ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
「はぁ~……」
食堂の端の席に座りながら、カズヤは重い溜め息を吐いた。
もうカズヤ本人にも、何度目の溜め息なのか分からない。そんなカズヤの様子に焦れったのか、コックであるランティが近づいて来た。
「おい、何時まで其処に座ってるんだ?」
「あっ、ランティ……そんなに僕、座ってた?」
「気付いてないのか? 後一時間もしたらクロノ・ドライブが終わってホッコリーに戻る時間だぞ?」
「ええっ!? あっ……本当だ」
指摘されたカズヤは慌てて端末を確認し、食堂に来てからかなりの時間が経ってしまっている事に漸く気が付いた。
その様子を見たランティは、溜め息を吐きながらカズヤの前の席に座る。
「全く、暗い顔ばかりしやがって……ああ、料理が冷めてるじゃないか」
「ごめん」
カズヤの目の前に置かれている料理は冷めてしまっていた。
それでも食べないといけないと思い、カズヤは口に入れていく。
「んっ……そう言えば良いのか、厨房の方は?」
「もう飯時は終わりの時間だ。お前ぐらいだぞ。注文して食べ終わっていないのは」
「……ごめん」
「……リコの事。やっぱり悩んでいるのか?」
「当たり前だろう」
寧ろそれ以外に、カズヤの悩む事は無かった。
戦闘にまで影響が出た以上、何とかしなければならないとカズヤ自身も思っている。
「だけど、幾ら考えてもどうすれば良いのか分からないんだ」
「……まぁ、無理やり迫ってせっかく緩和されたリコの男性恐怖症が、元に戻るのは不味いどころの騒ぎじゃないからな」
流石にランティもリコの問題に関しては、迂闊には何も言えなかった。
緩和の兆し自体は見えている。見えているからこそ、迂闊な事が出来なくなったと言っていい。
カウンセラーであるモルデンからも、無理に改善を目指せば、逆に悪化する恐れがあると言われている。
袋小路に近い状況にカズヤとランティが頭を悩ませていると、カズヤの隣の席に誰かが座った。
『隣、良いかい』
「えっ? ああっ!」
『やっ、シラナミ少尉』
「こんにちは、カズヤ君」
顔を横に向けたカズヤの目の前には、タクトとその向こう側に座っているちとせが居た。
「マイヤーズさんにちとせさん!?」
「はぁっ!? こ、この人が例のマイヤーズさんか!?」
直接会うのは初めてのランティは、ちとせの隣に座っているタクトを驚きながら見つめる。
『会うのは初めてだね。俺はタクト・マイヤーズ。宜しく』
「あ、はい。ルクシオールでコックをしているランティ・フィアドーネです。此方こそ宜しくお願いします」
笑顔を浮かべて握手を求めて来たタクトに戸惑いながらも、ランティは握手に応じて手を差し出した。
「んっ?」
「どうかしたの、ランティ?」
「……いや、ちょっとな」
握手をした時のタクトの手の感触が異様に硬かった事にランティは気付きながらも、その事をカズヤには伝えなかった。
その間にメニューを見ていたちとせが、ランティに注文する。
「ランティさん。A定食をお願いできますか?」
「あっ、はい……え~と……」
『ああ、俺は良いから』
ちとせが注文するならタクトもかと思ったランティだったが、タクトは首を振って注文しない事を示した。
戸惑いながらもランティは頷き、ちとせの注文を作るためにキッチンの方に向かって行った。
その様子を見ていたカズヤは、戸惑いながらタクトに質問する。
「あ、あの、マイヤーズさんは食べないんですか?」
『いや~、実は食べられないんだよ、俺』
「えっ? だって、その身体?」
『これは機械で出来た義体なんだ。ほら、触ってみれば分かるよ』
言葉と共にタクトはカズヤに向かって手を差し出した。
カズヤは戸惑いながらも、差し出された手を握ってみる。
(あっ! 本当だ……見た目は人に見えるけど、機械の手のような感触だ)
『プローブって知ってるかな? アレを改良して義体を作って貰えたんだよ』
「はい、以前見た事がありますから知ってます」
カズヤは返事を返し、タクトは笑顔を浮かべて頷いた。
『そのプローブを改良して作ったのが、この義体さ。おかげでこうして、俺は自由に動かせる身体を手に入れたって訳さ』
「なるほど……あっ! そう言えばさっきの戦闘の時はありがとうございました。ちとせさんとマイヤーズさんが戻って来てくれなかったら、今頃は……」
『まぁまぁ、そう落ち込まないでくれよ。今回は相手の方が上手だっただけさ』
「でも……」
『負けたと思うなら、次で挽回すれば良いさ』
「っ!?」
ハッとしたようにカズヤはタクトに顔を向けた。
『今回は危なかったのは事実だ。でも、何時までもそれに落ち込んでいたらいけない。次の戦闘にまで影響が出たら不味いからね』
「は、はい……そうですね。ありがとうございます、マイヤーズさん」
『いやいや、礼を言われる事じゃないよ。ところで君の事はこれからカズヤって呼んで良いかな?』
「構いませんよ」
「ふふ……」
タクトとカズヤの微笑ましいやり取りを見ていたちとせも微笑む。
『それで、リコって言うミルフィーの妹さんの事で悩んでいるのかい?』
「あっ……知ってたんですか?」
『さっきブリッジで聞いたよ』
「カズヤ君……本当にその……」
「はい……リコの男性恐怖症の発作が僕にも起きるようになったんです」
顔を俯かせながらカズヤは、タクトとちとせの質問に答えた。
カズヤの返答を聞いたちとせは、驚かずにはいられなかった。ファントムシューターに乗って『
そのカズヤにまでリコの男性恐怖症の発作が起きてしまった。
「僕以外の男性クルーも集めて、モルデン先生が中心になってリコの男性恐怖症を克服する訓練を行なったんです。それで何とかリコ自身の意思でなら手を握るまでなれるようになったんですけど……」
「それ以降の変化は出ていないと言う事なのですね?」
コクリとカズヤは落ち込みながら頷いた。
(これは確かに、容易には解決出来そうにありませんね)
リコの男性恐怖症に関してはちとせも知っている。
だからこそ、容易には解決できない事もちとせは理解出来た。
(リコちゃんの男性恐怖症は、私よりもずっと長い間抱えていた精神的外傷。それを残り僅かな時間で解消するのは難しい……寧ろ短期間で成果が出ているのですから……これ以上リコちゃんに無理をさせる事は……)
男性恐怖症克服の訓練の成果は、確かに出ている。
成果が出ているからこそ、これ以上リコに無理強いをさせる訳にもいかない。袋小路に近い状況にちとせが頭を悩ませていると……。
『よし。カズヤ。君はリコの
「へっ……?」
「えっ?」
タクトが発した言葉の意味が分からず、カズヤとちとせは揃って困惑した声を上げた。
「あ、あの、タクトさん? 今の言葉は?」
『あれ? 意味が分からなかった? カズヤがリコの
「いやいや! そんな簡単な話じゃありませんよ!! 第一僕に対しても男性恐怖症の発作がリコは起きるんですよ! それでどうやって
『元々カズヤはリコにとって
「えっ? ……あっ!?」
指摘されてカズヤは気が付いた。
そう、自身は最初はリコにとって
当然、リコはカズヤに対しても最初から男性恐怖症の発作が起きる筈。にも関わらず、最近までカズヤに対してリコは男性恐怖症の発作が起きなかった。
つまり、カズヤはリコにとって例外。
『男性恐怖症そのものを改善するのは、すぐには難しいけど、カズヤがリコの
「またリコと触れ合えるように、成れるかも知れないっていう事ですね!?」
発想の転換。リコの男性恐怖症を早期に改善するのではなく、リコの
新しい方法に気が付いたカズヤは、嬉しそうに笑顔を浮かべてタクトに向かって頭を下げる。
「マイヤーズさん! ありがとうございます!! おかげで新しい方法が見つけられました!!」
『待った。確かに俺は新しい方法を指摘したけど、まだ問題は残ってる』
「問題ですか?」
「ええ……カズヤ君。リコちゃんの
「あっ……」
ちとせに言われてカズヤは気が付いた。
だが、その
『カズヤ。提案して置いてなんだけど、これは今後の君とリコとの関係を決める重要な話だ……正直言って上手く行く保証もない。上手く行かなかったら、今のままだろうし。上手く行っても以前のような関係には戻れない』
(……マイヤーズさんの言う通りだ……でも、僕は今のままのリコとの関係はもう嫌だ!!)
明確な好意を持っているのに、それを伝えられない現状。
近づく事さえも拒絶されようとしている。だからこそ、カズヤは決意した。
リコとの関係を進め、新しい
「僕はやります! 今のリコとの関係を終わらせて、新しい
『そっか。なら、頑張らないとね』
「あ、あのですが、どのようにしてリコちゃんの
『なに、先ずは正攻法と言うか、カズヤの得意な事からやって行こう。確か資料によると、カズヤはルーンエンジェル隊に入隊する事が決まる前は、パティシェを目指していたんだって?』
「はい、そうです。元々は配属前のバイト先の喫茶店のお客さんが、お遊びで僕のの履歴書をルーンエンジェル隊の隊員募集に送って、それをリコのお姉さんであるミルフィーユさんが沢山集まった嘆願書の中から僕の履歴書を偶然引いて選ばれたみたいで……」
『な、なんかこうして聞くと凄く在りえない経緯としか思えないけど、ミルフィーだからなぁ』
「はい、ミルフィー先輩ですから」
(ハハ、それでお二人も納得するんですね……)
どう考えてもカズヤがルーンエンジェル隊の一員に選ばれた経緯は、絶対に在りえないとしか言えない経緯。
だが、それを在りえるに出来てしまうのが、ミルフィーユ・桜葉の『強運』だった。
(ミルフィーが選んだ以上、カズヤにはやっぱり何かあるのかも知れないなぁ)
実際カズヤは前回の戦闘は別としても、それ以前の戦闘では新人とは思えない程の実力を示している。
更にはリコと共に、クロスキャリバーのエンジェルフェザーを不完全ながらも展開させた。
(もしも俺とちとせが居なかったら、カズヤとリコがファントムシューターの搭乗者に選ばれていたかも知れないなぁ)
ファントムシューターの搭乗資格は、広義的に言えば『時空に穴を開けられる者達』。
ちとせとタクトは偶然にもその先の段階、『アナザースペース』への扉を開けた為にファントムシューターに選ばれた。
そしてカズヤとリコが『クロノゲート』を開くと言う事は、ファントムシューターに搭乗資格者として認められてしまう事を意味する。
無論、既に想定以上の適正と最高の指揮能力、そしてエース級のパイロットの腕前を示したタクトとちとせをファントムシューターが見限る筈がない。
タクトとちとせも、自分達で背負うと決めた過酷な運命を誰かに押し付けたりする気もない。
ゆっくりとカズヤに見えない位置でちとせはタクトの手を握る。
(大丈夫です、タクトさん)
(ありがとう、ちとせ)
言葉は発しなくても、心でちとせの伝えたい気持ちをタクトは悟り笑顔を浮かべる。
そんな中、ちとせが注文した定食を持ったランティがテーブルに近寄って来た。
「お待たせしました、A定食です……って!? おい、カズヤ? 急にどうした? 何だか凄く明るくなってないか?」
「うん! マイヤーズさんのおかげでやる事が分かったんだよ」
「そ、そうか……そいつは良かったな」
テンションが明らかに高くなっているカズヤに戸惑いながらも、ランティは頷いた。
『さて、じゃあ、カズヤとリコの仲が良くなりやすいように少しお膳立てをしようかな』
「お、お膳立てですか?」
『うん、そう……と言う訳で……ちとせ、ちょっとクロノクリスタルを貸して貰って良いかな?』
「構いませんけど、どちらに連絡を?」
「ちょっと、レスターにね」
タクトはちとせからクロノクリスタルを借りて、ブリッジにいる筈のレスターに連絡を入れる。
『ああ、レスター。ちょっと良いかな、実は頼み事があって………いや、どうしても必要な事だからさ。何をやるのかって? 決まってるじゃないか!!! 俺とちとせの復帰、そしてフォルテの無事を祝って、ルクシオールにいる皆やランファとヴァニラ、それにミントも呼んで盛大なパーティーをやろうじゃないか!!』
『えっ? えええええええっ!!!!!』
と言う訳でパーティー開催です。
因みに費用は全額タクトが支払います。未発見の平行宇宙発見とかで四年分の給与は認められましたので、支払いには問題なしです。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
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リコに接近
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ちとせに接近
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別ヒロインと結ばれる