仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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雷影創牙様からライダークレストの挿し絵いただきました!
重ねてですがありがとうございます!


?ー9 歪む、歪む

 戦いを、受け入れてしまった。

 拒否はした。

 だけど、断り続けても無駄だと分かった。

 分かってしまった。

 だから僕は、剣を取ってしまった。

 

「はあぁぁぁぁッ!!!」

 

 灰白色の三叉槍の柄へ刃を滑り込ませ槍を絡めとり、弾く。そして、がら空きとなった胴体へ振り下ろした太刀を回転させて斬り上げる。切り裂かれた胸部装甲から火花は散り、よろめく射澄さんの姿から少なくないダメージを与えたことは間違いない。  

 

「強いね、君」

 

 斬られた胸を押さえながら射澄さんが呟いた。

 

「どうしてそんなに強いのかな? 私に教えてほしい。君、武道とかやってそうでもないし喧嘩慣れしてそうでもない。そういうのはライダーとは関係ないのかな?」

「……分かりません、そんなこと。僕だって悩んでいるのに…」

 

 ライダーになってからまだ三日しか経っていない。分からないことだらけなのは僕だって同じだ。

 

「そうか……。じゃあ、もう少し付き合ってもらおうかな」

 

 射澄さんはデッキからカードを引き抜き、槍に装填する。ここに来てはじめてのカード使用。一体どんな効果のカードを使用したのか……。

 油断ならない。

 

【STRIKE VENT】

 

 彼女の契約モンスターの頭部を模したであろうクジラのような籠手が右腕に装備される。あれに殴られたら痛そうだな……。だけどあの手の武器は大振りにならざるを得ない。威力は高いが隙もある。充分に対処可能な武器だ。

 

「……なるほど。この武器はこう使うのか」

 

 一人呟く射澄さん。すると、右腕を引いて腰を落とし構えをとった。

 なんのつもりだ?ここから一気に距離を詰めて殴りかかるつもりなのか?

 そして、僕の予想は外れることとなる。

 

「はぁぁ……ハッ!!!」

 

 深い溜めから勢いよく突き出された右腕。そして籠手から強力な水流が発射された。

 

「ッ!?」

 

 直感でくらったらまずい攻撃だと判断し地面を転げて回避した。

 行き場を失った強烈な水流は校舎の壁に大穴を開けてしまった。

 ……なんて威力。

 当たるのはまずいなんてもんじゃない。

 

「ちょっと威力過剰かな……けど」

 

 次に放たれたのは鏃のような水の塊。

 それが連射される。

 最初の何発かは切り払えたが、止むことのない雨のような攻撃に防御が間に合わなくなる。

 

「ぐあぁぁぁっ!!!」

 

 水の鏃が身体中に着弾し、あちこちから火花が散る。

 思わぬダメージに地面に膝をつくが、この隙にも敵は次の一手を繰り出そうとしている。

 立ち上がって避けようとするが、足に上手く力が入らずよろけてしまう。

 

「もう、終わり」

 

 右腕に込められた最高威力の水流が放たれた。

 ここで、死ぬのか?

 いや、死ねない。

 死んだらダメだ。

 死んでしまっては、()()()()()()()()

 

 だから、立て。

 

 

 立って……。

 

 

 斬れッ!!!

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 身体中に漲る力。

 地面を踏みしめ、裂帛の気合いと共に太刀を振り下ろし、水流を断ち切った。

 二股に分かれた水流がそれぞれ校舎の壁を穿ち、爆発が起こる。

 

「嘘……」

 

 意外と、やれば出来るもんなんだな。

 気合いだー!とかあんまり好きじゃなかったけど、意外と馬鹿に出来ない。

 

「これを攻略されるとあとは手が……。ないなんてことはないけどね」

 

 仮面の下で、ニヤリと笑った射澄さんの顔を幻視した。

 デッキからカードを引き抜く彼女を見て、何が起こってもいいようにと構える。

 射澄さんがバイザーにカードを装填しようとした瞬間。校舎の中から轟音が響いた。

 まさか、校舎の中で戦いが?

 振り返り、校舎を見上げると、火花が飛び散ったのが窓から見えた。

 あそこは……図書室だ。

 

「……なるほど」

 

 射澄さんはそう呟くと、カードをデッキに戻し、僕を素通りして校舎の中へと入っていってしまった。

 

「え、ちょ。どこ行くんですか!?」

「決まってるだろう? 図書室だよ」

 

 図書室ってことは今まさに戦闘が行われている真っ最中のところに行くということ。

 それも、僕との戦いを放棄して。

 

「君との戦いより大事な用が出来た。君との決着は……別にいいか。何故だか、君は殺したくない。何故かね」

「は、はぁ……。それで、大事な用っていうのは……?」

「決まってるだろう。私の図書室(聖域)を荒らす奴をぶちのめしに行くんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 校舎の中を忍者ライダーと追いかけっこを繰り広げる。追いかけっこと言うと可愛げがあるが、実際は私が翻弄されるばかり。

 機動力ではあちらにかなりの分があった。

 狭く、障害物だらけの校舎内で縦横無尽に動き回る「仮面ライダー甲賀」の前に弄ばれる。

 

「待て!」

 

 一直線の廊下を、駆ける。

 深緑の影を追いかけて。

 この先は……図書室。さっき、御剣君と話した……。

 いや、今はそれよりあの樹さんを止めないと……!

 しかし、樹さんとの距離は縮まるどころか離される一方で……。だけど、図書室は入り口はひとつなので袋の鼠。追い詰めたとも言えるだろう。

 ……窓から逃げられるかもしれないけど。

 

 先に図書室に入った樹さんの後を追って、私も図書室のドアを開ける。

 先程から奇襲ばかり仕掛けてくる相手なので、慎重に。全身の神経を集中させて図書室へと入る。

 気配は隠しているのだろう。まるで感じ取れない。

 背の高い本棚の並ぶ図書室は彼女が戦うのにいい場所。

 武器である二振りの小ぶりなチェーンソー「グランリッパー」を構えながらゆっくり、ゆっくりと歩を進める。

 さあ、どこから来る……?

 ここか、ここかと本棚と本棚の合間を覗き見る。

 だが、いない。

 既に図書室から外に出た?

 だけど窓にはしっかりと鍵がかけられている。だから、まだ図書室にいるはず……。

 

 ───一瞬、背後で気配がした。

 

「そこッ!」

 

 振り向くと同時に剣を振るう。

 しかし、切り裂いたのは虚。

 そして、私の背が切り裂かれた。

 

「ぐっ……!」

 

 背中が、熱い。

 散った火花のせい……なんてことはなく。

 ジリジリと斬られた。と言っても直接ではなく、鎧越しにだが。背中には切り傷ではなく打撲傷が出来ているだろう。

 その打撲の熱が、じわじわと体力を奪う。

 

「遅い遅い。剣道で神童って言うもんだから強いもんだと思ってたけど、意外と大したことない?」

「……悪いけど、忍者とは戦ったことなくてね。異種格闘技は畑が違うのよッ!」

 

 深緑の忍者に向かって剣を振るう。

 巨大な手裏剣によって阻まれてしまうが、これがチェーンソーということを忘れてはいないだろうか?

 轟音と共に駆動する鎖の刃。

 この武器は……武器殺しだ。

 

「なっ!?」

 

 砕け散る大型手裏剣。

 先程から何度か打ち合って分かったが、パワーや火力では私の方が勝っている。

 相手は速さに優れるがその分軽く、脆い。

 

「武器は奪った! まだカードがあっても全部砕くッ! ……それでも、まだ戦う?」

 

 この戦いで誰かの命を奪うつもりはない。

 戦いを終わらせるなんて言っても、まだ方法は分からない。

 だからとにかく相手に勝って、戦いを無理矢理止めるしかない。

 だけど……。

 

「……それで勝った気でいるの?」 

 

 彼女がそう呟いた瞬間、私は再び背後から斬りつけられた。

 背後だけじゃない。

 四方から深緑の影が現れ、私を切り裂いていく。

 

「な、に……?」

 

 甲賀の周りに集結する五人の甲賀。

 淡い月光が、六つの影を青白く照らしていた。

 異様。しかし、どこか幻想的な光景。

 しかし、戦いの最中にそんなことを感じるほどの余裕は美也にはなかった。

 

「六対一……だね」

「そうね。けど、分身は弱いって相場が決まってるのよ!」

 

 これ以上、相手に勢いづかせまいとこちらから仕掛けようと駆け出す。

 しかし、私が攻撃するより先に三叉槍が飛来し分身の一体を貫いた。

 新手!?

 

「君達? 私の場所を荒らす輩は」

 

 声に反応して振り向くと、御剣君と戦っていたはずの青いライダーと御剣君がいた。

 ……どうして、戦い合ってた二人がここに?

 

「美也さん」

 

 ちっちゃく手招きする御剣君に従って近付くと、耳貸してと言われたので素直に貸す。

 

「射澄さん、怒ってるから大人しくしといたほうがいいよ」

 

 射澄さんというのは青いライダーのことか。

 それよりなんだ?仲良くなったというのかこの二人は。

 

「あー……なにこれ? いろいろめちゃくちゃなんですけど。いいや、帰る」

 

【CLEAR VENT】

 

「待って!!!」

 

 しかしもう遅い。

 周囲の景色と同化した甲賀の姿はまるでそこに始めからいなかったかのように消えてしまった。

 

「……行ったか。忌々しい輩を倒そうと思ったんだけどね。……片割れの君だけでもやろうか?」

 

 そう言って私を指差す青いライダー。

 だが、その指先から徐々に粒子となりはじめている。

 

「……これは?」

「もうミラーワールドにいられる時間が残り少ないんです。制限時間を越えるとライダーでも消滅してしまいます」

 

 御剣君が説明すると青いライダーは手や身体中の観察を始める。

 

「なるほど。ミラーワールドで消滅したらどうなるかも気になるけど、ここが私の終わりではないよ。死というものを知るのは人生最後の瞬間と決めているからね。で、どうすればいい?」

「普通にミラーワールドから出れば大丈夫です」

「……君は私の先生だね。ライダーっていう項目の」

「いいから早く行きますよ。消滅したいんですか?」

 

 ……なんだか、蚊帳の外にいる気がする。

 それにしても、さっきまで戦っていた相手とあんな風に談笑出来るなんて……。

 やっぱり、この子は……。

 そんなことを考えていると、私の消滅も始まった。

 

 

 

 

 

 夜の学校にいるって、なんだかいけないことをしている気がする。 

 

「ふむふむ。この学校にはそんなにライダーがいるのかい?」

「まあ、今のところ判明しているのはですが……」

 

 夜の校舎で月光を照明代わりに射澄さんにレクチャーする僕。

 現在、聖山高校で確認されているライダーは…。

 

・仮面ライダーツルギ  僕

・仮面ライダーアイズ  美玲先輩

・仮面ライダーグリム  美也さん

・仮面ライダーヴァール 射澄さん

・仮面ライダー甲賀   黒峰樹さん

・未契約のライダー   ???

 

 なんと六人もいるのである。

 全校生徒が千人近いとは言え、こんな特殊な状況下に置かれた人間が六人もこの学校に集まっているのか。

 改めて、状況の整理というのは大事だな。

 

「へぇ、美玲もライダーだったんだ。恐ろしいなぁ」

「射澄さんは美玲先輩と友達なんですか?」

「そうだね。クラスも一緒だしよく話すよ。けど友人というより理解者。というか、同じ穴の狢というか」

「どういう、意味ですか?」

「……私はね、知識を求める。この世で知らないことなんてなくなるぐらいの知識が欲しいんだ。そして美玲は求めるものは違うけど、私と同じようにとても貪欲にある物を欲しているんだよ。それが、なにかは分からないけどね」

 

 美玲先輩が、求めるもの……。

 それはきっとこのライダーバトルに賭ける願いと関係あるはず。

 

「……今の口ぶりだと、神前先輩の願いは知識ってことですか?」

 

 これまで黙って座っていた美也さんが口を開いた。

 確かに今の口ぶりだと射澄さんの願いは知識という風に予想が出来る。

 

「そう。私の願いは全知。全てを知ることだよ」

 

 そう言って、デッキから取り出したメモリアカードを見せる射澄さん。

 カードに書かれていたのは【OMNISIENCE】

 聞き慣れない単語である。

 スマホの翻訳アプリで調べたら射澄さんの言う通り、【全知】と出た。

 

「全てを知るには人間の寿命では足りないからね。いっそのこと勝って全てを得ようとした。……だけどね、私は知識そのものより知識を得たってことの方に快感を覚える質でね。そんな一辺に知識を得たらその後の楽しみがないだろう?まあ、夢だと思ったから馬鹿馬鹿しいことを願ったというのもあるけど……」

「……えーと、つまり?」

「つまり、戦って願いを叶える気はないってこと」

 

 つまり、積極的に戦う気はないということか……。

 

「嘘だ! さっき僕を殺す気満々だったくせに!」

「あれは始めての戦いでアドレナリンがドバドバ出ていたからね。あぁ、ものすごく興奮したよ……」

 

 ……あれ。

 この人もしかして、ものすごく変態なんじゃないだろうか。

 

「この学校変な人多いからねー」

「うん。そうだね……」

「とにかく、私は積極的に戦いはしないということだ。願いを叶えるということにもそこまで興味ないしね。いや、どうやって願いを叶えるのか、そもそも願いは叶うのかという方法や結果は気になるところだけど……」

「はいはい! とにかく、ここの三人は争わないっていう条約を結びましょう!」

 

 この人に喋らせるのはいけないと本能が叫び、言葉を遮って無理矢理そういうことにした。  

 とにかく戦いません。

 モンスターを倒すことや他のライダーに襲われたら協力するということを約束して今日は帰ることに…。

 

「あ、待ちたまえ燐君」

「はい?」

 

 帰ろうとしたら射澄さんに呼び止められた。

 振り向くと……顔近っ!

 

「な、なんですか……?」

「いや、少し近視だからね。近くに寄らないとちゃんとそれを見ることが出来なくて……。よし、覚えた。君の顔は覚えたよ。それと……」

 

 今度は僕の横に立った射澄さん。

 スマホを取り出してカメラを起動させて……。

 ?

 

「はい、チーズ」

 

 ……自撮りに巻き込まれてしまった。

 困惑のあまり動けなかったぞ。

 

「よし、これで記録も完了っと。あとはこれを美玲に送れば……」

 

 送る……。

 美玲先輩に……。

 

「ちょっと待ってください。なんで美玲先輩に送るんですか!?」

「いや、今日は美玲休みだったからね。体調不良ということだったけど……。だから元気になるようにこの写真を送るのさ」

「どうしてそれを送れば元気になるんですか!? そんなの送ったら……送ったら……」

 

 あれ。

 どうして、僕はこんなに焦っているのだろう?

 別に疚しいことではないはずなのに。

 まるで射澄さんと浮気したみたいに見られるのが嫌だからというのもあるけど、そもそも僕は美玲先輩と付き合ってるわけじゃないから僕が何しようと関係はないはずなのに……。

 なのに、どうして。

 

「……そういえば、美玲にプリント渡しに行くよう頼まれてたんだけど、君が行く?」

「……行きます」

 

 お見舞いついでに。

 恐らくは、昨日の負傷のせいだろう。

 大事ないといいけど……。

 射澄さんからプリントを受け取って、自分のファイルにしまう。

 

「私も行っていい?」

「美也さんも?」

「うん。昨日の夜の人だよね? 少し、気になって……え、ちょ! 射澄さん引っ張らないでください! 襟が伸びちゃいます!」

 

 ……何故か、射澄さんに引っ張られて美也さんは教室から退場してしまった。

 とりあえず、行くか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い騎士が、かつて騎士だったものの影を切り裂いた。

 真っ黒な泥が地面を濡らし、黒いツルギはその泥に向かって太刀を突き立てる。そして泥は霧散して跡形もなく消滅した。

 

「丸一日も戦いに付き合う羽目になるなんて……。相変わらず、強いですね。いえ、強くなった。と言うべきでしょうか? 毎度毎度、飽きずに私に挑んできて……もしかして、私のファンだったりします?」

 

 挑発気味に語るアリス。

 しかし、黒いツルギはなにも語らない。

 語る必要はないとでも言いたげに。

 

「……どうして、そんなになっちゃったんでしょうね。原因は私にもありますが、あなたがそんな風になるなんて、私見たくなかったなぁ」

 

 なおも挑発気にアリスは語る。

 やはり黒いツルギはお構い無しと言った風で…アリスを切り裂いた。

 切り裂かれたはずのアリスは鏡となって、その欠片が地面に散らばる。

 

「ふふ……ふふふ。どれだけやっても私には勝てない。この世界の核たる鏡を持つ私を殺すことなんて出来ません。何度やっても、無駄なんです。ふふふ……あはは……!」

 

 虚空に、アリスの声が響く。

 黒いツルギを嘲笑う声が。

 

「……何度やっても無駄。果たして、そうかな?」

 

 黒いツルギが口を開いた。

 自身を嘲笑うアリスを嘲笑うような声音で。

 黒いツルギは血を払うように太刀を振るって、この場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜の負傷はだいぶ良くなった。

 思っていたよりも軽傷だったらしい。

 だけど、学校に行くのには少し億劫で休んでしまった。

 まあ、私だって学校ぐらい休むことはあるから今更罪悪感なんて沸かないが。

 

 まるで生活感のない無機質な自室のベッドに寝転ぶ。

 ……今日は、燐に会わなかったのか。

 明日は、学校へ行こう。

 そう決意すると傍らに放っておいたスマホが震えた。通知を見るとチャットアプリで相手は射澄。連絡先の交換はしていたけれど、こうしてアプリで話すことはこれまでなかったので少々驚いている。

 何の用かとスマホを開くと、画面には驚愕の写真が載せられていた。

 燐と射澄の、ツーショット写真……。  

 そして次々とメッセージが送信されて……。

 

『愛しの後輩君と写真を撮ったよ』

 

『夜の校舎で男女が二人……』

 

『なにも起こらないはずが……』

 

 射澄……!

 怒りからスマホを握り潰してしまいそうになるが、そんな握力はないのでスマホは無事だ。

 

『まあ、なにも起きてないから安心して』

 

 …。

 ……。

 それにしても射澄はどうやって燐とこんな写真を撮るに至ったのか。

 図書委員に取材に行ったとかだろうか。

 それにしても射澄が取材に応じるとは思えないが……。大体、そういうのは他の人に回すタイプの人間だ。

 ……燐とツーショット写真。

 私だって、撮っていないというのに……。

 胸の奥が締め付けられる。

 寂しさに襲われて、ひどく、冷たい……。

 欲しければ、求めればいいだけ。

 だけど、勇気がない。

 私は臆病なのだ。

 もし、告白したとして、この時間軸ではフラれてしまうんじゃないかと思ってしまう。

 だから私から直接、燐を求めるようなことは…出来ない。

 そんな自分を嫌悪しているとインターホンが鳴った。

 こんな時間に……誰だろうか。

 お父さんなら、鍵を持っているから鳴らすなんてことはない。

 とりあえずリビングに行って、インターホン越しに来客の対応をする。

 

「はい」

 

 こういう時、モニター付きならいいのにと思う。

 相手の顔が見えないのは色々と不安になるからだ。

 こんな時間に誰だという苛立ちを含んだ声が思わず出てしまったが仕方ない。

 こんな時間に来るほうが悪い。

 しかし、来客は私の想定外の人物だった。

 

「あ、美玲先輩ですか? 僕です。燐です。プリント持っていくように頼まれてきたんですが……」

「な……!?」

 

 なんで!どうして!といった言葉が脳内を埋め尽くすがすぐに合点がいった。

 先程の射澄のメッセージはそういうことか……!

 それより今は燐の対応だ。

 部屋は別に汚くはない。

 むしろ物が少なすぎて生活感を感じられないほどだ。

 しかし問題は……私の格好である。

 とても、燐の前に出ることは出来ないのだ。

 

「……少し、待ってなさい」

「分かりました」

 

 さて……。

 自室に戻って衣装ケースを開ける。

 部屋着姿は恥ずかしい。

 しかし、出迎えた時に明らかにずっと家にいた人とは思えない着飾った格好も不自然だ。

 燐は特に、そういうところに気が付くタイプだ。

 故にいかに自然な、燐に見られても恥ずかしくないコーディネートをしなくてはいけない。

 あれでもない、これでもないと選んで……気付いた。

 まずは、ブラをつけなくてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 美玲先輩を待つこと数分。

 まあ、恐らく急な来客ということで色々と準備しているのだろう。

 妹を見ているのでそう推測される。

 妹には彼氏がいるのだ。

 母さんは知っているが父さんには教えていない。

 母さんが、「お父さんが寂しがるから」ということで隠しているのだが、勘のいい父さんが気付かないはずもなく……。

 

 とまあこの話は置いといて、美香の彼氏君だがわりと唐突に我が家を訪れる。

 父さんのいない時間帯なので二人が出会したことはないが、彼氏君が急に襲来すると美香は焦る。

 それはもう焦る。

 美香はあまり整理整頓が得意ではないのでよく部屋が散らかるのである。

 それを片付けるのに焦る。

 しかし……。

 美玲先輩の家はとてもよく綺麗に整頓されていた。

 それこそ、生活感を感じさせないほどに。

 お父さんが多忙なため家事をするのは美玲先輩だと思われる。それなら片付ける必要もなく僕がこうして外で待つことなんて必要ないのだ。

 なので恐らくこう考える。

 美香が焦るのは散らかった部屋の片付けと……服装である。部屋着は恥ずかしいとファッションショーが始まる。その間待たされる彼氏君の相手をリビングで僕がするのだ。

 その彼氏君がこれまたいい人で……。

 彼氏君の人物評はさておき、というわけで恐らく美玲先輩が僕を待たせる理由は着替え。なんて、探偵ごっこをしながら待つ。

 まあ美玲先輩は部屋着もちゃんとしてそうだし多分、お風呂上がりとかそういう理由だろう。

 そんな感じで待っていたらようやく家のドアが開いた。

 

「待たせたわね。上がって。お茶でもいれるわ」

「いえ、プリントを渡しに来ただけなので……」

「いいから、上がって」

「……はい」

 

 何故か凄まれてしまったので大人しく従う。

 歯向かったら、どうなるか分からないからである。

 

 

 

 通されたのは昨日と同じ部屋で……。

 そういえば、この部屋はベッドと机がある。

 まさか、ここは…美玲先輩の部屋なんてことはないだろうか。

 昨日は負傷とか色々あってそこまで考えを巡らすことが出来なかった。

 

「麦茶でよかったかしら」

「あ、はい。すいません、いただきます」

 

 ぐっと飲むと、あー、沁みる。

 まだ残暑が残るので冷たいドリンクはありがたい。

 

「来るなら、連絡してくれればよかったのに」

「あ、あはは……。僕も着く直前に気付いたもので……」

 

 僕も美香の彼氏君とそう変わらないらしい。

 反省反省っと……。

 

「ところで、身体は大丈夫ですか?」

「ええ。一日休んだら良くなったわ。明日は学校行くから。……心配してくれて、ありがとう」

 そう言って微笑む美玲先輩に照れていると、急に声音が変わって、「ところで、これはなに?」とスマホを見せてきて……。

 ッ!?

 射澄さんめ!美玲先輩にやっぱり送ったな!

 

「で、これはなんなの」

「えーっと、それはですね……」

 

 簡単に説明する。

 射澄さんがライダーということ、戦ったこと、積極的に戦うつもりはないらしいということ。

 

「なるほど。まさか、射澄までライダーになってたなんて。あと、勝手に私がライダーだと教えるのは今後は駄目よ」

「……はい。すいませんでした……」

 

 美玲先輩に今日あったことを報告。

 そして叱られる。

 本当に、申し訳ありませんでした……。

 

「で、これはなんなの」

 

 再びスマホの画面を突き付ける美玲先輩。

 それは、その……。

 

「射澄さんが急に撮ってきたんです! ほら、僕の顔驚いてるでしょう?」

「……言われてみれば、確かに。まあ、射澄の冗談でしょう」

 

 言い終わると、美玲先輩は何かを伝えたげに僕を見つめてきて……。 

 

「な、なんですか……?」

 

 訊ねると、かなり分かりにくいがむっとした表情に。

 なんだなんだ……?

 うーむ。

 うん、まあ、その……。

 

「美玲先輩が、思ってるようなことじゃありません。射澄さんとは今日はじめて関わったんですから……」

 

「……ええ。信じてるわ」

 

 なんだこれ。

 浮気を疑われて、自身の身の潔白を証明するような……。

 だけど美玲先輩には信じてほしいという自分がいて……。

 

「……って」

「え?」

 

 今にも消え入りそうな声で美玲先輩が何か呟いた。

 思わず聞き返すと、少しの間を置いて、美玲先輩は口を開いた。

 

「……撮って」

 

 とってというのは……えーっと。

 

「撮影の方よ」

「えっと、なにを撮ればいいんですか……?」

「……ツーショット」

「え…えーっと、ツーショットっていうのは……」

「……もう、自棄よ」

 

 そう言った美玲先輩は僕に密着してきてスマホを構えて……。

 心臓が跳ねる。

 身体の熱が燃え上がる。

 そして、それは美玲先輩も一緒のようで……。

 二人の心臓が、共鳴する。

 自分がこんなに高鳴っていることを知られたくなくて、あくまでも僕は平静を装った。

 

「あの、美玲先輩……。撮らないん、ですか…?」

「……撮る、わよ」

 

 パシャリ、とシャッター音が静かな部屋に響いた。

 これで、美玲先輩とこうする理由もなくなったのであとは自然と離れることに……ならなかった。

 美玲先輩が僕に抱きついてきて……。

 

「もう少し、もう少しだけ、このままでいさせて……」

 

 美玲、先輩……。

 美玲先輩の熱がさっきよりも伝わる。

 僕は……美玲先輩のことが……。

 その気持ちに気付いた瞬間、僕は美玲先輩を抱き締めて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけませんよ燐君、美玲ちゃん。本当に、いけません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【TIME VENT】

 

 また、時が捻れる───。

 

 ?+1ー10へ……。




次回 仮面ライダーツルギ

「……女装?」

「美玲。クラスの代表として、男装してね」

「世界を、壊す……」

「私は、一目で恋に堕ちてしまったんだ。御剣燐という少女にッ!」

願いが、叫びをあげている────。


ADVENTCARD ARCHIVE
STRIKE VENT(仮面ライダーヴァール)
ディープインパクト 2000AP

ヴァールが契約している白鯨型モンスター=テラーディープの頭部を模した格闘武器。
右手に装備し敵を殴打するだけでなく、必殺の超高圧水流「ディープストリーム」を放つことも出来る。
並のモンスターならば一撃で撃破可能な威力を誇る。

深淵より放たれし水流は岩をも砕く。

解説

美玲先輩が恋してることは知ってた射澄さん。
知らないと言ったのは燐という正に美玲先輩の意中の人物がいたため。
さっさとくっつけばいいのにということであえて挑発するようなことを。
燐が学校から美玲先輩の家に着く時間を計算し、到着する少し前にツーショット写真投下、からの不安にさせといて本命をぶつけるというSSR恋のキューピッドな射澄さん。
しかし、相手が悪かった……。
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