ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
どうしてもカズヤとタクトの仲を深めるイベントが必要なので。
タクト発案によるルクシオールでのパーティー開催は、ホッコリ―に帰還後すぐに全乗員に通達された。
突然のパーティー開催には誰もが戸惑ったが、日頃からの頑張りとホッコリーで休日を過ごせなかった乗員達を労う意味も込めてだと司令官であるレスターから通達されたので、概ね受け入れられていた。
とは言っても、パーティの会場の準備をしたり、主役の一人でフォルテをセルダールに迎えに行ったりとやるべき事は多い。
中でも一番忙しいのはパーティーに出す料理の数々を作るコックだった。
「料理一品完成!」
『了解。じゃあ、銀河展望公園のテーブルに運んでおくよ!!』
「え、え~と……」
厨房内で、ランティの代わりにデザート作りを行なっていたカズヤは、完成した料理を会場様に設置した銀河展望公園に運ぶ台車に載せているタクトの姿に言葉が出なかった。
『いや~、こうしてパーティー会場の準備を自分でするのって結構楽しいなぁ!!』
三男とは言え、タクトはトランスバール皇国の貴族の出身。
本人は全く貴族らしくないが、それでも家が家なだけにパーティーなどは大抵使用人や部下が準備をしてくれている。参加する他のパーティーも同じであり、だからこそタクトは何気なく今の状況を楽しんでいた。
「い、いや、マイヤーズさん!! 何をしてるんですか!?」
『何って、カズヤ達の手伝いと会場の準備だよ』
何でもないように、厨房の方に顔を覗かせながらタクトは返事を返した。
『ちとせはフォルテを迎えにシャトルでセルダールに向かったし。今のところ俺がブリッジでする事は無いからさ』
仕事をする気はあるタクトだが、重要な話し合いに関しては既に終えている。
『クロノゲート』へ向けての艦隊の航海に関しても、未だ全ての艦の修繕が終わらず、ルクシオールも先の戦闘で改めて損傷してしまったので修理のやり直し。
セルダールへのフォルテの迎えに関しては、義体に取り付けたクリスタルの受信可能範囲の問題でタクトはセルダールに行く事は出来ない。代わりにオペレーターの役割をアルモに託したちとせが迎えに向かっている。
そう言う訳でやる気があるのに、仕事が無い状況のタクトが出来るのは、自身が提案したパーティーの準備をすることぐらいだった。
『まぁ、そんな感じで今のところ俺に出来るのって雑用ぐらいしかないのさ。レスターからも発案した以上、責任を持ってやれって言われたから、こうして会場の準備をしてるんだよ』
「で、でも……マ、マイヤーズさんは、その『
『英雄だからとは言わないでくれよ。別に英雄なんて俺自身は思ってないんだ。巡り巡った結果でそうなっただけなんだから。それにこのルクシオールじゃ、カズヤよりも俺は後に入って来たんだ。何だったら、カズヤの事を
「や、止めて下さいよ、もう!!」
『ははははっ』
軍属としては自分よりも長く、多大な功績を挙げているタクトを後輩扱いなどカズヤに出来る筈がなく、からかわれている分かりながらも声を上げてしまった。
そんなカズヤの様子を楽しそうに眺めながら、タクトはランティが作っている料理を待つ。
「しっかし、わざわざパーティーをする必要があるんですか?」
『済まないね、ランティ。コックの君には負担が掛かるのは分かるけど、多分こうでもしないと今のリコは理由をつけてカズヤの傍から離れようとするんじゃないかと思ってね』
「まぁ、確かに……今のリコの様子だと倉庫の在庫チェックとか理由を作って、カズヤの傍を近寄らなそうですね」
「うぅ……」
ランティの指摘に其処まで拒絶されるのかとカズヤは思い、落ち込んでしまう。
『だけど、パーティーとなれば大勢の人が集まるから気も緩むだろうし。何よりも俺とちとせの復帰だけじゃなくて、フォルテの無事を祝う意味も込めてのパーティーだ。流石に参加しない訳には行かない筈さ。それにリコが途中退場しても、カズヤはそれを追えるだろう? 二人っきりになれるチャンスにもなる』
「な、なるほど……」
「そ、其処まで考えていたなんて……」
聞かされたパーティーを行なう理由に、ランティとカズヤは思わず尊敬の眼差しをタクトに向けてしまう。
(それに俺やちとせの時みたいに、告白の瞬間を覗かれるのは……ね)
タクトが思い出すのは一世一代の告白をちとせに挑んだ時の出来事。
『ヴァル・ファスク』に占領されていた惑星ジュノーを解放し、解放記念として盛大に執り行われたパーティーの際、タクトはちとせに告白した。
結果、タクトとちとせは漸く結ばれ恋人同士に成れたのだが、その際に他のムーンエンジェル隊のメンバーに一部始終見られてしまった。
勿論、ムーンエンジェル隊のメンバーだけではなく事情を知っているレスター、ココ、アルモを始めとした大勢から祝福してくれたが、やはり恥ずかしい事には変わりはない。
(後、上手くすればレスターとアルモの仲も進展するかも知れない……まぁ、こればかりはアルモに頑張って貰うしかないんだけど)
出来ればカズヤとリコのように、レスターとアルモの仲も進展して欲しいとタクトは願う。
しかし、そんな事情を知らないカズヤは思わずタクトに聞いてしまう。
「や、やっぱりマイヤーズさんって女性関係の経験が多いんですか?」
『えっ? 何の話それ?』
いきなり身に覚えのない話をされたタクトは、戸惑いながらカズヤに質問した。
「えっ? だって、マイヤーズさん。ムーンエンジェル隊の皆さんと仲が良かったんですよね?」
『勿論さ。だけど、あくまで皆とは友人としてであって、それ以上の気持ちはないよ』
「い、いやでも……それだったらどうしてあんな親しい事をムーンエンジェル隊の皆さんとしてたんですか?」
『ん? 親しい事って、どんな?』
「……ランファさんとペアルックの服を着たり」
『えっ? ちょ、ちょっと待とうか、カズヤ? 今本当に何て言った? ランファとペアルックがどうのとか聞こえたんだけど?』
自分の知らないところで大変な誤解が広まっているのでは危機感を覚えたタクトは、準備を中断してカズヤに尋ねた。
「え~と、じゃあ確認しますけど、ランファさんと互いのイラストが入ったペアルックの服を一緒に着た事は……」
『無いからね! そんな事は!? 何よりもそんな噂が流れてるってランファに知られたら、俺が危ないから!!』
本当に身に覚えのない話に、タクトは叫ばずにはいられなかった。
寧ろそんな事をランファとしていたら、当時のちとせに誤解されて大変な事になっていた。その上に今の話をランファ本人が知ったら、変な話を広められた事に怒ってタクトが危ない目に合わされかねない。
「え~と、じゃあ、ミルフィーユさんと一緒にケーキを食べた話は……」
『ミルフィーって料理が作るのが好きで、味見で差し出されて食べた事はあるよ。後、皆でピクニックした時に、『これ美味しいですよ』って勧められて食べたなぁ。いや~、懐かしい』
あくまでミルフィーユのそれは友人としての勧めなので、タクトもミルフィーユ本人にも変な感情はない。
(な、なるほど……そう言えば僕も自分が作ったお菓子の評価を聞く為に、女性に食べて貰った事があった)
味の感想の範囲での事だとカズヤは納得した。
「フォ、フォルテ教官と夜の水辺で水のかけっこをした話は……」
『そ、それは本当にあったけど……あの時は味方と合流する予定だったのに、敵の罠に嵌まって敵に囲まれてね。正直打つ手が思いつかないぐらい追い込まれていたんだ』
「ええっ!? 大変じゃないですか!?」
『だろ? 流石に俺も落ち込まずにはいられなくて、そんな時にエンジェル隊の皆がそれぞれ励ましてくれたんだ。それでフォルテの場合は自分の気晴らしだっていって、このルクシオールの設計の基になったエルシオールにあるクジラルームって言う大きな巨大なプールに誘われたんだ。だから、別に変な事はしてないよ。普通に泳いだりして気晴らしに遊んだだけさ』
(俺は制服のままだったけどね)
懐かしそうに当時の事をタクトは思い出す。
「じゃ、じゃあ、ミントさんに着ぐるみを着て深夜に応援された話は……」
『カズヤ……その事をどうして知ってるのか知らないけど、ミントの前で思い浮かべたり、直接聞いたりしたら絶対駄目だぞ。ランティも今の話は聞かなかった事にしておくんだ』
「おっ、おおっ……分かりました」
(こ、この話って、絶対に知っちゃいけない話だったんだ!!)
鬼気迫る様子で語るタクトに、ランティとカズヤは気圧される。
カズヤは知らないが、ミントが着ぐるみを着る趣味は、仲間であるムーンエンジェル隊の面々にも秘密にしている趣味なのだ。
タクトがそれを知ったのは、偶然夜中にエルシオールの艦内を着ぐるみを着て散歩していたミントと出会ったから。もしも隠している趣味の事が知られているとミントが知ったら、考えるだけで恐ろしい。
『
そんな相手の不興など絶対に買いたくないカズヤとランティは、揃って忘れる事を決意した。
「え~と、それじゃあ、ちとせさんと茶柱が立ったお茶を飲んだ事は……」
『ああ、それはあったよ。ちとせの部屋で彼女の故郷のお茶を飲ませて貰ったんだ……はぁ~、また飲みたいなあ。ちとせのお茶……』
(おい! カズヤ!! あんまりマイヤーズさんの前で食べるとか飲むとかの話題は止めろ!!)
(う、うん……不味ったな)
忘れてはいけない。
今のタクトの身体はあくまでプローブを基にしてノアとちとせが製作した義体。動作こそは限りなく人間と同じ動作は行なえる。だが、機械である以上、飲食などの行為は当然できない。
配慮が足りなかった事をカズヤは思わず後悔するが、タクトは気にした様子もなく声を掛ける。
『で、他にはどんな話を聞いたんだい? 順番からするとヴァニラだと思うんだけど……何かヴァニラであったかな?』
これまでの会話からカズヤの話は、自分とちとせを含めたムーンエンジェル隊の男女関係に関する話題である事をタクトは察していた。
(それは皆は確かに魅力的な女性さ……だけど、俺が好きなのはちとせだけだ!)
ムーンエンジェル隊の女性陣は、ちとせを含めて魅力的な女性達ばかり。
そんな女性達とタクトは指揮官と言う立場に居て一緒に過ごしていたのだから、あらぬ噂が立つのは仕方がない。だが、それでもタクトが愛する女性は一人だけ。
烏丸ちとせだけなのだ。
(ちゃんと誤解を解いておかないと……いや、それよりも解いておかないとちとせだけじゃなくて皆も怖い!!)
事はタクトだけでは済まない。
もしもカズヤと同じようにちとせが今の話を聞けば誤解しかねない上に、他のムーンエンジェル隊の面々も変な噂の出所になった原因を知ろうとするに違いない。
そしてランファとミントが怒り狂う光景が、タクトの脳裏にあっさりと浮かんだ。
先に知れて良かったと内心でタクトが思う中、カズヤは口を開く。
「え~と、ヴァニラさんは……そ、その……膝枕を……」
「なにぃ!? お、お前、カズヤ!? まさか、そんな事をリリィさんにして貰っていたのか!?」
話を聞いていたランティは、思わず叫んでしまった。
流れからカズヤの話がリコがリリィとの仲を誤解する切っ掛けになった話題だと察していたが、その内容はランティの想像以上だった。
「チクショウ!! 不公平だ!! 俺なんて幾ら話しかけても相手にもされなかったのに!!」
「い、いや! 僕だってあの時は大変だったんだよ!! リリィさん、茶柱が立つまで絶対にお茶を淹れるんだって、言い出してお腹が膨れるまで何時間も飲まされ続けたんだから!!」
『ああ、そう言えばちとせが言っていたっけ。茶柱が立つお茶は珍しくて縁起の良いものだって……えっ? もしかして今の話を全部、あのリリィって言う女性と実践したの?』
「ええ、まぁ……リリィさんと少しでも仲が良くなる為に……や、やりました」
『わぁ~……そうなると俺達が元々の原因なのかな? 何だか、ごめん』
「い、いえ! マイヤーズさんがちとせさん一筋なのは分かりましたから!」
これまでの経緯から本気でタクトがちとせを愛していることは、カズヤも理解出来た。
絶望してもおかしくない状況に置かれていながらも、それでもタクトは自分なりにちとせを護るために行動していた。
(凄い人だな、マイヤーズさん)
『まぁ、とにかく。ヴァニラに膝枕をして貰った事は無いよ。エルシオールの展望公園で昼寝をしている時に起こして貰った事はあったけど』
「ひ、昼寝って……」
『はははっ、気にしないでくれ。じゃ、俺は作業に戻るから』
言い終えるとタクトは会場の設置作りに戻って行った。
「よし! 僕も頑張らないと!」
「カズヤ。頑張るのは良いがちゃんとパーティー用のデザートも作ってくれよ」
「うん。そっちも任せて」
必ず今日のパーティーでリコとの仲を取り戻す。その決意を固めたカズヤは、ランティと共に作業を頑張るのだった。
次回こそは本番です。
『無限回廊の鍵』で登場のロゼルの役割
-
リコに接近
-
ちとせに接近
-
別ヒロインと結ばれる