムシューターに乗ってくれば楽だったのに』

 

『いや、流石にそれは……』

 

「シャ、シャトヤーン様が、ご、ご同乗、さささ、されるなど、おおお、恐れ多すぎて、手が震えてしまいます!」

 

 同じ管理者の役職を担っていて、トランスバール皇国生まれではないノアからすれば関係ないが、ちとせとタクトにとっては『白き月の聖母』であるシャトヤーンは本来雲の上のような存在。

 幾ら効率が良くてもそんなお方と一緒に、コックピットの中に乗るのは、タクトとちとせには無理だった。

 他にも『黒き月』の思想に染まっている『紋章機』にシャトヤーンが乗るのを、シヴァが反対したのもあった。それ故にシャトヤーンは現在、再び『白き月』を惑星ジュノーに向けて発進させて向かっている。

 タクトとちとせは心からシヴァに感謝しながら、ノアに最後の通信を送る。

 

『それじゃ、ノア。行って来るよ』

 

『ええ、ちゃんとミルフィーユを救出して『クロノゲート』を開放しなさい。出ないと、切り札が届けられないからね』

 

「分かっています。それでは、ノアさん。行って参ります」

 

 そのちとせの言葉と共にファントムシューターと繋がっていたハンガーが外れた。

 自由を得たファントムシューターは、左右の両翼からエンジェルフェザーを展開させた。

 同時にファントムシューターの前方の空間が歪み出し、『アナザースペース』へと繋がる穴を出現させた。

 

《『アナザースペース』へのシフト。10秒前 9、8、7……》

 

『さあ、行こうか、ちとせ!』

 

「はい! GA-000ファントムシューター! 参ります!!」

 

 背部のブースターが噴き出すと共にファントムシューターは加速し、エンジェルフェザーを羽ばたかせて自らが発生した『アナザースペース』へと繋がる穴に飛び込んだ。

 新たな力を得た『禁断の紋章機』ファントムシューターは、『EDEN(エデン)』宇宙を去り、戦場となる『NEUE(ノイエ)』宇宙に向かって搭乗者達と共に飛び立った。




因みに誤解が解けてもリコはカズヤをこれ以上傷つけたくないので、近づかないようになります。
つまり、カズヤは何としてもリコの男性恐怖症を突破しなければなりません。

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
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