ようやく書きあがりました、パーパルディア皇国との開戦です。
雑のなのは仕様なのでご勘弁を……。次話? 何のことやら(目そらし……
中央暦1639年10月20日 日本上空 宇宙船
「パターン1ではなく2を選びましたか。さっさとこっちに来るかと思いましたが」
パーパルディア皇国の侵略の矛先が、第2日本帝国ではなかったことを残念そうな口調で語るエイリアンの1人。
次の商品製作に意欲を出していた彼にとって、予定が先延ばしになることは不満だった。
「まあ考えとしては間違ってはいません。アルタラスの鉱山はそこそこ魅力的、第2日本帝国に近いこの2カ国を攻め落とせば我々への脅しにもなる。そうして不平等条約を結ばせて搾り取った後、攻め滅ぼす。徹底抗戦を選んでも結局のところやることは変わらない。合理的といえば合理的です」
「前提条件が間違っていなければ、確かに合理的ですね」
パーパルディアの戦略が通じるのは、格下が相手ならの話だ。
格上である第2日本帝国相手にそれを行うと戦争の大義名分と、自国への攻撃に適した土地を合法的に占領する理由まで与えてしまう愚策でしかない。
これが実行されればパーパルディア皇国は13階段の1段目に足をかけることになる。
「クローンたちの準備は? 予定より少し遅れた開戦になりますが」
「開戦計画は統合知能のチェックを受けてゴーサインが出ています。我々も目を通しましたが、画になりそうな計画でしたよ」
「統合知能、企画部双方が問題なしと判断したならば、大丈夫でしょう」
パーパルディアに関する話はそこで終わる。
彼らにとってパーパルディアは商品を作るための原料兼ロケーションに過ぎない。問題なく進んでいるプロジェクトの1要素に長々と話す価値などないのだ。
「例のラヴァーナル帝国ですが、時空間技術を使うまでもないようです。彼らはこの星に帰還するためにビーコンを配置したようなのですが、宇宙空間にある衛星型の物を全て潰せば転移が成功することはまずないでしょう」
「確かなのですか?」
「ええ、統合知能のシミュレーションでは無事に転移できる確率はゼロ。海に没するか宇宙空間に放り出されるか、いずれにせよ転移時の出来事で滅びるようです」
「大変よろしい。ですが万が一に備えて迎撃準備はしておきましょう。では次の議題を」
エイリアンたちの中でラヴァーナル帝国がパーパルディア皇国以下の存在になったあとの議題は現世界最強国家のことであった。
「神聖ミリシアル帝国。あまりおいしくない国ですね……」
「ええ、パーパルディア皇国やグラ・バルカス帝国と違い血の気が多いとか野蛮さから遠い文明国といえる国です。態度のでかさは大国故の致し方ない程度で収まっていますし、正当性を確保した上で殴るのは難しい相手です」
「軍備もラヴァーナル帝国製の発掘兵器以外は貧弱。発掘兵器は格下相手に強すぎるせいで蹂躙される、と。機材を更新すれば勝てるでしょうが、商売のことを考えると、それはよろしくない。……いやはや、実に面倒な国ですな」
メッキの世界帝国に対するエイリアンたちの評価は面倒な奴の一言だった。
敵役にするには発掘兵器があるせいで採用しにくく、味方にするにもメリットはあるがそれに負けないくらいデメリットもついてくる。実体はお寒い限りとはいえ、ガワは立派なので影響力が無駄にあるせいで無視も出来ない。
「……何か被害を受けるまでは放置。何かあれば発掘兵器だけでも我々が裏から無力化、でいいのではないでしょうか?」
「「「異議なし」」」
面倒くさいのは実害が出るまで放置。それは宇宙でも変わらない法則の1つ。
中央暦1639年11月29日 14:20 旧ロウリア王国領 北の港
かつて第2日本帝国を含む3ヵ国を征服すべく用意された大艦隊の寝床であったこの港は、新たな支配者の手で大規模な拡張工事が行われた。
かつてはロウリアの木造船を受け入れるのが精々だった港は、日本の金属製大型艦艇を大艦隊1個丸々受け入れられるほどとなり、大和級戦艦や大鳳級正規空母が埠頭につながれている。
最近、今頃になって反乱を起こしたロウリア西部の貴族数名を叩き潰したときに接収した領土――反乱貴族がロウリア王国からの独立を宣言したので、第2日本帝国がそれを鎮圧開始直前に承認。戦後に『敗戦国を併合する』と宣言して獲得した新領土――に新たな軍港建設に適した立地が見つかったので、いずれはそちらとこの港がロデニウス大陸における第2日本帝国海軍の拠点となるであろう。
ロデニウス駐留艦隊司令部の一室から艦隊を眺めながら、基地司令の日暮中将が口を開く。
「それで? パーパルディアがこっちに来るというのは本当か?」
日暮中将の問いに本土から派遣された特務士官――諜報活動を始めとする非正規、非合法の任務に就く士官が答える。
「フェン、アルタラス両国を制圧し終えたこのタイミングで我が国に外交官を派遣するよう要求してきました。飲めるような要求を出さないのは確実。となれば来るでしょう」
「飲めなくとも交渉の余地のある選択肢を出してくる可能性は?」
「あり得ません。当初はその案も検討されていたようですが、対日外交のトップにレミールが就いてから、それらの案は全て破棄されたようです」
狂犬レミール。パーパルディア皇国の皇族であり、主に内政で活動する人物。
大国の特権階級らしく、自国より立場の低い国の人間を過剰なまでに蔑視し、敵国の住人を見せしめとして殺し、早期に降伏させることを慈悲とのたまう暴君の鏡のような女。
「穏健派のカイオスは、所属する第3外務局が第3文明圏近くの文明圏外国家相手に忙しくなったためそちらに掛かり切りだそうで。我が国との貿易を止めろと、恫喝して回っているのでしょう」
「……我が国は貿易用の輸送船団に護衛駆逐艦をつけているのだぞ? 実力は各国首脳にお披露目済みだ。あの護衛艦艇とその力を見て、戦列艦如きに恐怖を感じる者などいるはずなかろうに……」
「そのことすら皇国上層部は把握できていないようです。我が国の脅威に感づいているカイオスがいなければ、強硬派を諫められるのは皇帝ルディアスのみ」
「そしてルディアスには止めるつもりなど毛頭ない。ならば我が国との開戦は、最短ルートで始まるな」
パーパルディア皇国との開戦はどうやっても避けられないし、避けるつもりもない。だがそこまでの過程によって商品(作戦)の内容が変わるので、日暮を含めて対パ戦に関わる将校は皆気にかけていた。
そして最短ルートの場合は海軍が一番槍を務め、中盤以降は脇役に甘んじることとなる。
日暮としては、一番槍の名誉はありがたいが、活躍の機会が減るのは嬉しくないので海軍が長く活躍する搦め手ルートで来てほしかった。
「お天道様は喜んでいますよ。空から小判を降らせそうな勢いで」
「それはそうだろうよ。なんせパーパルディアがすぐこっちにこないと知って落胆したのは、奴さんだからな。おかげさまでせっかく整えた出港準備が無駄になった」
「そうでもないかもしれませんよ」
怪訝な顔を特務士官に向ける。あの製造者たちがこちらの尻を叩きにくることは考えていた。
だがそれは向こうがこちらに宣戦布告する、あるいはこちらに開戦の大義名分を与えるなにかが起きてから。つまり本土から派遣される外交官がパーパルディアに到着する1週間以上後と考えていた。
しかし特務士官のいいようは、まるで明日にでも尻叩かれた統合参謀本部から出撃命令が来そうなもの言いだ。
「トーパ王国に用意してもらった船に現地で“用意された”外交官を乗せてもう間もなく到着するようです。遅くとも今日の夜には港に入港するかと」
「…………戦争狂どもが」
恨みのこもった日暮のつぶやきに特務士官がくつくつと笑う。
それに呼応したように、日差しに照らされた大和と武蔵の主砲が輝きを増したように日暮には見えた。
11月29日 14:20 第2日本 横須賀 実験飛行場
日暮がぼやいていたときと同じころ、第2日本の最先端航空技術(エイリアンから公開してもよいと許可が出たもの)が集められたこの地にてマイラスは同僚たちと共に感嘆の声を上げていた。
「すごいな……」
「こんな戦闘機を作れるのか……」
試製天雷。次世代の高速戦闘機として設計されたこの機体は排気タービンを備えた4000馬力空冷エンジンを搭載し、冷却は機首の強制冷却ファンと機体下部の空気取り入れ口から取り込んだ空気で強引に冷やすという力業で行う、システムも性能もパワーが全てと言わんばかりの戦闘機。
「これと比べたらマリンがおもちゃだな」
「……やめてやれよ。これと比べるなんてマリンがかわいそうだろ?」
彼らの言う通り天雷とマリンは文字通り格が違う。
全金属製と布張りと生き物でいう骨格からして既に負けている。そこからエンジン、機銃と同じ戦闘機というカテゴリーゆえに徹底的に比較され、結果比較することさえおこがましいという結論を前にムー派遣組は悔しさよりも情けなさを覚えていた。
ムー派遣組の暗い空気のなかで目を輝かせるムー人約1名が大声を上げる。
「我が国よりはるかに進んでいることは知っていたが……想像以上だ! 日本に来て正解だった……!」
周りが落ち込む中マイラスは自国にはない新技術の結晶を前に感動し、闘志を燃やしていた。
「……マイラス? その、落ち込まないのか? これだけの物を見せられて」
「落ち込む? そっちこそ何を言ってるんだ! これだけ凄いものを見せてくれたんだ。ならこっちは追いつくべく日本から学べるものは学ぶべきだろう!」
「……そうだな。よし! こいつ以外にもいくつか見せてくれるらしいし、そっちも見てみよう!」
マイラスの言葉で気を持ち直した彼らは第2日本の案内に従い、彼らにとっては未知の、主催者にとっては化石の技術に触れていった。
12月2日 11:00 パーパルディア皇国 首都エストシラント
パーパルディアという国の未来を暗示しているかのような曇り空の下、日パ間初となる外交交渉が始まった。
そして初手で交渉は終わった。
「蛮族どもよ、ルディアス陛下の望みである。目を通すがよい」
レミールが渡した紙には要約すれば第2日本はパーパルディアの属領となれ、といった内容が書かれており、この場が交渉ではなく上位者による下賎の者への宣告の場となったことの証拠であった。
「勘違いせぬよう言っておくが、これは偉大なるパーパルディア皇国による貴様ら蛮族どもへの慈悲である。ろくな文明も力もない蛮族を文明国の版図に加えてやるという、な」
どこまでも身勝手で愚かで野蛮な考え。それを聞いた第2日本の外交官は紙をテーブルに放る。
「貴国が文明国からほど遠い国だということは、確かに理解いたしました。して、我が国より遥かに劣る国力しか有さぬ貴国がどうやってこの妄言を実現するのかお聞きしてもよろしいですかな?」
淡々とした、無関心を貼り付けたような口調で話す外交官。
突然のレミール視点での暴挙に固まり、外交官の言葉を理解するのに5秒。怒りで顔を紅潮させ、一周回って冷静になるのに5秒。きっかり10秒かけたレミールはこれまでそうしてきたように脅しをかける。
「……貴様、自分が何を言っているのか理解しているのか? 貴様の失言1つで貴様の国が滅びるのだぞ!」
「理解していますとも、滅びるのが我が国ではなく貴国だというのもね。貴方こそ理解しているのですか? 経済競争で負けているからと戦争を、などと安易な手段は亡国の道につながる一手ですよ? 貴国のような中小国は特にね」
怒髪冠を衝く、と評するのが相応しいレミールを前に外交官は変わらず棒読み気味な言葉で応じる。
元より外交に携わる者に必須の忍耐力などが欠けているレミールの行動は速く、そしてなにより愚策だった。
「衛兵! この蛮族を捕らえよ!」
後日、外交官は串刺しの刑に処され、第2日本帝国に対し殲滅戦を行うと宣言。この事は第3文明圏周辺国に広く宣伝された。
「列強パーパルディア皇国に逆らうものは等しく滅びる」
高らかに勝利宣言を行う彼らの横で異星由来の人工国家は静かに動き出す。
「砂の城崩せ。1208」
元ネタとなった帝国の滅亡。その序章となった奇襲攻撃と同じ日、異界の皇国もまた亡国への序章が始まった。