エイリアン支配領域日本召喚   作:レシプロ至上主義者

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 グ帝の先進技術実験室に関する独自設定(?)があります。

 先進技術実験室がいつレイフォルに出来たか分からなかったので、この時期にあるのはおかしいと感じてもスルーでお願いします。


異世界各国の動き

 中央暦1639年8月15日 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

 第3文明圏の覇者であるパーパルディア皇国。8月に入ってから、この国は不景気に覆われていた。

 これまで自国の工業製品を(パーパルディア視点で)適切な価格で文明圏外国家に販売し、大きな利益を上げていたが、4月の中頃から売り上げが落ちていき、7月が終わる頃には1つも注文がこなくなった。

 

 「何故、栄えある皇国の製品が売れぬ?」

 

 他国との貿易を管理する人物の疑問は皇帝ルディアスも抱いており、外務局を中心とした調査が行われ――1週間で答えが出た。

 第2日本帝国。最近、ロデニウス大陸にて台頭してきた文明圏外国家。この国がこれまでパーパルディア皇国の貿易相手を奪っていったことが分かった。

 奪う、といっても武力で奪ったのではない。単純に両者との取引に感じる魅力の差だ。

 パーパルディア皇国は文明圏外国家との貿易のさい、相手に奴隷の供出を要求する。立場の違いを示しつつ労働力の確保ができるこの手法、当然ながら文明圏外国家からしてみれば面白くない。

 売り物にしても、どれもこれも法外な値段ばかり。当然軍事に関わる代物は一切売ってはくれない。

 その不満を突くかのように流れ込んできたのが第2日本帝国だった。

 パーパルディア皇国よりも高品質かつ良心的な値段。軍事関連の商品も(第2日本帝国の審査をパスすれば)売ってくれ、別料金となるが教官や技術者も派遣してくれる。

 結果、大した商品を売ってない上にサービスの悪いパーパルディア皇国は廃れ、価格と品質とサービス全てで勝る第2日本帝国は繁盛した。

 突如現れた商売敵が成功していくさまを、ただ指をくわえて見ているほどパーパルディア皇国は腑抜けてはいない。

 

 

 

 

 

 「日本とやらを懲罰せよ」

 

 皇城にて行われる会議にて皇帝ルディアスが会議の開始と共に告げた、あまりにも雑で暴虐な殺戮の命令。

 それに真っ向から反対する者など皇国にはいない。しかし意見する者はいる。

 

 「陛下、お待ちを。日本とかいう蛮国に攻めるのは、アルタラスとフェンを攻め落としてからにしていただけませぬか?」

 「む、何故だ? 説明せよ、アルデ」

 

 皇国軍最高司令官のアルデが立ち上がり説明を始める。

 

 「この2カ国はもとより侵攻の予定があったことと、アルタラスは魔石資源が豊富だからです。収奪すれば皇国の経済を少し上向きにさせられるかと」

 「なるほどな……よかろう。日本懲罰はアルタラス、フェン両国を滅ぼしたあとだ。ああ、それと占領を終えたら日本に使者の派遣を命じろ。奴らに我がパーパルディア皇国を怒らせたことを理解させねばな」

  

 列強、パーパルディア皇国は我が道を突き進む。

 それがこの世ならざる者の善意で舗装された道でも構わず。

 

 

 

 

 

 9月21日 グラ・バルカス帝国  レイフォル 先進技術実験室

 

 グラ・バルカス帝国の情報組織において他国の技術解析などを担う先進技術実験室。そこに在籍する研究員のナグアノはロデニウス大陸から届いた資料を見ていた。

  

 「これは……、最近出てきた第2日本帝国とかいう国のか」

 

 資料には多数の写真が含まれており、現地の諜報員が得た、いかなる些細な情報も残さず記載されている。

 ナグアノが手に取った資料には馬鹿でかい空冷エンジンを積んだ戦闘機、雷電を正面から撮った写真が添付されている。

 

 「しっかし見れば見るほどデブだな……。雷電っていうのか、アンタレスとは大違いだ」

 

 小さなエンジンとそれに合わせた細身のボディ、空気の流れを計算して設計されたラインが組み合わさったアンタレスと比較すると雷電は無駄が多いように見える。

 

 「でも機銃はこいつの方が多いな……。エンジンもデカい分、出力はアンタレスよりあるだろうし、降下速度も速そうだ」

 

 一方で敵の優れた部分も見逃さない。

 20mmと思われる大きな銃口が片翼3つ、両翼合わせて6つもあることから火力で負けていることは一目で分かる。

 エンジン出力が優れていると言うことは、それだけ機体設計の際の選択肢が増えるということだ。パイロットを守る防弾装備を厚くしたり、大柄な機体にすれば燃料をたくさん載せられる。

 

 「こいつはエンジンパワーにものを言わせた重戦ってことか。会敵時に高度で負けていたら厄介だろうが、低空ならアンタレスの勝ちだな」

 

 資料を読み終え、分析したことを報告書に書き記していく。最後に雷電の資料に『要追加調査・要研究』の判子を押して次の仕事に取りかかる。

  

 「次はこいつか。機首の細さからして液冷エンジンか……」

 

 今度は試製3式戦闘機飛鷹の分析を始めた。

 グラ・バルカス帝国では中々見られない液冷エンジン搭載機は見ていてナグアノの好奇心をくすぐる。

 

 「液冷の飛行機を運用できるって事は、工業力に自信があるのか? 雷電ってやつと違ってこいつは全体的に洗練されてるし、速度もこいつの方が速いだろう」

 

 エンジンは基礎工業力の差がはっきり出る分野だが、液冷エンジンはその最たる物だ。

 まず製造に高い技術が要求される。空冷より構造が複雑になりがちで、冷却液などが漏れたりしないよう部品の精度が高くなければならない。

 複雑な構造をしたエンジンを一定以上の品質で大量生産し、かつ高精度の部品を安定して供給するためにはそれ相応の工業力がなければ不可能だ。

  

 「第2日本帝国……想像以上にやっかいな国かもしれないな」

 

 推測できる第2日本帝国の国力を想像してナグアノは冷や汗を流す。

 あとで自身の考察も含めた、日本に関して注意を促す報告書を作成することを決意した。

 この日、ナグアノが作成した報告書が巡り巡って意外な事態を引き起こすことになる。

 

 

 

 

 

 9月30日 ムー国 

 

 ムーの技術士官、マイラスは上司の命令でアイナンク空港に訪れていた。

 第3文明圏から国交を結びに来たという第2日本帝国という国が、飛行機械で空港に着陸したらしいのだ。技術士官として分析してくるように、と命令されたマイラスは疑念と好奇心を抱きながら空港の駐機場へ歩いて行く。

 

 「これが……」

 

 人だかりをかき分けて、駐機していた飛行機械を一目見るやマイラスは声を漏らす。

 ムーのマリンと違い主翼が1枚しかない単葉機。この時点で既にムーの航空技術を凌駕していることが分かる。

 高出力のエンジンを装備し、1枚の主翼に充分な強度を確保しつつ実用的な重量に抑えることが出来なければ単葉機は使い物にならない。どちらもムーにはないものだ。

 誘導したパイロットが「マリンでは追いつけない」という証言も、この機体が技術的な無理をして単葉機にした張りぼてなどではないことを物語っている。

 

 「こいつは凄い……!」

 

 マイラスは第2日本帝国の外交官を空港まで運んできた飛行機械――1式艦上攻撃機深山から目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 最初に見せつけた主力戦闘機マリンが旧式機だとはっきり言われたり、博物館で第2日本帝国がムーと同じ転移国家だと判明したりと、マイラスの常識が木っ端微塵に粉砕されたムー案内。

 その最後のスケジュールである、ラ・カサミ見学のために軍港に来た第2日本帝国使節団の面々。彼らを案内しているマイラスは外交官の1人から少しでも情報を得ようと質問していた。

 

 「――つまりあの飛行機械は貴国で製造された物だと?」

 「ええ、設計から製造まで、全て我が国単独で行いました。先ほどの1式艦攻でしたら民間型も多数製造され、国内外で飛行しております」

 

 マイラスは日本の外交官たちを案内しながら思考する。祖国ムーよりも優れた航空機を保有する相手にどれだけ有利に交渉を進められるかを。

  

 (あれだけの航空機を自力で作れる、か……やはり第2日本帝国は航空機関連の技術だけでなく、工業力も我が国を越えているということか)

 

 技術が優れていても、それを活かすには工業力、もっといえば国力が求められる。

 第2日本帝国の工業力は技術力相応のレベルとみて間違いない。目の前の外交官が嘘をついていなければ、だが。

 では造船技術はどうか? 1つの分野で負けていても、他の分野で相手より優れていればそれは交渉材料となり得る。

 ラ・カサミはその材料として不足のない存在だ。

 

 「これが我がムーの戦艦ラ・カサミです。40口径30・5cm連装砲2基搭載し、最高で18ノット出せる我が国最新鋭の戦艦です」

  

 マイラスはラ・カサミを簡潔に説明して日本側の反応を窺う。

 

 (どうだ……?)

 「ほう……旋回砲塔を備えた前弩級戦艦ですか。この世界の基準ではかなり進んでいますね。流石は機械文明先進国として知られるムーだ」

 「武装と速度は物足りませんが、戦列艦相手なら無敵でしょう。対空兵装があまりないようなので、単艦の場合、ワイバーンが数頼みで押してきたら厳しいかもしれませんね」

 

 外交官と武官がそれぞれ感想を述べる。どちらもマイラスの関心を大きく引く内容だった。

 

 (前弩級戦艦? よく分からないが日本には戦艦に独自のくくりでもあるのか? それに武装と速度が物足りない?)

 「すいません、前弩級戦艦とはなんでしょう?」

 「ああそれは転移する前、我が国の友好国が建造した画期的な戦艦、ドレットノートを基準にしたものでして、ドレットノート以前の戦艦を前弩級戦艦と呼んでいるのですよ」

  

 戦艦ドレットノート。現代でも使われる弩級という言葉を生み出したこの戦艦は当時としては非常に先進的な要素を詰め込んでおり、このあと開発・建造される戦艦は皆少なからずこのドレットノートの影響を受けている。

 

 「前、があるということはそれを越えた戦艦もあるのでは?」

 「ほう、鋭いですね……。ええマイラスさんのいうとおり、超弩級戦艦があります。我が国の保有する戦艦は全て超弩級戦艦です」

 「! それは……」

 (日本はラ・カサミを越える戦艦を持っているということか!)

 

 航空機技術だけでなく艦船技術でも負けていることを理解し、震えだした手をマイラスは必死になって押さえる。

 

 「ち、ちなみにその超弩級戦艦の性能はどの程度なのでしょう……?」

 「我が国の主力戦艦である大和級でしたら55口径46cm三連装砲3基搭載し、最大速力は30ノットを超え、巡航速度で18ノット出せますね。転移以前の列強国でもそう変わらぬ戦艦が多数建造されていましたよ」

 「あ、はは……。そ、それは凄いですね……」

 

 最も燃費の良い速度である巡航速度でラ・カサミの最高速度と同等で、主砲はラ・カサミの砲が玩具に思えるレベルの大口径砲を多数載せた戦艦が複数存在していたという事実にマイラスは乾いた笑みを浮かべてしまう。

 機械文明先進国である日本に自国の最新鋭戦艦を見せて、日本に侮られぬようにするつもりが、さらに日本との格の違いを見せつけられた。

 もうどうすれば、と内心頭を抱えるマイラスに福音となる言葉が耳に入る。

  

 「これだけ科学の進んだ国家なら、我が国の工業製品の輸出に最適ですね。文明圏外国家の多くには売れない武器も多少なら問題はないでしょう」

 「っ! それは、つまり……。あの飛行機械や、各種工作機械を」

 「はい、売却しますよ。政府の許可が下りて、なおかつきちんと代価を払えば、ですが」

 

 一転して心の中でガッツポーズをとるマイラス。

 第2日本帝国の飛行機械を輸入できればそれを参考に一気に単葉機の開発が進むだろうし、工作機械は飛行機械だけでなくムー全体の工業力向上に必須だ。

 それを相手はあっさりと売ってくれると言った。――実際にはいくつかのハードルがあるのだが、舞い上がったマイラスの頭からは抜け落ちていた。

 

 

 

 

 

 後日、国交・通商条約締結のあとにマイラスは上司から第2日本帝国からの輸入を希望する物品の調査及び報告書の作成を命じられる。

 航空機や車など陸海空軍合わせて500を越える日本製品の調査。やりがいのある仕事で、ついでに知的好奇心を満たせると喜んでいたのもつかの間、机に積まれた書類の山に絶句する。

 

 「……これを1人でやれとおっしゃるので?」

 「安心しろ、何人か技術士官と若手で有望な軍人を回す。しっかりとしたやつを作れよ、おそらくここで作られた書類は政府にも回される」

 「えっ」

 

 それはつまり政府が対日関係を決める上で使われるであろう、自分と所属する組織どころか祖国ムーの未来を決めかねない超重要な書類だということ。

 はっきり言ってマイラス程度の階級の人間に任せる仕事ではなく、もっと階級が上の人間が十分なバックアップを受けて行う仕事である。それがマイラスに任せられた理由は単純。

 

 「軍の上層部、その一部は第2日本帝国の技術力を理解しているが、大多数の人間にとって日本はまだ文明圏外国家としか認識されていない。そんな仕事をやりたがる奴はいなかったんだ」

 

 文明圏外国家の生産品の調査。つまりムーと比べれば原始的な品物を現地に行って調べてくる、明らかに左遷させられた人間に任せられそうな仕事である。

  命令されればやるだろうが、進んでやるかと言われれば否だろう。

 

 「何人かを連れて日本に行け。向こうも気前よく新鋭戦艦の見学や航空機の試乗も許可してくれた。学べることはたくさんあるぞ」

 (それは仕事もたくさんあるという事なのでは?)

 

 マイラスの疑問に答えるものはなく、後日配属となった同僚たちと共に第2日本帝国へ旅立つこととなる。

 戦略爆撃、通商破壊、電撃戦……ムーが近代戦争のイロハを学ぶ上で大いに貢献することとなる彼らの出発は、酷く地味なものだった。


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