中央暦1639年12月8日 04:30 パーパルディア近海洋上
周囲の海水温度を急激に下げながら氷山空母天照、須佐之男両艦は旧フェン、アルタラス王国駐留のパーパルディア皇国軍に悟られることなくエストシラントを攻撃範囲に収めた。
「まさか一回もワイバーンに発見されないとはな……」
旗艦天照に座乗する艦隊司令官、習志野武大中将は予想外の幸運に1人安堵の息を漏らす。
いざとなればエイリアンから今回の
パーパルディアの根拠なき慢心が理由といってしまえばそれまで。しかし習志野はどうにも科学とは違う、神か何か巨大な存在の意志を感じずにはいられなかった。
「司令、まもなく時間です」
参謀長の言葉で意識が天照の艦橋に戻り、発艦間近の攻撃隊が眼下に見える。
300機の航空エンジンが同時に発する音は艦橋にいても脳の奥まで響くほど。轟音の中先頭の機体から車輪止めが取り払われる。
氷の飛行甲板を滑走して続々と発艦していく攻撃隊。夜明けの光を背景に空へ翔けていく彼らが、習志野には中東に伝わる告死天使に見えた。
(いや、ある意味、告死天使に違いないか)
かぶりを振って訂正する。
今出撃していく部下たちはパーパルディアにとっての告死天使だ。パーパルディアの罪を裁き、歴史より名を消し去る恐ろしき神の遣い。
向こうからすれば恐ろしい黒死病の軍勢だろうが、それは軍人として習志野たちが正しくある証左である。
「空母艦載機による奇襲か……。もっとも、宣戦布告は済んでるだがな」
12月8日 05:50 エストシラント
すでに戦争状態にあるパーパルディア皇国だが、首都エストシラントの防衛体制は平時のそれであった。
文明圏外国家の蛮族どもに列強パーパルディアの首都を攻撃する能力はない。やろうとしてもフェンやアルタラスの皇軍が発見し次第、殲滅する。ゆえにわざわざ金をかけてまで戦時体制に移行する必要はない。
その慢心の対価を最初に支払わされたのはエストシラント上空を飛行中の竜騎士たちだった。
一瞬、何かが横切ったことを彼らが認識したときには、生き残りの席に座れなかった者達の血飛沫と肉片が舞い、命が抜け落ちた有機物が地表へ落下していく。
「なんだ!? 何が起こった!!?」
運よく狙われなかった竜騎士の1人、カタパド・ヒヤハは叫ぶ。
最新鋭のワイバーンオーバーロードに跨った竜騎士たちによる哨戒。大半の国家が航空戦力の投入を諦める防空網をあっさりと食い破る。
そんな存在を彼らは知らなかった。正確に言えば神聖ミリシアル帝国の天の浮舟やムーのマリン複葉戦闘機のことを知っている者はいたが、それと今現れた敵と結び付けられる者はいなかった。
考える時間など与えないとばかりに新手の敵集団が彼らの右後ろ上方から襲いかかる。
「ッ! 回避っ! 回避だぁー!!!」
生き残った者たちはその絶叫で我に返り、体に染みついた行動を反射的に実行する。
秩序だった回避運動とはほど遠い、それぞれ別の方向へ降下するという壊走じみた回避だが、初撃で編隊を虫食い状態にされた彼らにこれ以上の行動を望むのは酷だった。
『だ、駄目だ……! 追いつか、ゴヒュッ!』
『来るなっ! 来るなぁぁぁーーー!!!』
『いやだっ、しにたくない! いやだっ、いやだあああああぁぁぁーーー!!!』
さながら飢えた肉食獣の檻に放り込まれた羊たちの断末魔。耳を塞ぎたくなる絶叫が魔信を通して鼓膜を揺さぶる。
目をつむり、必死にすぐ隣で起きた惨劇を意識しないようにするカタパド。だが猛訓練の賜物か、殺気のようなものを感じたのでふりかえると、そこにはワイバーンとは比べ物にならない速度で接近してくる何かがいた。
「飛行機械っ!」
敵飛行機械が2機、自身に向かってくるのを視認したカタパドは愛騎を踵で蹴り、全力で降下するよう指示する。
自身が振り落とされない限界ぎりぎりの速度を見極めつつの急降下。いつ風圧に耐えかねて空中に放り出されるか分からない恐怖と戦いながら地表へ向けて一直線に落ちていく。
そこで気づく。あの蜂の羽音を連想する飛行機械の咆哮、それが大きくなっていることに。
「あ……、うああ……」
振り向いて、カタパドは後悔した。
自身が、いや、世界中にいるどの竜騎士もこれ以上の速度を出すことはできないであろう、この急降下に敵は追従できている。それはつまり、最強のワイバーン種であるワイバーンオーバーロードでもこの敵からは逃げられないということ。
絶望のあまり涙を流すカタパドという汚れを2機から放たれた20mm機関砲弾が洗い流す。曳光弾が流れさったあとには、かすかな破片を残してカタパドという人間は消えていた。
2式艦上戦闘機天風による制空権の確保により、習志野機動部隊第1次攻撃隊は1機も損失を出すこともなく目標である陸軍基地上空に到達した。
上空のワイバーンオーバーロードが一掃された光景を目にした陸軍基地は急がれていた出撃準備をさらに狂気的な早さで進めさせていた。
ワイバーン種の羽音とは異なる飛行機械の咆哮が偉大なる祖国の空に轟く。その意味を理解できないパーパルディア軍人は一人もいない。飼育員だけでなく、愛騎の不調などで手すきの竜騎士も手を貸して、第3文明圏空の王者たるワイバーンオーバーロードを空に上げようとする。
「離陸準備急げー!」
「1騎でもいい、ワイバーンを空に上げるんだ! このままじゃ犬死にだぞ!」
厩舎から準備を終えたワイバーンが出てきたそのとき、風切り音が彼らの頭上から聞こえてくる。
見上げた先には滑走路へ向け真っ逆さまに急降下してくる敵機の姿。翼と胴体から爆弾が切り離される。
「――総員退避ぃー!!!」
その場にいた誰かの叫びが基地中に響きそして――1t爆弾1発と500Kg爆弾2発が地面に衝突する。
信管が作動し、舗装された滑走路を穿ち、爆風が地表を舐める。その際に埋め込まれた魔石も粉砕する。
爆撃は1発では終わらず2発、3発――16発。それら全てが滑走路を端から端まで丁寧に掘り返していった。
滑走路から離れた位置にいた者たちは土煙が晴れるとともに理解したくない光景を目の当たりにする。
「か、滑走路が……」
ワイバーン用の高価な滑走路はあちこち穴だらけとなり、人力での早期復旧が叶わぬ状態となっていた。
魔石が配置された滑走路でなければ、魔素の少ないエストシラント周囲でワイバーンを運用することはできない。
皇都防衛を担う唯一の基地はワイバーンの離発着が不可能となった。
上空より滑走路の破壊を確認した攻撃隊指揮官竹範紀少佐は次の攻撃に移るよう指揮下の航空隊に下令する。
『深山隊、総仕上げだ。第1、第2編隊攻撃せよ』
竹少佐の指示の下、待機していた計80機の1式艦上攻撃機深山が半壊した陸軍基地上空へ進出する。
先行する第1編隊の深山には全機に1機あたり500kgクラスター爆弾6発搭載されている。それらは空中で分解し1発につき120個の子弾となって残った建造物――厩舎や司令塔を瓦礫の山に変えていき、加害半径内にいたパーパルディア兵の息の根を止めた。
陸軍基地の無力化を確認した攻撃隊指揮官は次の目標を指示する。
『残った艦爆隊に告ぐ。天照所属の艦爆隊は第1小隊を除き、海軍施設に攻撃を集中。艦隊は余裕があれば実施せよ。須佐之男の艦爆隊は橋などの高価値目標を優先して攻撃せよ。第1小隊は我に続け』
最初の4個小隊以外の急降下爆撃機――2式艦上爆撃機彗星は爆撃していない。
総勢600機の第1次攻撃隊の編成は艦戦、艦攻それぞれ160機ずつ。残り280機の艦爆が氷山空母から運んできた計560tの爆薬と軽金属からなる工業製品を搭載したままだ。
天照と須佐之男の艦爆隊がそれぞれ指示された目標へ翼を翻すなか、指揮官機は4機の彗星と従えパラディス城へ向かう。
エストシラントは狂乱の波に吞まれていた。
前触れもなく突然始まった自分たちの頭の上での空戦。何事かと顔を上げれば明らかにワイバーンと人間のものと分かる肉片と血が降ってきたのだ。
「いやぁぁぁーーー!!!」
「なんだ!!? 一体何が起こってるんだ!!!?」
住人たちが現実を理解するよりも早く事態は進んでいく。
湾港付近の海軍司令部を始めとして造船所、残橋、沿岸砲台が爆発とともに破壊されていく。
港に停泊していた軍艦も機銃掃射を受けて穴だらけとなり、酷いものでは沈没したものもいる。金属製の駆逐艦ですら無視できない被害が出る20mm機関砲が相手では、木造船は脆弱すぎたのだ。
多くの住人が家の中へ逃げ込むなかで、エストシラントの中心部から一際大きな爆発音が響き、視線を集める。
「う、うあああ……」
「うそだ……。そんな、そんな……」
絶望の声を漏らす市民の見つめる先――パラディス城から黒煙が上がっていた。
12月8日 06:20 パラディス城
(何が……あった……?)
カイオスは朦朧とする意識の中で自分が意識を失う直前の記憶を掘り起こす。
(そうだ。私は会議に出席するためパラディス城に……)
「――生存者だ! おい、医者を呼べ! すぐにだ!!!」
自分が何をしようとしていたのか思い出してきたところで、自分を助けようとする人間の叫びに思考は寸断される。彼には悪いが、うるさく感じる声が頭にひどく響いた。
「カイオス様! カイオス様っ!」
「君は……?」
「近衛兵のキン・コ・ダイヤールであります。生存者の救助のためにここに来たところ、カイオス様を見つけました」
「そうか……、治療しながらでいいから何が起こったのか教えてくれ。いかんせん、記憶が曖昧でな」
慌てて駆け付けた医者の治療を受けながらカイオスはキンからの説明を聞く。
「私も詳しいことは分からないのですが……、ムーのものと思われる飛行機械が爆弾を投下したようです。かなりの大型爆弾だったようで、パラディス城の一部が倒壊しました」
「倒壊……だと!? どこだっ!? まさか、陛下の身に何か……!」
「いえ、主に爆撃を受けたのは主に外縁部ですので陛下は無事と思われます。現在同僚の何人かが確認に向かっているので、安否が分かり次第すぐ連絡が来るかと」
「そうか…………」
皇帝ルディアス死亡からの皇国崩壊という最悪のシナリオを避けられそうなことにカイオスは安堵する。
「カイオス様、我々近衛兵も被害が大きいです。現状の人員ではとても十分な警備体制は敷けません。他国の間諜の類が忍び込まれたら……」
「分かった。私から直接、陛下に奏上しよう。それで? 私以外の閣僚に関しては?」
「登城なさっていた方々はカイオス様含めて全員の存命が確認されております。ただ、レミール様については分かりません。魔信を信じるならば、まだお屋敷におられるかと思われますが……」
歯切れの悪い言葉を返すキン。彼もこの混乱の中、正しいと言える情報の入手に苦労していた。
「そうか……」
唯一の情報源であるキンにそう言われてしまうと、カイオスにはもう何もできない。怪我がなければ自分の足で情報を集めに行っただろうが、傷の具合もはっきりしない今はまだ動けない。
情報の暗中に放り込まれたまま、カイオスは治療を受けるしかなかった。
12月8日 08:45 パーパルディア近海洋上 天照
大成功に終わったエストシラント奇襲作戦。
攻撃を終え、勝利の凱旋を果たした搭乗員たちが震えながら艦内に入っていく。氷山空母最大の欠点は精神力では克服できないのだ。
「攻撃隊全機、着艦しました!」
「偵察機より報告! 陸軍基地及び優先順位2以上の海軍施設と艦隊に大打撃。エストシラントの高価値目標にも十分な攻撃を与えられているとのこと!」
航空管制官より攻撃隊の収容が終わったことを報告された習志野は一つ頷き、無線で艦隊に新たな命令を通達する。
「この攻撃をもって所定の目標は達成されたと判断する。よって我々第1特務艦隊は本国へ帰還する。なお帰還途上に可能であればアルタラス、フェンに駐留しているパーパルディアの艦艇及びワイバーン戦力を殲滅する。以上!」
アルタラスとフェンに展開している艦隊は戦列艦が数隻の小艦隊であり、随伴している駆逐艦による夜間砲撃――昼間だとワイバーンの空襲があり得る――で事足りる。命中精度もレーダーと火器管制装置で問題なし。ワイバーンのいる飛行場は内陸にあるため戦艦の担当だが。
事実上、2隻の氷山空母の仕事は終わったと言っていい。
もちろん今後実施される別の作戦での仕事は残っているが、一先ずは本土へ帰還できる。
「よかったのですか長官? まだわずかとはいえ攻撃目標は残っていますが」
「大使館や領事館に誤爆されても困る。この攻撃はあくまでショーだ、これで十分だよ。……安心しろ、我々は南雲艦隊と同じ扱いはされないさ」
1639年12月9日 05:40 第1日本
「んん~っ! あ~、よく寝た」
元ニートの山田の朝は遅い。
だが今日に限っては早かった。日本の支配者であるエイリアンたちが新しく始めた企画に参加するためだ。
「えーと……ニューシネマ・ウィーク・アイデア・キャンペーンの申し込みはっと」
現在、製作が決定した7種類ジャンルの映画。今後定期的に実施する予定のこのキャンペーンの目玉である映画のアイデアをエイリアンたちは日本人に求めてきた。
役に立つと判断したアイデアにはエイリアン製自動車などの高額賞品、参加賞でもそこそこの額の電子マネーが支給される太っ腹な企画に既に万を超える応募が殺到しているそうだ。
「うげっ……、もう1万人も応募してる……。金貰えるから当然っちゃ当然だけど、こんなにかぁ」
エイリアンによる支配体制の確立後、紙幣と硬貨は駆逐されてエイリアンが支給する電子マネーでしか買い物はできなくなった。
毎月一定額――今回のようなキャンペーンなどでの貢献率によって上下する――支給されるので一部のバカを除いて困窮する人間はいないが、贅沢な買い物をしたければ節約して貯めるか今回のようなエイリアンからの仕事をこなして稼ぐ必要がある。
「応募完了っと……」
無事応募を終えた山田はオンラインゲームを起動する。
今回のキャンペーンの優秀賞の賞品はフルダイブVRゲーム機。人気が高く中々手に入らないこのゲーム機が手に入ることを山田は祈っていた。
1639年12月12日 日本上空 宇宙船
冷え込みが増していく世界に真っ向から反発しているようにその部屋は熱気に包まれていた。
「まさかあのようなアイデアが出てくるとは……、いやはや予想外でしたね」
「我々も些か視野狭窄だったかもしれませんな」
エイリアンたちが行ったのは彼らが占領した日本国――第1日本に住む日本人から今後の撮影に使えそうなアイデアを募ることだった。
もちろんエイリアンたち自らアンケートを採ったりしたわけではない。第1日本のネットワークを完全に支配している彼らからすれば、別の商業プランで目的を隠しつつ日本人の知恵を集めることなど造作もないことだ。
「最優秀賞のアイデア……これならば我々が然程動かずとも、ミリシアルやアニュンリールのラヴァーナル製兵器を封印できる」
まず異世界の存在(主に知的生命体)には感知できないナノマシンなどを用意する。
次にラヴァーナル帝国の遺跡を偽造し、遺跡の暴走という形でナノマシンを散布し、ラヴァーナル帝国製とその系譜に属する機器を封印する。封印度合いに関してはナノマシンの設定変更で随時変更可能にしておけば、後にトラブルが起きても対処しやすい。
「統合知能からシミュレートの結果が届きました。偽造遺跡の位置に注意すれば、異世界国家が我々、というより第2日本帝国による作戦と判断する可能性は極めて低く、ナノマシンによる封印も失敗することはない、と。……ただ魔導関連の物を無差別に無力化すると民生品なども破損し、政治・経済に深刻な影響がでるだろうとも」
「うむむ……、確かに依存している工業製品が残らず動かなくなれば、それがもたらす悪影響は大きいですからね」
「我々の望むことではありませんな。彼らには盛大に、しかし絶滅しないくらいは戦っていただかないと」
「ラヴァーナル帝国を潰したのは性急だったかもしれませんね。彼らも無力化できれば続編をもう1本いけたのでは?」
「いえ、そうとは言えません。彼らの軍備は地球国家と比べても大きくは劣らない程には進んでいます。我々の望むレベルまで無力化するとミリシアルよりはマシ、くらいの悲惨な状態になるかと」
「……彼らの性分と嫌われぶりから考えて、軍備を立て直す時間もないでしょうね。下手に手を回すと勘づく輩もいるでしょうし」
そこで響く、パンパンと手を叩く音。
「過ぎたことを延々と議論すべきではありません。今はアイデアを具体的なプランにすることと、パーパルディアの次をどこにするか、この2つを優先します」
発信源である進行役のエイリアンは仕切り直して議論の流れを元に戻す。
「計画についてですが、まず封印するのはミリシアルとアニュンリールが運用しているラヴァーナルの兵器、それとジェットなどのクローンたちの相手として相応しくない物にしましょう。動物兵器については調査結果次第ですね」
「科学技術の製品にも作動するようにしてくださいよ? 後付けの封印で、あとから変に疑われたら面倒ですから」
「もちろんグラ・バルカス帝国のジェットにも効果が出るよう設定します。それと……ミリシアルのジェットは? 彼ら、ジェットエンジン以外の航空機用発動機を持っていないみたいですが」
神聖ミリシアル帝国は古代遺跡発掘で得たラヴァーナル帝国の遺産をリバースエンジニアリングすることで発展してきた国。遺産から得られない技術、思想、概念は持っていないことが多い。
ついでに言えば、そのコピー品とそこから発展させた物もことごとくがラヴァーナル製の劣化コピー以下である。
「ミリシアルは除外しましょう。元々低性能ですし、そこまでしては本格的に彼らが役立たずになってしまいます」
「ですね。一部の過ぎた代物だけにしておけばいいでしょう」
「ナノマシン散布用の機材、それに配置……統合知能にはしばらく頑張ってもらいましょう」
計画の実行へ向けて話がまとまり、パーパルディアの次について話し合う。
「パーパルディアの次ですか……順当に行けばグラ・バルカスかミリシアル、それかアニュンリールですが……」
「ミリシアルは現時点では盛り上がりに欠けるでしょうし、アニュンリールも技術が進んでいるので封印の影響で混乱するでしょう。グラ・バルカス一択ですね」
新たな方針による影響であっさりとグラ・バルカス帝国の滅亡が決定されたそのとき、声が上がり会議の流れを断ち切る。
「話が逸れますが、よろしいですか? 封印後のミリシアルについてなのですが、彼らに極秘に兵器開発の支援を行うのはどうでしょうか?」
予想外な発案に周りのエイリアンたちは怪訝な顔をする。
神聖ミリシアル帝国は十分な――と断言するには疑問符が付くが――技術があり、わざわざ支援する必要があるとは思えない。
封印後の混乱を考えても、時間をかければ封印下でも問題なく稼働する兵器を作れるだろう。
「ミリシアルの航空機は封印の必要が無いほど低性能なのは周知のとおりです。加えて物理学などの基礎となる学問は存在しないか、アニュンリールと比べて大きく立ち遅れています。下手をすれば今後、活躍の場が失われるかもしれません」
「別に問題ないのでは? 主役はあくまで第2日本帝国。撮影内容によりますが、敵にせよ味方にせよ、活躍しようがしまいが、創作のネタとして使えます」
「役立たずがすぎれば引き立て役にも、ライバルにもなれません。精々が噛ませ犬か添え物で終わってしまいます」
「……ミリシアルがそこまで無能だと?」
発案者は軽く首を振って話を続ける。
「あくまで、可能性の話です。が、彼らの場合我々がテコ入れしなくても勝手にネタに走るでしょうから、そのせいでグラ・バルカス帝国編に間に合わず、アニュンリールでも出演の余地がない……そのような事態も十分にありえると思われます」
ミリシアルのメッキ具合を知っているエイリアンたちは誰一人としてこの言葉を否定できなかった。
「あくまで、あくまで補助です。一から十まで支援するのではなく、ある程度の兵器が作れるようにするだけです。彼らに気づかれないよう、自然と規模も小さいものになります。問題ありません」
「……でしたら支援用の遺跡を用意して、そこに軍用機を数種類置いておきましょう。ついでにマニュアルの類もあれば、いくらミリシアルでも斜め下に突き進むことはないでしょうし」
対策を講じるのであれば、と会議室の空気は全体的に前向きで不満げの者たちも大きな反対を示すことはなかった。
「では結論としてナノマシンによる封印は限定的なものとする。パーパルディア編の次はグラ・バルカス。そしてナノマシンの正常稼働後にミリシアルへの航空機開発の支援。以上3つを正式に決定致します」
不完全な模倣しかできなかったミリシアルに新たなる風が吹こうとしていた。