エイリアン支配領域日本召喚   作:レシプロ至上主義者

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種をまいて、耕して

 中央暦1640年4月21日 クワ・トイネ公国

 

 クワ・トイネ公国に建設された4000m級の滑走路4本を備える超大規模飛行場。

 噂を聞きつけて視察した駐日ムー大使館付き武官が卒倒した、この世界では非常識なまでに広い飛行場、その駐機スペースから大声が響き渡る。

 

 「今回は高等練習機による単独飛行だ。初等練習機よりも速度が速い! 今日は諸君らを助けてくれる教官はいない! 気を引き締めておくように!」

 「「「「ハッ!」」」」

 

 訓練されているのはクワ・トイネ公国全国から集められた志願者たち。

 ロウリア王国戦後、第2日本の協力の元、軍、特に航空戦力の近代化が進められることとなり、軍から派遣された軍人と民間からの志願者が集められ、ここで訓練されている。

 

 「イーネ訓練生! 搭乗せよ」

 「分かりました!」

 

 イーネは割り当てられた飛行機へ乗り込む。初等練習機最終課程以来となる単独飛行に手が震えていた。

 

 「緊張するな……とは言わん。だがお前は勉学に励み、複葉機の操縦を覚えた搭乗員の卵だ。卵なりに調子に乗らず、基本を守って操作すればいい」

 

 イーネは教官の叱咤にやや固い返事をしながら操縦席に乗り込む。

 ややもたつきながらも、高等練習機は練習機らしく短距離で軽やかに空へ舞い上がった。

 

 「……あんな若い奴も戦場へ送らなきゃならんのか」

 

 ここを卒業したら、遠からず彼らは戦地へと送り出される。彼らの祖国が第2日本の隣国であり、その勢力に属している以上、立場を鮮明にする必要があるのだ。

 訓練が終わるころにはパーパルディア皇国は処理し終わってるだろうが、グラ・バルカス帝国という脅威が立ちはだかるだろう。

 

 「せめて初陣で全滅せんようにはしてやらんとな」

 

 翌日以降、これまで以上にイーネたちは教官たちにみっちり扱かれることとなる。

 少しでも生き残れる確率が上がるように、と思ってのことだったが、イーネたちがありがたがるのはもう少し先の事だった。

 

 

 

 

 

 中央暦1640年4月29日 パーパルディア皇国 エストシラント

 

 道を歩く人々の顔は暗く、うつむいている。

 去年、この皇都を襲った厄災――文明圏外国家第2日本帝国による奇襲攻撃。それに続くようにムー、文明圏・圏外各国の大使が安全のために自国民と共にパーパルディア皇国から退去した。

 エストシラントは安全な場所ではないと悟った住人の内、裕福なものから順に第2日本がやってこなさそうな田舎へ避難していった。そこへデュロ上陸の噂が市井に広まるにつれて、この流れはますます加速している。

 パーパルディア皇国政府は必死になってこの流れを止めようとした。

 

 最新鋭のワイバーンオーバーロードを皇都上空で多数飛行させ、防空能力をアピールした。

 属領から引き揚げた軍によるパレードを行い皇軍はいまだ健在であると内外に宣伝した。

 

 だが悲しかな、それらの努力は全て『第2日本帝国に対し、一方的に負け続けている』という結果の前にはほとんど効果がなかった。

 多少なりとも反撃できていれば違ったかもしれない。

皇軍は無力ではないと反論できたかもしれない。

 しかし現実は空・地・海すべての戦場でパーパルディア皇国軍は全滅し、何一つ有効な一手を打てずに終わっている。

 いくらルディアスが、レミールが吠えようが、現実の前では空しいだけだった。

 

 

 

 

 

 「それでは御前会議を始めます……」

 

 会議の開始を宣言するエルトの声にも力がない。

 無理もない、とカイオスは心中でつぶやく。

 開戦以来、連敗に次ぐ連敗。そこへ第2日本による経済制裁と本土進攻により、パーパルディア皇国の治安は悪化の一途をたどっている。

 肉体も精神も摩耗している状態なのだ。これで元気がある方がおかしい。

 

 「2月前、デュロに上陸した日本軍ですが、既にデュロ一帯を占領。残存兵力及び諜報員も一掃され、エストシラント防衛線外縁以東の情報がほぼ得られなくなっております」

 「それで」

 

 玉座から聞こえる老人のような、しわがれた声。

 開戦以来、止むことのない凶報は活力を、皇帝ルディアスからも奪っていった。

 

 「日本軍の飛行場を破壊することはできないのか?」

 

 デュロ上陸から1か月もしないうちに日本軍の飛行機械が、エストシラントを含む皇国各地の都市上空を飛び回り、目に付いた倉庫などを徹底的に潰していくようになった。

 パーパルディアもそれを防ぐべくワイバーンオーバーロード――エストシラントのみ。他の都市はなけなしのワイバーンロード――を投入したが、高速・大火力・重防御の揃った2式戦闘爆撃機が相手では当てられない、当てても堕ちない、逆に当たったら堕ちる……と勝負にすらならず、損害だけがかさむ結果となった。

 ならば地上にいるときを狙って攻撃すればと立案された日本軍飛行場襲撃計画。

 残ったワイバーンオーバーロードによる夜間、もしくは夜明けを狙っての奇襲。潜入させた少数精鋭の特殊部隊とパルチザンによる破壊工作。あるいはそれらの統合。

 残存戦力の確認と作戦の具体化を進めていくうちに“いけるのでは?”と軍人たちに希望を抱かせていったこの作戦は、しかし実行されることなく潰えた。

 

 「前線で確認できるだけでも日本軍の戦力は重厚です。現地の状況も分からぬ今、抵抗勢力と接触できるか……そもそも存在するかも分かりません。これでは見つからずにデュロまで到達し、工作を実行するのは極めて困難でしょう」

 

 ルディアスへ奏上するかどうかというタイミングで、すでに敵はエストシラントに迫りつつあった。残ったパーパルディアの拠点からデュロまでの距離から考えて、潜入そのものが不可能と判断された。

 

 「また空も電磁式レーダーと監視塔による探知網が隙間なく張り巡らされています。夜間なので飛行機械に襲われることはないでしょうが……夜間飛行できる竜騎士はごく少数です。竜騎士の消耗著しい現在、どれだけ投入できるか……」

 

 第3国経由で入手した第2日本帝国の雑誌などから、第2日本が神聖ミリシアル帝国でもコピーを開始したばかりの電磁式レーダーを保有していることが分かり、飛行機械と比べて静かに飛べるワイバーンでも発見される可能性がカイオスから指摘された。

 ルディアスとレミールは怒声を上げて否定したが、前線からもそれを裏付ける報告が上がっている以上、いたずらに戦力を削る作戦は実行できぬと将軍たちは中止を決定した。

 そもそも灯火管制されれば、夜目の利く竜騎士でも目標の発見は困難と最初から無理がある作戦だったと説明されてルディアスは眉間のしわを深めつつ問う。

 

 「つまり、日本軍の飛行場を攻撃することは不可能、と。そう言うのだな?」

 「……はい」

 「そうか…………」

 

 頷くアルデに、消沈する様子を隠さないルディアス。

 それを横目に、気づかれぬよう顔をゆがめるカイオス。胸中にて口からは出せぬため息を深く、深く吐き出す。

 

 (こんな杜撰な作戦が議題に上げられる事態、おかしいというのに……)

 

 こんな、少し冷静になって考えればいくらでも穴が出てくる作戦とは呼べぬ代物が、御前会議で真剣に議論されるなど、開戦前では考えられぬことだった。

 これが末期を迎えた国か。

 そんな感想が脳裏を掠め、どこか他人事のように考えている自分に嫌悪感を抱く。

 カイオスが内で葛藤している間にもアルデの説明は続く。

 

 「1週間前、属領と本国を繋ぐインフラが壊滅しました。これにより資源の大部分が調達不可能となり、特に食料は配給制にしても1月たらずで危機的な領域に入るかと」

 

 パーパルディア皇国は資源などを属領から入手し、それを加工した製品を各国へ輸出することで経済を回していた。

 原材料が手に入らなければ工場は動かず、そこで働く労働者に賃金は払われない。遠からず軍需・民需どちらも死滅する。

 

 「最近では共和国時代の領土内に残った農地も攻撃され、ますます食料の調達の見込みが立たなくなってきています。餓死者の発生時期も、以前お渡しした資料より、かなり早まると……」

 「……文明圏外国家から輸入できんのか? まだ艦隊は残っていたはずだ。それらで脅せば……」

 「中立国を通じて交渉しました。ですがクワ・トイネ公国をはじめ、みな一様に『第2日本を敵に回したくない。貴国に輸出すれば我が国も滅ぶ』と」

 「我が国も(・)、だと…………列強たるパーパルディア皇国が滅びるとでも!!!? 身の程知らずの蛮族どもがっ!!! 今すぐ艦隊を派遣し、懲罰して……」

 「不可能でしょう」

 

 あまりに現実を見ない馬鹿の戯言に我慢できなくなったカイオスの横から差し込まれた冷静な言葉に、レミールだけでなく会議室にいる全員の視線がカイオスに集中する。

 やってしまったと思いつつも、ここで黙るわけにもいかず、カイオスは言葉を続ける。

 

 「日本は皇国近海に多数の艦艇を遊弋させています。その中には航空母艦――竜母の飛行機械版も多数含まれており、艦隊が出撃すればたちまち発見され、全滅します」

 「敵にそのような戦力があるならば、なぜ艦隊が残っている!!? 艦隊の存在が日本にそのような力を持っていない証拠だ!!!」

 「まだ艦隊が消滅していないのは、日本軍が興味を示さないような僻地に分散させているのと、偽装網や迷彩塗装など現場の努力によるものです。……港に逼塞し続けた結果、練度は低下していますが」

 

 目の前で第2日本の力を見たはずなのに、それをさっぱり忘れてしまったかのような発言に以前の会議以降、悪化し続ける頭痛を堪えながら冷静に、丁寧に事実を説明する。

 もしカイオスの内心と現状を余すことなく佐官以上の日本軍人が知れば、滂沱の涙を流したのち、同情と哀れみを込めた目とともに頭痛薬を差し出すだろう。

 問題の多い上司に苦労させられている者同士、共感できてしまうことも多いだろうから。

 

 「もうよい……」

 

 覇気のない、枯れきった声でカイオスを止めるのは彼の主たるルディアス。

 

 「敵に制海権を握られている以上、海路による輸入は難しかろう。ならば新たに農地、牧場を開墾して食糧確保に努めるしかあるまい」

 

 開墾と言うが、属国と切り離された以上、それができるのはまだ皇国の支配下にある僅かな土地だけだ。すぐ食料が手に入るわけもなく、新たな食料生産を日本が妨害しないわけがない。

 つまり、あまり意味がない命令なのだ。

 十数分前のときと同じ絶望が脳裏をかすめたそのとき、ノックもなしに会議室に伝令と思わしき青年が飛び込んできた。

 

 「会議中に失礼いたしますっ! 各属領が反乱を起こしました! 現地には日本軍らしき軍勢も確認されており、現地人を支援しているようです!」

 

 会議の列席者たちから絶望のうめき声がもれる。怒声を上げる気力すら奪う報告だったのだ。

 どの程度日本軍が加勢しているかは不明だが、戦力を抽出させられ、やせ細った統治機構では鎮圧は不可能。援軍を送っても半端な戦力では返り討ちに遭うのが関の山。かといって大戦力の移動は、東に対日戦線を抱えている現状では自殺行為。

 そもそもインフラが破壊されきっているので、その修繕から始めなければならず、終わる頃には全ての属領がパーパルディアの手から離れているだろう。

 その後、深夜まで会議は続けられたが、徹底抗戦という名の現状維持以外なにも決まることなく終わった。

 

 

 

 

 

 会議を終えて帰宅したカイオスは、椅子に倒れ込むように座ると、机に肘をついて頭を抱える。

 

 「このままでは皇国は消滅してしまう……」

 

 手元の資料に目線を落とす。そこに記されているのは前線から報告された日本軍に関するもの。

 

 ・大型の飛行機械が味方の上を飛ぶたびに最低でも3桁の人間が死ぬ。

 

 ・これまでは大丈夫だった、深く掘った穴の中でも生き残れない。

 

 ・敵の大砲はこちらの魔導砲の何倍もの射程を持つ。

 

 ・的が大きく、歩兵銃にすら射殺されるリントブルムは役に立たない。

 

 こちらが希望を抱ける情報は1つも入ってこず、

 

 「……やるしか、ないか」

 

 決意を込めた瞳でカイオスは部屋の隅にある木箱を開ける。そこにはパーパルディアのものとは思えない機械装置があった。

 カイオスにも理解できる言語で書かれた、簡素な説明書に従いボタンを押したのち、離すと機械から雑音と共に人の声が流れる。

 

 『――こちら第2日本帝国外務省。応答どうぞ』

 

 

 

 

 

 中央暦1640年5月25日 パーパルディア皇国現勢力圏最東端

 

 パーパルディア皇国東部防衛線。

 デュロを失い、そこからズルズルと西へ押され続けているパーパルディア国防の最前線。

 そこはまさに、戦場とは地獄であることを証明する場所である。

 

 「日本軍の砲撃が来るぞー!!!」

 「退避ぃーっ!!!」

 

 毎日、規則正しく、同じ時間に砲弾の雨が降ってくる。

 そのため運よく生き残り続けた古参兵たちは時計がなくとも、いつ砲撃が始まるか体内時計で分かってしまうようになった。

 動きの遅い一部の新兵と傷痍兵を除く全員が塹壕に引っ込んだそのとき、鉄片と炎を伴う暴風が防衛線全てを襲った。

 

 「隊長! 点呼終わりました、わが隊の欠員は無しです!」

 「よし! 全員、あとは奴らが満足するまでモグラだ! いいか、絶対に外に出るんじゃないぞ!」

 

 無精ひげが目立つ部隊長が新人に強く言い放つ。

 青い顔をした新人たちがこくこくうなずくのを見た隊長は右腕である副長に向き直る。

 

 「副長、すまんが出るときは新人どもを引率してくれ。俺は先頭を走らにゃならんからな」

 「了解です。ガキどものお守りはお任せください」

 

 ドンと胸を叩き、副長が了承する。

 

 「お前ら、副長の背中見ながらくっついてけ。運が良ければ死にはしないさ。できなくても死ぬだけだがな」

 「「分かりました! 絶対に副長からは離れません!!!」」

 

 ぷるぷる震えながらも大きな声で返事をした新兵に笑みを向ける隊長。

 そのとき、ひときわ大きな揺れとともに崩れた土がぽろぽろと避難所内にいる彼らに降りかかる。

 

 「連中、一体どれだけでかい大砲を持ってきたんだ?」

 

 待避所の中でそんな声が響いたとき、待機所は中にいた人間もろとも消滅した。

 

 

 

 

 

 同日 パーパルディア皇国東部防衛線より東へ30km。日本軍砲兵陣地。

 

 指揮官の号令とともに撃ちだされる4・8tの砲弾は雲を突き抜け、この星の住人にとって神の領域とされる高度まで至ったのち、泥と硝煙で汚れた地上へ降りてくる。

 地中にめり込んだのち、創造主の意思に従い内に収めた大量の火薬に火を入れた。

 間欠泉のごとく打ちあがる土砂。爆発から与えられたエネルギーを使い果たしたあとは雨のように地上へ降り注ぐ。

 

 「弾着を確認。大百足1の砲弾が敵地下施設に命中セリ」

 『摺鉢山より大百足1、よくやった。敵の第1ラインはこれで片付いた、次の目標に移れ』

 「大百足1、了解」

 

 その様子を観測機越しに知った送り手たちは、次なる獲物へと筒先を向ける。

 そのふもとでは十数人の兵士が慌ただしく動き回り、底だけとなった薬莢――薬莢の大部分は特殊な火薬でできている――を回収車まで続くレールに乗せ、弾薬車から揚げられた巨弾を装填用のレールで転がす。

 

 「これほどのものが科学文明……人が生み出し、操れるのですか……」

 

 その光景を用意された特等席から眺めていたムーの観戦武官カスメラがもらした声は震えている。

 彼は目の前に存在する兵器が、この世のものではない怪物に思えて仕方がなかった。

 

 2式80cm自走砲。

 

 80cm砲を専用に設計された車体に載せ、自走化した陸上砲艦である。

 

 「現在発射されている榴弾の重量は4・8t、徹甲弾は約7tです。次期開発される新型徹甲弾なら8t、榴弾は6tを超えるでしょう」

 

 カスメラのお付きである尉官はセールスマンのように眼前の巨砲の力を説明する。

 

 「これほどの巨砲、パーパルディア皇国の防衛線には過剰でしょう。あなた方は本来、何に対して使うつもりだったのですか?」

 「戦艦の主砲弾すら防ぐ鉄筋コンクリート要塞などですね。それ以外では敵兵力が立てこもる大都市でしょうか。どちらも歩兵で落とそうとしたら大損害を受けますから」

 

 用意された設定を、尉官はさも事実かのように話す。

 勤勉な軍人と詐欺師が会話する中、彼らの頭上を4つのエンジンカウルを備えた爆撃機が2機飛んでいく。

 

 「あれは第2日本の……?」

 「ええ。もう間もなく、エストシラントで大きな花火が上がるでしょう」

 「……! ということは、あれは……!」

 

 いま飛んで行った爆撃機の腹に何が収まっているか理解したカスメラは、目を見開いて西の空を見た。

 そこには、硝煙をたっぷり吸った曇天が広がっていた。

 

 

 

 

 

 エストシラント近郊、陸軍基地。

 習志野機動部隊による空襲で破壊されたが、デュロ陥落を受けてエストシラントに戦火が及ぶ可能性が高まったことから急ピッチで再建が進められている。

 基地の通信機に東部防衛線との間に作られた対空監視所から報告が入る。

 

 『敵機視認! 日本軍の飛行機械です!』

 「数は?」

 『1機です!』

 

 監視所からの報告を通信士の隣で聞いていた士官は怪訝な顔をする。

 これまでの経験から、日本軍が空爆するときは必ず2桁以上の地上攻撃担当の飛行機械とその護衛機を飛ばしてくる。

 単機で来るのは戦果確認と思わしきものだけなのだが、ここ数日エストシラントは爆撃されていない。

 

 「……念のために上へ報告する。地上のワイバーン部隊にも連絡を」

 「ハッ!」

 

 嫌な予感がした士官は通信士に命令すると、上官をどう説得したものかと思案しつつ廊下を走る。

 

 結果としては、その努力が実を結ぶことはなかった。

 

 

 

 

 

 エストシラント空襲で壊滅した陸軍基地は再建こそ進んでいたが、戦訓を反映する時間、資材、人員がないために爆撃対策などは全くと言っていいほどされていない。精々が地下壕とは名ばかりのほら穴くらいのものだ。

 そんな航空攻撃からは無防備な基地へ、たった1発の爆弾が、高度6000mで侵入した3式重爆撃機連山から投下された。

 連山に気が付いていた者のほとんどが偵察機だと思っていたために、なんの警戒態勢もとることなく受けた爆撃。

 

 ――着弾と同時に、爆せる炎と風が陸軍基地全域を駆け抜けた。

 

 突貫工事で作られた指揮所も、掘っ立て小屋のような兵舎も、基地の隅に山積みとなっていた資材も、全てバラバラとなり、吹き飛んだ。

 この日、パーパルディア皇国最大の陸軍基地は、パーパルディア皇国に残された、最後のまともな陸軍戦力とともに消滅した。

 

 

 

 

 

 エストシラント上空、高度3000m。

 

 「すっ素晴らしい!!! 炸薬量1tを切りながらあれだけの威力を出せるなんて!!!」

 

 ムー視察団観覧用に用意された連山内部にて、アーノリオン・トベクルは液冷エンジンの爆音に負けない声量で叫ぶ。

 彼はムーが派遣した火薬の専門家であり、マッドの気があることから周りから敬遠されていた人物でもある。

 

 「実に、実に素晴らしいっ! あなた方が自慢なさるのも分ります! 電気で起爆する爆薬など我がムーでも理論すらありませんからな!」

 「さすがは教授。1度の実地試験で、電子励起爆薬の価値を理解なされましたか」

 

 試製1t特殊航空爆弾。

 従来の火薬とは違う電子励起爆薬を炸薬にした爆弾である。

 その威力は通常爆薬500tに相当するほどで、実験のために1発しか投下しなかったが、爆撃した連山は7発搭載してきている。

 

 「まだほとんど生産されていない希少な代物ですが、そう遠からずムーにも売却許可が下りるはずです」

 「ムー本国での生産は……?」

 「さすがに厳しいかと……。機密も多いですから」

 「そうですか……」

 

 露骨に残念がって消沈するアーノリオンに苦笑する。

 目の前の老人は、世間一般のことに関する反応は鈍いが、火薬に関わることとなると非常に表情豊かで活動的になる。ある意味分かりやすい人間だった。

 

 「……この爆撃機、一見すると4発機に見えますが、それにしては性能が高すぎるような気がするのですが?」

 「さすがムー期待の星と名高いマイラスさん、ご明察です。この連山は4発機に見えますが、実際には8発――2基のエンジンで1つのプロペラを回す機体なのですよ」

 「……無茶苦茶だ。そんな構造にしたらプロペラシャフトにとんでもない負荷がかかる。耐えられるはずが……」

 「そこは我が国新開発の特殊合金と制御装置で解決しました」

 「……………………ははは。ホント、すごいですね」

 

 世間一般からずれた老人が消沈している横で、ムー本国からの命令で爆薬試験見学に参加したマイラスは連山の説明で真っ白に燃え尽きていた。

 すでに何度も第2日本の超技術に驚かされているために、もう何が来ても驚かないと思っていた彼だが、あっさりと覆されたらしい。

 地上の地獄をしり目に、観戦用連山機内は概ね平穏だった。

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