ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
レリックレイダーを改造したケルビンを整備班の班長であるクロワに任せた後、レスターとカズヤ達はブリッジに移動していた。
目的は、ケルビンが持って来てくれた『禁断の予言』が記されているかも知れないリリィが言う『紅蓮の剣』と言うセルダールに伝わる宝剣の柄の部分が複製にされた物に掘られている古代文字の解読の為。
重大な話という事で、別行動していたリコも呼び戻されてブリッジにいる。
リコの様子を気にしながらも解析用の機器に置かれている柄を見ていたカズヤは、隣にいるリリィに問いかける。
「それでリリィさんさん。あの柄のような物は本当に?」
「間違いない。アレはセルダールの王城に安置されている『紅蓮の剣』の柄の部分の複製品だ。王城に務めていた時に、見た事がある。掘られていた文字も同じだった」
「あの野郎……そんなもんを複製だからって良く預けられたな……セルダールにとってかなり重要なもんなんだろう、その……『紅蓮の剣』ってやつはよぉ?」
「ああ。だからこそ、私も驚いている。柄の部分だけとは言え、複製が存在していた事に」
「しかも~、それにマジークにとっても重要な意味を持つ『禁断の予言』が記されているかも知れないなんて~」
「驚きなのだ」
「本当ですね」
エンジェル隊の面々もずっと気になっていた『禁断の予言』に関わるかも知れない柄の出自に驚きを隠せなかった。
「……『紅蓮の剣』に関しては、もしかしたら私も知らない何か重要な意味があったのかも知れない」
「リリィさん?」
何処かリリィの様子がおかしい事にカズヤは気が付く。
詳しく『紅蓮の剣』に関して、リリィにカズヤが聞こうとしたところで……。
「えっ!?」
解析を行なっていたアルモが、表示されたデータを信じられないと言うように見つめた。
「そ、そんな、こんな事って!?」
「どうした、アルモ? 何か分かったのか?」
「は、はい! 信じらないような話ですけど、この柄の片側の部分に掘られている文字は、『古代
「何だと!?」
「古代……『
「馬鹿な!? 何故『紅蓮の剣』に、古代とは言え『
『紅蓮の剣』はセルダール。つまり、『
なのに、柄の部分の片側とは言え掘られていた文字は解析の結果、『古代
在りえるはずがない事が判明したことにレスターは驚きながらも、解析と解読を行なったアルモに再度確認する。
「間違いないのか!?」
「間違いありません! ちとせさんが製作した解読プログラムで出た結果ですから!」
「っ……ちとせの解読プログラムの結果ならば、先ず間違いないだろう」
ちとせは暗号解析なども得意とし、嘗てノアが発した当時のタクト達には未知の言語も解析できた実績がある。
加えて今のちとせはノアの助手を務めている関係で、古代のロストテクロノジーの解析も行なっていたので『古代
そのちとせが手掛けた解読プログラムで出た結果となれば、柄に掘られているのは『古代
「解読の結果は出たか?」
「はい。今読みます。『無に漂いし眠る者は神と女神』。これが『古代
『………』
意味が分からない内容にブリッジにいる全員が首を傾げた。
何かしら重要な意味を持つような文には違いない筈だが、その内容の意味が分からないのだ。
「もう片側に書かれている文字の方はどうだ?」
「それが……駄目です。解析しても、データーベースにあるどの文字とも一致しません。『
「ちとせさんの解析プログラムでも駄目なんて」
「俺達にとっても完全な未知の文字と言う事か」
(司令達でも未知の文字……一体どんな内容が書かれているんだ?)
文字の長さで言えば、『古代
しかし、現状では『古代
「あ、あの? これが本当に『禁断の予言』なんでしょうか?」
「……分からん」
リコの疑問にレスターは首を横に振るしかなかった。
そもそも『禁断の予言』の内容をレスター達が知らない以上、あくまで柄に掘られていた文字はその可能性が高いと言うだけに過ぎない。
そうなれば、『紅蓮の剣』に関して知っているリリィに聞く以外にレスター達には手段が無かった。
「リリィ。すまないが、お前が知る『紅蓮の剣』とやらに関して話して貰って良いだろうか?」
「………致し方あるまい」
余り話したくない話題だったのか、或いは何か他に理由があるのか、目を閉じて考え込むような顔をしながらリリィは頷いた。
「先ほども言った通り、『紅蓮の剣』はセルダール城に安置されている宝剣の事です」
「なら、丁度良いじゃねぇか! セルダールに本物の方があるんだったら、そっちを見に行った方が早いだろう? どう見ても中途半端な文どころじゃねぇんだから、本物の方に続きは書かれているんじゃねぇか?」
「うむ……アジートの言う通りだろう。だが……恐らく無理だ。少なくとも現状では、『紅蓮の剣』を抜く事は出来ない」
「どういう事なんですか?」
「安置されている『紅蓮の剣』を鞘から抜く為には、特異な生体情報の認識が必要なのだ……その生体情報を宿している者達は『赤眼の民』と呼ばれている」
「『赤眼の民』? あ~!!」
リリィの説明を聞いていたカルーアは、何かを思い出したように口に手を当てて声を上げた。
「聞いた事がありますわ~。セルダールにおいても比類なき剣豪の方々だったそうですが~、その余りの強さに驕ってしまい、王宮に反旗を翻したのですわ~」
「つまりクーデターを引き起こしたって事ですか?」
「そうだ……300年の歴史を持つ集団であったが、結局それは今のように失敗し、当時の首謀者達は全員処刑。残りの者達は人里離れた山の中に追放された。今では小さな村で暮らしている」
「そう言う事か……確かに現状では『紅蓮の剣』とやらを抜くのは不可能だな」
事情を察したのかレスターは腕を組んで重い溜め息を吐かざるえなかった。
事前にとある人物から『禁断の予言』らしき物の在処が分かっていても、容易に手が出せない場所にあるとレスターは言われていた。
その理由が今のリリィの説明で全て分かった。
「嘗てクーデターを引き起こした末裔を、現在の王城に招く。しかもセルダールが別のクーデター軍に占拠された後に」
「……どう考えても不味い事にしかなりませんよね」
政治とかの方面など門外漢のカズヤでも分かる程に問題しかない。
「しかも、『赤眼の民』は現在、セルダールに於いて迫害を受けている。過激な者達の中には、その血を根絶させるべきだと言う意見も出ているほどだ」
「こ、怖いですね」
何百年も前の出来事でありながら、今も尚迫害が続き、根絶さえも求められている現状にリコは身体を震わせた。
「……諦めるしかないな」
「ですね。この状況でセルダール政府と問題を起こすのは……」
「流石に……」
レスター、ココ、アルモは残念そうに息を吐いた。
それはカズヤ達も同じだった。漸く『禁断の予言』の手がかりらしきものを掴めかけたのに、肝心の『紅蓮の剣』に手を出せば、セルダール内で政治問題が発生しかねない。
「ならよぉ。内緒でセルダールの王様に頼んで、その『紅蓮の剣』って奴を借りられねぇのか?」
「それも無理だ」
「どうしてなのだ?」
「『紅蓮の剣』は王宮の中庭の真ん中に突き刺すような形で鞘ごと固定されている。鞘から引き抜いて、剣だけ持って来ようにも、先ほど言った通り『赤眼の民』以外には剣を抜く事が出来ない」
「あ~、そいつはつまり……晒しもんってことか」
「晒しものですか?」
「うむ。アジートの言う通り、愚かな行為をした戒めとして『赤眼の民』の宝剣であった『紅蓮の剣』は、王宮の中庭に固定された」
「それは確かに~、剣だけを持って来るのも無理な上に下手に手が出せませんわね~」
アニスの考えた策を実行するのは事実上不可能。
内緒で王宮内に過去にクーデターを引き起こした血を引く者を連れて行くのも不可能。
ブリッジにいる全員が諦めるしかないと思う中、通信を知らせる音が鳴った。
――ピピッ!
「あっ! 司令! ランファさんから通信です!」
「繋いでくれ」
「了解しました」
ココは即座に通信を繋ぎ、メインスクリーンにマジーク艦隊の指揮官を務めているランファの姿が映し出された。
『はぁーい! レスター、皆! って、アレ? エンジェル隊までブリッジにいるなんて、何かあったの?』
通信先にいるランファは、ブリッジメンバーだけではなくカズヤ達ルーンエンジェル隊の面々までブリッジに居る事に気が付いて驚いた。
幾ら通信相手がランファとは、通信で話せる内容ではないので、レスターは話を進める意味で口を開く。
「ああ、少しあってな。それでランファの方は何の用だ?」
『実はさっき哨戒に出ていたマジークの艦から連絡が来て、近場の小惑星帯に数隻識別コードを持たない艦が出現したそうなの』
「何? それは、まさか……」
『ええ、多分ヴェレルの奴が送って来た偵察艦隊よ。小惑星に身を潜めるようにしながら、こっちの状態を窺っているんだわ』
「密偵か……」
「まぁ~……、きっと情報を収集しているんですのねぇ~」
この状況でヴェレルが少数の艦艇を動かす理由はそれしか考えられず、リリィとカルーアの意見に同意するようにレスターも頷いた。
「長距離スキャンで判明出来るおおよその数よりも、より詳しい情報をヴェレルは望んでいると言う事か」
『でしょうね。それで問題は、これに関してどうするかよ?』
「決まっている。ただでさえヴェレルには強力な生産施設があるんだ。此方の艦隊の情報を入手されて、優位な艦隊ばかりを構成される訳にはいくまい」
(あっ! そうか! 確かに司令の言う通りだ)
時間さえあれば好きなだけ無人とは言え艦を造り上げられる生産施設をヴェレルが保有しているという事は、敵の艦隊に合わせた艦を造り上げられると言う事。
つまり情報をヴェレルに与えるという事は、それだけでも連合軍側は不利になる事を意味する事にカズヤは気が付いた。
(やっぱり凄いなぁ、司令達は)
「ココ。ルクシオールの状態はどうだ?」
「既に修理及び補給は完了しています。ブレイブハートと『紋章機』の方も万全になっていると整備班から報告は届いています。ただアニスさんのレリックレイダーだけは、ご存知の通り漸くエンジンの修理が始まったばかりです」
「そうか」
報告を聞いたレスターは考えるように目を閉じた。
このままヴェレルに情報を与えないのは当然。アニスのレリックレイダーは残念ながら間に合わないが、他の『紋章機』とブレイブハートが万全ならば戦闘には問題はない。本来ならば……。
(問題はカズヤとリコの不調か)
『紋章機』はパイロットの精神状態で性能が上下する。
その為に明らかに精神状態に問題がありそうな今のリコとカズヤでは、例え合体してもセルダール解放の時のような力は発揮できず、寧ろ性能が通常時よりも性能が下がる恐れさえあった。
本来ならば二人の不調が回復するまで待ちたいところだが、時間を与えれば与えるだけヴェレル側に情報が収集されてしまう。
(仕方がない……クロスキャリバーは護衛に回し、ブレイブハートは他の『紋章機』と合体させる)
方針を決めたレスターは眼帯で覆われていない方の目を開けて、スクリーンに映っているランファに顔を向けた。
「分かった。俺達で対処する。ランファの方はその間、セルダール周辺の警戒を頼む」
陽動も警戒したレスターの指示にランファは頷いた。
『座標は送っておくから任せたわよ』
「ああ。其方も気をつけてな」
そうレスターが言い終えると、ランファとの通信が切れてスクリーンに映っていた映像が消えた。
「ココ。これよりルクシオールは送られて来た座標に向かって移動だ」
「了解。全乗員に通達。これより本艦は宇宙港を出て、小惑星帯に向けて航行を開始します。繰り返します……」
ココが乗員達に通達の放送を行なう中、レスターはルーンエンジェル隊の面々に顔を向けた。
「悪いが休暇は返上だ。小惑星帯に着くまで、各自待機していてくれ」
「了解です」
「分かりました」
カズヤとリコが言うと共に、他のメンバーも頷いた。
各自、ブリッジから出る為にエレベーターに向かう中、リリィがリコに近づく。
「桜葉少尉。少し時間はあるだろうか?」
「あっ……はい……大丈夫です」
リリィに声を掛けられて悩むような顔をしたリコだったが頷いた。
他のメンバーもリリィとリコの会話が気になるのか、後を追うようにエレベーターに入っていく。
だが、ただ一人。カズヤだけはエレベーターに乗り込まず、深く思い悩むような顔をしてエレベーターの扉が閉まるまでリコの様子を窺っていた。
(……リコ……僕はやっぱり……)
ギュッとカズヤは強く手を握り締めながらリコを想うのだった。
宇宙港を出たルクシオールは、そのままクロノ・ドライブに移行して宙域から消えた。
その様子をマジークの旗艦から見ていたランファとヴァニラは、レスター達が向かったのだからこれで大丈夫だと安堵する。
「これでヴェレルの偵察艦隊は何とかなったわね」
「はい……ルクシオールの皆様には申し訳ありませんが」
「仕方がないわよ。艦の性能で言ったら認めたくないけど、ヴェレルの方が上なんだから」
ヴェレルが操る無人艦の性能は、現状の『
僅か数隻とは、マジーク或いはセルダールの艦が向かうとなれば倍の数を送らなければならない。
その点、『紋章機』を搭載している、ルクシオールならば一隻向かわせるだけで何とかなってしまう。
嘗て自分達も経験しているのでランファとヴァニラは、歯痒いを気持ちを抱きながらもルクシオールに任せるしかなかった。
「……それでヴァニラ……例のちとせから採取したナノマシンに関して何か分かった?」
『
その血液の中に存在しているナノマシンの調査を、ヴァニラは一緒に来ていた惑星ピコの研究者と調べた。だが、結果は……。
「今のところ、進展はありません……私の制御も受け付けず、調査は難航しています」
「ヴァニラでも、やっぱり無理なのね」
覚悟はしていたが、ナノマシンの専門家であるヴァニラでも現状ではどうすることも出来ないちとせに体内のナノマシンの存在にランファは重い溜め息を吐かざるえなかった。
時間が経てば経つほどに、ナノマシンによってちとせの生体素子化は進んで行く。だが、逆に言えば体内のナノマシンの制御を奪い、命令を反転させる事が出来れば生体素子化から元の人間の身体に戻る事が出来る。
問題はナノマシンの専門家であるヴァニラの力でも、ちとせの体内に入っているナノマシンを制御できない事。
「今のところちとせさんの体内に入っているナノマシンに指示を送れるのは、ファントムシューターと……恐らくは……」
「それ以上は言わなくて良いわ、ヴァニラ……ちとせもタクトも、それは望んでいないんだから」
ファントムシューター以外でちとせの体内に入っているナノマシンを制御できる者。
だが、その相手が触れる事をちとせ本人とタクトは望んでいない。そしてヴァニラとランファも、何が起きるのか分からないが故に現状ではその相手に頼む事は出来ない。
歯がゆい思いを二人が抱いていると、ブリッジに居たマジークの兵がランファに顔を向けた。
「ランファ司令!」
「どうしたの?」
「はっ! そのホッコリー付近の宙域の一部に空間異常が感知されました」
「空間異常!?」
「まさか!?」
「空間異常レベルが増大! メインスクリーンに映します!」
オペレーターの報告と共にメインスクリーンにその光景は展開された。
空間に開いた穴から現れ、白銀の輝く羽を舞い散らすその機体を。
その機体を見た瞬間、ランファとヴァニラはもう存在しない機体を思いださずにはいられなかったのだった。
本作での『禁断の予言』とは、原作永劫回帰で出たアレの事です。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる