改めて見直して、見づらいと考えた結果こうしました。
中央暦1639年5月22日 11:00 ロウリア王国 王都ジン・ハーク
未だに戦禍の爪痕が残るジン・ハーク。駐留軍が目を光らせる中、王城では調印式が行われていた。
降伏調印式。ロウリア王国という国家の敗北と終焉を旧ロウリア王国の人間が正式に認める儀式。
戦犯として拘束されたハーク・ロウリア34世に代わりロウリア王国側の代表となった王宮魔導師ヤミレイが淡々と降伏文章にサインする。
「ここにジン・ハーク平和条約締結を宣言します。ロデニウス大陸に自由と平和が満ちあふれることを約束しましょう」
日本の代表が高らかに宣言し、日本とクワ・トイネの外交団の人員が盛大な拍手を送る。
「自由と平和か……」
黒く淀んだ瞳で眺めながらヤミレイは呟く。
目線を下に向ければ、先ほど自身がサインした降伏文章の内容が入ってくる。
1・ロウリア王国は北の港を含めた北部領土の一部を第2日本帝国に割譲する。
2・ロウリア王国はクワ・トイネ公国との国境から自国側に向かって100Kmを非武装地帯とする。
3・ロウリア王国は賠償金として第2日本帝国の年間国家予算額3年分を第2日本帝国に、1年分をクワ・トイネ公国に支払う。返済期限は30年とする。
4・3の賠償金は原則として金で支払うものする。また当事国の了承が得られた場合に限り、金以外の物品、もしくは国内の利権で支払うことを許可する。
5・今後のロウリア王国の閣僚人事は第2日本帝国が行う。
6・第2日本帝国はロウリア王国再建のために命令権を有する政治・経済顧問団を派遣する。
7・排日活動の禁止。
8・ロウリア王国は国内及び周辺地域の治安回復のために駐屯する、日本軍基地用の土地を提供する。基地の運営費はロウリア王国は負担する。
要約すればロウリア王国は傀儡国家になれ、という内容だった。
敗戦前のロウリア王国ですら国家予算全額投入しても返済に50年はかかる金額の賠償金を、少なくない面積の国土が荒廃した現ロウリア王国が30年で支払えるわけがない。
必ず期限延長を申し入れなければならないだろう。
加えて此方に命令権を持った顧問団。閣僚人事の選定を向こうが行うことも合わさり、王国の政治経済は日本の手の内に収まることとなる。
「惨め、というしかないな」
それでもヤミレイはまだ死ぬつもりはなかった。
ここで死ねば楽になれるだろう。凋落した祖国が敵国に良いようにされる様など見なくてすむ。
しかしそれでは先に死んでいったパタジンを始めとする戦友たちに申し訳が立たない。生き残った以上、自分に出来る範囲で祖国の未来のために働かなくては、死んだ後彼らに会わす顔がない。
調印式終了が告げられるとヤミレイは指定された部屋へ歩き始めた。淀んだ瞳と暗い雰囲気を纏いながら自分が祖国のために何が出来るか考えつつ歩く様子は、愛国者というより亡霊に近かった。
空中に投影された画面で流れる映像。航空機がワイバーンをたたき落とし、戦車が敵兵を踏みつぶしていき、土と血にまみれた男達が地獄とかした戦場を駆け抜ける。
映画を知っている者ならば戦争映画だと気づくそれを視聴すること1時間。スタッフロールに入った段階で声が上がる。
「素晴らしい出来ですね。これなら宇宙市場にも売りに出せるでしょう」
議長役の賞賛の声はこの場全員の感想だった。
少なからぬ資材を投じたプロジェクト。その成果は大成功といってよいものだった。
「撮影班も見事ですが、情報班の働きも見事でしたよ。おかげでロウリア側の会話などもきちんと撮影できました」
「いえいえ、それほどでも。それに働きといえば映像班もです。彼らの特殊映像がなければ、いろいろ妥協せざるを得なかったでしょう」
互いに仕事ぶりを褒めたあと、次の議題に移る。
特に重要視されているのが、時空間技術を有しているラヴァーナル帝国に関する事だった。
「ラヴァーナル帝国についてですが、各地の遺跡から見ても、彼らの技術力はこの惑星の水準を超えています。第2日本に対処させるのであれば兵器の切り替えは必須でしょう」
「いっそ、我らで先制攻撃を仕掛けるのは? エーテルの貯蓄も余裕が出てきましたし、充分やれるかと」
過激な意見に議長役は首を横にふる。
「私も考えましたが、統合知能は否定的なようです。何でも『敵がこちらに対して有効な報復手段を有しているのか。それが判明するまでは実行すべきではない』だそうで」
「それは“現段階では”実行すべきではない、ということですな。ではまず時空のどこかにいるであろう彼らに探りを入れましょう。彼らの保有する技術がさほど脅威でなければそれでよし、脅威となるならば全力で排除する。これでどうですか?」
それが妥当だろう、と納得したエイリアンたちは最後の議題に取りかかる。
「今回の撮影に協力してくれたロウリア王国ですが、撮影の課程で面白いことを2つほど発見しました。1つはパーパルディア皇国についてです」
役員相当のエイリアンたちはパーパルディア皇国と聞いて興味深そうな顔をする。
パーパルディアは次の撮影地としてプロジェクトの企画課が熱い視線を向けていた。そのためこの会議に出ているエイリアンは企画書に添付された資料で知っていたのだ。
「ジン・ハークにいた怪しげな連中の記憶を引っこ抜いたところ、どうもパーパルディア皇国内部の一部勢力が極秘に支援してたようです。国家として動いていたわけではありませんが、これは次のプランの際に役に立つかと」
「ええ、我らが主人公、第2日本帝国の正当性を裏づける良い材料です。もっとも、彼らの場合ですと、むこうから勝手に用意してくれそうですけどね」
この言葉にエイリアンたちは失笑、あるいは嘲笑を浮かべる。
パーパルディア皇国が目をつけられた理由の1つがその好戦性と野蛮さだからだ。こちらの手を汚すことなく撮影の舞台を用意してくれる、都合の良い存在である。
加えて腐っても列強国。広大な国土を活かした派手な戦闘を期待でき、打倒した暁には第2日本も列強の仲間入りを果たすであろう。そうすれば属国なども手に入り、その保護と称して戦争の機会も増える。
彼らのなかではパーパルディア皇国を滅ぼすことは既定路線だった。
「パーパルディア皇国は下ごしらえが終わり次第潰すとして、もう1つはなんでしょう?」
「アニュンリール皇国についてです」
「アニュンリール皇国?」
アニュンリール皇国という国家を知る者は少ない。鎖国政策を採っており、文明レベルもこの商売で必要とされるほどではないということで、発見時にはロウリアでの撮影が佳境に入っていたこともあり放置されていた。
「偶然確保した興味深い死体を検査したところ、どうも実験体かなにかだったようです。その実験体の経歴からいろいろと辿るとアニュンリール皇国にたどり着きました」
資料が目の前に表示される。そこには彼らの基準で黎明期の近代国家の光景が映し出されていた。
「どうも彼らは鎖国政策をとって自分達の情報を外に漏れないよう細心の注意を払っているようです。……その割にはあちこちに粗が目立ちますが、何か事情があると見てよいでしょう」
「それなりの立場にいる人間か、もしくは内部の事情に詳しい者を捕らえられれば良いのですが……」
尋問担当のエイリアンが口惜しそうに呟く。
「まあそれが出来れば1番ですが……、当面は秘密裏に調査するだけでよいかと思います。どうですか?」
「「「異議無し」」」
中央暦1639年6月12日 07:00 ロウリア王国西部 イル空軍基地
敗戦に乗じて独立を図った西部諸侯の鎮圧のために建設された基地。建てられた土地から取られた名を冠する基地では次の戦争へ向けた準備に入っていた。
「新型機の調子はどうかね?」
「はい、全機快調。訓練、出撃ともに問題ありません」
基地司令の視線の先で、滑走路近くに並べられた戦闘機から整備員たちが離れていく。出撃の準備が整ったために他ならない。
プロペラを回し、大柄な機体を滑走路まで前進させるその機体は1式戦闘機ではなかった。
2式戦闘爆撃機雷電。今年採用されたばかりの第2日本の人間が――エイリアン製機材の支援を受けたとはいえ――自力で設計、製造した機体である。
3400馬力の空冷エンジンを装備した重武装の戦闘機にするというコンセプトで開発されたこの戦闘機は、疾風にはなかった過剰なまでの防弾装備と20mm機関砲6門の火力を持った上で、航続距離は増槽を含め最大で5200Km、最高速度720Kmをたたき出したモンスターマシンだ。
クローン兵士たちの疾風に対する不満――操縦席が狭い。火力が不十分。速度も航続距離も足りない。などの不満点を全て解消した戦闘機であった。
エイリアンたちもクローンのやる気が上がり、作品の良質化に繋がるのなら機材の変更程度は寛容だった。製造費もほとんどタダ同然なのだから。
「それで“お客さん”はきちんと見学に来ているかね?」
「はっ! 既に光学迷彩浮遊カメラで確認済みです」
「よろしい、ではあれも引っ張り出しておいてくれ。よく見える位置にな」
基地の管制室でそのような会話が成された後、格納庫から2機の戦闘機が出てくる。
その様子を物陰から窺う者がいた。
「あれが第2日本帝国の戦闘機か……」
グラ・バルカス帝国の諜報員は基地近くの草むらに隠れてイル空軍基地の様子を観察していた。
祖国より遙か東に位置するこの大陸にて確認された新国家、第2日本帝国。グラ・バルカス帝国に匹敵する可能性があるということでロデニウス大陸に潜入した諜報組織は総力を挙げて日本に関する調査を行った。
何人かの犠牲を代価に今日、この基地で日本の戦闘機が訓練を行うという情報を手に入れた現地の指示役は彼に基地の偵察、可能ならば写真撮影を命じたのだった。
「にしてもデカいな。重量、アンタレスの倍以上あるんじゃないか?」
望遠鏡を通じて見た先の戦闘機。2式戦闘爆撃機雷電を見て諜報員は呟く。
スマートなアンタレスと違って樽か瓶のようなふとましい胴体と幅広く角張った主翼。流麗とはほど遠い、無骨で不格好な戦闘機に見える。
「あれだけデカいってことは重戦か。まあ格闘戦に持ち込めばアンタレスの敵じゃないな」
諜報員は見た目の印象から雷電を旋回性能を重視した軽戦闘機ではなく、速度を重視した重戦闘機と判断する。
「ん? 違う戦闘機か?」
格納庫から引っ張り出されてきた雷電とは戦闘機に望遠鏡を向ける。
今度の戦闘機は雷電と違って引き締まったボディと流線形の美しい機体だった。
「液冷エンジンか……。情報にはなかったが、こいつも新型か?」
諜報員はじっくりと未知の新型機――試製3式戦闘機飛鷹を考察する。
ひとしきり観察し終えた諜報員は、バックから事前に用意したカメラを取り出して撮影の準備に入る。
「……こいつといい、さっきのやつといい、日本人ってのは角張った造形が好きなのか?」
何枚か写真を撮った諜報員が思わずといったようにつぶやく。
実際に雷電も飛鷹も主翼など角張っている部分が多い。全体が優美な曲線で構成されたアンタレスと比較すると無機質な印象を受ける。
「まあ、そういうのを考えるのは研究者とかの仕事か」
自分の仕事はあくまで調査と報告。そう割り切った諜報員は充分な数の写真を撮った後、拠点まで帰還した。
背後にその様子を眺める機械の眼があると知らずに彼は拠点へと帰還する。
暗号化された資料や各種機材が置かれ、同僚と上司が訪れる拠点に敵国の“目”を招き入れたことに、彼が知るときはこなかった。