ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
「はぁ~……」
戦闘終了後、ルクシオールに帰還したカズヤは重い溜め息を吐かざるえなかった。
何とか無事に戦闘を乗り越える事が出来たものの、今回の戦闘結果はお世辞にも褒められたものではない事をカズヤは理解していた。
(戦闘に集中しないといけなかったのに、全然集中できていなかった……何をやってるんだ、僕は!?)
今回の任務の重要性は事前にレスターから聞かされていた。
なのに戦闘に集中し切れず、危うく情報を採取した敵の艦に逃げられそうになり、ルクシオールも危険に追い込まれた。
(もしもちとせさんとマイヤーズさんが『
ハンガーに吊るされて固定されたファントムシューターに、カズヤは顔を向けた。
新たな兵装を得た事とちとせと言うムーンエンジェル隊のエースだったパイロットも得たファントムシューターの力は圧倒的だった。
更には『
それが意味するのはファントムシューターの今現在で判明している機能の中で、一番厄介だったステルス機能が戻っていると言う事だ。
(……大丈夫なのかな?)
今はまだファントムシューターは、『
だが、何時かは敵対するのでないかと不安をカズヤは感じずにはいられなかった。
「おい、リコ。大丈夫なのかよ?」
「は、はい……」
(っ!? リ、リコとアニスの声だ……)
二人の声を聞いたカズヤは気になり、声の聞こえて来た方に向かった。
様子をうかがってみると、アニスとリコに怪我をした様子はなく、カズヤは安堵した。
(良かった。二人とも無事だったんだ)
「おっ! カズヤじゃんか! 丁度良いや、ちょっと来いよ!!」
(えええっ!?)
「あ、あの、アニスさん。私は……」
「良いから此処にいろ! カズヤもさっさと来いよ!!」
不機嫌そうなアニスの勢いに押されて、カズヤは戸惑いながらも二人に近づく。
「や、やぁ……その……」
「………や、やっぱり、私、失礼しても良いですか!!」
「いいわけねぇだろう!!」
カズヤから離れようとするリコの手をアニスは掴んで引き留めた。
「あのよぉ。おまえらが悩んでのは分かってけど、それとこれとは話は別だ。さっきの戦闘、二人とも全然集中出来てなかっただろうが」
「そ、それは……」
「カズヤの方は支援攻撃が遅れてやがったし、リコの方はちゃんと理由があって船に戻れて言われたのに戻らねぇしよぉ」
「ええっ!?」
まだ詳しいルクシオール側で起きた状況を知らなかったカズヤは、アニスの話に驚いた。
まさか、と言う気持ちでリコに顔を向けると、当人は申し訳なさそうな顔をして俯いていた。
「俺は今回見ていただけだから大層な事は言えねえけど、あんなんじゃ周りのテンションまで下がっちまうぞ」
「す、すまない」
「ごめんなさい……」
カズヤとリコはルーンエンジェル隊の中心に成り掛けている。
そんな二人が周りに及ぼす影響は、本人達が思っている以上に大きい。もしも二人が本調子ならば、今回の戦闘であそこまで一方的に追い込まれる事は無かった。
「とにかくだ。お前らの問題はお前らが考えている以上に大きいって事が、今回の事で分かった! だからよぉ」
「僕だって何とかしたいさ!!!」
『っ!?』
アニスの言葉に反論するようにカズヤは大声を上げて叫んだ。
「僕だって……僕だって……」
「シラナミさん……」
顔を俯かせて震えるカズヤを、リコは悲し気な顔で見つめる。
アニスも言い過ぎたと思ったのか口を閉ざし、重い空気が三人から発せられた。
周りにいる整備班の面々も、どうすればいいのかと思う中、カズヤの背後からポンと手が載せられた。
『まぁまぁ、落ち着こう、三人とも』
「えっ?」
肩に手を置かれたカズヤは驚き、背後を振り向いてみる。
其処にはトランスバール皇国軍の司令官を服を着た男性が立っていた。
その男性はカズヤとリコ、そしてアニスの顔を見回して声を出す。
『事情は良く分からないけど、一先ず落ち着かないとね』
「……おめえ……誰だ?」
初めて見る相手に、アニスは警戒しながら質問した。
少なくともルクシオール内で見た事が無い人物。カズヤとリコも警戒するように、男性から離れた。
しかし、相手の男性は気を悪くした様子もなく、笑顔で笑う。
『あははっ、そんなに警戒しないでくれ。やっぱ、声だけじゃ分からないか』
「声だけって? あっ!」
言われてカズヤは気が付いた。遅れてアニスとリコも気が付く。
目の前にいる男性の声に、自分達は聞き覚えがある事を。そんな三人に疑問に答えるように、男性の背後から『
「
『いや、そんなに待ってないよ、ちとせ。コックピットに例の機械の設置は終わった?』
「はい。ファントムシューターは少々不満そうでしたが……」
『まぁ、ノアが言った条件を呑んだんだから我慢して貰うしかないさ』
親し気にちとせはタクトと呼んだ男性と会話をする。
そしてちとせはカズヤと、リコ、アニスに気が付くと、すぐに向き直って挨拶をする。
「リコちゃん、カズヤ君、アニスさん。お久しぶりです。只今ルクシオールに帰還しました」
「……ち、ちとせさん……も、もしかして……其方の男性の方って、まさか……」
震えながらリコはタクトと呼ばれた男性を見つめる。
それはカズヤとアニスも同じだった。そしてトランスバール皇国軍の司令官服を着た男性-『タクト・マイヤーズ』は、三人に向かって微笑みながら口を開く。
『じゃあ、改めて。俺は『タクト・マイヤーズ』。この度、ルクシオールにちとせと一緒に着任する事になったから。皆、宜しく!!』
『………えええええっ!?』
タクトの自己紹介にカズヤ達だけではなく、ちとせを除いた話を聞いていた整備班の面々、更には自分の『紋章機』の点検をしていたテキーラとリリィも目を見開いて驚いたのだった。
「タ、タクト……」
「マ、マイヤーズ司令……」
「う、うそ……こんな事って……」
ブリッジにちとせと共に訪れたタクトの姿を見たレスター、ココ、アルモは、驚愕の余り声を震わせるしかなかった。
紛れもなくちとせの隣に立っているのは、四年前に『アナザースペース』に取り残され、消息不明となったタクト・マイヤーズ本人。まさか、『アナザースペース』で『ウィル』に挑み、身体を取り戻したのではとレスター達が思う中、件のタクトはゆっくりとレスターに近寄り抱き着いた。
『レスターー!!!』
「や、やめろ! タクト!! ええい、離せ!!」
『ああ、こうしてまたお前と触れ合える日が来るなんて!!!』
「良いから離せ! んっ!? やけに身体が硬いような?」
「……っ!? マ、マイヤーズ司令がクールダラス司令に抱き着いて……」
「前にもこんな事があったような?」
「えっ!? 前にもタクトさんはクールダラス司令に抱き着いた事があるんですか!?」
『いや、アレもちょっとした冗談だから誤解しないでね、ちとせ』
流石にちとせに誤解されるのは嫌だったのか、あっさりとタクトはレスターに抱き着くの止めて弁明を行なった。
「はぁ~、それで
『あっ、やっぱりバレた』
「バレるに決まってる。触れた感触が人間にしては硬い上に、良く見ればお前の姿は四年前のままだ」
「確かにそうですね」
「制服も全く同じですし」
レスターの指摘にココとアルモは、目の前にいるタクトの不自然さに気が付く。
時が凍っていると言われている『アナザースペース』に肉体があった事を考えれば、歳をとっていない事は不自然ではないかも知れないが、軍服までわざわざ同じ物を用意する必要はない。
その上にレスターはタクトに触れた時の感触が、人間にしては異様に硬いことにも気が付いていた。
『それは、こういう事さ』
言い終えると共にタクトの姿がブレて、機械で出来た人形のような物が現れた。
それを見たレスターは、目の前にいるタクトの正体に気が付く。
「プローブか!!」
『ピンポーン! そう言う事さ』
頷く動作をすると共に、再びホログラム映像が展開されてタクト・マイヤーズの姿に戻った。
『ノアとちとせが俺の為に、プローブと例の俺の意思を伝えてくれるクリスタルを改造してこの義体を造ってくれたんだ。身体は偽物だけど、操作しているのは俺自身って事さ』
「ノアか。確かにちとせだけではなく、ノアまで関わっているなら可能か」
『
『まぁ、取り敢えず互いの情報を交換し合おう。フォルテがどうなったのか気になるし、こっちでも結構色々あったんだ』
「ああ、そうだな」
タクトの提案にレスターは頷き、互いに離れてから起きた事や知った事を話し合った。
『なるほど、フォルテは執行猶予付きの『
「フォルテ先輩。良かった!」
一番気になっていたフォルテへの刑が執行猶予付きの『
万が一の可能性も考えられたが、一先ずはフォルテに死刑などの処罰を言い渡されずに済んだ事は安堵するべき事だ。
「それにしても、まさか『ライブラリ』の秘匿データをルシャーティが見つけてくれていたとはな」
『『
「そしてその秘匿データを開ける鍵が、『白き月』にあったとはな」
「いえ、それが『白き月』だけではありません。ノアさんがもしかしたらと思って、『白き月』の封印区間に置かれている『黒き月』のコアにも、ファントムシューターの反応を感知させたところ、同様のメッセージが表示されました」
「『黒き月』まで」
「一体、昔の人達は何を計画していたんでしょうか?」
本来、『白き月』と『黒き月』は、どちらかが必ず消滅する運命にあった。
互いの思想を基に争い合った果てに、打ち破った方の月が敗北した側の月と融合し、より強力な兵器工場として完成する筈だった。
だが、現状を考えればそれが以外の製作目的も『白き月』と『黒き月』には在ったように思える。
『まぁ、その辺りに関してはシャトヤーン様がジュノーに到着してルシャーティとノアと一緒に例の項目を検索すれば明らかになる筈だ』
「それに期待するしかないか。それでタクト。これを見てくれ」
レスターはタクトに近寄ると、例の『紅蓮の剣』の柄の部分の複製を差し出した。
『コレは?』
「さっき話した『禁断の予言』が書かれているかも知れない物だ。書かれている文字の片側は『古代
「『古代
「ああ、そうだ。ちとせ。お前の解読プログラムで出た結果だから間違いない」
驚くちとせにレスターは事情を説明し、タクトは手に持った注意深く『紅蓮の剣』の柄の部分の複製を確認する。
(ファントムシューター。掘られている言語は解読できるかい?)
《データベースと照合開始……照合結果報告……片側は其方の解読結果同様、本機に登録されている『
タクト達、現在の『
『今、センサーを通してファントムシューターに解読して貰ったら、『無に漂いし眠る者は神と女神』って『古代
「っ! そうか! 俺達にとっては古代でも、ファントムシューターにとっては普通の文字という事か!?」
「では、もう片方の文字の方も!」
『多分、解読できる筈さ』
(で、どうかな?)
解読出来ていない方の文字がセンサーに映りやすいように、『古代『
《照合……本機に登録されている平行宇宙の一つ『
(なっ!? 『
タクトにとっても予想外の報告だった。
だが、ファントムシューターが冗談や嘘をつく必要はない。寧ろ機械的な合理性故に嘘や冗談の類を言わず、合理性優先で意見を押し切って来る。
そんなファントムシューターが別の平行宇宙の文字だと断定した以上、間違いがある筈がない。
現に既にタクトの精神に干渉して、『
(っ……本当のようだね……しかも此れは……)
《肯定。『
『
『紅蓮の剣』の掘られている文字が、嘗てマジークで予言された『禁断の予言』である可能性が高い事が。
《情報の推測の結果、『紅蓮の剣』と呼ばれる物は、本機製作当時に『
『あちゃ~……』
「タ、タクトさん!? どうされました!?」
いきなり片手を顔に当てて、上を見上げたタクトにちとせは慌てて質問した。
様子を見ていたレスター、アルモ、ココも何か不味い事が判明したと悟って、嫌な予感を感じにはいられなかった。
「その様子だと、何か不味い事が分かったのか?」
『ああ、うん……まぁ、セルダールの王家と政府の大スキャンダルになりかねない事が……』
『ええええっ!?』
「おい、冗談でもそんな事を言うな!?」
『俺だって冗談だったら良かったよ!! だけど本当なんだから仕方ないじゃないか!!』
タクトもこんなとんでもないスキャンダルになりかねない事実など、夢で逢って欲しかった。
だが、現状の『紅蓮の剣』の状況を考えれば、下手をしなくても一般市民に知られればセルダール王家と政府にとって不味い事態の引き金になりかねない程の問題なのだ。
『説明すると、このレスター達にとって未知の文字。これはファントムシューターに頼んで調べて貰ったら、平行宇宙の一つ『
「なっ!? それは、お前が前に言っていた開いていない『クロノゲート』の先にある四つの宇宙の一つの事か!?」
告げられた事実はレスターの想像を超えるものだった。
解読は出来なかったが、それでも『
だが、タクト、正確にはファントムシューターによって、更なる別の平行宇宙の文字だと判明したのだ。
『『
「なっ!?」
「タ、タクトさん!? そ、それは本当なんですか!?」
『うん。ちとせもファントムシューターに乗って、『
「な、何だと……」
「なんて書かれてるんですか!?」
「教えて下さい!! マイヤーズ司令!!」
『全ての終焉』を引き起こす物の正体。
その存在が柄にハッキリと示されている事を告げられた事で、レスター、ココ、アルモは漸く知る事が出来るかも知れない期待に包まれるが、タクトは申し訳なさそうな顔をする。
『いや、その期待するのは分かるんだけど……一応こう書かれてるんだよ。『■■■砕かれれば……』……ああ、やっぱり駄目か……』
情報規制が入った事を察してタクトは落ち込む。
こうなる事は分かっていた。直接的な重大な情報を、人に疑いを持ったファントムシューターが知らせるはずがない。
「やはり直接的な情報は駄目なのですね」
ちとせも、もしかしたらと思っていたのかタクトの様子を納得するように頷いていた。
何故ならちとせ自身も、未だファントムシューターに乗っている時にしか『全ての終焉』を引き起こす物の正体が分からないのだ。ならば、レスター達には尚更に知らせるはずがない。
タクトとちとせの様子にココとアルモは落ち込んだように顔を俯かせる。
「私達って、そんなに信用が無いんでしょうか?」
「知る事さえ出来れば、ノアさんの時のように協力し合えると思うのに」
『皆が悪い訳じゃないさ……ヴェレルの行動が本当に不味かったんだ。此処まで来た以上、最悪『影』を破壊するしか無くなるかも知れないんだ』
ヴェレルが利用している『影』は本来ならば、『
これが何も知らない者が『影』を偶然見つけて悪用したならば、ファントムシューターも深くは問題視しなかった。だが、ヴェレルは本来ならば『影』の管理者を担っている重要人物。
そんな重要人物が全宇宙の支配と言う暴挙としか言えない行為に踏み込んだ以上、『全ての終焉』の存在を知って悪用しない者がいないとは言い切れない。だからこそ、ファントムシューターは限定的にしか情報を伝えないようになってしまったのだ。
自らが完成へと至る時まで、『全ての終焉』を目覚めさせない為に。
「……ヴェレルか……」
『んっ?』
何処か険しい様子を見せているレスターに、タクトは顔を向けた。
「……タクト。すまないが、今後の予定に関して二人で話がしたい。艦長室に一緒に来てくれるか」
『……ああ、分かった。じゃあ、ちとせ。ちょっと行って来るよ』
「はい、タクトさん」
タクトの意図を察したのかちとせは微笑んで、艦長室へと向かう二人を見送るのだった。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる