ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
『それで話は何だい』
艦長室に訪れると共にタクトはレスターに質問した。
わざわざ二人だけで会話をしたいと望んだ以上、レスターが何か重要な話があるに違いないことは分かっている。同時にレスターが何か悩みを抱えている事も、タクトは察していた。
「……今後の指揮系統に関してだ」
『指揮系統? そんなのは簡単さ。俺とちとせは今後ルクシオールの旗下に入る事になるから、お前の指揮に従うよ』
ココやアルモは昔の癖で『司令』と呼ぶが、ルクシオールの司令官であり艦長はレスターだとタクトは心から思っている。
それだけの信頼関係がレスターとルクシオールのクルーの間には結ばれている。今更復帰した自分が割り込む必要はない。
そうタクトは思っているが、レスターは悩むような顔をしながら口を開く。
「タクト……今後はお前に……」
『それ以上言うなよ、レスター。ヴェレルにしてやられた事を気にしてるのか?』
「っ!?」
先んじてタクトが言った言葉に、レスターは苦い顔を浮かべた。
親友であるレスターが悩んでいる事を察したタクトは、ゆっくりとレスターの肩に手を置く。
『レスター。自信を持てよ。此処までこの船を、そして『
その嫌がらせがどれだけ効果的にヴェレルの計画に影響を及ぼしているのかを、レスターは知っている。
「だが、お前がルクシオールの司令官だったら、エンジェル隊を今回みたいな目には……」
『レスター。それは違うさ。俺は偶然レスター達と違う視点で行動している過ぎないんだ』
今はルクシオールと共に行動する事になったが、ほんの少し前でのタクトはファントムシューターと共に勝手に行動していた。
そしてファントムシューターと言うある意味では『
『もしも俺がこのルクシオールの艦長をしていても、フォルテを利用したヴェレルのクーデターを防げたとは思えない。それだけヴェレルは狡猾な奴だ……それに俺だってエンジェル隊の皆を危険な目にあわせた事がある……まんまと策に嵌まって……
「っ……そうだったな……すまん。弱気になっていたみたいだ」
タクトにとっても辛い出来事を自ら口にされた事で、レスターは冷静さを取り戻す。
『今回はしてやられたけど、次で挽回すればいいさ。やられたままじゃお前もいられないだろう?』
「ああ、そうだな……やれやれ。安心したよ。お前も能天気さと前向きさを取り戻したようだな」
『ハハハッ、まあね。ちとせとの未来の為にこれから頑張るつもりさ!!』
「全く……」
懐かしさを感じられずにはいられないタクトの様子に、レスターは不思議と安心感のようなものを感じずにはいられなかった。
「しかし、お前とちとせがシヴァ女王陛下の直属とはな」
『ま、まぁね』
「つまり、お前の行動がシヴァ女王陛下に響くという事か」
『……うっ』
「ちとせはともかく、お前は怠けそうだからなぁ。しかし、シヴァ女王陛下の名を背負っている以上、最早怠ける事は出来まい」
『……はい、そのお通りです』
項垂れながらタクトは同意した。
幾ら怠け者でも、国のトップの直属ならば働くしかない。それも踏まえてシヴァはタクトを直属扱いにしたのだ。
『い、いやでも、怠けるどころじゃないぞ。『白き月』でこの義体を得た後、本当に大変だったんだからさ。俺が開示できる情報と四年分の行動記録とかを数日で纏めるように言われただけじゃなくて、気になった事があったらノアは勿論、シヴァ様もルフト先生も直接連絡して質問してきたりしてさ。本気で四年分以上働かされそうなんだよ』
「自業自得だな。寧ろもっと働いてもらうぞ。今のお前は俺の部下でもあるんだからな」
『うわぁ~、まさか、こんな日が来るなんてなぁ。はいはい、分かってますよ。働かせて貰います』
「それじゃあ、先ずはセルダールとマジーク及び、他の連合艦隊の艦の艦の性能を把握して貰うぞ。幾らロストテクノロジーの塊であるファントムシューターでも、星々の現行の艦までは全て把握出来ていないだろうからな」
レスターはそう言うと共にセルダール、マジークを含めた連合艦隊の艦の詳細なデータが表示されているモニターをタクトの前に展開した。
タクトはすぐにそのデータを吟味していく。
『なるほど……やっぱりヴェレルが操る無人艦の方が、どの『
「残念ながらな。だから、今回の任務に俺達が当たる事にした」
『それはランファとヴァニラから聞いたよ。丁度俺とちとせが戻って来たのは、レスター達が小惑星帯に向かって少し経ってからだったみたいなんだ』
「やれやれ、タイミングが悪かった訳か……そう言えば、ファントムシューターに付けていた電磁波ペイントが消えていたようだが、アレはまさか」
『ああ、アレはノアがせっかくの高性能ステルスを無駄にしておくのは勿体ないからって言って、ファントムシューターと交渉して消したんだ。代わりにファントムシューターにはコックピットに『
「流石はノアだな。あのファントムシューターを相手に、交渉を成功させるとはな」
『本当にね……と言うか、四年も一緒にいる俺よりも仲が良いよ、ノアとファントムシューターは』
互いに効率性と合理性を優先する傾向が強いだけに、ノアとファントムシューターの相性は良かった。
『ところで、何だかエンジェル隊の雰囲気が少し悪くないか? さっき格納庫で言い争いみたいなことが起きてたようだけど』
「その事か……実は……」
レスターはタクトに現在ルーンエンジェル隊の中で起きている問題を説明した。
リコが極度の男性恐怖症で在った事。カズヤは何故か休暇に入る前までは、リコの男性恐怖症の対象にならず普通に過ごせていた事。だが、休暇の初日以降、カズヤにもリコは男性として恐怖を覚えるようになってしまい、その後二人の距離が離れてギクシャクするようになってしまった事など現在起きている問題を説明した。
『……なるほど。それで格納庫で言い争いみたいなことが起きてたのか』
「正直頭の痛い問題だ。リコの男性恐怖症に関してはクルー全員が周知している事だから、これまで問題は起きていなかったが、まさか、カズヤに対しても急に発作が起きるようになるとは思ってなかった」
『俺だったら、少しでも男性恐怖症が緩和できるように触れてたかな』
「それはお前だからだ。誰が好き好んで大怪我をしかねない事をやるんだ」
『ご尤も』
真っ当な意見なだけにタクトも頷くしかなかった。
「カズヤとリコはルーンエンジェル隊の中心に成り掛けていた。その二人の不調はやはり大きい……はぁ~、まさか、
『…………レスター? 今なんて言った?』
「ん?」
急に険しい声を出したタクトに訝しみながらレスターは顔を向けた。
『
「あ、ああ、そうだ。お前とちとせが『
コンソールを操作して、レスターはタクトに見えるようにモニターを展開した。
『……確かにこれは、エンジェルフェザーだ』
モニターに映った画像には、確かにエンジェルフェザーの展開の兆候を見せているクロスキャリバーが映っていた。
(カズヤとリコの仲を取り戻すのは急務になったな)
頭を悩ませていた問題の一つの解決の糸口が、タクトには見えた。
だが、その為にはカズヤとリコの仲を取り戻す必要がある。『エンジェルフェザーを展開できる
「何かあるのか?」
タクトの様子がおかしいことに気が付いたレスターは質問した。
『うん。最悪の懸念を回避できそうだなって』
「最悪の懸念だと?」
『ああ、そうさ……お前だから話すけど、実は俺は次の戦いでヴェレルには
「
『レスター。ヴェレルの立場を考えて見ろよ』
「ヴェレルの立場だと? …………っ!? そう言う事か!?」
タクトの指摘にレスターは気が付いた。
ヴェレルはその気になれば『クロノゲート』を閉じて『
「確かに在りえる話だ。奴は『
『主要戦力をヴェレルが握っている以上、どれだけ不満を抱いても逆らえなさいさ。それに何時かは『
「……盲点だったな。なるほど、お前の言う通り、
苦虫を噛み潰したようにレスターは呟いた。
次の作戦は今後の『
例え『クロノゲート』からヴェレルの軍勢を全て排除したとしても、肝心の『クロノゲート』の開閉が出来る場所は『
そして囚われているゲートキーパーであるミルフィーユが必要。戦いに勝ったとして、『クロノゲート』が閉じれば『
「……厄介だな。大艦隊の中でヴェレルが乗る旗艦を優先して破壊しなければならない訳か」
『いや、そうしなくても大丈夫かも知れない。『クロノゲート』を開ける『鍵』が、俺達の方にも出来そうだから』
「なに? どう言う事だ、タクト!? 勿体ぶらずに話せ!!」
『そう怒るなよ。実は……』
タクトはレスターに『クロノゲート』がゲートキーパーであるミルフィーユ以外に、『
「まさか、そんな事が……俺達は既にミルフィーユ以外にゲートを開けられる手段を得ていたのか」
『ああ、だけど『クロノゲート』を開けられるレベルの同調率はエンジェルフェザーを展開出来るレベルなんだ』
「なるほど……だから、お前とファントムシューターは『
ずっと疑問に思っていたファントムシューターとタクトの行動。
その真意が漸く判明し、レスターは納得したように頷いた。
『それもある……
四年と言う時間を掛けても、六機目の『
アニスのレリックレイダーの方は反応を探知出来ていた。だが、本当に六機目はファントムシューターの探知機能を以てしても探知できていない。
「六機目の『
『無事に残っていれば、良いんだけど……』
将来的な事を考えれば、六機の『
とは言え、今から六機目の『
「そうなると、やはりカズヤとリコの問題は早急に解決しなければならないか」
戦力としても大事だが、万が一にもタクトの予想通りになった時に、『クロノゲート』を開放できる手段は必須。
しかし、肝心のカズヤとリコの問題はそう簡単に解決できる問題でもない。どうするべきかとレスターが頭を悩ませている中、モニターを見ていたタクトが声を発する。
『……良し。把握終わり!』
「なに!? もう終わったのか!? セルダールやマジークだけじゃなくて、ピコや他の星々の艦艇もあるんだぞ!」
『細かいところはファントムシューターが記録してくれるから、大体の事が分かれば充分さ』
「っ……そうか。お前に見せるという事は、ファントムシューターも把握すると言う事だったな」
忘れてはいけないが、今のタクトの精神はファントムシューターの中に存在している。
レスターの前にいるタクトは、あくまで遠距離から操れる義体なのだ。
『言っておくけど、ちゃんと俺自身も把握してるぞ』
「それは分かってる。やる気と勤勉さを発揮している時のお前を知ってるからな」
やる気になった時のタクトの頼もしさを、レスターは良く知っている。
普段は怠け者だが、それでいて本気になった時のタクトは頼りになり不思議とその指揮ならば勝てるとように思える。
『さて、これで話は一先ず終わりで良いかな?』
「ああ、後はホッコリ―に戻るまで時間はある。そう言えば、お前部屋の方はどうする?」
『ちとせと一緒の部屋で構わないさ。あんまり長い時間離れていると不安を感じるみたいなんだ』
「それも自業自得だな」
『ああ、分かってるさ……だから、俺はもうちとせを悲しませない! 絶対に運命を乗り越えるつもりだ』
「そうか」
安心したようにレスターは息を吐いた。
『それとエンジェル隊の方は少し俺に任せてよ。何だが他人事みたいに思えなくて……』
「お前とちとせが付き合うまでにも色々とあったからなぁ」
『言わないでくれよ、それを。そう言えば、レスター。お前はどうなんだよ?』
「俺か? 悪いが俺の方には恋愛事の話はないな。仕事の忙しさ続きでそれどころじゃなかったからな」
『ええ……』
(アルモ。結局レスターに告白していないのかな?)
今はブリッジにいるアルモは、明らかにレスターに対して好意を向けている。
だが、その事に残念ながらレスター自身は気が付いていない。四年前から変わっていない親友とアルモの関係に、流石のタクトも言葉が出なかった。
(そう言えば、アルモはレスターから離れて『セントラルグロウブ』に勤務していたっけ。もしかして諦めたのかな? いや、それにしては……)
「ん? どうかしたか、タクト?」
『い、嫌なんでもないよ。それじゃあ、俺はそろそろ行かせて貰うよ』
「ああ、行ってこい。俺は今回の件の報告書を書かなければならないからな」
『そうか……レスター。またよろしくな」
「ああ、此方こそ頼りにさせて貰うぞ、タクト」
一緒にまた共に戦える事を二人は喜び合い、タクトは艦長室から出て行った。
『お待たせ、ちとせ』
「はい、タクトさん」
ブリッジに戻ったタクトは、待っていてくれたちとせと合流した。
『こっちは終わったけど、そっちはどうだい?』
「此方も大丈夫です」
「ちとせさんから教えられたファントムシューターの識別コードの方は、登録しておきました」
「これでステルスを使っていても、ファントムシューターの位置は把握出来るんですね」
味方でさえ把握する事が出来ないファントムシューターのステルス機能。
それが明確に解消された事にココとアルモは安堵したように息を吐いた。
「あっ! そう言えば、マイヤーズ司令!」
『ああ、アルモ。今更だけど、司令って呼ぶのは止めてくれよ。癖なのは分かるけど、このルクシオールの司令官はレスターだからさ』
「あっ、そうですよね……じゃあ、マイヤーズさん! 『セントラルグロウブ』で私を助けてくれてありがとうございました!!」
深々とアルモはタクトに向かって頭を下げた。
一瞬、驚いたタクトだったが、アルモが何を言いたいのか悟って笑顔を浮かべた。
『俺の方こそ間に合ってよかったよ……本当に君が無事で良かった』
ポンとタクトは、頭を下げているアルモの肩に手を置いた。
「私、あの時、本当はもう駄目だって思っていたんです。こんな事なら……」
『アルモ……レスターの事を頼むよ』
「えっ?」
『君がどうしてレスターから離れる選択をしたのか分からないけど、アイツもアイツで結構キツイみたいなんだ』
「……でも、私なんて……」
『頼んだよ』
悩むような顔をするアルモを元気づけるように、最後にタクトはもう一度肩を軽く叩いた。
『それじゃ、ちとせ。部屋に一度行こうか』
「はい」
タクトの言葉にちとせは頷き、二人は一緒にブリッジから出て行った。
(俺もちとせも何時までも皆と行動できるか分からない……だから、頼むぞ、レスター、アルモ、ココ)
漸く次回からカズヤとリコの解決になります。
九章が一番長いですね。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる