エイリアン支配領域日本召喚   作:レシプロ至上主義者

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灰居から立ち上がる者、血の坂を上る者たち

 中央暦1640年7月28日 パーパルディア皇国 エストシラント

 

 東部防衛線が文字通り消し飛んで以降、パーパルディア皇国軍は統制を失い、エストシラントまで敗走……否、壊走を続けた。

 もはや軍勢とは呼べぬ敗残兵の群れ。それらが数十に分かれて、エストシラントにまでたどり着けたのは第2日本の攻勢が始まる前の3分の1。

 半分以上の人間が生きて帰ることなく、第2日本軍の火力を前に焼かれ、死んでいったのだ。

 そして奇跡の生還を成し遂げた3分の1側だが……、パーパルディア皇国上層部は彼らに満足な休息も、労いも与えず、最後の戦いに備えて防御陣地に配置させた。

 不満も反抗も、力で抑え込んだ。

 軍と民衆に広がりゆく皇国上層部への反感と不満。

 皇帝とその一派は、それが自分たちの命運を絶つ引き金を引かせることになったと気づかない。

 

 

 

 

 

 同日 パラディス城 大会議室

 

 「「「………………」」」

 

 湖泥の如く重く沈殿した空気の中、誰1人として言葉を発することなく時間が過ぎていく。

 全員が集まってかれこれ30分にもなろうとしているのに、重病者のような顔色で黙ったまま動かない。

 

 「……僭越ながら、このカイオスが現在のエストシラントの現状について説明させていただきます」

 

 この空気に耐えかねたカイオスが司会を買って出る。

 いつも司会役を務めていたエルトは魂が抜けて真っ白に燃え尽きた状態なので役に立たない。

 

 「日本軍は既に陸海両方でエストシラントを包囲し、多数の軍勢を張り付かせております。これにより外部からの物資が入ってこなくなり、遠からずエストシラントは飢餓に見舞われると報告が入っております」

 「具体的には……どのくらいだ……?」

 

 死にかけの老人のようにかすれた声で問うのは皇帝であるルディアス。

 未曽有の国難を前にこの若き皇帝は、心労ですっかり老け込んでしまった。

 

 「責任者の報告では、もって1ヶ月と……」

 

1ヵ月。余りにも短すぎるタイムリミットを突き付けられた大会議室の面々は絶望のあまり表情を失う。

 

 「これは最大限努力しての数字です。敵の攻撃や暴徒とかした民衆による略奪があれば、さらに短くなることでしょう……」

 

 最近行われる敵の攻撃は、夜間を中心に行われる嫌がらせの砲撃とビラまきくらいなので、物理的被害は無いに等しい。……その分、睡眠時間への打撃が痛いが、食料への被害はない。

 一方、略奪に関してはいまこの瞬間にも起きてもおかしくない。

 

 「……何か……何か手はないのか……?」

 

 レミールの縋るような言葉。かえってくるのは、沈黙のみ。

 誰もが分かっている。打開策を持ち合わせてはいないし、奇跡など起きない。

 待っている未来は、2つに1つ。

 

 自ら招いた外敵に討ち滅ぼされるか。

 内部から自壊するか。

 

 いずれにせよ、パーパルディア皇国が滅びることは確定している。

 

 (祖国の崩壊はもう避けられん……だが、形を変えて生き残ることはできる!)

 「……まだ、手はあります」

 「「「っ!!!」」」

 

 険しい表情で告げたカイオスに向けられる視線。

 目の前に垂れてきた蜘蛛の糸に縋るような目、信じられないという疑心に満ちた目、色彩のない昏い狂気を感じる目。

 三者三様の眼差しを受け止めるカイオスは苦虫を嚙み潰したような顔で俯いている。

 

 「カイオス、手とは一体、どのようなものだ! この状況を、どうにかできる手とはなんだ!?」

 「こういうことですよ、陛下」

 

 カイオスが合図を出すと、会議室前に待機していた私兵たちが素早く突入してきた。

 

 「なっ!? カイオス、貴様どういうつもりだ!!?」

 

 アルデの叫びに反応することなく、カイオスはルディアスと向き合い淡々と語りかける。

 

 「陛下、皇国はすでに亡国の瀬戸際にあります。もはや、かつてのような大国に帰り咲くことなど不可能です」

 「……だから我らを、皇国を売り渡すというのか」

 「内乱と外敵による侵略の果てに、国が無くなるよりはましです。陛下を含めた幾人かを差し出せば、形だけとはいえ皇国は残ります」

 「………………そうか」

 

 神聖ミリシアル帝国、ムーを追い越して世界を制そうという誇大妄想を抱いていた遺物の皇帝は、沈痛な表情で頷く。

 思想が遅れているとはいえ、頭脳が明晰かつ人を見る目のあったルディアスは理解できた。

 この状況で手打ちに持ち込むには、相応の生贄と相手とのコネクション、そして現政権である程度の立場にある人間でなければできない。目の前にいる男は、その全てを手にしている。

 

 「カイオスよ。皇国の未来、閉ざしてはならんぞ」

 「…………はっ」

 

 静かなやりとりを終え、出席者たちは連れていかれる。

 カイオスは、その場からしばらく動くことはなかった。

 

 

 

 その後、議会にも私兵を突入させ、政府関係者を拘束。エストシラントを掌握したカイオスは、第2日本帝国外務省に講和を打診。

 第2日本帝国政府は即座に受諾し、全軍に停戦命令が下された。

 

 

 

 

 

 日本国上空、宇宙船

 

 「パーパルディア皇国での撮影は、これにて終了ですか」

 「最初はパーパルディアを焦土にするかと思っていましたよ。それがこうなるとは……」

 「カイオスという人間が味のある役者だったようでして、交渉終戦ルートがウケると判断されましたからね。彼には戦後編も頑張っていただきましょう」

 

 戦闘の規模に反し、短期間で終わったパーパルディア皇国戦の感想を述べあうエイリアンたち。

 ロウリアよりも派手な演出が多かったこともあり、概ね高評価されている。

 

 「パーパルディア皇国の今後はクローンたちに任せるとして、次の撮影はいよいよグラ・バルカス帝国ですか?」

 「ムーは除外され、ミリシアルは論外ですからね。……そうそう、そのグラ・バルカス帝国ですが、最近技術開発が促進しているようですよ?」

 「ほう? ならこちらも手を加えて、見ごたえのある映像にすべきですな」

 「それについては統合知能にプランを出させましょう。……では、会議を始めましょうか」

 

 世間話を切り上げ、会議へと意識を切り替えるエイリアンたち。

 

 「グラメウス大陸にクローンたちを向かわせましたが、そのときアニュンリール皇国の人間がいたので、撮影ついでに確保させました。いまは情報を抜き取り終えたので、生体調査に回されたとか」

 

 魔物と自然が人間を拒む魔の大陸の奥地にて、奇跡的に生き延びていた人間たちが築き上げた都市国家。

 都市に迫る危機を大和田大将率いる第2日本帝国軍が撃ち破り、信頼を勝ち得たころ。舞台の裏側にて、奇妙な生物兵器を起動させようとしていた翼をもった人――アニュンリール人を見つけたのだ。

 

 「工作員ゆえか、あまり有益な情報は待ち合わせていませんでした。まあ彼らの隠し事の大体は暴いてあるので問題ありません」

 「アニュンリールにはグラ・バルカス帝国のあと、適当なころ合いで消えてもらいましょう」

 

 アニュンリールの寿命が決まったあと、話題はミリシアルへと移る。

 

 「以前、我々が行った支援の成果が出始めたようです。前と比べてかなり改善されていますよ」

 「おお! それは素晴らしい! かませ犬が準主役になれましたか!」

 

 褒めているとは言い難い言葉でミリシアルを祝福する。

 

 「世界帝国さまも、ようやくいいものを作れたようです。次の撮影は期待できますよ」

 

 

 

 

 

 中央暦1640年7月29日 神聖ミリシアル帝国 

 

 つい最近まで、神聖ミリシアル帝国は混乱の渦中にあった。

 原因が分からぬまま空中戦艦パル・キマイラ、海上要塞パルカオンなどが次々動かなくなっていく異常事態。そこへもたらされた、新たに発掘された魔法帝国の産物。

 状態も良好で、問題なく稼働するそれらの解析とコピーを進めていき、既存のエルぺシオ戦闘機よりも優秀なそれらの数をそろえて軍備を立て直していく。

航空技術の吸収に成功したミリシアル航空産業は、それらの技術を用いた新型機の開発に成功した。

 

 神聖ミリシアル帝国次期主力戦闘機ヴァンガード

 

 新たに発見された遺跡より発掘された、ラヴァーナル帝国戦闘機の特徴である胴体後部にエンジンを搭載するレイアウト。

 そこに二重反転プロペラとプロペラに当たらないタイミングで機銃を撃てるようにするプロペラ同調装置を搭載し、720Kmの高速と魔導銃12門という超火力を実現した。

 格納庫から引っ張り出され、エンジンに火を点す。数度の爆竹のような小さな爆発音のあと、ミリシアルの従来機では出せない、大気を破裂させるような爆音がヴァンガードのエンジン部分から発せられる。

 

 「素晴らしい、何度聞いても力強い音だ」

 

 エンジン始動を近くで見物していた中年の男が満足げな顔でつぶやく。ヴァンガードの開発者である彼は、心血注いで作り上げた飛行機の初飛行に立ち会うことを望んだのだ。

 魔光呪発式筒内点火エンジンと名付けられた新型エンジンの暖機運転が終わり、駐機スペースから滑走路へと移動する。プロペラの回転数が上がり、滑走路を駆けて空へと舞い上がった。

 

 「重すぎて既存の空母に載せられないのは残念ですが、新型には搭載できるそうです。このヴァンガードと開発中の艦上爆撃機を載せた空母機動部隊があれば、帝国はいつでも、世界中どこでも焼き払えるようになります!」

 「うむ! 魔法帝国の技術を結集し、作り上げた世界最強の航空戦力! これがあれば第2日本だの、第8帝国など敵ではない! ふうーはっはっはっはっはっ!!!!!」

 

 輝かしい祖国の未来を幻視し、開発者は大きく笑う。

 彼の目の前で、ヴァンガードは蒼穹に力強い軌跡を描いていた。

 

 

 

 

 

 中央暦1640年7月29日 グラ・バルカス帝国 本土

 

 グラ・バルカス帝国の本土。首都ラグナにて行われる御前会議。

 いつもは事前の根回しなどでつつがなく進むのだが、今回は様子が違った。

 

 「どうやら、異世界にも帝国の脅威となる敵はいるようだな」

 

 皇帝グラ・ルークスが重々しく発言する。

 皇帝権力の強いグラ・バルカス帝国において、皇帝の言葉を無視できるものなど存在しない。

 

 「陛下、情報部のもたらした情報を信用されると?」

 「逆に聞くが、これだけの資料に加え、軍部が揃って正確性を認めている情報を信じないのだ?鵜呑みにすることはできんが、ある程度の信頼はできる」

 

 軍需産業と密接なつながりのある が疑問をぶつけるが、グラ・ルークスは正論と一睨みで黙らせる。

 その手元にはレポート用紙の束があった。

 ナグアノ・レポート。元は1人の研究員が書いたレポートであり、何度か補足、改稿された末に健全な陸海軍上層部の人間によって取り上げられ、今ではグラ・バルカス帝国上層部全体に出回っている。

 

 「神聖ミリシアル帝国と第2日本帝国は強い。侮れば敗北は免れぬだろう、カイザルよ」

 「ハッ!」

 「海軍の旧式化した艦艇と航空機の更新を急がせよ。それが終わるまで、これ以上の植民地拡大は停止する。外交部はその間にムー、ミリシアル、日本への離間工作を行え。有象無象の国はどうとでもなるが、この3国を同時に相手取るのはまずい」

 「陛下、我々陸軍は……?」

 「無論、装備の更新を行う。ミリシアルとムーはともかく、日本はかなりの陸軍を持っているようだ。規模の拡大もそうだが、特に機械化の促進と戦車の性能向上に努めよ。日本が優秀な戦車を有しているなら、対抗できる性能がなければならん」

 

 この言葉は陸軍改革派とっては福音、保守派にとっては悪夢だった。

 海軍に比べて精神論が幅を利かせている陸軍は、企業との癒着もあり、師団の増設などでお茶も濁すつもりだったのだが、グラ・ルークスの一言でそれが封じられた。

 

 「グラ・バルカス帝国は世界を統べる国だ。だが、それは余の代で為さねばならぬことではない。時間がかかろうとも、確実に為すことを選べ」

 

 

 

 

 

 グラ・ルークスの鶴の一声により、グラ・バルカス帝国は兵器の開発速度を大幅に早めることとなった。

 海軍は旧式のへレクレス級戦艦の退役と引き換えにグレート・アトラスター級の追加建造。オリオン級戦艦の代替として新型高速戦艦の建造が決定。

 空母も旧式空母を一掃すべく、ぺガスス級を簡易化した量産型正規空母と巡洋艦の船体を流用した軽空母の建造が決まる。

 更に各部の設計を見直した改グレート・アトラスター級戦艦と、次世代の機動部隊を担う装甲空母の研究も始まった。

 主力艦だけではない。巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、各種補給艦に工作艦。艦隊や戦略を支える戦船たちが続々と生み出されようとしている。

 

 陸軍では海軍よりも大きな動きがあった。

 まず陸軍独自の液冷エンジン搭載戦闘機の開発。これまで海軍のアンタレスに一本化されていた帝国戦闘機に新たな機種が加わることになり、補給と整備に問題が出ると反発もあったが、制約の多い艦載機よりも陸上機のほうが高性能になりやすいので、勅命を盾に押し通された。

 また保険も兼ねて本機は空冷エンジン搭載型も同時並行で開発、試作することが決まった。

 

 次に新型戦車の開発。

 日本軍の情報から、高射砲を改造した対戦車砲を搭載した中戦車の開発が決まり、75mm砲と50mmの装甲を持つ、これまでのグラ・バルカス帝国の基準では重戦車となる代物となった。

従来の戦車を駆逐する勢いで生産計画も立てられ、派生車両の開発も進められることとなる。

 戦車以外の陸戦兵器の開発も、戦車に劣らぬ勢いで進んでいった。

 

 他にも陸海軍共同でのレーダー、4発爆撃機、滑空魚雷、オートジャイロの研究が陸海軍上層部の間で合意され、軍事国家に相応しい予算を与えられてグラ・バルカス帝国軍の改革は始まった。

 なお、そのしわ寄せとして誘導兵器やジェットエンジンに関する予算が削られたが、気にする人間は少なくとも上層部の中にはいなかった。

 

 

 

 

 

 中央暦1640年7月31日 グラメウス大陸奥地

 

 場所が変わってグラメウス大陸にて、大和田は魔物の溢れる大陸を開拓すること7カ月、遂に目的地までの道を切り開いた。

 

 「……あれか?」

 「はい。あれが上からの情報にあったエスペラント王国でしょう」

 

 かつて勇者たちが魔王を封印したあと、勇者たちに同行した者たちの生き残りが築き上げた都市国家。

 隔絶された環境にありながら、そこそこ進んだ技術を有する国であり、国交開設をお題目とした撮影対象として目を着けられた哀れな国でもある。

 

 「それでは……棍棒片手に笑顔で交渉といきますか」

 

 88mm砲を城門に向けながら、大和田を護衛する1式中戦車はエスペラント王国最初の訪問者となった。

 ここでの活躍の後、偶然捕獲した有翼人が価値ある個体だったことで創造主たちの目に留まり、次の作戦でも抜擢されることになるのだが、今の大和田にはまだ知る由もない。

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