仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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Prologue
Nameless


 昼間は学校。

 夕方からはバイト。

 夜、遅い時間に家に帰るとそこから勉強。

 毎日これの繰り返し。

 

 仕方ない。

 仕方ないんだ。

 お父さんが前の会社をリストラされて、再就職先は前の会社に比べると収入が大きく減って。

 大好きだった家も売り払って、狭いアパート暮らし。

 それでも家族三人が暮らすには厳しくて、お母さんも働き始めて。私も校則で禁止されているアルバイトをクラスメイトや先生達にバレないように始めた。

 私の通っている高校は私立で学費も高いがなんとか特待生の枠で入学することが出来た。特待生に選ばれた時はお父さんもお母さんもすごい喜んでくれたし、私も嬉しかった。

 家族の役に立てたと。

 

 しかし、入学してからが大変だった。

 進学校のため、すごい早さで授業は進んでいき、課題も多い。

 それに、成績を落としたくない理由があった。

 私は大学へ行きたかった。

 そして、大学も特待生を狙っている。

 特待生を狙うならば、高校の時の成績が重要となり、学校からの推薦枠という少ないパイをなんとか獲得しなければならない。

 そして、その少ないパイにはたくさんの生徒が群がる。

 そんなたくさんの生徒の中で勝ち残り、パイを得るにはとにかく勉強するしかなかった。

 他の生徒は塾に通うなか、私の家にそんな余裕はないのでとにかく家でひたすら勉強するしかなかったのだ。

 

 

 

 

 夏休みが始まって一週間が経った頃、妙な噂が流れてきた。

 鏡の中に怪物がいて、それを騎士が退治しているという。

 なんとも、馬鹿馬鹿しい噂であった。

 私にはそんなものに目を向ける余裕なんてないのだ。

 だが、そんなある夜……。

 

 蒸し暑く、ジメジメとして不快感の強い夜だった。

 バイト帰りで一人、静かな住宅地を歩いていると私に声を掛ける者がいた。

 

「こんばんは~」

 

 急に声を掛けられたのでびっくりしたが、どこを見ても私の他に人の影はなかった。

 

「こっちですよこっち~」

 

 声のした方を振り向くと、そこは古い木造の家の壁。

 いや、違う。

 その家の窓ガラスに誰か、私ではない少女が映っている。

 腰まである深い黒髪。

 明るそうな性格をしていると思わされる大きな瞳。

 そして、どこの学校のものともつかない黒いセーラー服を着ていた。

 

「こんばんは。私はアリス。貴女の願いを叶える方法と機会をプレゼントするキュートでセクシー。可憐で純情な女の子です♪」

 

 ……一体、どうなっているのか。

 何故、鏡の中の少女が私に話しかける。

 きっと、これは夢だ。

 そうに違いない。

 しかし、私の中であの噂が脳裏に蘇った。

 

 鏡の中の怪物と騎士……。

 

 このアリスと名乗る少女は、きっとそれに関係して……。

 

「ところで、貴女の夢ってなんですか?」

 

 私の、夢……?

 大学に行きたい。

 これが、当面の目標であるが……。

 

「違います違います。そうじゃないでしょう? そんなお利口さんな願いではないでしょう。貴女の本当の願いは……」

 

 少女は、そう言うと何処からか薄い黒の箱のようなものを現実世界(こちら側)に送り出した。

 そしてその箱は重力を無視して私の目の前に浮かんでいる。

 さっきから信じられないことばかり起きているせいでもうこれくらいでは驚くことはなかった。

 

「そのカードデッキを手に取ってください。そうすれば、貴女の本当の願いが叶います」

 

 そう語る少女を一度窺うと、その大きな瞳に吸い込まれてしまいそうだった。

 どこまでも果てのない。

 深い闇の底に……。

 そして、私は黒い箱……。

 カードデッキを手に取った。

 

「おめでとうございます!貴女はどんな願いでも叶えることが出来る機会を獲得しました! それじゃあ、私はこの辺で♪ 善き闘争を期待しています♪」

 

 待って!という声も間に合わず、少女は消えていた。

 夢……?

 いや、確かにこの手には彼女から貰ったカードデッキが握られている。

 カードデッキというのだからカードが入っている。

 一体、何のカードなのか気になって一枚引いてみるとまず一枚目は特にこれといった特徴もない剣が描かれたカード。

 二枚目もこれまた特徴がない銀色の盾。

 三枚目は何か、赤黒い渦が描かれていた。

 SEAL……封印?

 このカードはよく意味が分からなかった。

 四枚目は闇の中、白い光が照らし出されたようなカードでこれはCONTRACTと名付けられていた。

 契約?

 何と契約するというのだろう。

 

 そして、残った最後の一枚はこれまでとは趣が違った。

 イラストが描かれていたところにはただ一言。

 

『RELEASE』

 

 解放。

 一体、何から解放されるというのか……。

 

『そのカードは貴女の願いが記録されたカード。メモリアカードと言います。それが失われるということはライダーとして戦いに参加することも、願いを叶えることも出来なくなるということです。くれぐれもお気をつけて……』

 

 突然、頭に響いた先程の少女の声。

 これが、私の願い……?

 全く、心当たりがなかった。

 

 まあ、いい。

 こんなところで何時までも道草を食っていたらお父さんとお母さんが心配する。

 早く帰って勉強もしなければいけない。

 

 デッキの中にカードを戻し、再び帰路につこうとした瞬間。

 頭の中に音が響いた。

 キィン……キィン……と、とにかく耳障りな音がして頭が痛む。

 

「な、に……?」

 

 痛む頭を抑えながら顔を上げると、近くの家の窓ガラスに蠢く影を見つけた。

 二足歩行で駆けるそれだが、人のシルエットをしていない。

 あれが、鏡の中の怪物……。

 

 次の瞬間、鏡の中から怪物が飛び出してきた。

 人型となった猫科の……トラとかジャガーのような。模様的にジャガーか。人型のジャガーの怪物。そいつが飛び出してきた勢いで私を捉えるとそのままの勢いで私ごと鏡の中へと飛び込んでいって……。 

  

「きゃあぁぁぁぁ!!!」

 

 鏡の中の世界へ通じる道の中、悲鳴が響く。

 ここで、死ぬ?

 こんなわけの分からないまま死んでしまうの?

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 死にたくない……。

 死にたくない……。

 死にたく、ない……!

 

 その思いに応えてくれたのか、カードデッキが光を放つと私に鎧が纏われる。

 その時の衝撃で怪物も吹き飛ばされてひとまず難を逃れた。

 そして、それと同時に現実世界(あちら)ミラーワールド(こちら)を繋ぐ旅も終わり、私は鏡の中から思い切り弾き飛ばされた。

 

 ここは、さっきの場所?

 戻ってきたの?

 いや、確かにさっきの場所であるが……。

 

 音が、響いている。

 

 さっき、頭の中に流れ込んできたあの耳鳴りのような音が静かに響いている。

 そして、周囲の景色に見つけた違和感。

 古びた家の壁に貼られている、とある本の一節。

 その文字が、反転していた。

 まるで、()()()()()()()()()()()()

 

 そうか、ここが鏡の中の世界かと一人納得すると同時に、先程私に襲いかかってきた人型ジャガーが飛び掛かってきた。

 しまった!

 色々なことが起こり過ぎて失念していた。

 

 ジャガーのくせに、手にもった二振りの剣。

 いや、剣というよりは刃そのものと形容したほうが正確だろう。

 そんな凶器が振り回される。

 わけも分からず、もちろん戦ったこともあるわけもない私はひたすら逃げ回るしかなかった。

 

『ピンポンパンポーン♪ 初めての戦いに苦戦しているそこの貴女。初めて戦いということなので特別にヒントを差し上げます』

 

 先程の少女の声が脳内でアナウンスしていた。

 しかし、そんなことよりも私は逃げ回るので精一杯だった。

 

『狼さんに追いかけられるうさぎさんのように逃げ回るのに精一杯でしょうが私の話を聞いてください。まず、今の貴女ではモンスターには太刀打ち出来ません』

 

 そんなのいま身をもって体感している!

 

『ですからまず、契約してください。このミラーワールドで人は無力。その鎧もあるだけマシで死をいくらか先延ばしにしているだけ。あと、ミラーワールドにいられる制限時間もありますから』

 

 !?

 制限時間?

 制限時間を過ぎたらどうなってしまうの?

 

『制限時間を過ぎたら貴女はこの世界で消滅します。9分55秒。それがこの世界に存在していられる時間』

 

 正味、10分というところか……。

 もう二分は経っているだろうからあと凡そ8分……。

 それまでにあのモンスターから逃げてしまえばいいのだ。

 近くに停められていた車をちょうど良く発見したのでその窓ガラスからこの世界を脱出しようとしたが……。

 

「なんで!? なんで出られないの!?」

『今の貴女では来た道以外を通ることは出来ません。だから、契約してください。契約すればいろんなオプション解放ですよ♪』

「だから! 何と契約すればいいの!?」

『あれ、まだ言ってませんでしたっけ? 契約相手はモンスターです』

 

 モンスター……。

 あの怪物と契約しろというの!?

 いま正に私の命を狙っている怪物と!?

 

『モンスターは人間が大好物ですから狙うのは当然です。彼等からすればステーキが逃げ回っているようなものですから。ですが……契約すれば大丈夫です。貴女は他のモンスターを倒してその命をモンスターに与える。その代わり、モンスターは貴女にこの世界で生き抜く力を与える。ね?Win-Winでしょう?』

 

 もう、この際何でも良かった。

 とにかく、自分が助かるなら……。

 

「契約って、どうすればいいの」

『デッキからカードを引いてください。契約のカードがあったでしょう?』

 

 そういえばと思い出し、一番上のカードを引くと驚いたことに契約のカードであった。

 元の順番通り戻したはずだというのに……。

 

『そんなことはいいから早くしないと大変ですよ~』

 

 その言葉通り、怪物が大きく跳躍すると私の目の前へと舞い降りて……。

 

「早く! 契約の方法を教えて!」

『契約のカードをモンスターに向けて、契約すると念じてください』

 

 ちょうど、モンスターは私の真正面。

 カードを向けるには絶好の機会であった。

 

 そして、周囲の景色は溶け、白い光の中でモンスターと二人。

 互いに向き合い、契約を交わした。

 

 契約を交わしたことで変身していく鎧。

 銀色のなんの特徴もなかった鎧と仮面が黄色に色づき、ジャガーの牙や爪を象ったような形状へ変わっていく。

 それは契約したモンスターの特徴を表すような変化。

 

『おめでとうございます! 無事にチュートリアル完了ですね。ご褒美にミラーワールドにいられる時間をリセットしてあげます』

 

 リセットということはつまり、0となるからまたおよそ10分余裕が出来たということ?

 別にもうモンスターとは契約したのであとはここから元の世界に戻ればいいだけなのに……。

 

『それでは、いよいよ本当の戦いです────』

 

 本当の、戦い……?

 それって、どういう……。

 困惑していると、足元の地面から火花が上がった。

 

「なに!?」

 

 突然のことに身構えると、夜の闇の中から現れたもう一人の騎士……。

 青緑色の、重そうな鎧の騎士が銃を構えながら私に歩み寄ってきていた。

 

「誰……?」

「ごめんなさい……」

「え?」

 

 突然、謝られた。

 銃を向けられながら謝罪なんてされるとは思ってもみなかった。

 今にも泣き出しそうな声で。

 そして、気付いたのだが……。

 銃を持つ手が、震えていた。

 

「ごめんなさい……! あなたを殺さないと、私が死んじゃうの!」

「それって、どういう……ッ!?」

 

 言葉の意味を問う前に、銃口が爆ぜた。

 なんとか避けたが……。いや、避けたのではない。

 動かなくても当たってはいなかっただろう。

 彼女の震えるあの手では、狙いは定まらないだろう。

 とにかく、止めさせなければならない。

 

「いいから止めなさい! なんで私を狙って……」

「あなただって()()()()でしょう!? 願いがあるから、私を殺すんでしょう!?」

 

 願いがあるから、殺す……?

 なに?

 どういう意味?

 

『願いを叶えることが出来るのは、最後に勝ち残った一人だけ。ライダーの皆さんはその願いのために殺し合っているんですよ』

 

 再び脳内に響いた少女、アリスの声。

 殺しあう?

 そんなの聞いていない!

 願いのために誰かを殺すなんて、出来ない!

 

『だ~か~ら~。そんな優等生ぶらないでください。それに、貴女にその気が無くても向こうにはその気があるんです。自分の命を守るのは悪いこと?』

 

 ……。

 やはり、他者の命を奪うことなんて……。

 

【SHOOT VENT】

 

 どこからか響いた電子音声。

 一体何と青緑の騎士を見れば、その腕には巨大な砲が携えられ肩に担いでいた。

 銃に詳しくない私でも分かるそれはバズーカと呼ばれるもので、先程の銃なんかとは比べ物にならない威力を持っている……!

 

 どっしりと構え、砲口を私に向けて……。

 砲弾が放たれた。

 思っていたよりは弾は遅く、なんとか避けることが出来たが……。

 さっきよりも瞬発力だとかスピードが増しているように感じた。

 これもモンスターと契約したからか……。

 

『さあ、どうします? このままだとジリ貧ですよ?』

「……」

『貴女が頑張れば、あの娘を救えるかもしれませんよ?』

 

 彼女を救うことが出来る……?

 

『そのためにはまず無力化させて話を聞いてもらえるようにしないといけませんね』

「無力化っていってもどうすれば……」

『デッキからカードを引いてください』

 

 言われるがままにカードを抜くと、私が契約したモンスターが持っていたような二振りの刃が描かれていた。

 

『それではそのカードを左膝のバイザーにセットしてください。あなたの武器が召喚されます』

 

 召喚……。

 腰を落として左膝のバイザー……あった。ちょうどカードを入れるような溝がある。

 ここにセットして……。

 

【SWORD VENT】

 

 先程聞こえてきたのと同じような電子音声が響くと空からカードに描かれていたのと同じ剣が二本、地面に突き刺さった。

 

『さあ、剣を取って戦ってください』

 

 声に従い、剣を両手に構える。

 こんなものを自分が手に取るなんて、ほんの十分前まで思ってもみなかった。

 思ったよりも、軽いな。

 

「それで、私を斬るんですよね……。嫌……。痛いのはもう嫌!」

 

 再び、バズーカを放つ騎士。

 その場から跳躍し、回避する。

 とにかく跳び跳ね、動き続け、狙いを定めさせない。

 バズーカでは不利と悟った相手は最初に使っていた銃に持ち替え狙うがついてこれていない。

 

「当たって! 当たって!」

「……!」

 

 当たらない。

 当たるわけがない。

 あとはこのままあいつを押しきって勝てばいい……!

 

「はあッ!!!」

 

 高速で駆け、一閃。

 逆袈裟に斬り上げ、地に膝をつかせた。

 

「これで、終わりにしましょう? 私はあなたを殺さないから……」

 

 言い聞かせるように優しく語りかける。

 だが……。

 

 鏡が割れたかのように、青緑色の鎧が砕け中から自分と歳が変わらないくらいの少女が現れた。

 そして……。

 

「あ、ああ……!」

 

 少女の身体が、粒子となって分解されていって……。

 なに……なんなの……。

 

「死にたくない……死にたくない! 死にたくない! 死にたく……な、い……」

 

 そして、少女はこの世から消え去ったのだ。

 ただ、ひとつ。

 砕け散ったカードデッキだけを残して。

 

「……嘘、よね」

 

 そうだ、あの少女はただこの鏡の世界から元の世界に戻っただけで……。

 

『おめでとうございま~す♪ 貴女は勝って生き残り。あの娘は負けて死にました。そう、それだけです』

 

 それだけのことって……。

 

「人が死んだのよ! それをそれだけのことって……」

『今は誰かの死を重く捉えるでしょうが……。安心してください。そのうち、何も感じなくなります。あぁ、それと……貴女もそろそろミラーワールドから出ないと、あの娘みたいになりますよ』

 

 え……。

 気付けば、自分もあの少女のように少しずつではあるが消滅が始まっていた。

 早く、ここから出ないと……。

 もう、モンスターと契約したからどこからでも出られるんだっけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰ってからは食事も喉を通らなくて、勉強も手につかなくて、もうどうにかなってしまいそうだったので早々にベッドに入った。

 全て夢で、次に目を覚ましたらデッキなんて無くなっていて……。

 

 朝。目を覚ましたら机の上に置いていたカードデッキはそのままであった。

 やはり、あれは夢ではなかったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ライダーになったことで私の日常は崩れ落ちていく……。

 

 モンスターと契約した以上、契約を守らなければ私がモンスターに喰われてしまう。

 そのためには他のモンスターを倒さなければならない。

 しかし、モンスターは常にいるわけではない。

 こちらの事情など考えずに現れる。

 授業中でもバイト中でも。

 他のライダーとの戦いもあったが初戦のように上手くはいかなかった。

 

 そんなだから……。

 

 貼り出された模試の結果。

 私の順位は以前と比べると大きく落ちていた。

 これじゃあ……。

 

「ちょっといいか」

 

 担任に呼び出され、生徒指導室へ。

 そこで話されたのは、私がアルバイトをしているという噂があることと、繁華街である屋戸岐町で夜歩いていたという話が学校に上がったこと。

 そして、今回の模試の結果。

 これでは、推薦は難しいと……。

 

 とても、穏やかな心境ではいられなかった。

 重い足取りで教室まで戻ると、そこではある話題で持ちきりで……。

 

「見たら本当にいたんだって! 見間違えたとかじゃなくて本当にバイトしてたんだって~」

「嘘~。けど本当だったらやば……」

 

 一人の生徒が私に気付いた。

 そこから、教室全体の空気が重くなって……。

 こいつの、こいつのせいで……!

 

「ちょ……!?」

「あんたが……! あんたのせいで……!」

 

 怒りに駆られ、女子生徒に掴みかかっていた。

 頭に血が昇っていた。 

 

「なにをしているんだ!」

 

 間に入ってきた教師によって女子生徒からは引き離された。

 そして、そのまま私とそいつは別室にてそれぞれ指導を受ける羽目になったが、向こうは指導なんてものではなかっただろう。

 私だけ……私だけ……。

 

 

 

 

 やはり、ライダーバトルなんてものに現を抜かすのがいけなかった。

 また勉強してもとの成績を取り戻せばいい。

 たまにモンスターに餌さえあげればいいし……。

 そうだ。ライダーバトルなんかにかまけてる場合ではないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一週間。

 別になんてことない。学校の評判は悪いままだがそこでわざわざいじめなんて起こすほど周りも頭が悪いわけではなかった。

 

『お久しぶりで~す。って、あれぇ? どうかしたんですかぁ? 元気ないですね~』

 

 久しぶりにアリスが私の目の前に現れた。

 以前のようにふざけた態度のままである。

 

「アリス……。何の用? 貴女に構ってる暇なんて……」

『最近。真面目に戦っていますかぁ?』

「悪いけど、そんなことに構ってる余裕なんてないの。戦いは他のライダーに任せたらどう?」

 

 そう言って、もうあとは無視して立ち去ろうとすると目の前に目の前に金髪の少女が立ち塞がった。

 目付きが悪く、ボサボサで一切手入れをしていないであろう金髪はこの少女を品がないと評価するに充分な材料である。

 そして、少女は自分と同じ黒いカードデッキをかざして見せて挑発してきた。

 

 ……どうやら、戦いは免れられないようだ。

 なんとか、隙をついて逃げられればいいけど……。

 

「やる?」

「……ええ。しましょうか」

 

 近くにあったカーブミラーにカードデッキを向けて、戦う意思を示した。

 巻かれるベルト。

 バックルにデッキを装填し……。

 

「変身」

 

 その言葉が合図となり、身体に騎士の虚像が重なり変身する。

 相手も蜂のような黄色と黒の鎧を纏い、一度こちらを睨み付けると気怠げに民家の窓ガラスからミラーワールドに向かった。

 私も、同じようにミラーワールドへと向かって……。

 

 

 

 

 

 

 殴り飛ばされて地面を転がった。

 こいつ、強い……。

 

「ぐあ……!」

 

 腹部を踏みつけられ、痛みに喘ぐ。

 なんとかしようにも身体に力が入らない。

 

「あぁ……。なんだよ、アリスが面白い相手がいるって言うから来たのにさ……」

 

 仮面で隠れた顔は苛立ちに歪んでいることだろう。

 ああ、なんとかして逃げるはずだったのに……。

 

『真面目に殺し合っていればこんなことにはならなかったんですよ?』

 

 アリスの声が響いた。

 この声は恐らく私にしか聞こえていない。

 

「アリス……」

『貴女が最初に戦った娘、覚えていますか? あの娘もなかなか戦ってくれなかったので、誰か殺さないと貴女を殺しますよ~って言って貴女の相手をさせたんです』

 

 どういうこと……?

 

『私ぃ、真面目に戦わない不真面目な娘は嫌いなんです。だから戦わない娘にはお仕置きしちゃうんです♪ だから……貴女にもお仕置きです。今更謝っても無駄ですよ。どうしても許してほしいのなら敵を殺してください。まあ、それが今の貴女に出来るかって話ですけど』

 

 そんな……。

 嫌だ、死にたくない!

 

「そろそろ、殺すか……」

 

 しかし、私の願いとは裏腹に相手は私にもうトドメを刺そうとしていて……。

 

「や、やめ……」

「あ? やめろってのは無理。アタシにも願いがあるからさ……」

 

 カードを引き抜くライダーは腰に差した剣型のバイザーにカードを装填すると左手に盾が装備される。

 だが、それはただの盾ではない。

 スズメバチの大顎を模したように盾が展開するとそれを地面に突き立てて……。

 

「ひっ……! やだ……。嫌! 死にたくない!」

「うるさいなぁ。死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また一人、少女(ライダー)の命が散った。

 

「良かったですね。煩わしいお勉強からも、苦しい家庭環境からも解放されて。ああ、死んで願いが叶うなんて、ずるい。瀬那ちゃんに殺すなって言っておけばよかった」

 

 不満げに少女が死んだ光景を屋根の上から見下ろすアリス。

 彼女が求めるものは、まだ誰も分からない……。




ADVENTCARD ARCHIVE
CONTRACT  

モンスターと契約を行うカード。
しかし、契約を行うのは果たしてモンスターとだけ?
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