ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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 ルクシオールの食堂。

 其処にはカズヤを除いたルーンエンジェル隊の面々が集まり、話の中心となっているリリィがリコに対して説明をしていた。

 

「と言う訳で、誤解されるような事をしてしまったが、私はカズヤと付き合っている訳ではない。例の服も、あくまで特訓の為に用意した物であって、別段深い意味は無いのだ」

 

 リリィがリコに対して説明したのは、カズヤと自身が行なった親密になる為の特訓を行なった理由。

 それを聞いていたカルーア、ナノナノ、アニスは驚いたようにリリィを見つめていた。

 

「おめえら、そんな事をやってたのかよ?」

 

「驚きましたわ~」

 

「ビックリなのだ。リィたんがカズヤの為に服を用意していたのは知ってたけど、そんな事に使っていただなんて」

 

「う~む、自分でも今更ながら、あの時の訓練は少々大胆過ぎたかもしれないと思う……セルダール解放の為に、少しでもカズヤと親密になろうと言う気持ちばかり強まっていて、周りの目の事は気にしていなかった」

 

 故郷であるセルダールがクーデター軍に占拠されている。

 元々リリィは少々堅物なところもあったので、カズヤとの親密度を上げて『紋章機』の力を引き出しやすくする事だけを優先してしまい、周りの目など気にしていなかった。

 その上、それがリコとカズヤの間に亀裂まで作ってしまった事を知って深く反省し、こうして誤解を解くためにリコに説明した。

 

「誤解させた事は済まなかった。私とカズヤはあくまで同じエンジェル隊のメンバーであり仲間だ。それ以上の感情はカズヤには持っていない」

 

「……ありがとうございます……でも、それだけじゃないんです」

 

「ん? どう言う事だ? 私はてっきりカズヤと私との関係を誤解して、二人が距離を置くようになったと思ったのだが?」

 

 例の服をカズヤから返して貰い、その少し前にナノナノが慌ててカズヤの部屋に向かった現状をリリィは知って、リコが勘違いをしていると思ったのだが、リコ本人は否定した。

 思い悩むような顔をしながら、リコは何故カズヤと距離を取るようになったのかリリィを初めとしたルーンエンジェル隊の皆に説明する。

 

「最初は確かにリリィさんとシラナミさんの仲を疑っていました。二人が付き合っているんじゃないかって、疑ったのは事実です」

 

「まぁ、そりゃ仕方ねぇだろ……」

 

「どう考えても誤解してしまうような事ばかりですからねぇ~」

 

「カズヤとリィたんが付き合っていると思うのは当然なのだ」

 

「う~む……」

 

 次々とリコの誤解を肯定するような意見に、リリィは冷や汗を流すしかなかった。

 

「シラナミさんが言い難そうにしていたのも、今なら分かります。でも、それが決定的じゃないんです。私がシラナミさんから距離を置く事を決意したのは……男性恐怖症の体質の事です」

 

 勿論、リリィとカズヤが付き合っている事が事実だったのならば初恋が報われなかった事でリコは悲しんでいた。

 だが、それ以上にあの日悲しみを感じたのは、『カズヤを傷つけてしまう』事だった。

 

「あの日、私はシラナミさんを()()()()()だけで投げてしまったんです」

 

「ですけど~、以前とは違い、リコちゃんは男性の方と()()()()までは大丈夫になったではありませんか~」

 

「はい……皆さんが協力してくれたおかげで、私は自分で意識すれば男性の手を握れるように成れました。でも、()()()()は無理なんです」

 

 特訓の成果で男性の手を握られるようにリコは成れた。

 だが、それ以降は訓練を重ねても結果は出ていない。相変わらず手を握る以上の行為を行なえば、恐怖に駆られて耐える事も出来ずに男性を投げ飛ばしてしまう。

 リコが何とか耐えようと必死に我慢してもそれは変わらず、不用意に接触した時などは条件反射で耐える事も出来ずに投げてしまうことは変わっていない。

 

「もしも、ナノちゃんが他の急患の人を治療している時に、シラナミさんが大怪我をしたりしたらと思うと、私怖くて仕方がないんです! それだったらいっそシラナミさんと距離を置いた方が良いんです!!」

 

「リコちゃん……」

 

「リコたん……」

 

「……まぁ、確かに訓練の時はナノが付き合ってくれてけど……他の時に起きたら……」

 

「確かに危険ではあるな。すぐにプディング少尉を呼べるとは限らない」

 

 基本的にエンジェル隊のメンバーであるナノナノは自由に過ごせているが、医務室に居る事が多い。

 訓練の時は治療を即座に行なえる体制をモルデンが取ってくれていたので問題にならなかったが、普通に過ごしている時にリコの男性恐怖症の発作が起きても間に合うか分からない。

 加えて言えば、カズヤとリコはホッコリーでの休暇前まで普通に触れあえていたので、他の男性よりも距離感が曖昧なのだ。

 その為にカズヤに対してリコは、他の男性よりも不用意に接触しやすい。

 

「だから、他の男の人と同じ距離感がシラナミさんとも掴めるようになるまで距離を置きたいんです」

 

「なるほどなぁ……だけど、リコ。お前、それで良いのかよ?」

 

「……良いんです……シラナミさんが私のせいで傷つくぐらいなら」

 

 その言葉がリコの本心では無いとその場にいる全員が分かりながらも、何も言えなかった。

 リコの顔は、今にも年相応の少女が泣きだしそうなぐらいに歪んでいたのだった。

 

 

 

 

 

(リコ……)

 

 自室のベットの上で制服姿のまま仰向けになって、天井をカズヤは見上げながら考え込んでいた。

 

(僕はどうしたら良いんだろうか?)

 

 リコがリリィとの仲を誤解しているのはカズヤも分かっている。

 その問題に関しては、もしかしたら今頃リリィが誤解だと説明してくれているかも知れない。それはカズヤにとって嬉しい事だが、問題はそれだけではない事も察していた。

 

(多分、リコが僕と距離を置く事を決意した理由はリリィさんとの仲を誤解しただけじゃなくて、あの時に僕を投げたからだよなぁ)

 

 カズヤが思い出すのは、最後にリリィと接触して投げられた後のリコの悲しみに満ちた顔。

 艦が揺れた事で起きた不意打ちに近い接触。だが、不意打ちで起きた接触だったからこそ露呈してしまったのだ。

 『意識しなければ、リコは恐怖心に耐えられず、接触した男性を投げ飛ばしてしまう』のだという事を。

 

(……でも、やっぱり僕は……前のようにリコと触れ合いたい! 僕はリコの事が好きなんだ!! あの笑顔も! あの仕草も!! ちょっと、泣き虫な所も!!! 大好きなんだ!!!)

 

 リコへの想いがカズヤの中で止まる事無く溢れていく。

 だが、肝心のリコへの接触は、リコ本人も制御できない男性恐怖症によって阻まれてしまう。以前のようにリコと接触しようとすれば、カズヤにも容赦なく男性恐怖症の発作は起きて投げ飛ばされてしまう。

 

(どうしたら良いんだ!?)

 

 自分には起きないと心の何処かで思っていたリコの男性恐怖症の発症。

 訓練を重ねても、今以上の進展は短期間では見込めない。如何すればいいのかとカズヤが悩んでいると、クロノクリスタルから通信が届く。

 

――ピピッ!

 

『間もなく本艦はクロノ・ドライブを終えて、目的地に到着します。ルーンエンジェル隊メンバーは、至急ブリーフィングルームへ集合願います』

 

「……行かなくちゃ……」

 

 今はこれから始まる戦闘に集中しなければとカズヤは思いながら、自室を出て急いでブリーフィングルームへと向かった。

 

「あっ……!」

 

「リコ!?」

 

 丁度他のメンバーとブリーフィングルームへ入ろうとしているリコに気が付いたカズヤは、思わず声を掛けてしまった。

 しかし、リコは思い悩むように顔を俯かせながら、ブリーフィングルームへと入って行った。

 

「くっ!」

 

 悔し気な声を上げながら、カズヤもリコの後を追うようにブリーフィングルーム内に入った。

 

「お、遅れてすみません」

 

「良いから席に着け。これで全員揃ったな」

 

 ルーンエンジェル隊のメンバーが全員着席したのを確認したレスターは、コンソールを操作して小惑星帯に付近の地図を展開した。

 

「これがドライブアウト後に索敵した結果だ」

 

 映像には宙域図の他に、十の紅い光点が表示された。

 

「予想通り、ヴェレルの艦隊がこの小惑星帯に潜んでいた。索敵したところ十隻とも高速艦である事が判明した」

 

「高速艦……では、此方側が攻撃を仕掛ければ、即座に敵は逃げる可能性が高いか」

 

「えっ?」

 

「まぁ、そりゃそうだよな。あっちからしたら、集めた情報を持ち帰るだけで良いんだからよ」

 

 疑問に思ったカズヤに答えるようにアニスが説明し、レスターも同意するように頷いた。

 

「アジートとリリィの言う通りだ。恐らくは既に詳細な情報を採取しているのだろう。そんなものをヴェレルの手元に持ち帰らせる訳にはいかない。今回のミッションは、敵艦の全滅だ。幾ら高速艦とは言え、小惑星帯に身を潜めている以上、『紋章機』の方が有利だ」

 

 『紋章機』も通常の戦闘機よりも大型だが、相手の高速艦よりも圧倒的に小回りが利く。

 逆に敵の高速艦は身を潜めて探る必要性があった為に、高速艦としての機能を十全に発揮できない小惑星帯の中にいる。

 

「つまり~、私達は小惑星帯から敵艦が逃げ切るまでに全滅させなければなりませんのね~」

 

「その通りだ。小惑星帯の中にいる間は此方が有利だが、逆に其処から出てしまったらルクシオールでは追いつく事は出来ない」

 

 ルクシオールも高速艦だが、その大きさの為にどうしても小惑星帯の中では本領を発揮する事は不可能。

 現在停止している位置から逆側に逃げられれば、最早追う事は出来ない。『紋章機』だけを送るのは、敵が待ち構えている事も考えれば危険が多すぎる。

 どうあっても、小惑星帯の中で全ての高速艦を破壊するしかないのだ。

 

「また、敵が高速艦ばかりを送って来たとは考えにくい事から、小惑星帯に隠れてエンジンを停止して身を潜めている可能性も高い。増援には気を付けておけ」

 

『はい!』

 

「そして今回ブレイブハートが合体する機体は……『イーグルゲイザー』だ」

 

『っ!?』

 

「了解した」

 

 レスターの采配に驚くカズヤとリコだったが、リリィの方は迷いなく頷いた。

 

「そしてクロスキャリバーは本艦の護衛をして貰う。アジートはブリッジで待機だ」

 

「しゃーねぇか」

 

 愛機であるレリックレイダーの修理は漸く始まったばかり。

 動かない以上、戦場に出られないのだからアニスは文句を言う事なく頷いた。だが、リコは何を思ったのか椅子から立ち上がりレスターに声を掛ける。

 

「ま、待って下さい! わ、私も敵艦の撃破に向かわせて下さい! クロスキャリバーなら、小さな小惑星を破壊して敵艦も撃破できる筈です!」

 

 リコの言う通り、クロスキャリバーは遠距離攻撃に加えて大威力の砲撃も放てる機体。

 今回の作戦には本来ならば必要なはずの機体。その事はレスターも理解している。

 

「リコ……これまでお前達は『紋章機』の性能を十全に発揮して戦闘を行なって来た。だが、それ故に不調の状態の『紋章機』をお前達は知らない」

 

 逆にレスターは知っている。

 『紋章機』はパイロットの精神状態にその性能が左右される。或いはレリックレイダーを長年乗り回していたアニスならば知っているかも知れない。

 パイロットのテンションが低い時の『紋章機』の性能を。

 それ故にレスターは今回の任務でクロスキャリバーをルクシオールの護衛に回したのだ。

 

「伏兵が此方を強襲する恐れもある。この配置は変えるつもりはない。良いな、リコ」

 

「……了解しました」

 

(リコ……)

 

 何時もと違い、何処か納得し切れていない様子のリコをカズヤは心配するのだった。

 

 

 

 

 

 ルクシオールから両翼に展開されるカタパルトハッチから四機の『紋章機』。クロスキャリバー、イーグルゲイザー、スペルキャスター、ファーストエイダーが発進された。

 遅れて別のカタパルトハッチからブレイブハートも発進し、即座に変形して前方に移動してきたイーグルゲイザーと合体した。

 その様子をブリッジで確認していたココが、艦長席に座って高速リンク指揮システムを起動しているレスターに報告する。

 

「ブレイブハート。イーグルゲイザーとの合体が完了しました……ただ前回のセルダール戦の時よりも同調率は低いです」

 

「やはりか……クロスキャリバーの方は?」

 

「クロスキャリバーは……っ!? クロスキャリバーの出力は通常時よりも30%もダウンしています! それ以上上がりません!!」

 

「おいおい、マジかよ、それ!?」

 

 ブリッジで待機していたアニスは、ココの報告を聞いて声を上げられずにはいられなかった。

 出力が上がらないという事は、攻撃力も防御力も軒並み下がっている事を意味する。予想通りの結果が出た事に、レスターは内心で苦い思いを抱きながら高速リンク指揮システムを使って指示を送る。

 指示に従ったイーグルゲイザーは、調子が悪くても通常時よりも性能が増している事もあって敵の高速艦に4連装レーザー砲の照準を合わせて先制のレーザー攻撃を放った。

 放たれたレーザーは、敵艦に真っ直ぐに進んでいたが、途中で四方に散るように独特の軌跡を描いて最初の高速艦に直撃した。

 そのままイーグルゲイザーは被弾した敵艦を後方から追って来ていたスペルキャスターとファーストエイダーに任せて、次の艦の動きを抑えるために移動していった。

 ブリッジで映像を見ていたアニスは、何時もと違う様子に気が付く。

 

「……カズヤの支援が遅れてやがる」

 

 合体後も使用可能なブレイブハートの兵装であるラピッドレーザー。

 それからの支援攻撃が、リリィと連携し切れていない様子が伺えた。

 

(予想以上に不味いか)

 

 アニス同様に高速リンク指揮システムで、戦場の様子をリアルタイムで確認しているレスターも状況が不味くなっている事に気が付いた。

 敵は情報を持ち帰る事を優先するようにプログラムされているのか、反撃よりも逃げる事を優先しているのか小惑星帯の奥へと進んで行く。

 必然的にそれをカズヤ達は敵の高速艦を追うしかなくなり、気が付けばルクシオールが停止している位置とカズヤ達がいる距離はかなり離れてしまっていた。

 まるで誘い込まれるような敵の動きに、レスターは気が付いて目を見開く。

 

「しまった!? これは!? 罠だ!?」

 

『えっ!?』

 

 レスターの声にブリッジにいる全員が驚いて顔を向ける。

 その瞬間、ブリッジ内に警報音が鳴り響く。

 

――ビィビィッ!!

 

「ああっ!! 本艦の左右の小惑星帯より敵艦隊が出現!! 攻撃母艦です!!」

 

「やはりか!!」

 

 アルモの報告にレスターはレーダーが新たな合計八隻の敵艦を確認し、険しい声を上げるしかなかった。

 

「ルクシオールは小惑星帯内に前進! クロスキャリバーもだ!」

 

「りょ、了解!!」

 

『了解です!!』

 

 この場に留まるのは危険だと判断したレスターの指示に従い、ルクシオールは小惑星帯の中に護衛をしていたクロスキャリバーと共に入り込む。

 だが、そうはさせないと言うように左右にいる二隻の攻撃母艦が容赦なく小惑星を撃ち抜くほどの威力を持ったレーザー砲をルクシオールに向けて発射した。

 小惑星を撃ち抜いて迫って来たレーザーはルクシオールが張るシールドによって防がれるが、衝撃までは防ぎきれず激しく艦内が揺れた。

 

「ぐぅっ!! ちくしょう! そう言う事かよ!!」

 

 シールドで打ち消し切れなかった衝撃に身体を揺らされながらも、アニスは敵の狙いをレスターと同じように悟った。

 敵の狙いが連合軍の情報である事は間違いないが、それに加えてその情報を渡さない為にやって来る連合軍の艦隊の撃破も狙っていたのだ。

 ヴェレルに情報を渡さない為に高速艦を追うしかない。当然、その為には障害がある入り組んだ小惑星帯に入り込まざる得ない。そして即座に戻れない程に位置まで敵を運び終えた後に、後方から強襲。

 二重三重にも仕込まれた敵の罠の中に、ルクシオールはまんまと入り込んでしまったのだ。

 そしてそれは逃げる高速艦を追っていた三機の『紋章機』にも伝わる。

 

「っ!? リリィさん!? ルクシオールが!?」

 

『分かっている!! だが、情報を採取した高速艦を逃す訳には!?』

 

 ブレイブハートと合体したイーグルゲイザーのモニターに映っているのは、前方の小惑星帯を抜けようとしている高速艦数隻。

 機動力は『紋章機』の方が上なのだが、相手は戦闘よりも情報を持ち帰る事を優先して命令されているのか、味方の艦が航行不能になろうと構わずに小惑星帯を抜けようとしている。戦闘などの行為は全く命じられていないと言うような敵の動き。

 そしてカズヤ達は敵を一隻たりとも逃がす訳にいかない以上、ルクシオールの援護に戻る事が出来ない。

 

(くそっ! まんまとヴェレルの策に嵌められた!)

 

 レスターの策も現状で行なえる最善の策だったが、ヴェレルはそれ以上に上手だった。

 

『シャーベット! シラナミ! 一先ず私が戻るわ!』

 

「……致し方あるまい! 頼む、マジョラム少尉!」

 

『ええっ! そっちは任せたわよ!』

 

「頼む! テキーラ!!」

 

 今から戻っても間に合う保証はないが、カズヤに出来る事は祈る事だけ。

 

(リコォっ!?)

 

 一人ルクシオールに護衛に残っているリコの無事をカズヤは願うしかなかった。

 

 小惑星帯内に入ったルクシオールは、次々と放たれる高速艦六隻と二隻の攻撃母艦の嵐に晒されていた。

 

「ぐぅっ!!」

 

「シールド維持率20%ダウン!! 回避も仕切れません!!」

 

「応戦しろ!! 護ってばかりでは駄目だ!」

 

 そのレスターの指示と共にルクシオールの砲身からレーザー砲が放たれるが、高速艦はその移動速度を利用して回避する。

 逆にルクシオールが敵の攻撃を回避しようにも、攻撃母艦の攻撃によって粉砕された小惑星の残骸が邪魔をして思うように舵が取れずにいる。

 

「ルクシオールが!? このっ!!」

 

 唯一護衛に残っていたクロスキャリバーが、必死にルクシオールを護るために高速艦や攻撃母艦に向かって誘導レーザーや近距離ビームファランクスを放つ。

 だが、何時もと比べてその威力は悲しいほどに衰え、敵が張っているシールドに容易く防がれてしまう。

 

「そんな!? きゃっ!!」

 

 容易く自分の機体が防がれた事に動きが止まってしまったリコに、高速艦が攻撃を仕掛ける。

 シールドも衰えているのか、敵の攻撃は容易くクロスキャリバーに直撃してしまう。

 

「クロスキャリバー! 被弾!!」

 

「っ!? クロスキャリバーを援護!! そのままクロスキャリバーを回収する!!」

 

『いえ、まだ行けます!!』

 

「馬鹿!? リコ!! 今のおめえじゃ無理だ!!」

 

 戦闘の様子を見ていたアニスも、今のクロスキャリバーでは現状を打破できないと悟り言い返した。

 

「良いから戻って来いよ!!」

 

『いえ、やれるはずです!! 私とクロスキャリバーなら!!』

 

「無理だ!! 戻れリコ!?」

 

 好調時ならともかく、明らかにリコの不調でクロスキャリバーは性能がダウンしている。

 このままでは危険だとレスターは帰還指示を出すが、リコはクロスキャリバーの機首を敵母艦に向ける。

 

(お願い! クロスキャリバー!! あの時のように力を貸して!!)

 

 強く意思を抱いてリコはクロスキャリバーに願った。だが……。

 

「……ど、どうして……」

 

 幾らリコが強く願ってもクロスキャリバーの出力は向上しなかった。

 リコは知らなかった。確かに『紋章機』は人の可能性を引き出して力に変える機体。

 だが、それはパイロットの精神状態が何よりも左右される。今のリコの精神は本人が意識している以上に悩み乱れている。

 クロスキャリバーは無慈悲なほどにソレを示した。

 

『リコ!! 避けろ!!』

 

「はっ!?」

 

 通信から響いたアニスの声に、リコが顔を上げると、攻撃母艦の主砲がクロスキャリバーに向けられチャージされていた。

 小惑星を粉砕できるほどに威力を持った敵の主砲。無人のAI制御によるその無慈悲な攻撃母艦の主砲はクロスキャリバーに向かって-放たれる事は無かった。

 

――ドゴォン!!

 

『っ!?』

 

 今まさにクロスキャリバーを撃墜しようとしていた攻撃母艦は、直上から襲い掛かった一条の閃光によって撃ち抜かれて撃墜された。

 誰もがその光景に驚く中、閃光は更に三つ降り注ぎ、動き回っていた高速艦三隻を撃ち抜いて撃沈された。

 

「い、今のは……」

 

 一瞬にして敵艦が母艦を含めて四隻も破壊された事実が信じられず、レスターは思わず声を上げた。

 

「て、敵艦直上からの実体弾の攻撃に間違いありませんが、速度は亜光速に達しています! そ、それにおかしいんです! 攻撃が放たれたと思う位置には、()()()()()()()()()()!!」

 

「おい、それってまさか!?」

 

 アニスは、いやルクシオールにいるブリッジメンバーは知っている。

 レーダーやセンサーに反応がないに攻撃を行なえる機体を。それを示すように残りの高速艦と攻撃母艦に向かって、やはり機影など映っていない位置からミサイルが放たれ、高速艦に直撃する。

 更にはビーム機銃やレーザーファランクスなども放たれ、次々と高速艦は撃沈されていく。

 残された攻撃母艦は敵機が居るはずなのに、その敵機を捕捉出来ずにいる。もしもこれが人が操作するものだったならば、闇雲に弾幕を張って敵の位置を割り出そうとするなどしていただろう。

 だが、与えられた指示をそのまま実行するAI制御で動いている無人攻撃母艦は、突然の事態に動きが止まってしまっているクロスキャリバーによる攻撃だと判断でもしたのか、主砲や補助砲を向けて発射した。

 

「っ!?」

 

 自分が狙われていると漸くリコは気が付き、慌ててクロスキャリバーを動かして回避しようとする。

 しかし、やはり機体の反応は鈍く、思うように回避出来ず直撃を受ける事もリコは覚悟する。

 その直前、クロスキャリバーと敵攻撃母艦の攻撃との間に何かが割り込み、敵艦隊からの攻撃を防いだ。

 そして煙が上がる中、リコは、そしてルクシオールのブリッジにいるメンバーは目にする。

 白銀の翼を広げ、敵からの攻撃からクロスキャリバーを護った機体を。

 

「……シャープシューター」

 

「うそ……」

 

 ブリッジに居たココとアルモは、煙の中から現れた機体の姿に思わずもう存在しない『紋章機』を幻視した。

 機体中央よりやや右のハードポイント部に装備されている大口径の大型ロングバレルレールガン。

 機体中央よりやや左のハードポイント部に装備されているミサイルポッド。

 機体の左に突き出ているレーザーファランクスの発射管。

 機体の右脇に装備されているビーム砲の機銃。

 それらの装備は、嘗てのちとせの愛機であるシャープシューターが装備していた兵装の数々。

 

「いや、違う」

 

 シャープシューターと言う機体を知っている誰もが、その名を口にしてしまいそうな気持ちを抱く中、レスターだけは現れた機体がシャープシューターでは無い事を分かっている。

 シャープシューターのカラーリングはブルーを基調としていた筈なのに、スクリーンに映っている機体のカラーリングは黒。

 漆黒の色を纏った『紋章機』ファントムシューターは、大型ロングバレルレールガンの砲身を主砲を再チャージしている敵攻撃母艦に向ける。

 同時に溢れ出たエネルギーが光の弓を形成して、引き絞るようにその形を変えた。

 

――退きなさい!! フェイタルアロォォォーーー!!!

 

 形成されたエネルギー状の弓の弦が放たれると共に必殺必中の亜光速弾が大型ロングバレルレールガンが放たれ、敵攻撃母艦が射抜かれて爆散した。

 その攻撃とファントムシューターを目撃したリコは、驚きながらも通信を繋ごうとする。だが、通信を繋ぐ前にファントムシューターはブースターを噴かせ、エンジェルフェザーを舞い散らせながら前へと進み、自らが発生させた空間の穴に消え去った。

 

『ちょっ!? 何よこれ!?』

 

 ルクシオールの危機という事でスペルキャスターを反転させて急いで戻って来たテキーラは、既に敵艦が全滅している事に驚くが、その答えにすぐに答えられる者はいなかった。

 

 一方、情報を採取した高速艦を追っていたカズヤ達は、後二隻まで数を減らす事に成功していたが、もう間もなく小惑星帯が終わる地点が迫っていた。

 

『不味いのだ!! このままだと小惑星帯から敵が出ちゃうのだ!!』

 

「分かってるけど!!」

 

『くっ!! 出力がセルダール戦の時のように上がらない!!』

 

 セルダール戦の時のようにブレイブハートと合体していながらも、イーグルゲイザーの出力は上がらず、特殊兵装である『エクストリームランサー』を放てる域までエネルギー値が至らなかった。

 

(このままだと!?)

 

 敵の高速艦の動きから考えれば、小惑星帯を抜けた先にはその護衛を行なう艦隊が存在している可能性が高い。

 既にカズヤ達が乗る機体とルクシオールとの距離はかなり離れてしまっている。補給もままならない現状で、敵艦隊と戦う事など出来ない以上、何とか小惑星帯の中で敵の高速艦を破壊しなければならない。

 

(どうしたら良いんだ!?)

 

『のだ!?』

 

『アレは!?』

 

「えっ!?」

 

 突然声を上げたリリィとナノナノに驚きながら、カズヤがモニターに顔を向けて見ると、小惑星帯の空間に穴が出現していた。

 其処からエンジェルフェザーを展開したファントムシューターが飛び出し、カズヤ達が乗るイーグルゲイザーとファーストエイダーを追い越して前方を進んでいる敵高速艦へと迫る。

 

『ファントムシューターなのだ!!!』

 

「ちとせさんにマイヤーズさん!?」

 

『『EDEN(エデン)』から帰還したのか!!』

 

 予想外の援軍にナノナノ、カズヤ、リリィは驚く。

 通信を繋ぐべきかと思うが、ファントムシューターは通信を繋ぐ暇も惜しいと言うように敵高速艦に追い迫っていく。

 

「速い!?」

 

『此方も全速力だと言うのに、何という速さだ!!』

 

『しかも障害物を最小限の動きで躱してるのだ!!』

 

 ファントムシューターはカズヤ達が乗る機体以上の速度を出しながらも、最小限の動きで障害物となる岩を回避、或いは出力が増している事で強固になっているシールドで粉砕しながら敵高速艦に迫る。

 そして高速艦二隻が射程に入った瞬間、新たな大型ロングバレルレールガンから実体弾が放たれる。

 

――ドン!! ドン!!

 

 放たれた実体弾は正確無比に高速艦のブースターを撃ち抜いた。

 それによって動きが乱れた高速艦は二隻はそのまま小惑星に激突し、跡形もなく爆発した。

 

「……凄い」

 

『……ちとせ……凄すぎなのだ』

 

『……これが私達、ルーンエンジェル隊の前進となったムーンエンジェル隊のエースの実力だと言うのか』

 

 圧倒的と言う言葉が相応しい力を示した搭乗者を得たファントムシューター。

 だが、何故かカズヤ達は頼もしさよりも、その黒き姿に恐怖心を感じずにはいられなかったのだった。




と言う訳でちとせINファントムシューターの無双回でした。


『オリジナル紋章機』
名称:GA-000 ファントムシューター
全長 60.6m
全幅 40.4m
全高 23.7m
最大翼端高28.4m
『武装』
・長距離レールガン『大型ロングバレルレールガン』
・中距離ミサイル『対艦・対空用ミサイルポット』
・中距離レーザー砲『レーザーファランクス』
・粒子ビーム砲『ビーム放機銃』
『特殊兵装』
自己修復(リペア)
詳細:『EDEN(エデン)』製の『紋章機』のプロトタイプであった『GA-000 ホワイトエンジェルを『黒き月』の思想を中心として大改修された果てに完成した『禁断の紋章機』。『白き月』の思想とは真逆に、人の可能性を己の製作目的の為に利用する『紋章機』。故に搭乗者として選んだ『烏丸ちとせ』と精神を保護している『タクト・マイヤーズ』も利用しているに過ぎない。
製作目的は何れ全宇宙に襲い掛かる『全ての終焉』をこの世から消しさせる事だが、必ずしも人の味方とは限らない。現在のところは『EDEN(エデン)』及び『NEUE(ノイエ)』と敵対する行動は見られないが、今後は不明。
『アナザースペース』への自由な行き来が可能である唯一の『紋章機』。
烏丸ちとせと言う製作者達の予想を超える実績を上げたパイロットを得た事で、付けられていた三つのリミッターの内の一つ目が外れ、エンジェルフェザーを自由に展開出来るようになった。更に嘗てのちとせの愛機であるシャープシューターの兵装も獲得し、寄りちとせの力を発揮出来る機体になったが……その果てに待っているのはちとせの生体素子化であることは変わっていない。

『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割

  • リコに接近
  • ちとせに接近
  • 別ヒロインと結ばれる
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